コラム:株安とトランプ関税で見えた米企業トップの「建前と本音」

 米企業経営者を大胆な行動に突き動かすのは、何を置いても多額の損失だ。写真は、米金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者。2023年2月、マイアミで撮影(2023年 ロイター/Marco Bello)

[ニューヨーク 8日 ロイター Breakingviews] - 米企業経営者を大胆な行動に突き動かすのは、何を置いても多額の損失だ。大手企業の最高経営責任者(CEO)や金融業界の有力者からは、トランプ大統領が「解放の日」と称して2日に詳細を発表した「相互関税」に警鐘を鳴らす声が出始めている。相互関税の発表を受け、S&P総合500種(.SPX), opens new tabは弱気相場入りの節目とされる最高値からの下落率20%が迫ってきた。
JPモルガン・チェース(JPM.N), opens new tabのジェイミー・ダイモンCEOは7日に公開した株主宛て書簡で、自身の不安を吐露。前置きとして、不法移民問題など共和党が抱く心配の種を認めつつ改めて「包摂的な経済」の構築を唱えた上で、関税は物価を押し上げ、景気後退リスクを高めると断言した。ブラックロック(BLK.N), opens new tabのラリー・フィンクCEOも7日の講演で、株価はあと20%下落する可能性があるとはっきり口にした。

ヘッジファンドを率いるビル・アックマン氏は関税と貿易戦争によって「経済的な核の冬」が到来すると予想し、ダイモン氏やフィンク氏の懸念に同調した。こうした光景がなぜ見られるのかは簡単に説明できる。通常なら、これだけ大きく市場が混乱すれば、何らかの政策対応が妥当性を帯びるからだ。ところが株価の大幅下落についてベッセント財務長官は重視せず、トランプ氏も貿易赤字解消のために「薬」を服用した結果だと一蹴した。

このような状況が続けば、特にダイモン氏やフィンク氏らCEOは、短期的な株価の変動と株主利益にとらわれず「ステークホルダー資本主義(企業が従業員や取引先、顧客だけでなく地球環境や地域社会といった影響を及ぼすあらゆる対象に配慮すべきという考え方)」の公平な「神殿」を築こうとする従来の方針を見直さざるを得ない事態が生じる可能性がある。

1月時点でダイモン氏は関税を懸念する人々に「克服しろ」と突き放し、フィンク氏もこれまで関税を含むトランプ氏の政策は長期的には米国にとってプラスだと発言してきた。そうした姿勢は、トランプ氏には敵対者と見なす人々に報復する傾向がある以上、政治的には賢明と言える。

しかし、いずれ痛みは許容できなくなるかもしれない。イェール大経営大学院のジェフ・ゾンネンフェルド教授がCEOを対象に実施した調査によると、全体の90%がトランプ氏の関税政策は副作用をもたらすとの見方を示した一方、関税政策反対を公言した人はほぼゼロだった。それでも半数近くは、株価が20%下がれば行動を考え直すと回答しており、今の市場環境はこうした局面に該当する。別の1割は30%の株安までは我慢すると答え、株価の動きで行動は変えないと回答したのは25%にとどまった。

もちろん、CEOと株式市場は切っても切れない関係にある。例えばダイモン氏やJPモルガンの他の経営幹部は報酬のほとんどをストックオプションや制限付き株式付与で得ている。他方で企業経営者が社会的問題に関心を寄せることを長らく批判してきた共和党員は、経営者が株安に翻弄される現実を小気味よく思うかもしれない。

しかし、そもそも企業のトップが株価から超越しようとすることができたのは、政治家たちが安定した経済状況を維持してくれるという想定があったからだ。このような考え方は今、消し去られたのかもしれない。

●背景となるニュース

*米関税で景気鈍化とインフレ進行も=JPモルガンCEO もっと見る
*株価さらに20%下落も、既に米景気後退の見方=ブラックロックCEO もっと見る

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Stephen Gandel is an award-winning journalist who has covered banking and financial markets for more than two decades. Prior to joining Reuters Breakingviews, Gandel had been the U.S. banking correspondent at the Financial Times for the past two years. He previously worked at The New York Times as the U.S.-based news editor of DealBook, the Times’ daily business newsletter, and was on a team of reporters who won an Emmy for live interviews. He was also a senior reporter for CBS News and a markets columnist for Bloomberg. Gandel spent 14 years at Time, working for Money, Time and Fortune magazines, where he was the only reporter to ever win the company’s Luce award four years in a row. His work was also recognized with a SABEW Best in Business award, and an Excellence in Journalism award from the NYSCPA. He is a graduate of Washington University in St. Louis, and lives in Brooklyn with his wife and two children.

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