飲酒運転事故で我が子3人を失った大上かおりさん「こんなことで未来が奪われないように」…初講演の要旨

 福岡市の海の中道大橋で起きた飲酒運転事故で我が子3人を失った大上かおりさんが11日に福岡市の博多高で行った初講演の要旨は次の通り。

高校生の頃からの夢

 福岡県内で教育関係の仕事をしていて、家ではお母さんをしています。皆さんと同じ年頃の子どももいます。お話ししたいのは私の高校生の頃からの夢とそれが叶(かな)った日のこと、そして失った日のことです。

飲酒運転撲滅への思いを話す大上かおりさん(11日午後、福岡市東区の博多高で)=秋月正樹撮影

 私の夢は「先生」になることでした。高校3年生の時の保育の授業で夢がもう一つ増えました。それは「いつかお母さんになりたい」でした。その後、念願の先生になり、結婚し、赤ちゃんを授かりました。出産を通して知ったこと。それは人の誕生、命の誕生が素晴らしいということ。お母さんになることはこの地上に命と命をつなぐこと。陣痛のつらいつらい痛みは、命が誕生した瞬間、深い深い愛情のスパイスに変わること。この子のママになるために私は生まれてきたんだと思ったこと。命の尊さを深く深く感じました。

 高校を卒業して約10年後、3人の「お母さん」になりました。宝物が3人になり毎日が幸せでいっぱいでした。私たち夫婦の口癖は「このまま時が止まればいいのにね……」。

失った日のこと

 2006年8月25日。その日、カブトムシが大好きになった子どもたちと昆虫採集に行きました。自宅に戻る際に海の中道大橋にさしかかった時、「ドン!」と車に追突され、次の瞬間、車内に一気に水が入ってきました。車の中は真っ暗です。割れたフロントガラスから水面に出た瞬間に状況が理解できました。橋から落ちたのです。見上げると頭上に橋が……。高さは5階建てぐらいです。

福岡市で幼児3人が犠牲になった飲酒運転事故の現場で福岡県警は検問を行った(2021年8月)

 すぐに「子どもを助けなきゃ」と思いました。海に潜って沈む車に割れた窓から入り、初めに1歳2か月の紗彬(さあや)ちゃんを。次に3歳3か月の倫彬(ともあき)君を。「あと紘彬(ひろあき)君(当時4歳11か月)だけ」と潜ったけれど見つからず、もう1回潜りました。それでも見つからず……。

 海面に出ると、紗彬ちゃんも倫君も夫も沈んでいました。私は恐ろしい決断をしなくてはいけませんでした。紘君を助けに行き、3人を諦めるか、紗彬ちゃんと倫君を助け、紘君を諦めるか。「ひろー!」とありったけの声で名前を呼んで3人を助けることを選びました。倫君を抱いて橋脚まで泳ぎ着く途中、倫君は夕ご飯を吐きながら私の胸の中で息を引き取りました。亡くなった倫君と紗彬ちゃんと帰宅し、真夜中に「紘君が車の中から見つかった」と連絡がありました。

 紘君はあと少しで5歳の誕生日で、カブトムシのケーキを作るのをとても楽しみにしていました。倫君の3歳の七夕の願い事は「もっと、ずっと、おかあちゃんといっぱい、いっしょにいたい」でした。よちよち歩きを始めた紗彬ちゃんはまだ「ママ」と言ったことがありませんでした。3人の子どもたちが受けた苦しみ、恐怖はどれほどのものだったでしょうか。

 これが、私たち家族があの日、失ったものです。皆さんは何を感じますか。

 同じ原因で哀(かな)しみや苦しみと向き合いながら、生きる人が日本にたくさんいます。その原因は飲酒運転です。

哀しみのメッセージ

 どうして助かってしまったのだろうという罪悪感の中、19年間、「生かされている意味」を問い続けてきました。答えの一つは、ここにいるみんなが持っているのは、たった一つのかけがえのない命で、みんなの命が誕生するまでにたくさんの命がつながってきたこと。だから今、生かされていること。そして、皆さんを愛している人がいること。

事故の3日前、お風呂上がりにはしゃぐ長男・大上紘彬ちゃん(左)、長女・紗彬ちゃん(中央)、次男・倫彬ちゃん(2006年8月22日撮影)=大上さん提供

 紘君、倫君、紗彬ちゃんが命に代えて残した哀しみのメッセージだと思い、伝えます。飲酒運転は自ら選んでいる犯罪で、飲酒運転がいまだにあり、つながったかもしれない命が断ち切られたということ。これから社会人になる皆さんには飲酒運転のない世の中を。こんなことで尊い命が、未来が、生きていく喜びや希望が奪われてはいけません。自分の意志で飲酒運転をしないことを選べる大人になってほしいと思います。

 最後に、皆さんの10年先が温かい気持ちで満ちあふれていますように。どうか皆さんの生活が安全に守られますよう祈っています。

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