核融合エネルギーは、なんで何十年たっても「あと10年」って言われるの? 専門家に質問してみた
太陽を再現するようなものだから時間はかかるよね…。
「核融合はいつまでたっても『あと〇年』のまま」というジョークがあります。このジョークの由来を調べてみたんですが、残念ながらわからずじまいでした。
参考までに、ある研究者の証言は1960年代までさかのぼり、別の1986年の学会パネルでも似たような発言があったそうです。前者は核融合発電まで50年、後者は25〜30年と言及されており、2010年代あたりには実現していた計算になります。
「期限」はとっくに過ぎていますが、核融合エネルギーの実現まで「あと30年」、「あと50年」、数学好きな人向けには「あと17.8年」といった見出しが飛び交っています。
この手のジョークは、商用電力網への核融合エネルギーの導入が明らかに遅々として進まないのを皮肉っているわけです。
でも、ここで重要なポイントがあります。世界中の大小さまざまな機関によって、核融合の研究はここ数十年で飛躍的に進歩し、エネルギー出力の向上やハードウェアの改善、実験と理論の両面における幅広い進展をもたらしました。
また、実験施設の核融合点火にも成功しています。
いまや問題は、「人類が地球上で星の燃焼システムを再現できるかどうか」ではなく、「どうすればそれを安定的かつ継続的に、そして効率よく行なえるか」という段階まできています。
そこで今回の「Giz Asks」では、専門家のみなさんに後者の問いを投げかけてみました。核融合エネルギーがいつ実現するのかを当てる必要も、核融合研究の価値を正当化する必要もありません。
でも、核融合エネルギーがまだ実現していない理由が、必ず1つや2つ、あるいは3つくらいあるはず。私たちもそろそろ、現状をちゃんと知っておくべきだと思いません?
では、その理由とは一体何なのでしょうか?
核融合エネルギーにおける最大の障壁をひとつだけ挙げるとしたら、それはいったい何なのでしょう? そして何よりも、簡単な解決法はあるのでしょうか?
研究者のみなさんに教えてもらいましょう!
Tammy Ma(タミー・マー)
ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)リバモア核融合技術研究所長
私たちの前には、まだ途方もない量の科学技術の開発が待ち受けています。LLNLの国立点火施設(NIF)は、これまでに10回以上の核融合点火に成功していますが、その反応をうまく制御し、応用するためにはまだまだ学ぶべきことが山積みです。
重要な点として、NIFは商用核融合エネルギーに必要な利得を効率的に生み出すためではなく、国家安全保障の実験データを取得するために設計された施設だということに留意する必要があります。
そしてこれまでのところ、エネルギー利得や燃焼プラズマなど、核融合コミュニティが重要視しているあらゆる指標において、NIFに匹敵する施設やアプローチは他に存在しません。
核融合は困難な課題です。地球上のいかなる環境よりも過酷で、星の核を超えるようなプラズマや物質の状態を作り出し、制御する必要があります。科学技術力の限界に挑むことが求められているのです。
まだまだ先は長いと思いますが、それでも私は人類がいずれ目標を達成できると楽観視しています。科学や技術は、日々めざましい進歩を遂げており、実現したときにもたらされる恩恵は、根本から世界を変えるでしょう。
実現までに10年かかろうと、50年かかろうと、核融合エネルギーには追求する価値があります。結局のところ、進歩のスピードは投入されるリソースや資金に比例します。政府や投資家からの支援が増えれば、タイムラインは短縮されるはずです。
武田秀太郎
京都大学大学院総合生存学館特任准教授 / 計量サステナビリティ学者 / 日本の核融合スタートアップ「京都フュージョニアリング」共同創業者兼最高戦略責任者
昔は「核融合はいつだって30年先」というジョークがありました。でも、私が2023年に発表したレビュー論文では、1985年から2022年にかけて、核融合エネルギーの実現時期を論じた45本の文献を分析しました。その結果は、ジョークが示すよりもずっと複雑でした。
科学者たちの予測は、決して時代に取り残されたままではありません。20年前には、実現まで28.3年と言われていましたが、科学者たちは現在、あと17.8年で実現すると考えています。(「あと30年」が「あと17.8年」になったという意味で)ちゃんと前進しているんです!
楽観的な見方は、専門家にとどまりません。最近、私が日本の一般人を対象に行なったアンケート調査では、「核融合が初めて発電を始めるまであと何年かかるか」という質問に対して、最も多かった回答は「10年以内」でした。4000人の回答者のうち、約27%にあたる1047人がこの回答を選びました。びっくりするくらい楽観的です。
現在のリスクは、「核融合がいつも10年先」ということよりも、産業の基盤が十分に整備される前に、社会が「あと10年で実現できる」と期待しはじめている点にあるのかもしれません。
私は核融合エンジニアリングのスタートアップ企業である京都フュージョニアリングの共同創業者ですが、核融合の基礎科学は本物だと確信しています。
太陽は、ベンチャーキャピタルで動いているわけではありません。核融合の課題は、地球上で技術的に確立し、信頼性が高く、維持管理が可能で、経済的にも競争力のあるエネルギーシステムへと発展させることにあります。
商業核融合プラントには、プラズマ閉じ込め、高磁場マグネット、極限材料、トリチウム増殖、熱除去、遠隔保守、規制、サプライチェーン、電力市場の経済性を統合させる必要があります。どれかひとつを解決すれば、他の課題が自動的に解決するわけではありません。だからこそ、最大の障壁はもはや単なる「プラズマ物理学」ではなく、極限条件下でのシステム統合であると言えます。
したがって、私の答えは、核融合エネルギー実現まで「あと10年」です。この分野は確かに急速な進歩を遂げていますが、実用化には科学的なブレークスルー以上のものが必要です。
私たちには、プラズマ実験の成功だけでなく、核融合発電所の建設や維持、規制、資金調達、そして実際に導入できる産業のエコシステムが丸ごと必要です。核融合は確実に近づいていますが、最後の直線は、一本の線ではなく、ひとつのシステムなんです。
Arianna Gleason(アリアナ・グリーソン)
(核融合における最大の障壁は)材料科学です。核融合を突き詰めると、「星の核のような過酷な状態に何年も耐えられるものを地球上で作れるか」という問いなのです。
核融合に携わる研究者の多くが、極度の放射線や熱にさらされる原子炉の部品が最大のハードルという点で一致しています。
トリチウム増殖ブランケットも、プラズマに直接触れるトカマク型も、とてつもない精度での設計・製造が求められるでしょう。
しかも「完璧な球形で微視的にも純粋でなければならない」量産型の慣性核融合ターゲットも、強力な磁石を作るための高温超伝導テープも、1日3回ではなく1秒間に10回も照射に耐えなければならないレーザーの光学部品も、すべて「材料」です。
24時間365日、休むことなく電力網に核融合エネルギーを供給するためには、劣化せず、壊れず、しかも核融合産業のための強固なサプライチェーンを実現できる材料を開発できるかどうかが決め手になります。
星のエネルギーを小瓶に閉じ込めるようなこの技術の実現には、大きな技術的ハードルがあります。磁気核融合エネルギー(MFE)と慣性核融合エネルギー(IFE)には、共通する4つの大きな課題があります。燃焼プラズマの維持と安定化、エネルギー利得の向上(コストを低く抑えるために効率を犠牲にしないこと)、過酷な放射線と熱に耐えられる部品の製造、そして燃料となるトリチウムの増殖とリサイクルです。
特にIFEに関しては、NIFが点火に成功したことで、科学的成果は達成済みです。しかし、NIFのレーザー照射は1日あたり1回〜3回程度です。まだまだです。実際の発電所では1秒間に約10回の照射が必要となります。
照射頻度、ターゲット製造、廃棄物の管理といった面でも、飛躍的な向上が求められます。
SLACは現在、エネルギー省(DOE)やFES(基礎エネルギー科学)プログラム、およびFIRE Collaboratives(DOE主導の核融合エネルギーの実用化と商業化を加速させるための産学官連携プログラム)を通じて、官民の支援を受けながら、IFE技術の革新に取り組んでいます。
科学者たちは、プラズマが自己加熱し、点火に近い状態に達した際のプラズマの挙動(乱流、不安定性、エネルギー輸送、アルファ粒子の動きなど)をさらに深く理解しなくてはなりません。
そして、磁場方式であれ、慣性方式であれ、学術界や国立研究所、民間企業で用いられているモデルを検証するために、適切な空間・時間軸における測定技術の革新と診断手法が切実に求められています。
持続的な燃焼プラズマ(MFEの概念など)や、圧縮された燃料ペレットの爆縮対称性や流体力学的不安定性(IFEの概念など)に関する理解は、依然として不完全なままです。トリチウム燃料サイクルの科学に関しても、まだ不十分です。
それでも私たちは、DOE傘下にある国立研究所のネットワーク全体にまたがるDOE FIRE Collaborativeの取り組みや、官民連携のプログラムを通じて、着実に前進しています。
商用核融合プラントは、これまで実証されたことのない速度と効率で、トリチウムの増殖、抽出、処理、リサイクルを実施することが求められます。そして、この初期段階の作業を行なうためには専用の試験設備が必要です。
DOE国立研究所エコシステムで現在進行中のプロジェクト(核融合ブランケット試験施設)は、そのための素晴らしい第一歩となっています。
Carlos Romero Talamás(カルロス・ロメロ・タラマス)
メリーランド州を拠点とする原子力スタートアップ「Terra Fusion」創業者兼CEO
核融合反応から膨大なエネルギーを抽出できる可能性は知られるようになってほぼ1世紀。この間、核融合でエネルギーを生み出すためのさまざまな方法が提案されてきました。
しかし同時に、これを商業的に実現することは、現代における工学上の大きな課題のひとつであることも判明しました。
現在、こうした構想の多くは、実験で部分的に実証されており、少なくとも一部については、エネルギーを生成する物理学的な原理が機能するという高い確信があります。
長年の研究で物理モデルや診断技術、計算ツールは飛躍的に進歩してきましたが、核融合エネルギーの実用化を阻んできたのは、資金不足に他なりません。
「あと数年で核融合エネルギーが実現する」という楽観論は、潤沢で持続的な資金があることを前提にしています。しかし、つい最近まで、核融合システムの開発や試験への投資はほぼ政府に依存しており、しかも決して十分とは言えませんでした。
しかも、その限られた資金ですら、科学の進展よりも、政治的な風向きによって増減するサイクルを繰り返してきたのです。
資金が枯渇した時期には、多くの研究者が他の分野に焦点を変え、資金が増えた後でさえ、核融合に戻ってこない人はたくさんいました。こうした状況は、核融合コミュニティ全体として、実践的な経験の大幅な喪失となってきました。
いま、核融合の資金調達は新しい時代に入っています。少なくとも欧米諸国においては、民間資本が最大の資金源になっており、その規模は年々拡大を続けています。
現在、核融合に取り組む民間企業は50社以上にのぼりますが、その大半が10年前には存在すらしていませんでした。もちろん、企業によって専門性や実績、信頼性にはかなり幅があります。今後10年間で、消滅したり他の企業と合併したりもするでしょうが、これから数年の内に大きな発表を行なうであろう企業もいくつか存在します。
特に、いわゆる「Scientific Q>1(エネルギー純増)」と呼ばれるマイルストーンは、工学的な非効率性を考慮に入れずに、プラズマに投入したエネルギーよりも、多くのエネルギーを出力できることを実証するものです。
2022年12月に、NIFは慣性閉じ込め核融合でこのマイルストーンに達したと発表しました。いくつかの磁気閉じ込め方式でも、今後数年間で同様のマイルストーンを迎えるでしょう。
この次に控えている大きなマイルストーンは、「Engineering Q>1(工学的なエネルギー純増)」です。
こちらはすべての装置のあらゆる非効率性を考慮に入れたもので、持続可能な商業展開には欠かせません。これは今後10年以内に実現し、その後に大規模な展開が続くと思われます。核融合エネルギーは、いまや本当に手が届くところまできているのです。
今から10年後、核融合エネルギーの実現はあと何年と言われているのでしょうか。もしかすると、もしかするかもしれません。