帯状疱疹ワクチンで認知症のリスクが低下、研究続々、一石二鳥
透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影後、着色した水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)。ヘルペスウイルスの一種で、主に子どもの頃に初めて感染すると水痘(水ぼうそう)、加齢などで免疫力が落ちると帯状疱疹を引き起こす。(MICROGRAPH BY JAMES CAVALLINI, SCIENCE PHOTO LIBRARY)
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帯状疱疹(たいじょうほうしん)のワクチンには、認知症の予防という利点もある可能性が新たな研究によって示されている。4月2日付けで学術誌「Nature」に発表された研究では、帯状疱疹ワクチンを接種した成人は、接種していない成人に比べ、認知症の発症率が20%低かったことがわかった。
帯状疱疹、インフルエンザ、肺炎などの感染症に対するワクチン接種と認知症リスクの低下を関連付ける研究結果が次々と発表されており、今回の研究はその新たな証拠だと、米テキサス大学ヒューストン健康科学センターの神経学教授ポール・シュルツ氏は述べている。氏は今回の研究に参加していない。
帯状疱疹とワクチン
帯状疱疹はウイルス性の発疹で、ひどい痛みを伴うことがある。小児期によく見られる水痘(水ぼうそう)の原因となる水痘・帯状疱疹ウイルスが体内で再び活性化すると発症する。一部の人は、神経痛をはじめとする重い合併症になる。(参考記事:「50歳未満で帯状疱疹が増加、なぜ? 合併症で顔面マヒにも」)
米疾病対策センター(CDC)によれば、米国では毎年約100万人が帯状疱疹と診断されている(編注:国立健康危機管理研究機構によれば、日本での発生率は年間1000人あたり5人程度で、80歳までに3人に1人が経験すると推定される)。
米国では一般的に、帯状疱疹ワクチンは50歳以上と免疫機能が低下している19歳以上の人だけが接種を受けられる(編注:日本では50歳以上の人と帯状疱疹にかかるリスクが高いと考えられる18歳以上の人が受けられる。また、2025年4月から65歳以上の人などが定期接種の対象となった)。
ワクチン接種率の正確なデータはないものの、CDCによると、米国では60歳以上の接種率は2008年には約7%だったが、2018年には約35%まで上昇している。
認知症に関しては、55歳以上の米国人の42%が生涯のある時点で発症すると推定されている(編注:2020年に医学誌「Neurology」に発表された研究によると、日本人高齢者(60歳以上)の認知症の生涯リスクは55%)。
これまでの研究の弱点を克服
近年、帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下の関連性を示唆する研究が次々と発表されている。しかし、これらの研究は「どれも、ワクチン接種を受ける人と受けない人がそもそも大きく異なるという根本的な限界がありました」と、今回の論文の最終著者である米スタンフォード大学医学部の疫学者・公衆衛生研究者パスカル・ゲルトセッツァー氏は言う。
歴史的に、ワクチン接種を自ら選ぶ人は、より多く医療を受け、健康意識も高い傾向にある。いずれも、認知症の発症リスクの低下につながる要素だ。そのため、帯状疱疹ワクチンが認知症リスクの低下と関連しているのか、それとも別の要因があるのかを判断するのは困難だった。(参考記事:「認知症の45%は予防可能、リスクは何歳からでも下げられる」)
今回、ゲルトセッツァー氏らはほかの要因を排除するため、ある事実を利用した。英国のウェールズでは、1933年9月2日以降に生まれた人は79歳になってから80歳になるまでの1年間、帯状疱疹のワクチン接種を受ける資格があった一方、同1日以前に生まれた人は接種を受ける資格がなかったのだ。
その結果、年齢、生活環境、医療の受けやすさという点でよく似た、ワクチン接種を受けたグループと受けていないグループが自然にできていた。両者を分けた決定的な違いは、生まれたタイミングだけだ。