【コラム】米中軍事衝突、5つの黄信号が点滅-NATO元司令官

米国と中国が互いに関税措置を強化し、世界は「新たな冷戦」を巡る議論をすでに飛び越え、リアルな貿易戦争の緒戦に入った。

  確かに、トランプ米大統領が繰り返し約束してきたように米中の「大きな、美しい」合意で終わる可能性もある。一方、世界1、2位の経済大国が対立を深めれば長く痛みを伴うデカップリング(切り離し)につながり得る。中国は米国に対抗する準備を整えているように見えるが、いずれどうなるか分かるだろう。

  だが、私がいつも受ける質問は貿易戦争についてではない。「中国との熱戦に突入する可能性はあるのか」という問いだ。私の短い答えは、もちろんそうならないことを願っているが、一段と懸念を深めているというものだ。

  私は海軍キャリアの大半を太平洋で過ごしたが、中国との実際の武力衝突にこれほど近づいたことはなかったと感じている。

  米中の武力衝突は本当に迫っているのだろうか。全面戦争を回避するため注目すべき最も重要な指標は何か。太平洋全体を眺めると、5つのシグナルが黄色に点滅している。赤に変わる可能性に備えて注視し続ける必要がある。

サイバー攻撃

  中国は、強力かつ攻撃的なテクノロジー能力を利用して米国の重要インフラを標的とした攻撃を強化している。最もよく知られているプログラムは「ボルト・タイフーン」だ。

  このプログラムは、米国の国家安全保障当局によってオープンに議論され、昨年12月に米中当局の非公開会合でも取り上げられたと報道された。攻撃の標的は「港湾、水道施設、空港」などインフラ施設だと米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は伝えている。

  別の攻撃プログラム「ソルト・タイフーン」も中国発だ。米国の通信網を標的としていると報じられている。中国は高度なサイバー戦争を実施する能力だけでなく、その意思も示している。サイバー攻撃の規模と影響が拡大すれば、より広範な戦争のリスクも相応に高まる。

台湾ADIZへの侵入

  中国人民解放軍の軍用機による台湾の防空識別圏(ADIZ)への侵入レベルを監視することは、中国が自国の「省」と見なす台湾の掌握をどの程度急いでいるのかを測る重要な指標となる。

  昨年は3000件を超えるこうした侵入があり、2023年のほぼ倍に増えた。ハワイを拠点とする米インド太平洋軍のパパロ司令官はこうした中国軍の飛行について毎日報告を受けている。われわれも注意を払うべきだ。

南シナ海

  中国は米本土の約半分に相当する南シナ海のほぼ全域について領有権を主張している。明代の武将で15世紀前半に活躍した鄭和の航海などをその根拠としている。

  だが、中国の主張はオランダのハーグにある常設仲裁裁判所で審理され、却下されている。それでも中国は自国の海軍基地として少なくとも7つの人工島の建設などを強行。これら人工島は「砂の万里の長城」と呼ばれ、沿岸国、特に米国の同盟国であるフィリピンに対する挑発行為に利用されている。

  フィリピンのマルコス大統領は、ドゥテルテ前大統領よりも米軍との協力を強化し、中国大陸に近いフィリピンの島々にある基地へのアクセスを米軍に認めている。従って、南シナ海中心部における中国の海軍と海警局の活動レベル、特に近隣諸国を脅かすような行動は潜在的な衝突を強く示す指標となる。

中国軍艦の建造

  中国は年20-30隻のペースで軍艦を建造し、現在の艦隊規模はすでに米国を上回っている。中国の360隻余りに対し米国は300隻程度だ。軍艦400隻超の保有を目指す中国は、米国との戦争は主に海上で行われると想定している。中国の本格的な戦闘意図を測る指標として、造船所の製造水準に注目すべきだ。

関税と貿易紛争

  最も危険な指標は米中両国が課す関税のレベルと範囲で、すでに悪化している。日本への重要資源、特に石油と鉄鋼、ゴムの供給を断つ貿易制裁がきっかけで始まった太平洋戦争を思い出してほしい。歴史家の多くは1941年12月の真珠湾攻撃は、10年に及ぶ経済紛争と挑発的な措置がピークに達したためだと指摘している。

  中国は今、レアアース(希土類)や戦略的に重要な鉱物の供給を遮断し始めている。これらの鉱物について、中国は採掘において世界的な支配権を事実上握っている。精製セクターを牛耳っていることは、さらに重要だ。

  米国の関税は中国経済に直ちに重大な打撃を与えるだろうが、真の懸念は中国の対応だ。これが、衝突が迫っているかを見極める5番目の重要指標となるだろう。

  私は数年前、「2034 米中戦争」という小説を共同執筆した。米国と中国が破壊的な紛争に陥る可能性を描いたが、予言的なフィクションではない。警告の物語だ。

  米中戦争は、南シナ海で数隻の船の間で起きた小競り合いが急速にエスカレートするところから始まる。私が執筆した当時、第1次世界大戦開戦直前の光景が脳裏に浮かんでいた。バルカン半島でオーストリア・ハンガリー帝国の皇太子夫妻を殺害した弾丸が火種となり、欧州全域が戦火に巻き込まれた。

  歴史は小さなきっかけで大きく変わる。われわれはサイバー攻撃と台湾への侵入、南シナ海、中国の軍艦建造、そしてエスカレートする貿易戦争という点滅する5つの黄信号に注意を払う必要がある。これらのシグナルが赤に変われば、世界中の明かりが消える可能性がある。

(ジェームズ・スタブリディス氏は元北大西洋条約機構=NATO=欧州連合軍最高司令官で、米タフツ大学フレッチャー法律外交大学院の名誉学部長です。エーオンとフォーティネット、アンクラコンサルティンググループの取締役で、サイバーセキュリティー分野に投資するシールドキャピタルの顧問を務めています)

原題:Five Signs That the US and China Will Go to War: James Stavridis (抜粋)

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