「いつまで続くのか…」 新型コロナ後遺症の苦しみ 「第12波と言われるほどまだ流行っている」医師が指摘する現状と課題

 WHO加盟国が感染症の流行に関する新たな国際ルール「パンデミック条約」について合意したと報じられた。将来パンデミックが起きた際の予防や対応などを規定したものだが、この条約を作る上で教訓となったのが、新型コロナウイルスだ。

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 2020年から感染拡大した未知のウイルスによって、多くの人が不安の中での生活を余儀なくされた。その後、ワクチン接種が進み、2023年5月には感染症法上の位置づけが2類相当から季節性インフルエンザと同じ5類へと引き下げられ、徐々に「過去のもの」となっていった。

 しかし、いまなおコロナの後遺症に悩む人がいる。症状には、倦怠感やせき、息切れ、頭痛、記憶障害などがあり、WHOによると程度差はあるものの、コロナ感染者の6%に発生するとされる。2025年3月には、後遺症の患者や家族が適切な治療が受けられていないとして、医療体制の充実を求めて厚労省へ要望書を手渡した。

 終わらないコロナとの戦い。『ABEMA Prime』では、当事者とともにコロナ後遺症の現状と課題を考えた。

■後遺症に悩む女性、診断に安堵も「逆にいつまで続くのか…」

 日本では、2023年5月の5類移行までに3380万人超が感染した。「新型コロナ後遺症」は、少なくとも2カ月以上持続、他の疾患による症状として説明が付かないものを指し、感染者の約6%が後遺症発症との研究に照らし合わせれば、200万人超と推定される。

 nanaさん(40代女性)も、コロナ後遺症に悩んでいる1人だ。2021年8月に感染(デルタ株)、職場復帰するも「謎の倦怠感」が続き、テレビの後遺症報道を見て「自覚」した。2022年6月、「コロナ後遺症によるウイルス性髄膜炎脳炎」と診断。2023年5月に倦怠感で会社(放課後等デイサービスの職員)へ行けず3カ月寝たきりとなり、その6月から休職している。現在は車いすで生活しており、倦怠感や手足に力が入らない、頭が重く首がグラグラする、ブレインフォグなどの症状が残る。

 原因は「特に大きな持病がなかったため、コロナしか考えられない」という。しかし、当初は後遺症の存在もあまり知られていなかった。「何をしたらいいかわからず、このふらつきが何からきたのかも考えられない状態だった。同僚に聞いたり、ネットで『コロナ おかしい』などと検索して、後遺症外来を自力で見つけた」。

 また、周囲の理解も進んでいなかった。「5、6人いるスタッフから1人欠けると、ものすごく痛手になる。コロナ感染で2週間休み、さらに休職となると、会社への打撃も大きい。皆が私のことを気にかけてくれたが、それと同時に会社のことも心配して、『コロナ後遺症とは絶対に言わないで』と言われた」と振り返る。

 治療はてんかんや神経痛を抑える薬を服用し、担当医は「薬を飲みながら経過観察するしかない」と話しているという。「コロナに感染しても治ると思っていた。『後遺症』という言葉・診断がついた点では楽になったが、逆に『いつまで続くのか』と未知の世界に入った」との不安も明かした。

■症状は?確立されていない治療法 社会の目や医療、行政に課題も

 後遺症の診断基準はどこにあるのか。新型コロナ後遺症外来を設置し、8000人以上の患者を診察してきたヒラハタクリニックの平畑光一院長は「鑑別検査で『他の病気ではない』とわかり、後遺症の典型的な症状があるかどうで判断する。論文では200種類以上の症状が出ると指摘されていて、症状は10個、20個あるのが当たり前。精神障害と間違われるが、パターンは異なる」と説明する。

 人によって症状は様々で、対症療法しかないという。「漢方薬などを使いつつ、基本的にはセルフケアを推奨している。全国に患者がいる一方で、診てくれる医師はいないからだ」と紹介。また、「今日やって、明日すぐ治るものでもない。ある程度、後遺症と付き合う感覚も大事で、焦りすぎると悪くなることもある。きちんと知識を持って、無理をせずに付き合っていくのが大事だ」と続けた。

 コロナ後遺症をめぐる課題として、医療面では「外来が閉鎖し、診察する医師も少ない」、行政面では「支援を受けたくても認知が低い」、社会面では「『怠けている』などの理解のなさ」がある。

 現場で起こっていることとして、平畑氏は次のように語る。「理解がある医師であれば診断書を書いてくれるが、なければ『後遺症ではない』『精神科へ行け』と言われる。しかし、精神科に行っても診断書はもらえない。当院の患者でわかっているだけで、3人が自殺した。いつ治るかわからない、家族に理解してもらえない、経済苦も重なって、『自分なんか生きていないほうがいい』と。場合によっては『そんなことで来るんじゃない』『なまけているだけだ』と罵倒する医師もいて、死にたい気持ちが増幅される」「『あなたの地域にそういう人は1人もいない』『高度な後遺症では労災が通らない』と言う労災職員もいるが、厚労省は対象疾患だと明言している。職員は知らないだけかもしれないが、結果として悪質な対応になる」。

 さらに、後遺症患者の診察が病院経営に不利となる可能性も指摘。2023年5月から、新型コロナ後遺症が2カ月以上続く患者に対し、適切な治療を行った場合は3カ月に1回「147点」を加算していたが、この措置は2024年3月末に終了し、“コロナ後遺症外来”が相次いで閉鎖した。そうした経緯もあり、コロナ後遺症は医者にとって“時間もかかるし儲からない病気”で、「『診察』の点数しか付かずとにかく診療報酬が低い」「点数を大きく稼げるのは『検査』だが、コロナ後遺症では検査をあまりしない」「その上、治療法が確立されておらず、治るまで時間がかかる」と問題点をあげた。

 なお、新型コロナ後遺症への支援は、労災保険では「仕事・通勤で感染し、後遺症による療養が必要と認められた場合は保険適用」、傷病手当金は「仕事・通勤以外で感染し、後遺症で仕事が困難になった場合、健康保険により支給」、障害年金は「後遺症で日常生活が著しく制限を受ける場合、要件を満たせば対象」となっている。

■「第12波と言われるほどまだ流行っている」「無症状でも後遺症に」

 コロナの話題が出ることは少なくなったが、平畑氏は「第12波と言われるほどまだ流行っている」と警鐘を鳴らす。「今感染した人も後遺症になり、今日もたくさん患者が来た。「終わった問題」ではないのに、それが知られていないのが問題だ。無症状でも後遺症になりうるし、家族が感染して自分も検査したら陽性で、その後の後遺症で寝たきりに近い状態になった例もある。無症状でも気をつけないといけない」。

 また、個人でできる予防策として、「鼻うがいをすることでウイルスが流れ、後遺症になる確率が減る。抗ウイルス剤も、後遺症を抑える可能性があるのではと言われている。また、感染から2カ月間は無理をしないこと。『仕事をするな』ではなく、『休み休み仕事をする』と知っておくだけでも、寝たきりになる確率はぐっと落ちる」と促した。(『ABEMA Prime』より)

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