反ワクチン派ケネディ氏の起用、なぜ懸念されるのか-QuickTake

トランプ次期米大統領によるロバート・F・ケネディ・ジュニア氏の厚生長官起用を巡り、米国の公衆衛生専門家らが最も懸念しているのは、同氏が反ワクチン運動を支持していることだ。

  もし、ケネディ氏が実際に厚生長官に就くことになれば、米国でワクチンを承認し、推奨・配布する機関のトップ人事に影響を与える可能性がある。

  厚生長官という職務は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)時に勢いづいた反ワクチン運動を擁護したケネディ氏にとって、予防接種に関する誤解を招くようなメッセージをさらに広めるのにこれ以上ない絶好のポジションだ。

  米国で始まった世界的なワクチン反対運動は、すでにはしかや百日ぜきなどの予防可能な感染症の撲滅を妨げている。 

  あらゆる医薬品にはリスクがあり、特に新薬にはリスクがつきものだ。ワクチンも例外ではない。しかし、小児疾患に対する確立された予防接種が有益性よりも危険性が高いという考えは、虚偽に他ならない。

ワクチン巡る不安の根源は何か

  予防接種への反対は、予防接種が始まった時から続いている。直近の反ワクチン運動は、医学誌ランセットに1998年に発表され、後に不正論文だったことが判明した研究がきっかけだ。この論文は、はしかと流行性耳下腺炎、風疹を防ぐワクチンと自閉症との関連性を主張していた。

  ランセットは2010年にこの研究論文を取り下げ、英国の総合医療評議会(GMC)は執筆したアンドルー・ウェイクフィールド氏の医師免許を取り消した。こうした論文執筆は「不誠実」かつ「無責任」な行為だと判断した。

  それまでにも、多くの親たちが自閉症の診断が増えている原因はワクチンにあるという考えに飛び付いていた。コロナワクチンに関する誤った情報や陰謀論が飛び交ったことも、ワクチン懐疑論を助長した。

研究結果はどのようなことを示しているのか

  自閉症との診断が増えたのは、この疾病に対する認識が高まり、診断方法が変化したことが大きいと専門家は結論付けている。増加が事実でないというわけではないが、繰り返し実施された研究により、ワクチンとの関連性は否定されている。 

  05年には、ワクチンに含まれる防腐剤チメロサールが自閉症の原因であるという主張が飛び出し、懐疑論が広がった。チメロサールを含むワクチンは安全であることが多数の研究により示されている。

ミシガン州議会前でワクチンに抗議する人々(2020年)

予防接種反対運動はどのような影響を与えているのか

  予防接種は自閉症を含む副反応を引き起こすことが多いと誤情報で親たちを説き伏せようとする草の根運動が展開されており、さまざまな伝染病から子どもたちが守られないケースが増えている。

  乳児の免疫システムが一度に複数の予防接種を受けることで過負荷になるのではないかという懸念から、予防接種の間隔を空ける親もいるが、複数の予防接種を同時に受けても安全であることが研究で示されている。予防接種の間隔を空ければ、予防効果が遅れて表れることになる。

  ワクチン反対の意見が広がっている地域では、「集団免疫」が失われる恐れがある。多くの人が感染症から守られる集団免疫に到達していれば、病原体はまん延せず、死滅する。

  集団免疫は、ワクチンを接種できない幼児や特定の疾患を持つ人々にとって不可欠だ。ワクチン接種が完全に有効であることはないため、集団免疫はワクチン接種を受けた人々にも有益だ。

公衆衛生にどのような影響を与えているのか

  ワクチンで予防可能な病気が、欧米で再び流行している。一方、途上国での疾病流行を食い止める取り組みは行き詰まっている。 

  はしかはワクチン接種により2000年に米国からなくなったが、それ以後、海外からの渡航者によって何度も持ち込まれ、予防接種を受けていない人々の間で流行を引き起こした。

  はしかは世界的に増加しており、23年には推定10万7500人の命を奪った。その大半は5歳未満の子どもだ。乳児が命を落とすこともある百日ぜきもまた、増加傾向にある。英国では10人が死亡した12年以降、高水準での推移が続く。

新しいワクチンのリスクとは

  規制当局は新しいワクチンを認可する前に、何千人ものボランティアに対して安全性と有効性を試す必要がある。 それでも、認可後に安全性の問題が浮上した例もある。

  欧州当局は11年、現在のGSKが製造した新しい豚インフルエンザワクチンの使用を制限するよう勧告した。ワクチンの一部が望ましくない免疫反応を誘発することで、本来の目的とは逆の作用を示すことが明らかになった。

  1960年代には、一般的な呼吸器ウイルスである呼吸器合胞(ごうほう)体ウイルス(RSV)の試験ワクチンが、子どもたちを守ることができなかったばかりか、子どもたちをより感染しやすくすることが判明。2人の幼児が死亡した。数年前にはサノフィのデング熱ワクチンが、接種した一部人々の症状を悪化させることが分かった。

    2020年後半に初めて導入された新型コロナウイルスワクチンは、数百万人の命を救い、さらに多くの重症化を予防した。

  何百万人もの人々が予防接種を受けた後、時に命にかかわる合併症を発症したが、現在までで最大規模の世界的なワクチン安全性研究によって確認されたように、まれなケースであることが証明されている。「ワクチン」誌にその研究が掲載された。

  ワクチン接種後の副反応には、血栓や重症ではあるが治療可能なアレルギー反応であるアナフィラキシー、心筋炎と心膜炎などある。それでも、コロナワクチンを接種するメリットはリスクをはるかに上回ることが示されている。

当局はワクチンへの副反応をどのように監視しているのか

  ほとんどの先進国では、ワクチンの副反応を報告するシステムが確立されている。

  米国では、誰でもワクチン有害事象報告システム(VAERS)に報告書を提出することができ、このシステムは副反応を特定する早期警戒システムとして機能している。英国にも同様のプログラムがあり、「イエローカード」と呼ばれている。

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原題:Why Kennedy’s Anti-Vaccine Position Is So Worrying: QuickTake (抜粋)

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