タピオカ、唐揚げの“次”になる…?「麻辣湯」の店が乱立する理由と、“ブームの終わり”がすでに始まっているかもしれないワケ(東洋経済オンライン)

 もはや乱立と言ってもいい麻辣湯の店。なぜここまで増えているのか。そして、ブームはどこへ向かうのか。 ■人気の正体は「中毒性」×「免罪符」  ここ数年、麻辣湯は若い女性を中心に爆発的な人気を獲得している。専門店には平日でも行列ができ、SNS、とりわけTikTokでは食レポが量産される。投稿が行列を呼び、行列がまた投稿を呼ぶ循環に入っている。  筆者も大好きで週1ぐらいで食べているのだが、平日の15時ぐらいでも、行列が絶えないので驚きだ。

 ぐるなびが選ぶ2025年の「今年の一皿」にもノミネート。「DIMEトレンド大賞2025」のグルメ・フード部門賞は、日本における麻辣湯の火付け役「七宝麻辣湯(チーパオマーラータン)」が受賞している。  麻辣湯は中国・四川省発祥で、スパイスの効いたスープに肉や野菜、春雨などを入れるローカルフード。  支持を押し上げたのは、「ちょうどいいバランス感」にある(と思う)。辛さには、繰り返し欲しくなる中毒性がある。一方、具材を野菜や春雨に寄せれば、重たさを抑えながら満足感が得られる。背徳感の少ない刺激。ここが強い。ラーメン的な快楽を、より軽い入り口で享受できる、と言い換えてもいい。

■女性の心をグッと掴むことに成功した  特に、この強みは「女性」に効く。麻辣湯店の店内は、ほとんどが若い女性である。あるとき、男性である筆者以外、全員が女性のお客さんだったこともあるほど。女性にとって「油」や「糖分」など、中毒性があるものは敬遠されやすい。  しかし、女性だってそうしたものを食べたい。そんなとき、ヘルシーさという免罪符がある麻辣湯はぴったりなのではないか(余談だが、その意味で筆者は麻辣湯を「女性の二郎系ラーメン」とこっそり呼んでいる)。


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 しかも麻辣湯は、食べる前の楽しさもある。多くの麻辣湯店では、具材を自分で選び、その種類や量を決める。食事に向かう体験が、魅力の一つにもなるのだ。  自分で組み立てた一杯は写真にも言葉にもなりやすい。麻辣湯ブームの真相は、味覚の流行と「選ぶ」ことの流行でもある。  日本において麻辣湯を広めるのに一役買ったのが、七宝麻辣湯(チーパオ)である。2007年創業。仕掛け人はフードライター/飲食コンサルタントの石神秀幸氏だ。

 筆者は以前、石神氏にインタビューをしたことがあるが、その人気の理由が面白かった。  石神氏は、未知の食べ物は感度の高い街でまず見つけさせる必要がある、と考えたという。創業店は渋谷。その後も赤坂・恵比寿・五反田など、目の届く範囲、かつ感度の高い街に積み上げていく。東京集中の出店なのである。結果としてメディアも人も集まる都心で、徐々に人々の意識の中に麻辣湯が印象付けられていった。石神氏は、チーパオが広がり始めたのは19年に恵比寿へ出店した頃からだという。恵比寿といえば、食の感度がひときわ高い街。その辺りから、徐々に人気が作られていったのである。

 もともと、石神氏が麻辣湯に目をつけたのは03年。石神氏がシンガポールで麻辣湯を食べた体験にある。そこで感じたのは「おいしい」だけではなく「トッピングを選ぶのが楽しい」という感覚だった。スパイスを分析すると健康に良さそうだともわかった。当時の日本では、OLがコンビニでカップ春雨を買う流れがあり、その流れに乗ることができるのではないかと考えたという。  ただ、そこでは流行に乗っただけではない。チーパオでは、徹底して味にこだわっている。そのスープはセントラルキッチンで作るのではなく、基本的に各店で炊く方式を採っている。創業当初は濃縮スープを使っていたが売り上げが伸びず、試しに店でスープを炊いたら一気に客足が伸びた経験があるからだ。


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 スープの味についても、少しずつ変化を加えている。開業からその味を変えた回数は、300回を超えるほどだという。用いるスパイスの量を変えると、全体のバランスも調整する必要があり、小さな変更が積み重なる。そうした試行錯誤を繰り返しながら、味を追求してきた。 ■増加の裏にある「出店のしやすさ」  こうした工夫に加え、21年からは「焼肉ライク」を展開するダイニングイノベーションと組んで、フランチャイズ展開にも踏み出している。

 おそらく、現在の麻辣湯ブームを直接作り上げたのはこの提携も大きいだろう。チーパオだけでみれば、その店舗数は21年が6店舗だったのに対し、現在は50店舗を超えている。5年ほどで8倍になっているのだ。  17年には、中国でチェーン展開していた「楊国福麻辣湯」も日本に上陸し、現在の麻辣湯ブームの元になるプレイヤーが出揃い始めた。  そうして撒かれた種が完全に華開いたのが、25年ということになるのだろう。  しかし、人気が出れば、店舗が増える。タピオカをはじめとして、飲食ではこの流れが起きやすい。

 特に麻辣湯は、客が具材を選ぶための冷蔵庫が食材の冷蔵庫にもなっているから、その分だけスペースが節約しやすい。小さなスペースでも出店がしやすいのである。そのため、麻辣湯店の中には、かなり小さいスペースで営業している例もある。  さらに、麻辣湯の麺は多くが春雨であり、中華麺などに比べてその原価は安い。そのため、利益率が高く新規参入しやすい業態でもあるわけだ。 冒頭で書いた「唐揚げ店が麻辣湯店に」という光景は、こうした事情を背景に全国的に起こっている可能性が高い。

■業界の首を絞めることにならないか  以上のように真面目に考えていくと、唐揚げ店がどんどん麻辣湯店に変わるのも納得である。小さなスペース、限られた厨房設備でも提供できることが強みだった唐揚げ以上に、麻辣湯は扱いやすいメニューなのだ(扱いやすい=美味しく作れる、というわけではない)。  こうしてどんどん参入が増えると、どのようなことがあるだろうか。まだ、麻辣湯では顕在化していないが、今後あり得そうなことを考えてみよう。


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 流行の初期は「需要があって出店する」わけだが、それが途中から「出せるから出す」「儲かりそうだから出す」が先に来てしまう。それによって、近いところで麻辣湯店がひしめいてしまい、業界全体で首を締め合うことになってしまう。いわゆる、「カニバリズム」というやつだ。実際、都心の主要駅の場合、すでに麻辣湯店が3〜4店舗あるところも出てきている。  味についても後追い店は味のレベルが低い場合が多く、麻辣湯をはじめて食べた人が「この食べ物、あまり美味しくないかも」と思ってしまうかもしれない。チーパオが行ったような味の精査が行われないまま、文字通り「ピンキリ」の麻辣湯店がひしめく。すると、1店舗での味の印象が全体に波及してしまう。その意味でも、過剰なブームは業界全体の首を絞めかねない。

 あるいは、ここから競争がさらに進むと、勝負は味や体験より“お得さ”に引っ張られるようになるかもしれない。現状、麻辣湯は決して安価とはいえない。普通に食べれば1500円程度はかかってしまう。だからこそ、差別化として「安く」提供する店が出てくるかもしれない。しかし、そこで「値下げ競争」に入ると、店側としてはどんどん消耗戦になり、やはり業界全体が疲弊する可能性も高い。 ■ブーム後に残るのは、どの店か  飲食では、これまでも唐揚げ店やタピオカ店など、多くの業態がこのように「ブーム→集中出店→業界全体の縮小」というサイクルを繰り返してきた。特に、原価が安く、小スペースでも展開可能な麻辣湯は、「集中出店」のフェーズに入りつつある。

 問題は、この後だ。ブームを作ったチーパオも、現状では集客がうまく進んでいても、これ以上店舗が増えたときに「供給過多」にならないとも限らない。  特に麻辣湯は(日本人向けにアレンジされているとはいえ)、スパイシーでエスニックな風味が強く「人を選ぶ」食べ物で、食べる人の分母が大きいわけではない。  その意味でも、「麻辣湯店」の看板が、何か「別の店」の看板にすげかわるのも時間の問題かもしれない。  ただ一つ言えるのは、結局残るのは「堅実な店」だということだ。

 タピオカについても、結局はその流れを作った「ゴンチャ」は現在も堅実な経営を続けている。ブームにかかわらず、顧客に向き合う経営を行いつづけた店が生き残る(あまりに当然のことだが)。  では、爆増する麻辣湯店で生き残るのは、どこか。その答えは数年後に分かるだろう。 【関連記事】あの石神秀幸が「麻辣湯」チェーンを営む深い理由 中国のローカルフードを、なぜ手掛けるように?  では、七宝麻辣湯の生みの親、石神秀幸氏へインタビュー。その裏側を余す所なく話してもらっている。

谷頭 和希 :都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家

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