長崎・壱岐沖ヘリ事故、異音の後で方向制御にトラブルか…専門家「テールローターの軸が外れた可能性」 : 読売新聞
長崎県壱岐島沖で医師や患者ら6人が乗ったヘリコプターが転覆した状態で見つかり3人が死亡した事故で、機長(66)がヘリの運航会社に対し、機体後方からの異音後、「機体が安定しなくなり、コントロールに専念した」という趣旨の説明をしていることが分かった。13日で発生から1週間。専門家は、テールローター(後部回転翼)を動かして機体の方向を制御するラダーが利かなくなった可能性を指摘する。
唐津港に陸揚げされたヘリ(10日、佐賀県唐津市で)国の運輸安全委員会によると、機体はメインローター(主回転翼)が全て折損し、前方の窓が破損。機体後部が潰れ、底部の着陸用の装備は右側の損傷が激しかった。同委員会は、主回転翼が回った状態で右に傾きながら機首を上げて着水後、転覆したとみている。
ヘリの運航会社「エス・ジー・シー佐賀航空」(佐賀市)によると、ヘリは当時、高度約150メートルを飛行していた。機長は事故直前の状況について、「異音後、高度が下がっていった」と説明しているという。
事故機と同型ヘリの操縦経験があり、総飛行時間1万6000時間に上る元航空自衛官、石橋清氏(75)は機長の話から、「後部にあるテールローターのシャフト(軸)が外れ、ラダーが利かなくなった可能性がある」と分析する。
機体の異常を感知した場合、パイロットは機体に負荷がかからないよう本能的に減速させるといい、「ラダーが利かない状態で速度を落とすと機体が左に回される。止めようとして右に傾いたまま不時着水したのではないか」とみる。
また、帝京大の平本隆・特任教授(ヘリコプター工学)も、機長がフロート(浮き)を自ら作動させたと説明している点などを踏まえ、機長が不時着水を決断したと推測する。
ヘリは仮にエンジンが停止しても、下からの風で主回転翼を回す「オートローテーション」と呼ばれる操作をすれば着陸することができる。平本特任教授は「機長が操作する余裕がないまま、十分な減速ができずに海面に降りた可能性がある」と指摘する。
ヘリは6日午後1時半、女性患者を乗せて長崎県・対馬を離陸。同1時47分頃、全地球測位システム(GPS)で機体の航跡が途絶えた。同5時5分頃に機体が見つかり、全員が救助されたが、機内で見つかった女性患者と付き添いの息子、医師の死亡が確認された。
唐津海上保安部(佐賀県)は9日、佐賀航空を業務上過失致死傷と航空危険行為処罰法違反の疑いで捜索。機長の操縦を巡る過失の有無や、ヘリの管理責任など幅広い角度から捜査を進める方針だ。機長や整備士(67)は骨折などの重傷を負って回復に時間がかかるため、当面は押収品の分析を進めるという。
犠牲3人知人 悲しみなお
亡くなった3人を知る人たちは悲しみにくれている。
「『きれいな菊があるから今度植えんね』と言っていたのに……」。患者の本石ミツ子さん(86)を知る近所の女性(76)は声を詰まらせた。育てた野菜をお裾分けしてくれたと振り返り、「あれが最後の会話になるとは本当に残念だ」と話した。
本石さんの息子、和吉さん(68)は「かーよさん」の愛称で親しまれた。知人の60歳代女性は「『孫からじいじのお米がおいしいと言われたから、まだまだ頑張らないと』と笑顔で話す姿が印象に残っている」と肩を落とした。
福岡和白病院(福岡市東区)の医師、荒川渓さん(34)の小学校時代の担任だった50歳代男性は、当時から「医者になりたい」と話す姿をよく覚えているといい、「ショックだ」と言葉を絞り出した。
運航会社が遺族に謝罪
ヘリコプターの運航会社「エス・ジー・シー佐賀航空」は12日、福岡市内で遺族に事故の経緯を説明し、謝罪した。同社は遺族の意向を受け、詳細を明らかにしていない。