自民結党70年 国政の中軸を担う責任果たせ

◆多党化時代で迫られる体質改善◆

 初の女性首相に対する国民の期待値は極めて高い。しかし、これで自民党が窮地を脱したとみるのは甘すぎる。

 国会は多党化が進み、自民党が今後、単独で過半数を確保するのは容易ではない。とはいえ、今なお衆参両院で第1党であることを考えれば、自民党には国政の中軸を担う責任がある。

 その役割を果たせるかどうかが党の消長を左右しよう。

 自民党が結党70年を迎えた。戦後の長期間にわたり、幅広い民意をくみ取る「包括政党」として政権を担い、経済や社会の発展のために尽くしてきたのは確かだ。

◆女性首相に期待集まる

 一方、国の財政が悪化するにつれ、自らの支持団体などに利益を分配し、集票につなげる従来の手法は限界を迎えている。

 多党化の時代に、各党が主導権を握ろうとして目先の人気取りに走り、財源の裏付けのない無責任な政策を実現しようとすれば、国政は混乱しよう。

 内外の課題は山積している。人口減少には歯止めがかからず、経済も低迷したままだ。戦後の国際秩序は崩壊寸前で、日本の安全も脅かされている。

 自民党は責任政党として、難局を打開するための政策と、明確な展望を示さなければならない。

 読売新聞の先月の世論調査で、高市内閣の支持率は71%を記録した。一方、自民の党支持率は32%で、40%前後あった安倍内閣時代と比べて決して高くはない。

 実際、今週行われた東京都葛飾区議選(定数40)では、自民が擁立した17人のうち7人が落選し、告示前(12議席)を下回った。

 高市首相が党を立て直し、信頼を取り戻せなければ、自民の役割は終わった、と有権者に見放されるのではないか。

 自民の党勢低迷は、派閥の政治資金規正法違反事件が一因だ。

 派閥のパーティー券に関わる収入を派閥、議員ともに政治資金収支報告書に記載していなかった。立法府に身を置く議員の多くが順法精神を欠いていたことに、国民が 呆 ( あき ) れるのも無理はない。

 自民党内では、議員が日常活動を 疎 ( おろそ ) かにし、有権者の切実な声をくみ取れていない、との見方が出ている。SNSの効果を期待し、国会での活動を発信することに明け暮れている議員もいるが、それだけで支持は定着しまい。

◆日常の活動が疎かでは

 議員と有権者が率直に意見交換できるミニ集会を開くなど、地道な活動を続けることが大切だ。

 自民党政治の象徴ともされてきた派閥は、麻生派を除いて解散した。人事に過度な影響力を行使するといった弊害の一方で、若手議員の教育の場という機能もあったが、派閥の衰退によってこの面が弱体化したとも言われる。

 近年は、公募に応じて政治家のポストを自らのキャリアアップに利用しようとする議員もいるようだ。候補者の選考方法や議員の教育などを含め、党の体質や組織体制を総点検する必要がある。

 政治が流動化しているのは日本に限った話ではない。

 昨年は英国で14年ぶりの政権交代が起き、フランスは少数与党内閣となった。今年は米国で第2次トランプ政権が発足し、カナダでは、9年余り首相を務めたトルドー氏が退任した。

 ロシアのウクライナ侵略の影響で、各国では物価が高騰している。移民政策の失敗に対する不満も重なり、時の政権への不信感が高まっている面があるようだ。

 民主主義国の指導者が内政の立て直しに追われ、内向き志向になれば、国際社会に「力の空白」が生まれる。その隙を突いて強権国家が領土や権益を拡大しようと、現状変更を試みる恐れがある。

◆国際協調の再構築を

 高市政権は、世界の平和と安定化の努力に参画するとともに、国際協調体制の再構築を目指さなければならない。

 そのためにはまず、国内政治の安定が不可欠だ。負担を伴う政策であっても、責任を分かち合える政党との協力を深め、政権基盤を強化する必要がある。連立を拡大することも視野に入れたい。

 欧州では、国内の格差や分断が広がり、移民の排斥を掲げる極右政党が台頭している。日本でも、欧州ほどのうねりは起きていないが、排外主義のような主張を支持する動きがみられる。

 不法滞在などを取り締まるのは当然だが、外国人を敵視するかのような風潮は看過できない。他者を尊重し、共生していく社会作りを先導することもまた、中軸を担う自民の役割ではないか。

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