ノースサファリサッポロを巡る「無責任の連鎖」 違法経営続けた事業者と後手に回った行政、そして…【杉本彩のEva通信】
「日本一危険な動物園」と呼ばれた札幌市南区のノースサファリサッポロが、2025年9月末に閉園した。ライオンへのエサやり、ヘビやワニなどの猛獣に直接触れる、ゾウガメの背にまたがるといった “動物と超近距離で触れ合える”ことを売りにした体験型の展示は、刺激を求める観光客に人気を集め、開園以来200万人以上が訪れた。
一方で、安全対策の甘さや動物への過度な接触が常に問題視され、まさに“人間の好奇心が生んだ危険な動物園”でもあった。加えて、施設が無許可のまま市街化調整区域に建設されていたことが発覚し、札幌市は繰り返し指導を行っていたが、改善はなされなかった。
市街化調整区域とは、都市計画法に基づき、無秩序な開発を防ぎ、自然環境や農地を保護するために設定された区域をいう。市街化調整区域に無許可で住宅や商業施設、ビルなどを建てることは基本的に禁止されているわけだが、 ノースサファリサッポロは、開業前の2004年から無許可で動物園を建設し、今年で開設20年。札幌市はついに都市計画法に基づく除却命令を出し、事実上の「閉園命令」となった。
だがこの問題の本質は、違法行為そのものに加え、行政がそれを知りながら容認し続けてきた「無責任の連鎖」にある。
市は開園前から無許可建設を確認していたにもかかわらず、動物取扱業の登録を受理し、さらには飲食店や宿泊施設の営業許可まで与えていた。その理由を「動物がすでに飼育されており、保護の観点から必要だった」と説明しているが、それは法の矛盾を放置した言い訳にすぎない。行政が“法をねじ曲げてでも許可を出す”という構図の中で、違法な事業は拡大し、結果として市民の信頼も、動物たちの福祉も踏みにじられた。
昨年には「アザラシと一緒に宿泊する」など、動物に過度なストレスを与える行為が批判を浴び、市には500件を超える苦情が寄せられた。ようやく市が重い腰を上げたのは、こうした世論の高まりを受けてからだ。問題が起きてからようやく動き出す行政の姿勢は、命を蔑ろにしてきたと言わざるを得ない。本来であれば、最初の段階で違法状態を是正し、動物たちを守るべきだったはずである。
閉園時点で約640頭のうち約半数の動物が行き場を失っている。過去にも、閉鎖された動物園や水族館で、移送先が見つからず衰弱死するなどの悲劇が繰り返されてきた。動物たちは“展示物”ではない。彼らの命の責任を負うべきは、違法経営を続けた事業者であり、それを長年見過ごし管理監督を怠ってきた行政、そしてその構造を甘受し、娯楽として受け入れてきた人間社会そのものである。この三者の無責任の連鎖が、最も弱い存在である動物たちを追い詰めている。
私たちは、今こそ「動物施設とは何のために存在するのか」を問い直さなければならない。動物園や動物展示施設は、保護や教育という立派な大義名分のもとで、長きにわたり娯楽のために動物を利用してきたという現実を否定できない。そこには “消費”の構造があり、命の尊厳よりも観客の満足と利益を優先してきた歴史がある。
しかし現代社会には、VR映像やオンライン教育、世界各地の保全活動情報など、動物を苦しめずに学び、つながるための手段がいくらでもある。しかも、狭くてうるさい場所で不衛生に飼育されていたり、足を付くところに土も植物もないような、本来の生息環境と異なる場所に置かれた動物を見て学びになるだろうか。そういった環境に置かれた動物たちを、肯定的に演出されたら、本来とは異なる間違った生態を教える場になってしまう。「かわいい」「楽しい」という感情の裏側に、来る日も来る日もストレスを抱え生き、檻の中で生涯を終える命がある。その現実から目をそらさないでほしい。
動物施設を存続させたいのであれば、もはや“見せ物”のように動物を扱う時代ではない。動物と人が共に幸せに生きられるための、新たな形を真剣に探るべき時にきている。
ノースサファリサッポロの閉園は、単なる一施設の閉園ではなく、動物利用をする社会全体への警鐘である。動物を犠牲にした娯楽や集客や商売は、もはや時代遅れの文化なのだ。動物と人が真に共生できる社会を築くために、私たち一人ひとりが「動物をどう扱うのか」という問いから逃げてはならない。目の前にいる動物を見て、本当に幸せで満たされているだろうか?と、「可愛い」「癒される」「いいね!」から視点を転換できるような社会こそ、共感や配慮といった思いやりに繋がると思う。
ノースサファリサッポロの閉園は、動物たちの苦しみだけでなく、人間社会の倫理の未熟さをも映し出しているのだ。(Eva代表理事 杉本彩)
※Eva公式ホームページやYoutubeのEvaチャンネルでも、さまざまな動物の話題を紹介しています。
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杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。
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