万博前売り券販売不振まねいた協会の「利用者目線」欠如 要領悪いプライシング・広報戦略

大阪・関西万博のチケットを購入するサイト画面

4月13日の開幕が迫る2025年大阪・関西万博。予約を前提としたチケット販売を展開していたが、前売り券販売の伸び悩みから、入場ゲート前で購入できる「当日券」の導入が開幕まで47日というタイミングで決まった。右往左往する日本国際博覧会協会のチケット販売方針に、消費者行動に詳しい専門家からは〝利用者目線〟の欠如が指摘されている。

当日券を後から追加

まず協会はチケット販売でどういう展開をしているのか。

「並ばない万博」を掲げて混雑対策を重視し、インターネットを通じた販売を基本とした。「万博ID」の登録、入場日時予約などを経て、スマートフォンにQRコードを表示する電子チケットとして購入できる。このほか、コンビニ端末や旅行代理店で入場ゲート前で交換する「チケット引き換え券」の購入が可能だ。

券種では、割引がある前売り券を開幕前日の4月12日まで売り出す。3月時点で期限が異なる3種類を扱い、開幕後は入場する日時で異なる3種類に切り替わる。最も高いのが会期中の一日券で、18歳以上の大人で7500円だ。有効期間中なら何度も入場可能なパスも用意している。

前売り券販売は1400万枚が目標だが、3月12日時点で約820万枚と6割に満たない。販売不振を受け、協会は2月25日、入場ゲート前で買える当日券を追加すると発表した。

万博IDに登録せずにネット購入できる「簡単来場予約チケット」も準備。協会幹部は「開幕後のニーズには間に合った」との認識を示した。

見えない値付け戦略

選んでほしい側にさりげなく誘導するナッジと呼ばれる手法があるが、「万博入場券はナッジ性が少なかった」と指摘するのが嘉悦大経営経済学部の國田圭作教授(行動デザイン)だ。

國田氏は「選択肢を提示して初めて、買い手はどちらがいいか考える。当日券は予約状況で販売枚数が限定されているなら、買えない人が出るかもしれない。そうすると『前売りを買おう』となる」と説明。だが協会は当初、当日券販売を予定していなかった。「初めから当日券がないのなら、前売り券への誘導ではなく、強制になっており、ナッジ性が少なかった」と強調した。

また、「プライシング(値付け)戦略が見えない。混雑緩和を目指すなら、ダイナミックプライシングが有効だった」とも強調。ダイナミックプライシングとは、繁忙期には高く、閑散期は安くする、航空会社やテーマパークで一般的になっている価格戦略だ。パビリオン優先入場権などのプレミアム付きといった、あえて高額チケットを期間限定で販売する方法もあり得るとする。

ただ、一気に券種や購入方法を示したことで、買い手側に、選ぶことを負担に感じさせる「選択過負荷」が生じていたとみる。國田氏は「選択肢が増えては逆効果。整理してシンプルにした方がよかった」として、最初に示す券種は3種類ほどに絞り、後から追加料金や割引が生じるオプションを加えられる仕組みを提案した。

予約自体にハードル

関西大総合情報学部の羽藤雅彦教授(消費者行動)は「万博自体の魅力が広がっていけば、予約や手続きが手間だったとしても行こうとする。消費者は不確かなものにお金を出したくはない」として、周知、広報戦略の不足を挙げる。

混雑緩和策としての細かな入場日時の予約についても、「なぜ必要なのか納得感はほしい」と説明不足を指摘。その上で「旅行などで事前に日時を決めることは負担を感じ、ハードルが高い行為だ」として、細かな予約を求める前売り券販売は難しいとした。

協会に向けては「期限までに間に合わせ、成功させるという義務感が強く出て、来場者をワクワクさせようという視点が欠けていたのかも」と注意を促した。

今後の巻き返しは可能なのか。羽藤氏はSNS(交流サイト)に注目する。「SNSでは同じ興味関心を持つ人でつながっていて、楽しいと思った感想がフォロワーの心に刺さる傾向がある。今からでも挽回できる」と強調した。

価格、広報いずれをとっても、協会に〝利用者目線〟が足りなかったのは間違いない。(藤谷茂樹)

関連記事: