先天性サイトメガロウイルス感染症 大切なのは早期の発見と治療
赤ちゃんへの影響が心配な母子感染。母子手帳に4月から新たな検査結果を記録する欄が追加されます。追加されるのは、先天性サイトメガロウイルス検査。赤ちゃんの聴覚に異常が疑われた場合に「サイトメガロウイルス」に感染しているかどうかを調べる検査です。私たちの身近にあるウイルスなのですが、妊娠中に感染すると、生まれてくる赤ちゃんの耳や脳などに重い障害をもたらすことがあります。およそ300人に1人の赤ちゃんが、母親のおなかの中で感染して生まれてきていると言われています。大切なのは、早期の発見と治療。医療の現場を取材しました。
(NHK名古屋放送局 記者 松岡康子)
三重県に住む、2歳の「とうや君(仮名)」です。サイトメガロウイルスに感染して生まれ、一時難聴と診断されました。
異常が見つかったのは、生まれる1か月ほど前。脳の「脳室」という部分が拡大していることがわかったのです。
とうや君(仮名)の母親もう頭真っ白で、このあとどうなるのか、そんな不安な気持ちになって。
かぜをひいたとかも、自分の中ではなくて妊娠中に。
生まれた直後の検査で、血小板の値も低く、サイトメガロウイルスに感染していることが分かりました。
サイトメガロウイルスは、唾液や尿に多く含まれ、健康な子どもや大人が感染しても問題はありませんが、妊娠中の女性が感染すると、おなかの赤ちゃんにも感染して、難聴や脳の障害などをもたらすことがあります。
定期的に検査に通っている、とうや君。一時難聴と診断された耳の聞こえは、治療薬を、生後2週間後から使うなかで、改善していきました。しかし、先天性サイトメガロウイルス感染症は、成長するなかで、難聴や発達の遅れなどの症状がでることもあり、両親は今後の成長に不安も感じています。
母親:おしゃべりが全然なくって。発語が遅いのかなとちょっと心配になっている。
医師:経験と一緒に言葉って増えていくので、いろいろしながら経験増やして、言葉につなげていきましょう。
三重大学病院耳鼻咽喉科 北野雅子医師先天性の難聴の中で一番多いのは、遺伝性の難聴なんですけれど、次に多いのはサイトメガロウイルスだと今のところ言われています。
難聴のような遅発性に出てくるような症候がないかどうかをみていくのがすごく大切かなと思います。
大切なのは早期の発見と治療
サイトメガロウイルスの母子感染に詳しい鳥谷部邦明医師は、感染し異常がある赤ちゃんを早期に見つけ、治療につなげることが重要だと考えています。生後2か月以内であれば、難聴や発達の遅れを改善する効果が期待できる抗ウイルス薬を投与することができるからです。
三重大学病院産婦人科 鳥谷部邦明医師とにかく治療、時期の限られた治療ですので、早く見つけるということは非常に大切だと思います。
3年前から、この病院で生まれた赤ちゃんに、先天性サイトメガロウイルス感染症の有無を調べる、ろ紙尿スクリーニング検査を勧めています。
赤ちゃんのおむつに専用のろ紙をはさみ、尿をしみこませると、ウイルスのDNAを検出することができます。
鳥谷部医師先天性サイトメガロウイルス感染の赤ちゃん全員が全員症状があるわけじゃないんですね。症状がない子は、赤ちゃんのおしっこの検査でしか見つかりませんので、感染をみつけるには、これが非常に有効かなと思います。
この3年間に調べた赤ちゃんは800人。そのうち、3人がサイトメガロウイルスに感染していることがわかりました。
鳥谷部医師異常が見つかるのが遅れてしまうと、抗ウイルス薬の治療は2か月以内なので、どうしてもできないことがある。
この検査は現在、自費診療でやっていますので、公的補助が出るようになれば、さらに広がる可能性が高いと思います。
取材を終えて
検査法も、治療薬もあるということで、早めの発見が重要です。この尿のスクリーニング検査、自費で5000円ほどだということでした。いまは検査を受けられる医療機関も限られているため、もっと多くの人に知ってもらい広がっていくことが大切だと感じました。
サイトメガロウイルスは、乳幼児の尿やだ液からうつることが多いと言われています。このため妊娠中はまず、石けんと流水で、しっかり手を洗うこと。特に上の子どもなどの唾液や尿がついたとき、おむつを替えた後には、念入りに手を洗うことが大切です。また、子どもと食器やスプーンなどを共有しないことや食べ残しを食べないというのも、重要です。詳しくは「トーチの会」という患者の会のHPなどもご覧ください。