寄生植物の「自殺」を誘発する研究とは
他の植物に寄生して水分や栄養分を横取りしてしまう「寄生植物」の問題は、主に農家にとって避けられない問題であり、食糧難に苦しむ国々では国民の命に直結します。そんな寄生植物に「自殺」を促し、枯らす方法が研究されています。
Evolution of interorganismal strigolactone biosynthesis in seed plants | Science
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adp0779Triggering parasitic plant ‘suicide’ to help farmers | UCR News | UC Riverside
https://news.ucr.edu/articles/2025/03/20/triggering-parasitic-plant-suicide-help-farmers カリフォルニア大学リバーサイド校のヤンラン・リー氏らによると、寄生植物の「自殺」を促す研究の中心にあるのはストリゴラクトンと呼ばれるホルモンだとのこと。このホルモンは水不足などのストレスに対する植物の反応をコントロールするほか、植物の根に関係する土の中の菌類を引き寄せるという少し変わった特徴も持ち合わせています。 ところが、多くの寄生生物はストリゴラクトンを利用するように進化しており、寄生植物がひとたびストリゴラクトンの存在を感知すると発芽して作物の根に絡みついてしまい、作物に必要な栄養素を奪ってしまうとのことです。研究者らはこの性質を逆手に取り、寄生植物の寄生先が存在しない状態でストリゴラクトンをまくことで、エサがない場所で寄生植物を発芽させ、栄養不足で枯死させるという手法を研究しています。
2018年には、名古屋大学の研究で、特定の寄生植物だけに働くストリゴラクトンを合成し、寄生植物の発芽を刺激して作物を守ることに成功しています。
リー氏らが今回行った研究では、バクテリアと酵母を使った革新的なシステムを開発し、大腸菌と酵母細胞を小さな化学工場のように機能するように工学的に設計することで、ストリゴラクトンを生産するのに必要な生物学的ステップを再現しています。この方法によって、研究者たちは制御された環境でストリゴラクトンを研究し、大量に合成できる可能性があるとのことです。論文共著者のデヴィッド・ネルソン氏は「今回開発したシステムで、これまで研究されたことのない遺伝子の特徴を明らかにし、その遺伝子を操作して、合成するストリゴラクトンにどのような影響を与えるかを見ることができるのです。ストリゴラクトンが発するシグナルを微調整すれば、より効果的に寄生植物を撃退できるかもしれません」と述べました。 農業分野以外にも、ストリゴラクトンは医療や環境分野での応用が期待されています。いくつかの研究では、抗がん剤や抗ウイルス剤としての応用が示唆されており、フロリダ州でかんきつ類の収穫に大きな被害をもたらしているカンキツグリーニング病の抑制にも期待が寄せられています。
ネルソン氏は「この戦略が実際の畑でうまくいくかどうか、まだ疑問を持っています。ストリゴラクトンが発信するシグナルを微調整して、より効果的なものにできるかどうかテストしているところです。もしそれができれば、雑草と闘う農家にとって画期的な手法になるかもしれません」と述べました。
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