イギリス首相、駐米大使を解任 エプスティーン元被告へのメール公開で 首相の任命責任問われる
画像提供, EPA
ジョシュア・ネヴェット政治記者、ジョー・パイク政治調査担当編集委員
イギリスのキア・スターマー首相は11日、ピーター・マンデルソン駐米大使を解任した。未成年女性への性的虐待で有罪とされた資産家ジェフリー・エプスティーン元被告(故人)に送った、親しいメールが公開されたため。首相によるマンデルソン氏の大使任命について、与野党から批判が出ている。
スターマー首相は、2008年に性犯罪で起訴されたエプスティーン元被告に対し、マンデルソン卿が応援する内容の電子メールを送っていたことが判明したことを受け、同氏を解任した。
イギリス政府は、マンデルソン氏と元被告との関係の「深さ」を示す今回の新情報について、昨年の大使任命時には把握していなかったと説明している。
首相の報道官は、大使の人選は政府各省によるもので、「首相官邸が関与していたなどという主張は、まったく事実と異なる」と述べた。
また、スターマー氏はその電子メールの内容を「とんでもないもの」だと考えているとも述べた。
スターマー氏は、昨年12月にマンデルソン卿を駐米大使に任命して以来、エプスティーン元被告と同氏の過去の交友関係について繰り返し質問されていた。二人の交友関係は以前から広く知られていた。
BBCの取材によると、マンデルソン卿と元被告との交友関係、そしてその関係が元被告の有罪判決後も続いていた事実は、スターマー首相が駐米大使の人選を行う際の判断材料に含まれていた。
消息筋の一人は、「エプスティーン関連の事柄はおおむね知られており、任命前に詳細に議論された」とBBCに話した。
画像提供, Reuters
最大野党・保守党は、スターマー首相がマンデルソン卿を任命した際、そして10日の首相質疑で同氏を擁護する前に何を知っていたのかを、「早急に明らかにする必要がある」と主張した。
そのうえで、任命に関するすべての文書、審査資料、首相官邸とマンデルソン卿との間の通信記録の公開を求めている。
野党・自由民主党党首のサー・エド・デイヴィーは、首相は「政府が当時把握していたすべての情報を踏まえ、なぜマンデルソン卿を任命したのかを議会で説明する必要がある」と述べた。
与党・労働党内でも不満が広がっており、一部の議員はマンデルソン卿の任命そのものを批判するほか、新情報が明らかになってから解任するまでに時間がかかりすぎたと批判している。
労働党のポーラ・バーカー議員は、「解任の遅れは、政府と政治全体への信頼と信用をさらに損なう結果となった。私たちは、改善する必要がある」と述べた。
マンデルソン卿は11日、大使館職員に宛てた手紙で、自分が米首都ワシントンのイギリス大使館を離れることになった経緯を「深く後悔している」と述べた。
マンデルソン卿は、駐米大使としての職務は自分にとって「もっとも晴れがましい経験だった」とし、「20年前のエプスティーンとの関係と、その被害者たちの悲惨な経験について、最悪な気持ち」を抱き続けていると書いた。
同氏の大使解任は、10日夜に英タブロイド紙サンと、米通信社ブルームバーグが一連の電子メールを公開したことを受けたもの。
報道によると、公開された電子メールの中でマンデルソン卿は、元被告が2008年6月に未成年者買春の罪で有罪を認め禁錮1年6カ月の判決を受ける直前、「早期釈放を求めて闘うべきだ」と助言していた。また、元被告がこの事件で収監される前日には、「あなたは素晴らしい」とたたえていたという。
BBCの取材によると、マンデルソン卿の解任は、11日朝に行われたスターマー首相とイヴェット・クーパー新外相との会談で決定された。
また政府関係者はBBCの取材に対し、10日夜に報道された情報は、マンデルソン卿の任命時には政府として把握していなかったと話した。新情報は、「長らく閉じられていた」電子メールアドレスから得られたものだという。
マンデルソン卿自身も、このアドレスにはアクセスできなかったという。スターマー首相は、10日夜に資料を精査した。
政府関係者は、駐米大使の任命に際して通常の審査手続きが実施されたと主張し続けている。
マンデルソン卿は、駐米大使としておおむね高く評価されていた。特に、トランプ政権との関係構築における手腕が評価されていた。
労働党員として頭角を現した後、1992年に初当選したピーター・マンデルソン下院議員は、トニー・ブレア元首相とゴードン・ブラウン元首相の歴代内閣で複数の閣僚ポストを務めた。2008年に一代貴族の「マンデルソン卿」として叙勲され、上院(貴族院)議員となった。
マンデルソン卿の解任は、トランプ大統領がイギリスを国賓として訪問する数日前という、微妙なタイミングで行われた。
マンデルソン卿は重要な役割を担う予定だったが、イギリスの外交官ジェイムズ・ロスコー代理大使が暫定的に駐米大使を務め、訪問を采配することになった。
ホワイトハウスの関係者はBBCに対し、トランプ大統領のイギリス訪問は来週、予定通り実施されると確認した。トランプ氏の訪英日程に、マンデルソン卿の解任に伴う変更はない。ホワイトハウスは、大使解任についてコメントしていない。
マンデルソン卿とエプスティーン元被告との交友関係が今回あらためて注目されたのは、サンやブルームバーグの報道に先立つ9日、元被告に関する複数の文書をアメリカの連邦議会議員らが公開したことがきっかけだった。その中に、マンデルソン卿がエプスティーン元被告を「一番のともだち」と呼んだ手紙が含まれていた。
2003年に元被告の50歳の誕生日を祝うために贈られたとされる「バースデー・ブック」には、友人たちからのメッセージ、カード、写真が含まれており、その中にはトランプ大統領の署名に似た筆跡のカードも含まれていた。トランプ氏はこれは自分が書いたものではないと主張している。
トランプ氏とエプスティーン元被告は長年、交友関係にあった。だが、フロリダにあるトランプ氏のリゾート施設マール・ア・ラーゴから元被告が従業員を引き抜いたことで、2000年代初めに両者は不仲になったと、トランプ氏は説明している。
エプスティーン元被告は2008年、未成年者に対する売春の勧誘で有罪とされ、性犯罪者として登録された。2019年7月に未成年の性的人身取引の罪で起訴され、その翌月、裁判を待つ間にニューヨークの拘置所内で死亡した。