あと2.1℃で、絶滅コース。グリーンランドの「氷床融解」が止まらなくなる可能性
あと2.1度。
気候に関する最新の分析結果によると、氷に覆われたグリーンランドの大部分が、そう遠くない未来にドードー(17世紀頃までモーリシャス島に生息していた飛べない鳥)みたいな運命をたどるかもしれません。つまり、絶滅コースってことです。
グリーンランドの氷床融解が止まらなくなる可能性
The Cryosphereにされた研究結果によると、地球の気温がたった数度上昇するだけで、世界で2番目に大きいグリーンランドの氷床が「死のスパイラル」にはまって、最終的には完全になくなっちゃう可能性があるそうです。
地球には2つの巨大な氷床があります。ひとつは南極、もうひとつはグリーンランド。アメリカ国立雪氷データセンターによると、この2つの氷床には地球上の淡水の68%以上が蓄えられているそうです。
グリーンランドの氷床面積は約170万平方キロにおよび、島全体の約80%を覆っています。氷の厚さは場所によっては3kmにもなるレベル。
そして、もしこの氷が全部解けちゃうと、海面が7.4mも上昇するとのこと。数千年かけて上昇するとはいえ、かなりヤバいです。
研究チームは、気候モデルを使ってさまざまな気候条件がグリーンランドの氷床にどんな影響を与えるかをシミュレーションしました。要するに、異なる気候シナリオを適用して、「氷がどのくらいの速さで解けるのか」を検証したわけです。
氷床の表面質量収支のティッピングポイント
その結果、氷床が崩壊し始めるティッピングポイント(ある現象が不可逆になる転換点)は、グリーンランドの氷床表面質量収支(Surface Mass Balance: SMB)が年間+2,300億トンまで落ち込んだときということが判明しました。
産業革命前の値が+5,350億トンなので、SMBが約60%減少したらグリーンランドの氷床がかなりヤバい状況になると考えられます。
米海洋大気庁(NOAA)によると、2023年時点のSMBが+3750億トンなので、産業革命前比で1,600億トン減、割合としては30%減少している計算になります。値としてはちょうど中間点あたりにいますね。
表面質量収支が+3,750億トンと聞くと、「氷床成長してんじゃん」と思うかもですが、海に流れ込む氷(Ice Discharge Mass: IDM)と氷床の底で解けて流出する氷の合計を、SMBから引く必要があります。2023年のIDMと氷床の底で解けた氷の合計が5,310億トンなので、グリーンランドの氷は1年で1,560億トン減少したことになります。
氷床表面質量収支は、1年あたりで補給量(降雪や再凍結)から流出量(融解や蒸発)を引いた値です。あくまでも氷床表面の氷が増えたか減ったかを表します。SMBが産業革命前よりも60%減少というのは、その年単独では氷床は縮小していないかもしれないものの、長期的な成長ペースが鈍化していることを意味します。
SMBの長期にわたる継続的な減少は、表面と海への流出で失う氷を、雪や再凍結で補充しきれなくなっていることを示唆します。つまり、どんどん氷床がなくなっていく一方になるというわけです。
そして、今がまさにそういう状況で、このままSMBが年間+2,300億トンまで減って、不可逆的な融解プロセスが加速するティッピングポイントを迎えると、氷床が回復不能モードに突入して、8,000年から4万年かけて完全に消滅する可能性があるそうです。
気温のティッピングポイントは、産業革命前比+3.4度!
「いやいや、そんなの理論上の話でしょ?」と思うかもしれません。研究チームによると、この転換点が訪れるのは、地球の平均気温が産業革命前と比べて3.4度上昇したときだそうです。
去年は産業革命前比で1.6度上昇していましたし、長期的な傾向としては現時点で1.3度以上上昇しているので、グリーンランドの氷床終了のお知らせまであと2.1度という計算になりますね。
また、UNEP(国連環境計画)のEmissions Gap Report 2024によると、現在の排出量削減目標をすべての国が達成しても、世界平均気温は2100年までに産業革命の水準から2.6~3.1度上昇するとされているので、最悪の場合、来世紀初めにはティッピングポイントを迎えてしまいそうです。
今回の研究結果は、昨年Natureに掲載された別の研究の続報ともいえるものです。その研究では、1985年から2022年の間にグリーンランドの氷床が崩壊するスピードがどんどん加速していたことが明らかになりました。
さらに、過去の研究ではグリーンランドの質量損失が最大20%も過小評価されていたことも判明。つまり、これまで思っていたより氷がガンガン解けていたという話です。
研究チームは次のように述べています。
(報告された質量損失は)地球全体の海面上昇に直接的な影響をおよぼすほどではありませんが、海洋循環や地球全体の熱エネルギー分布に影響を与えるには十分です。
グリーンランドといえば…
近頃、グリーンランドが話題になるのは気候変動だけじゃありません。トランプ大統領が就任前から「グリーンランドをデンマークから買いたい」と何度も発言したのをきっかけによくわからない盛り上がりを見せました。
ちなみに、グリーンランドは約600年間デンマークの一部でしたが、1979年に自治権を獲得。今では独自の政府を持つデンマーク領の自治地域になっています。
氷床が完全に消えるまでには、まだ何千年、何万年とかかるかもしれません。それに、今回の研究はシミュレーションに基づいたものなので、今すぐに対策を講じればまだ間に合う可能性はあります。
この研究が示しているのは、「このままのペースで温暖化が進めばこうなっちゃうよ」という未来のシナリオです。
グリーンランドを買おうとしている人も、ただ地球に住んでいるだけの人も、この結果を深刻に受け止めたほうがいいでしょうね。
Reference: NOAA, Copernicus, UNEP