【テストマッチをアナリストの視点で分析する/日本代表×イタリア代表】パーフェクトな勝利を収めた初戦。

初めてのテストマッチでも積極的に、しかし落ち着いてチームを動かしたSO伊藤龍之介。(撮影/松本かおり)

 歓喜の夜だ。

 7月4日に秩父宮ラグビー場でおこなわれた日本代表とイタリア代表の試合は、27-10で日本代表が勝利を収めた。

 ネーションズチャンピオンシップの初戦という前提もあるが、日本代表の今シーズンのパフォーマンスを見定めるという観点のもとで、世界ランキングで近い相手との試合というのはちょうどいい機会だった。

 日本代表は2018年6月16日の試合以降の直近3回の対決ではイタリア代表に敗れており、近年実力を蓄えてきたイタリア代表の躍進のスピードについていくことができていなかった。

 ただ、今回の試合では良い内容で勝利を収めた。勝利の要因、次戦に向けてのポイントなどを振り返っていきたい。

【アタック様相】 アタックの中心になっているのは10番の伊藤龍之介と、12番の廣瀬雄也だ。前週におこなわれたJAPAN XVの試合では12番には李智寿が入っていたが、廣瀬はよりボール運びのうちクリエイト、つまりハンドリングスキルにおいて高い精度でボールを動かすことができる選手だ。伊藤からのオプションがほとんどだった前週に比べて、2回のパスで繋がる位置に廣瀬が入っていたのは大きい。伊藤からの選択肢と廣瀬からの選択肢があることで、樹形図のようにオプションが広がっていた。

 また、廣瀬がいることによって精度の高いキックを蹴ることができる選手が複数いたことにも意味があった。伊藤だけがキックを担っている状況では、10番の位置や状況にキックの質が依存する。しかし、伊藤以外のキックオプションとして廣瀬が入ることによって、ボールの展開で相手のディフェンスを動かしてからキックを蹴ることもできる。

 アタックのシステムはかなり整備されていて、表と裏の選択肢を使う「階層構造」を使うシーンが多く見られていた。相手のディフェンスラインのうち、FWの選手とBKの選手が並んでいる間のスペース(私はボーダーと呼んでいる)に対して裏のラインの選手が仕掛けることで生まれたのが、前半に見られた松永拓朗のトライへと繋がったプレーだ。表の選択肢が囮(おとり)となって相手FWの足を止め、FWとBKの間に生まれたギャップに対して廣瀬が仕掛けることで、大きく前に出ていた。

 アタックの展開に貢献していた要素として、ラックへのサポートが安定していたことも大きい。日本代表は前述したポッドの形として、幅が広い状態と幅が狭い状態を使い分けていた。特に幅が狭い形において、サポートの選手はキャリアーが倒れ込む前から接点に参加し、後ろからサポートした状態でラックを作った。それによって、相手がプレッシャーをかける過程自体を許さなかった。

 サポートのタイミングが少しズレた時も、サポートに入った選手は質の高い接点でスティールを狙っている選手を越え切っており、相手を大きく押し返すことによってSHのパスアウトを容易にしたり、相手の他のディフェンスがディフェンスラインを準備する過程で大きくセットを遅らせることもできていた。

CTB廣瀬雄也は、自分の周囲の選手を助ける働きをした。(撮影/松本かおり)

 アタック面の要素として、得点の流れについても言及したい。

 まず、間違いなく松永のゴールキック成功率が試合での勝利に影響していた。極端な話ではあるが、5回のキック機会の全てが外れてしまっていた場合、スコアは15点のみになっていた。得点の時間帯を加味すると、終盤の30分ほどで5点差であれば、イタリア代表側にも戦略の取り方があり、プレーの余裕も生まれていたに違いない。

 トライ効率自体はもう少し精度を上げていきたいところだ。敵陣22メートル内への侵入回数は前半に2回、後半に7回の計9回となっている。前半は2回の侵入回数に対して2つのトライをとっており、効率自体は100パーセントだった(前半にペナルティゴールもあったが、ここでは割愛する)。

 しかし、後半は7回の侵入回数に対して1つのトライのみだった。相手のペナルティによって連続したポゼッションになったシーンもあったが、それを加味してもトライ効率自体は高くない。ペナルティゴールを加算しても、9回のスコア機会に対してスコアにつながったのは2回と、28パーセントのスコア効率に収まっている。

 また、さまざまな要因を検討する必要はあるが、80分のうち序盤からの50分で24得点、終盤にかけての30分で3得点という得点分布をしている。50分をすぎた頃からリザーブの選手の交代が始まっていること、シンプルな疲労の影響、得点が開いたことによるキックオプションの増加などが因子となるが、この部分に関しては慎重に追っていきたい。

【キック様相】 キックの運用は、今シーズンの目指す方向性を示すような形が多く見られた。序盤から終盤にかけて一貫して早い段階でキックを蹴り込むことでテリトリーを確保しており、伊藤、廣瀬、ディラン・ライリーが長短キックを織り交ぜながら裏のスペースを狙っていた。

 また、SHからのキックのスタイルも安定していた。齊藤直人は終盤に自身が交代するまで精度の高いキックを見せており、特に自陣からの脱出の精度は高かった。

 自陣からのポゼッションでは、選択肢としては大きく展開したり高い軌道のボックスキックを蹴って再獲得を狙ったりといったものがある。しかし、自陣からボールを動かすということは、トレードオフとしてミスが起きた時のダメージが大きい。自陣に入られることがなければ、物理的に相手はトライを取ることができない。自陣でのミスを減らしつつ、中盤での攻防に繋げていた。

 日本代表がテーマにしていると思われる、相手と競り合う形のいわゆるコンテストキックの確保率に関しては、望ましい割合で確保することができていた。確認した限りでは7回のコンテストキックを受ける機会があり、そのうちの3回は安定した確保とカウントしてもいいだろう。割合としては約43パーセントと、エディ・ジョーンズヘッドコーチが言及する水準は超えている。

 しかし、相手に3回再獲得されていたり、日本代表が蹴り込んだキックに対する相手の確保率は50パーセントと、戦略的に効果を発揮するにはもう少し数値を改善する必要があるかもしれない。

ディフェンスで圧力をかけ続けた日本代表。写真はWTB石田吉平のタックル。(撮影/松本かおり)

【ディフェンス様相】 ディフェンスは、一貫性のある良い精度で完結することができた。序盤にあっさりとトライを取られたものの、そこからは大崩れすることなく、ハンドリング精度が著しく悪かったイタリア代表のミスの影響もあり、最後まで相手のアタックを止めることができていた。相手のポッドを使った重みのあるアタックも、FWの選手を中心に前進を止めることができていた。

 特にいい形を見せたのが、相手の階層構造に対するディフェンスだ。イタリア代表は近年優れた階層的な構造のアタックが多い。階層的なアタックは構造的に数的優位や位置的優位を作る過程であり、対策を取らなければディフェンス側は、個々のスキルに依存した脆弱性を繰り返してしまうことにつながる可能性もある。

 日本代表は、このアタックの形に対して、裏のオプションに対して圧力をかけるという動きを見せていた。イタリア代表も熱心に裏の構造を使ってアタックを実行していたが、日本代表がしっかりとその選択肢にプレッシャーをかけることによって、裏でボールを受ける選手の判断の時間を奪い、イタリア代表をミスに追い込んでいた。

 他方で、裏のオプションを見せながら浅いフラットな位置の選手へのパスを使われた場合は、一部のシーンで脆さを見せていた。イタリア代表はラックを中心にBKの選手が大きく回り込むことで数的優位を作るシステムなので、後発的に数的不利になる日本代表としては、安易に内側のアタッカーに詰めることができない。少しでもディフェンス間のスペースが広がったなら、アングルをつけた浅いオプションに大きくブレイクされていた。

【マッチスタッツ】

 データとしてマッチスタッツを確認していこう。

 ポゼッションとテリトリーはほぼ同程度の数値を示している。日本代表はその状況下でも相手より多くの回数敵陣深くに侵入していた。

 このデータに関してはさまざまな見方をすることができる。同程度のポゼッションでキック回数を重ねて敵陣に相手を押し込み、相手を難しいキックに誘導することで、敵陣で試合を続ける時間が多かった。また、相手のペナルティに乗じて敵陣深いエリアでのラインアウトに繋げるシーンもあった。

 アタックスタッツとしてのラインブレイクを見ると、ラインブレイクは3回と、控えめな数値となっている。つまり、9回の侵入回数の中で中盤から前に出た回数自体は、そこまで多くない。ラインブレイクは勝利の必須条件ではないが、中盤からの攻撃手段があるに越したことはない。

 イタリア代表側のデータを確認すると、苦戦の要因となったのは間違いなくターンオーバーロストの相手との差分だろう。日本代表が7回のみという優れた回数に収まったのに対して、イタリア代表は26回という数値になっている。

 一般的な試合では、ターンオーバーロストは大体12〜15回ほどの回数が平均値だ。それを考えると、26回という回数はあまりにも多い。ポゼッション率が日本代表とそこまで変わらないことを加味すると、日本代表の3倍以上の頻度でポゼッションがミスで終わっていることになる。

 極端な話、どれだけミスが起きてもトライが取り切れるのであれば問題はない。しかし、敵陣侵入回数は5回に留まり、トライも1つのみだった。この質では、勝利には届かない。

【プレイングネットワーク】

 プレイングネットワークについても考えていこう。

 先週末のJAPAN XVの試合と似ている点も多い。特に近い傾向を示しているのは、ラックからプレイメーカーである10番の伊藤に対してボールが動く割合だ。JAPAN XVの試合でも多くのボールが伊藤にわたり、今回の試合もその傾向に従うこととなった。

 一部のボールは他のBKの選手にも動いているが、回数としてはどのコースも一回きりだ。きっちりと決まった形というよりも、流動的な判断によるものだった可能性もある。昨年の日本代表のアタックでは12番と13番がレシーバーになることが5〜7回ほど見られていたと考えると、大きな転換だと言える。

 一方で、ラックからFWの集団である9シェイプにボールが渡った後、裏に立つBKの選手、特に伊藤に対してボールがわたった頻度は、今回の試合で一定の減少を見せている。 前回の試合では9シェイプにわたった状況から約19パーセントの頻度で裏の選手に動かしていたが、今回の試合では約4パーセントほどに落ち着いた。

 もちろんゴール前でのアタックが9シェイプからパスをせずにキャリーをベースにしていたということも影響しているが、先週末のマオリ・オールブラックス(以下MAB)戦での相手の動きが影響している可能性がある。

 MAB戦で、9シェイプの裏に立った時の伊藤は、相手ディフェンスからの激しいプレッシャーを受けた。9シェイプを経由することで伊藤まで到達するのに時間がかかり、それに対してMABはラック近くの選手が一直線に伊藤にプレッシャーに来ていた。今回のちょっとした方針の変更は、その影響が予想される。

 ネーションズチャンピオンシップの最初の試合としては、最大限良い結果になったと言えるだろう。日本代表は直近の対決で敗戦が続いており、日本代表の直近の試合(昨秋の欧州ツアー)ではランキングが近いウェールズやジョージアといったチームに苦戦していた。それでも、この試合の日本代表はイタリア代表を圧倒した。

 一方で、この試合のパフォーマンスを最低限平均値にしていく過程が強化というものだ。今後の試合結果を追いながら、今シーズンの日本代表のパフォーマンスの幅を確認していくべきだろう。

 ただ、この勝利は喜ぶべきものだ。来週までの時間は余韻に浸ってもいいだろう。

【プロフィール】今本貴士 / いまもと・たかし

1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。

© 2026 Just RUGBY 「Just RUGBY」に掲載の記事・写真・カット等の転載を禁じます。すべての著作権はJust RUGBY編集部(運営元:株式会社青南商事)と資料提供者に帰属します。

OFFICIAL SNS

関連記事: