ドイツが予備役の演習参加を義務化、本人と企業には国が補償を提供

ドイツのメルツ政権は7月1日「ドイツ連邦軍の迅速な展開準備のための法案パッケージ」を承認し、予備役の演習参加を「本人と雇用主の二重同意」から「義務」に変更、これにより「雇用主の同意」なしに演習へ予備役を強制招集できるようになるが、本人と企業には国が補償を提供する。

参考:Kabinett beschließt Gesetzespakete zu schnellerer Einsatzbereitschaft der Bundeswehr 参考:Deutschland geht selbstbewusst in den NATO-Gipfel 参考:Уряд Німеччини схвалив заходи щодо зміцнення Бундесверу

2025年2月の選挙で勝利したメルツ氏は「米国からの独立達成が優先事項になる」「米国が信頼できる同盟国でなくなる最悪のシナリオに備えなければならない」と訴え、キリスト教民主・社会同盟と社会民主党は国防・インフラ整備のため「債務制限からの国防支出除外」「総額5,000億ユーロの特別インフラ基金設立」で合意し、ドイツ連邦議会も憲法改正を可決して歴史的規模の財政パッケージが成立。

出典:Gerben van Es

正式に首相に就任したメルツ氏は2025年5月の議会演説で「連邦政府はドイツ軍が欧州最強の通常軍になるため資金を全て供給する。これは欧州で最も人口が多く、経済的に最も強力なドイツにとって相応しい措置だ。我々のパートナーらも強力なドイツに期待し、実際にこれを要求してきている」「我々の目標は武力を行使する必要がないほど強いドイツや欧州を実現することだ」と述べ、ピストリウス国防相は2025年11月「2039年までに欧州最強の通常軍を整備するための軍事戦略計画」に言及。

さらに人員増強も2030年代半ばまでに現役18.5万人を26万人、予備役6万人を20万人、戦闘準備が整った兵士(現役と予備役の合計)を24.5万人から46万人までに増強し、予備役の立場も「二次的な戦力」から「現役部隊と同等」に引き上げられ、今年1月に予備役拡大に向けて新兵役法(志願制の兵役/人員増強が目標を達成できないと徴兵制に切り替わる可能性を秘めている)を施行したが、これは「ドイツ軍の予備役が現在6万人しかいない」という意味ではない。

出典:Bundeswehr

ドイツでは現役を離れる職業軍人、任期制の契約軍人、志願制の兵士は自動的に「Beorderte Reservisten=具体的な任務ポストに割り当てられた予備役」に6年間編入され、ドイツ軍の予備役6万人とはBeorderte Reservistenのことを指しているものの、6年後に任務ポストに割り当てられた予備役から外れても軍籍から外れる訳ではなく、法的には依然としてReservist=予備役のままだ。

ドイツは冷戦終結後に平時の徴兵制運用を停止しただけで、新兵役法に関係なく有事の際には強制的に運用が再開され、基本法第12a条に基づき全成人男性は軍隊、国境警備隊、民間防衛部隊への勤務に招集=動員することもでき、アクティブな予備役6万人=任務ポストに割り当てられた予備役から外れても軍籍に留まって予備役の法的地位が維持される=軍籍を外れる65歳の誕生月末までは有事の際に優先的に動員され、この巨大な予備役プールには「2011年に兵役が廃止される以前に兵役を経験した人間が推定90万人いる」と見積もられているが、軍籍に残る65歳までの男性は健康状態が悪化しているため全員を招集できるわけではない。

出典:Bundeswehr

メルツ政権は7月1日「ドイツ連邦軍の迅速な展開準備のための法案パッケージ」を承認し、軍事インフラの建設は財産法および環境法の例外規定が適用され、さらに予備役(Beorderte ReservistenとReservistの両方)は将来の演習参加が「二重の同意」から「義務」に変更されて注目を集めており、今までは「予備役」と「雇用主」の同意があれば演習に招集できたが、今回の予備役強化法によって「雇用主の同意」なしに演習へ予備役を強制招集できる。

予備役強化法には「雇用主への事前通知」や「経済的補償」が盛り込まれているものの、強制招集される予備役に休暇を与えなければならない義務を負う経済界は「招集の事前通知期間が短すぎる」「補償額が不十分だ」と訴えており、この義務は6ヶ月間の志願兵役を終えたものは45歳まで、職業軍人や任期制の契約軍人として1年間勤務したものは65歳まで適応され、企業は「演習参加中の予備役」に賃金を支払う義務はなく、国が招集した予備役に対して休業補償(1日あたり最高301ユーロ=約5.5万円)を支払い、企業が穴埋めとして人員を臨時雇用した費用も全額補償され、中小企業支援として新たな助成金制度が新設される予定だ。

出典:Photo by Sgt. 1st Class Michael O’Brien

ただし、この助成金を受け取るためには「予備役が参加する演習が連続30日以上に及ぶ場合」「利用可能な予算の範囲内で支給する」と条件がついているため、商工会議所や手工業中央連盟などから「数日~数週間の演習参加で抜けられても現場は回らなくなるのに、30日以上経たないと補償が出ないのはおかしい」「確実な補償額が保証されていない」と反発しているらしい。

関連記事:ドイツの志願制兵役は期待外れ、強制的な徴兵制再導入を来年7月までに決断 関連記事:ドイツは2039年までに欧州最強の通常軍を構築、即応体制は46万人増強 関連記事:欧州最強を目指すドイツ、ボクサー5,000輌とPatria3,500輌の調達を準備中 関連記事:ドイツは2026年度に約8.2兆円、2041年までに約69兆円を防衛装備品調達に投資 関連記事:メルツ政権が調達促進法を承認、ドイツ軍は資金に加え調達ルールの柔軟性も確保 関連記事:メルツ新首相、ドイツ軍を欧州最強にするため必要な資金を全て出す 関連記事:ドイツ議会が志願制の兵役法案を可決、人員不足が解消しない場合は義務化 関連記事:戦争を回避する唯一の手段は準備すること、フランスが志願制の兵役制度導入 関連記事:仏メディア、自発的に参加可能な10ヶ月間の兵役制度が発表される見込み 関連記事:カナダ、志願者30万人で構成された軍を補助する民間防衛隊創設を計画中 関連記事:欧州で相次ぐ兵役義務の議論、再導入、拡大、豪メディアも自国の奉仕義務に言及 関連記事:クロアチアが兵役を再導入、安全保障がなければ経済も民主主義も存在しない 関連記事:徴兵制に反対するドイツの若者、兵舎よりも塹壕で何年も過ごしたいのか? 関連記事:ドイツのメルツ政権、義務的兵役制度の再導入もあり得る兵役制度法案を承認 関連記事:メルツ政権が取り組むドイツ軍強化、義務的徴兵制度を復活させるかが焦点 関連記事:ポーランド陸軍司令官、予備戦力確保には兵役義務の復活が避けられない 関連記事:ラトビアが徴兵制度の再導入を決定、予備役を増やして戦時の動員数を確保

※アイキャッチ画像の出典:Bundeswehr

関連記事: