米軍が求めていた兵器、ウクライナのFPVドローンを搭載する自律型USV
ウクライナの自爆型無人水上艇(USV)は現在FPVドローンやロケットランチャーを搭載してロシア軍支配地域を海側から攻撃する作戦に使用されており、Defense Newsは1日「まさに求めていた兵器そのものだ」「米軍も自律型USVの導入を開始している」と報じた。
参考:Ukraine is launching strike-drones from everything – including Black Sea robo-boats
ウクライナ保安庁(SBU)は2022年夏に無人水上艇(USV)の開発を開始、最初のプロトタイプはスターリンク経由の通信チャンネルしかなく制御システムも非常にシンプルなものだったが、戦闘用USVというアイデアを誰もが気に入り、9月上旬までに完成した最初のバッチを投入してセヴァストポリ攻撃(9月16日~17日)を実施した。
出典:Telegram経由 セヴァストポリ周辺の海岸に漂着したウクライナのUSV
SBUと海軍はセヴァストポリ攻撃に108kgのTNTを搭載したUSVを複数投入、途中で幾つか失われたものの5隻がセヴァストポリまで約70kmの地点に到達、そこで通信(イーロン・マスクがスターリンクの使用を制限した事件)が失われたため作戦は失敗に終わったが、何とか2隻を帰還させることに成功して貴重なデータを入手できたらしい。
この失敗から約1ヶ月後の10月29日、SBUと海軍はセヴァストポリ湾内でアドミラル・マカロフを攻撃することに成功(自力航行が不能な程度の損傷)したものの、このUSVを開発した企業は品質や支払いについて対立し、ウクライナ保安庁とウクライナ国防省情報総局はUSVの独自開発に乗り出して静止目標を攻撃する自爆型USVのSEA BABY=シーベイビー、移動目標を攻撃する自爆型USVのMagura=マグラ、ペイロードを減らしてノヴォロシースクまで到達可能な航続距離を備える自爆型USVのMAMAI=ママイが生まれる契機となった。
出典:Служба безпеки України
ウクライナの自爆型USVは最終的にロシアの黒海艦隊を黒海西部から追い出すことに成功したが、自爆攻撃を目的に開発されたUSVは多目的な用途に使用できる自律型無人システムのプラットフォームに発展し、シーベイビーは自衛用にR-73やRWS、マグラ V5もR-73、マグラ V7にはAIM-9Mが搭載され、ロシア軍が自爆型USVに対処するため投入したMi-8やSu-30SMを複数撃墜もしくは損傷させており、現在はFPVドローン(6機~8機)やロケットランチャーを搭載してロシア軍支配地域を海側から攻撃する作戦に使用されている。
Defense Newsも「ウクライナ当局は自律型USVが陸上から発射するよりもロシア軍陣地近くまで接近できる能力に期待を寄せている」「SBUのシーベイビーで運用するFPVドローンの一部は無線制御ではなく光ファイバー制御で誘導されるため電波妨害の影響を受けない」「昨年9月には光ファイバー制御のFPVドローンを搭載した自律型USVがトゥアプセ港とノヴォロシースク港を攻撃した」「次世代のシーベイビー発表の際、SBUのイヴァン・ルカシェヴィチ准将は『我々は世界で初めてこの新たな形態の海上戦を開拓した』と語った」「現在のシーベイビーは通信が妨害されてもAIを使用して自律的に作戦行動を継続することができる」と報じた。
“米軍も自律型USVの導入を開始している。4月下旬にフィリピン沖で行われた演習=バリカタン2026において、米特殊部隊がウクライナ製のマグラを使用して標的艦を撃沈した。これはインド太平洋地域における本技術の初運用だった。この関心は一過性のものではない。広大な太平洋を隔てた中国との戦争に備える米国にとって攻撃ドローンの群れを攻撃範囲内に運搬できる安価で消耗可能な自律型USVは、まさに求めていた兵器そのものだ”
“マグラを製造するウクライナ企業=Uforceのオレグ・ロギンスキー最高経営責任者もブルームバーグの取材に対して「ウクライナにおけるマグラの成功はインド太平洋地域での運用の価値を裏付けるものだ」と語った。Uforceはインド太平洋地域のバイヤーと協議を進めており、同地域に少なくとも2か所の生産拠点を検討しているという。マグラのコストは数十万ドルで最新型の魚雷よりも安価で、米海軍は2030年までに数千隻の小型USVをインド太平洋全域に配備する予定だと述べている”
“戦略国際問題研究所(CSIS)は昨年7月に発表した報告書の中で「理論的なモデルや平時の試験運用とは異なり、ウクライナの防衛調達におけるイノベーションは戦場で実証されている」と主張、米軍に対してウクライナの調達手法を模倣するよう強く促した。NATOもすでにウクライナの戦術を取り入れた訓練を実施しており、昨年9月にポルトガルで開催された海軍ドローン演習=REPMUSにおいて、ウクライナ海軍はNATOのレッドチーム=仮想敵部隊を率い、5つのシナリオ全てにおいてNATOが率いるブルーフォース=味方部隊に勝利した。ウクライナがレッドチームの指揮を執ったのはこれが初めてだった”
ウクライナ侵攻以前から無人システムの話題や可能性について積極的に取り上げてきたが、小型のドローンや無人水上艇に対する当初評価は散々(日本周辺の気象条件では役に立たない、ハイエンドの戦いで役に立つとは思えない、ラジコンのような兵器など)だったが、DJI製のMavicは戦場認識を大幅に拡張し、FPVドローンは消耗が激しい歩兵同士の直接交戦を大幅に削減し、無線制御に比べて運用上の制限はあるものの電子妨害が効かない光ファイバー制御のFPVドローンは戦場に新たな問題を引き起こし、ウクライナ製の自律型USVも実戦を通じて有人艦艇の運用に深刻な問題をもたらすと証明された。
シーベイビーやマグラに近いサイズの無人水上艇はインド太平洋地域でも既に運用が開始されており、米海軍(第5艦隊)が採用したセイル型USV=Saildrone Explorerはアラビア湾や紅海での運用に限定されていたものの、太平洋横断(サンフランシスコ〜ハワイ)航海に成功し、最近では環太平洋合同演習(リムパック)にも参加し、これを開発したSaildroneは2026年のSea Air Spaceでセイル型USVの対潜戦バージョン=Spectre Silent Endurance、シーベイビーやマグラと同じように低認識性を追求して攻撃任務や電子戦に使用可能なSpectre Stealth Strikeを発表。
豪海軍が正式に発足させた海洋自律システム部隊にもセイル型USVのBluebottleが配備(55隻取得予定)され、状況によって太陽光発電による電気推進、波力発電による電気推進、セイルによる風力推進を使い分け、指定された海域での平均作戦時間は約75日(最長記録は184日)で、ハリケーン級の波の高さ(20メートル超)にも耐えて指定された海域に留まることができ、基本的にISR向けのUSVだが曳航式音響アレイを使用した対潜戦への活用も提案されている。
プラットフォームのサイズは気象条件に影響した運用制限とは完全に無関係ではないものの、軍事作戦の大半は未だに気象条件から大きな影響を受けており「全天候性でなければ戦場で役に立たない」と考えるのは行き過ぎた完璧主義でしかなく、小型の無人水上艇は完全な全天候性が欠けていたとしても「インド太平洋地域でも役に立つ」というのが主流の見解だが、自律型無人システムは有人艦艇にとって代わる競合システムではなく「有人艦艇の能力やペイロードを拡張する補完システム」であり、究極的にはキルチェーン全体に何をもたらすのかで見ていく方が自律型無人システムの理解と解像度が高くなるだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:Головне управління розвідки МО України