西村屋に復讐を果たす…「黒蔦重」に視聴者戦慄【べらぼう】
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。耕書堂を訪れた地本問屋の主人・西村屋(西村まさ彦)(C)NHK
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横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。5月25日の第20回「寝惚けて候」では、重三郎が自分の本を吉原以外で売り出すために、悪徳商法スレスレの手段に出ることに。そのあとの鶴屋喜右衛門との対決にも、SNSではハラハラするようなコメントが並んだ。
重三郎が出した『見徳一炊夢』を大田南畝(桐谷健太)が高く評価したことで、ほかの本屋でも蔦屋の本を仕入れたがる動きが見えてきた。重三郎は、市中の本屋で細見を出している西村屋与八(西村まさ彦)が作る錦絵『雛形若菜』と、似たような本を安価で作ろうとする。西村屋がその動きに気を取られている間に、西村屋の改・小泉忠五郎(芹澤興人)に古い情報を流すことで、細見の発売をはばむことに成功した。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。地本問屋の主人・岩戸屋から市中の状況を伺う重三郎。写真左から、絵師・喜多川歌麿(染谷将太)、重三郎(横浜流星)、岩戸屋(中井和哉)(C)NHK市中の本屋は「細見は蔦屋で買うしかない」というのを理由に、ほかの青本も大量に仕入れるように。しかし鶴屋喜右衛門(風間俊介)は「蔦屋さんが作る本など、なに一つ欲しくはない」と、変わらず拒否しつづける。一方、南畝に誘われて狂歌の会に出席した重三郎は、狂歌のおもしろさと狂歌師たちが生み出す愉快な空気に可能性を感じる。そこで通常は「読み捨て」とされる狂歌の本を出すと、喜多川歌麿(染谷将太)に宣言するのだった。
本作りに関してはまったくの素人のところから、持ち前の発想力と人心掌握術で「本屋大賞」の大賞のようなものを獲得するまでに急成長した重三郎。しかし、確実に売れる本を持っているのに、自社の書店「蔦屋」でしか販売できないというのが現状だ。この第20回では、重三郎がその状況を打開するために本気で動き出したわけだけど、彼のやっていることは悪徳商人と紙一重という、思いがけず「黒蔦重」が暗躍する回となった。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。絵師・喜多川歌麿(写真左、染谷将太)に、別の絵師の画風を真似られるか尋ねる重三郎(写真右、横浜流星)(C)NHK鶴屋喜右衛門が束ねる地本問屋の仲間の一部が、本音では自分と商売をしたがっていることを知った重三郎。彼らが蔦屋の本を買うための「言い訳」を作れるよう、市中で唯一細見を作っている、西村屋を潰すという手段に出た。まずは歌麿を使って、西村屋の看板商品の錦絵『雛形若菜』のジェネリック本『雛形若葉』を作りはじめたけど、『雛形若菜』はそもそも与八がほかの地本問屋たちと組んで、重三郎をだまして作成した因縁の本だった。
そのためSNSでは「作中ではもう何年も前のことだろうに、しっかり覚えてるんだな雛形若菜の件。さわやかに見えてなかなか恨み深い蔦重」「『汚ねえやり方も有りだって教えてくれたのは、西村屋さんですから』それな、確かに!!」「蔦重の面の皮が大分ぶ厚くなってきてるけど、やられた事をやり返してるのはそうなんだよね」「戦のない世、お江戸の町人の戦の仕方きたね〜」と、重三郎に同調するような言葉が多く見られた。
しかしこの『雛形若葉』は、実は囮(おとり)に過ぎなかった。重三郎の真の目的は、与八が『雛形若菜』に気を取られて細見のチェックを怠るのを見越して、改の忠五郎に使えない情報をばらまく→細見の発売中止→蔦屋の細見しか売るものがなくなる・・・という、遠回しに仕掛けた罠だったのだ。これ、重三郎を主人公目線から見ているからピカレスク的な痛快感があるけど、地本問屋側からすれば「これだから吉原ものは・・・」と怒り心頭だろう。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。地本問屋の集まりで、詰め寄られる地本問屋の主人・鶴屋(写真左、風間俊介)(C)NHK実際SNSも「おおおおお! 組合の切り崩し成功したあああ!」「西村屋さん、錦絵をメインにやりたくて、細見を軽く見ていたからだよね」「鶴屋さんが細見を蔑ろにするなって言ったのに」など快哉を叫ぶ者もいれば、「敵側の内部崩壊・コピー贋作・吉原女衒衆の謀略。大河主人公にしてこのアコギっぷり、強い」「裏切りの理由さえ用意してやれば陣営は勝手に内部崩壊する・・・! 主人公の姿か? これが」「よく考えたら最初からわりと悪い人でした。忘れるとこだった」など、蔦重のグレーな手腕に震える声も続出した。
この陽動作戦が大当たりして、市中の本屋が大勢詰めかけるようになった蔦屋。そして重三郎は挨拶半分煽り半分で、鶴屋喜右衛門の元へ。おそらくは重三郎が出版人として良い仕事をしていることを自覚しながらも、まだ「蔦屋の本なんかいらん!」と言い張る鶴屋さん。以前「吉原の卑しい人間は仲間にしたくないと言う人がいまして・・・」と言って、吉原の主人たちに階段から落とされたけど、やはり重三郎と一番商売がしたくないのは彼自身だったと、改めて知ることになった。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。市中の地本問屋で賑わう耕書堂で、地本問屋の主人・岩戸屋(写真右、中井和哉)から本の注文を受ける重三郎(写真左、横浜流星)(C)NHKこの重三郎 VS 喜右衛門のタイマンに対しては「やだこの2人ニッコニコですっげえおっかねえ・・・」「キツネとタヌキの化かし合いですか? お互い笑顔で目の奥笑ってないでしょう」「蔦重のアウトよりの攻撃。鶴屋の冷静さ。おもしれぇ」「鶴屋さん、そこまで意地になる理由あったっけ? と思うも、階段から落とされたの思い出しました(笑)最後まで戦い抜いてほしい」と、この名勝負を怖がりつつ楽しむようなコメントが相次いだ。
こうして流通が一気にスムーズになった蔦屋だけど、そうなるとおもしろい本を作れば作るだけ、これまで以上にバンバン売れていくことになるわけで。資本の安定は、思い切ったアイディアの実現にかなり重要な要素。ということで、昨今の狂歌ブームに乗って、当時は書物にすることなど考えられなかった狂歌の本を作ることに。このアイディアを、朝帰りを待っていた歌麿に抱きつきながら語る、酔っ払いモード重三郎がめちゃくちゃいい顔をしていた。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。狂歌の会の後の酒席で盛り上がる、勘定組頭・土山宗次郎(写真左、栁俊太郎)と狂歌師・大田南畝(写真右、桐谷健太)(C)NHKこのシーンはSNSでも「歌麿は朝まで仕事してるのに蔦重はベロベロで朝帰りかよ(仕事と言えば仕事だけど)」「蔦重酔っ払い朝帰り旦那で笑う。歌麿が妻ポジションすぎん??」「蔦重の帰宅が嬉しそう、歌麿」「蔦重飲んじゃうと面倒になるタイプだった」「酔いながらビジネスのことも考えてるのさすが」「酔っぱらった蔦重に押し倒された歌麿、すっげー幸せそうな顔で笑ってんのよ・・・良かったね」などの温かい言葉が並んでいた。
かつて西村屋にアイディアを横取りされた恨みを持つ重三郎が、巧妙な罠を仕掛けて西村屋の商売を崩し、その波に乗ってみずからの勢力を市中に一気に拡大させていく・・・という、なんだか『半沢直樹』とか『地面師たち』みたいな、シビアなビジネスドラマを見ているような回であり、現時点で重三郎最大の敵となっている鶴屋喜右衛門の手ごわさを、再確認する機会にもなった。
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第20回より。地本問屋の集まりで、耕書堂との取り引きを認める地本問屋の主人・鶴屋(風間俊介)(C)NHK史実ではこの2人、実は一緒に旅行に行くような仲だったらしいけど、今のところその気配は一ミリも感じられない。『べらぼう』では終生の敵同士設定になるのか、それともいつか驚くようなデレを見せるのか? この関係性がどのように変化するのかも、今後の楽しみの一つとなってきた。
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大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。6月1日の第21回「蝦夷桜上野屁音」では、鶴屋喜右衛門が思わぬヒット作を生み出したことで重三郎があせりを見せる姿と、老中・田沼意次(渡辺謙)が蝦夷(北海道)上知のために動き出すところが描かれる。
文/吉永美和子