【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
広陵高校の中井哲之監督(左=産経新聞社)と堀正和校長
夏の甲子園大会に出場していた広陵高校(広島)が出場辞退を発表した。部員の暴力問題をめぐりSNS上で批判が相次いでいたが、問題は出場辞退では収束しなさそうだ。部内で暴力の被害を受けて現在は転校した元部員の父親が、メディアの取材に初めて口を開いた。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。
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雨天によって1回戦2試合、2回戦2試合が中止となった8月10日、春3度の甲子園制覇を誇る広島県の名門私立・広陵高校の堀正和校長は甲子園球場を訪れて日本高等学校野球連盟に出場辞退を申し入れ、13時から開いた会見でこう謝罪した。
「本校硬式野球部をめぐっては、過去に日本高等学校野球連盟に報告をした部員間の暴力に伴う不適切な行為だけではなく、監督やコーチから暴力や暴言を受けたとする複数の情報がSNSなどで取り上げられています。こうした事態を重く受け止め、本大会への出場を辞退した上で、速やかに指導体制の抜本的な見直しを図ることにいたします」
1回戦・旭川志峯(北北海道)に勝利した広陵は、2回戦の津田学園(三重)戦を前にした出場辞退の判断をもって、開幕直前からSNSを中心に明るみに出た1年生部員に対する集団暴行問題の幕引きを図りたいのだろう。
しかし、まだ大きな問題が残っている。甲子園通算41勝を誇る中井哲之監督の責任問題だ。
前述したように会見ではSNSで中井監督や、その長男である中井惇一部長から部員に対して暴力や暴言があったとする情報に言及しておきながら、堀校長はその後にこう補足した。
「(監督の暴力行為という部分に関しては)確認はしましたけれども、そういったこと(暴力や暴言)は一切ございません。抜本的に野球部の運営体制や環境を把握し、精査し、その上で改善すべきことは改善したい。そのためにしばらくは中井監督には指導から外れてもらうということは伝えておりますし、監督本人も承諾をしております」
と、あくまで中井監督によるハラスメント行為はなかったと強調した。
本当だろうか──。
被害生徒の父親が口を開いた
「広陵高校で上級生から集団暴行を受け、中井哲之監督からパワハラを受けて退部し、転校した生徒がいる。相談に乗ってほしい」
私がある高校野球関係者から連絡を受けたのは大会開幕前の8月1日で、これが今回問題となった被害者A君の話だった。さっそくA君の父親に連絡を入れて話を聞いたところ、今年1月に複数の加害生徒から暴行を受け、さらに中井監督からもハラスメントと受け取れる言葉を投げかけられたと説明した。
「息子は集団暴力を受け、別の学校に編入することになりました。暴行事件の事実を加害生徒や学校、広島県高野連も認めてくれたことで、編入直後から試合に出場することも可能な状態となっています。
私たちが収まらないのは、中井監督や広陵高校の対応に対する怒りです。どういうことかというと、監督の長男である中井部長が作成し私たち保護者に渡された“報告書”と、高野連に提出した“報告書”には大きな相違があるということです。また、息子に対して放った暴言、パワハラはとても許すことはできません。中井監督と堀校長に謝罪会見の実施と再発防止策を求めたい」
ここで出た“報告書”の相違については後述するが、この最初の取材の翌日、事態は予想外の方向に向かう。被害者A君の母親がSNSに野球部で起きた集団暴行事件の詳細を綴り、今年6月には広島県警に被害届を提出したことを公にしたことで、大きな反響を呼んだのだ。被害届は受理されたが、A君の母親は警察から、高校側が警察の捜査よりも野球部の活動を優先し、捜査はなかなか進まなかったと聞いているとも投稿している。堀校長は10日の会見で「(警察には)全面的に協力しています」と説明したが、主張は大きく食い違っているわけだ。
大切な息子が野球部の仲間から暴行を受け、指導者たちの対応に不信が募るなか、事件発覚の発端となった投稿をSNSに書き込んだ母親の心労も大きかったことだろう。
「出されては困ります」やろ
SNS上では、暴行の時系列が記された文面が広く拡散され注目を集めたが、その中でも重要になってくるのが、学校側がA君の保護者に渡した「報告書」の内容だ。
「中井部長が作成し、我々保護者に渡した報告書です。中井部長は『中井監督、そして広陵高校校長の確認を経ている』と言っていた」(A君の父親)
この報告書をもとに問題の経過をおさらいしておく。今年1月20日、A君ともう一人の1年生部員B君が寮の部屋で禁止されているカップラーメンを口にしたことから始まる。その様子を先輩が見つけ、ふたりを口頭で注意する。
翌21日、A君は複数の先輩部員から殴る・蹴るの暴行を受け、22日には先輩部員から呼び出しを受け、「本当に反省しているのか? 反省しているなら便器なめろ。○△(部員名)のチンコなめろ」と命令されるなどしている(A君は「靴箱舐めます」と拒否)。そして9人の部員が居合わせるなか、そのうち6人の先輩部員から集団暴行を受けた。1月23日未明、A君は寮を脱走。母親にSOSの連絡を入れた。その後、中井部長らと幾度かのやりとりを繰り返し、集団暴行の事実確認が始まった。
加害生徒ら食事の時間をずらすなどできる限り接触しないように配慮した上で、「戻ってきて欲しい」と中井部長が提案し、A君は母親と共に一度は寮に戻っているが、問題はその後に関する記述だ。
上記の暴行事案の報告書とは別に、両親の側がA君に聞いた話をもとに学校側の対応不備について質問を投げかけ、学校側が回答した報告書がある。そこにはA君が寮に戻った1月26日以降に中井監督と面談した記述がある。コーチ3人も見守る中でのやり取りについて、両親の側は次のように記している。
監督「高野連に報告した方がいいと思うか?」 A君「はい」 監督「2年生の対外試合なくなってもいいんか?」 A君「ダメだと思います」 監督「じゃあどうするんじゃ」 A君「出さない方がいいと思います」
監督「他人事みたいに…じゃあなんて言うんじゃ。出されては困りますやろ」