バルト海上空での航空機GPS妨害、「ロシアが関与」とスウェーデン 今年に入りほぼ毎日発生と

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スウェーデンは4日、バルト海上空で航空機の航行システムが妨害される事案が急増している問題に、ロシアが関与していると非難し、同空域で航空機の安全性に懸念が生じていると表明した。

スウェーデン運輸庁(STA)によると、「GPS妨害」はここ数年で増加傾向にあったが、現在ではほぼ毎日のように起きている。今年に入ってからはすでに733件の妨害事案が記録されており、2023年の55件から増加していることがわかる。

STAは、妨害の発信源がロシア領内にあることを突き止めたとしている。妨害行為は海上輸送にも影響を及ぼしているという。ほかの欧州諸国も、GPS妨害にロシアが関与していると指摘しているが、ロシア政府は否定している。

STAの航空部門責任者アンドレアス・ホルムグレン氏は、これは「深刻」な問題で、「民間航空に安全上のリスク」をもたらすものだと警告した。

妨害事案は、報告件数が大幅に増加しているだけでなく、その範囲も「地理的にも規模的にも」拡大していると、ホルムグレン氏は述べた。妨害は当初、国際水域上空のスウェーデン領空東部に限定されていたが、現在ではスウェーデン領土や領海にまで及んでいるという。

欧州委の報道官によると、この「GPS妨害」は8月31日、同委員長がブルガリア南部に到着する直前に発生した。着陸には支障はなく、安全に到着したという。

ブルガリア政府は、飛行中に「航空機のGPS航法システムに情報を送信していた衛星信号が無効化された」と発表した。

英紙フィナンシャル・タイムズは、匿名の関係者の話として、委員長を乗せた航空機がブルガリア南部のプロヴディフ空港に着陸する際、操縦士らは紙の地図を使うしかなかったと報道した。

一方、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官はフィナンシャル・タイムズに対し、同紙の報道内容が「間違っている」と伝えたという。

過去数年間で、バルト海沿岸を運航する航空会社から数万件に及ぶ妨害事案が報告されている。ラトヴィア、リトアニア、エストニアのバルト三国は、ロシア領に挟まれる形で位置している。

6月には、スウェーデン、エストニア、フィンランド、ラトヴィア、リトアニア、ポーランドが、国連の国際民間航空機関(ICAO)の理事会にこの問題を提起した。ロシアはICAOに加盟している。

ICAO理事会は、「この状況について深刻な懸念」を表明するとともに、「国際的義務を果たし、妨害行為を直ちに停止するようロシアに求めている」と説明。それでもバルト海地域での妨害行為は「むしろ増加している」と、理事会は付け加えた。

欧州各国の政府や専門家は、こうした行為が欧州の安全保障を揺るがし、混乱を引き起こすというロシアの戦略に合致しているとして、ロシアを繰り返し非難している。

一方でロシア政府は、民間航空への干渉や攻撃について非難されても、常に関与を否定している。また、GPS妨害の増加とロシアに関連があるとは、これまでのところ立証されていない。

フォン・デア・ライエン委員長を乗せた航空機に対するGPS妨害について、欧州委の報道官は、機体に搭載されたテレメトリー(遠隔測定技術)が「ロシアによる露骨な妨害」によって阻害されたとしている。

欧州委は、「脅迫や威嚇(いかく)はロシアによる敵対的行動の常套(じょうとう)手段だ」とした上で、今回の事態を受けて「防衛能力の強化とウクライナ支援の拡大」に対する決意をさらに強めたとの述べた。

ブルガリアの航空管制当局は、GPS妨害を含む関連事案が2022年2月以降「顕著に増加している」と発表した。これは、ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始した時期と一致している。

航空機はGPS以外の航法手段を使うこともあり得るが、飛行中にGPSが妨害されると、他の航空機との衝突や、操縦士が意図せず地面や水面、障害物に接近するリスクが高まるとされている。

しかし、英民間航空局(CAA)はGPS妨害はそこまで深刻な問題ではないと指摘。CAAはBBCに対し、航空機の「複雑な航法システムは(中略)GPSのみに依存しているわけではない。なので、妨害が航行そのものに影響を及ぼすことはない」と説明した。

CAAはまた、GPSの妨害や偽装(スプーフィング)は主に紛争地域周辺で軍事活動の副産物として発生しているもので、「世界の商用航空運航を意図的に妨害する行為ではない」としている。

STAの2025年のデータは、8月28日までの事案を対象としている。スウェーデンと他国の航空会社からの報告が含まれるものの、航空会社は通常、自国の航空当局に報告する傾向にあるため、実際の件数より大幅に少ないはずだとSTAは指摘している。

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