8兆円の市場にするには人が足りない…注目集める「宇宙学」、人材育成の切り札に(南日本新聞)
◇ 「日本で最も宇宙に近い高校」-。大分県立国東高校(国東市)のホームページにある文言だ。 学校は、大分県などが「宇宙港」としての活用を計画する大分空港から車で約10分。今春、2年時の選択コースの一つに、九州の公立高校では初となる「SPACEコース」を新設した。宇宙をテーマに課題解決策などを学ぶ。 授業では、衛星による測量技術の学習や特産品シイタケの宇宙空間での栽培方法の研究、小型ロケットの開発を計画。同校は「宇宙分野の知識は将来的に、土木や農業などさまざまな分野で活用できる。全国からの注目度は高い」とする。 民間発射場がある和歌山県串本町の県立串本古座高校も2024年度に「宇宙探究コース」を新設。宇宙探究部のある通信制高校のクラーク記念国際高校(北海道)は、「君よ宇宙に大志を抱け」とPRする。 □ ■ □ 県内でも宇宙教育は注目を集めつつある。霧島市の第一工科大学は、26年度に鹿児島市に開校するキャンパスに衛星データ活用の人材育成を目的にしたコースを新設する計画だ。内之浦宇宙空間観測所のある肝付町の県立楠隼中高一貫教育校は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと連携して「シリーズ宇宙学」と題した総合学習を進める。
種子島宇宙センターがあり、昨年度に「SPACE TOWN(宇宙のまち)」宣言をした南種子町では、小中学生を対象にした「宇宙留学」に力を入れる。25年度には、衛星を活用した自動運転などを小中学生らが放課後や休日に学ぶ「宇宙学校」を開校する。 宇宙留学の年間応募者数は100人を超す。小園裕康町長(64)は「宇宙への関心は高い。宇宙産業など最新技術の分野で活躍する人材を育成し、将来戻ってきてもらうことで町の活性化につなげたい」と話す。 □ ■ □ 国は、宇宙産業の国内市場規模を30年代前半には20年比倍増の8兆円にする計画だ。人工衛星の製造やデータ解析を担う人材の育成は急務となっている。 内閣府は今年2月、宇宙産業に求められる標準的な能力を整理した「宇宙スキル標準(試作版)」を作成。企業や自治体、教育機関での活用を想定する。携わった和歌山大学の秋山演亮教授(55)は、8兆円の実現には、研究や開発だけでなく製造を担う人材も欠かせないとし、必要な人数は十数万人に上るとみる。
その上で、「人材確保には、宇宙に関心を持ってもらう取り組みのほか、自動車産業のように専門学校などの学べる場も必要」と指摘。「射場があり宇宙が身近な鹿児島でぜひ、人材育成の取り組みが広がってほしい」と期待する。 ■宇宙豆知識「宇宙産業の人材」 日本航空宇宙工業会によると、2023年3月末時点でロケットや人工衛星、ソフトウエアなどの宇宙産業に関わる従業員は8891人。年々増えており、20年前より3051人多い。内閣府によると、今後必要となる従業員数は推計していないが、宇宙産業の企業では人材不足が大きな課題となっている。
南日本新聞 | 鹿児島