実験マウス用VRゴーグル登場で脳機能の研究が新たなステージへ
仮面ライダーみたい(あれはバッタだけど)。
近年、マウスを使った脳の研究がますます盛んです。そんな中、実験マウスたちにスマートな装備が加わりました。コーネル大学の研究チームが、なんとマウス専用のVRゴーグルを開発しちゃったんです。この「MouseGoggles(マウスゴーグル)」、脳機能の研究に新たな可能性をもたらしてくれそうです。
眼球や瞳孔の動きを追跡できるマウス専用VRゴーグル
「え、マウス用のVRゴーグル?」と思われるかもしれませんが、このアイデアには納得の理由があります。
研究チームは、スマートウォッチのディスプレイと極小レンズを組み合わせて、マウスの小さな頭部にぴったりフィットする装置をつくりました。マウスゴーグルは、マウスの視野を幅広くカバーするだけでなく、眼球運動や瞳孔の変化まで追跡できる優れもの。このVRマウスゴーグルを使った研究結果は、科学誌Nature Methodsに掲載されています。オープンアクセスなので、誰でも読むことができます。
Image: Chang et al. 2024 / Nature Methodsマウスは球状のトレッドミルの上に立って、頭部を固定した状態でゴーグルを覗き込みます。一見シンプルな設定ですが、ここに研究者たちの工夫が詰まっていて、視覚野や海馬の神経活動を蛍光イメージングで観察できるため、マウスの空間認識や記憶機能の仕組みを詳しく調べることができるといいます。
実験で特に興味深かったのは、迫り来る捕食者を模した映像に対するマウスの反応だったのだとか。従来の大型スクリーンでは反応を示さなかったらしいのですが、ゴーグルを通して同じ映像を見ると、ほぼすべてのマウスがびっくりしてジャンプしたそうです。さすがバーチャルリアリティ。
おもしろい裏話として、研究チームは当初、瞳孔の動きまで記録する予定はなかったそうです。ところが、論文を投稿した際に匿名の査読者から「マウスの瞳孔の変化を記録するカメラを追加するように」という提案(かなりのむちゃ振りだったそう)があったことで機能を追加。そのおかげで、さらに重要なデータを得られたのだとか。
アルツハイマーの研究への応用に期待
研究チームはこれまで、アルツハイマー病を患っているマウスの脳の血流が悪くなる現象を研究してきました。血流をよくすればマウスの記憶力が改善することを発見したものの、さらに詳しく調べるためには新しい方法が必要だったといいます。
先述したとおり、今回の方法を使うことで、マウスがどのように空間を認識したり、記憶したりするのか、脳の活動をより詳しく調べられるようになるため、アルツハイマーのような病気の研究にも役立つと期待されています。
お次は「五感VR」
研究チームは次のステップとして、より大きなげっ歯類用の携帯可能なVRゴーグルを開発する計画を練っているとのこと。さらに、味覚や嗅覚も含めた「五感VR」の開発も視野に入れているそうですよ。
五感VRについて、研究を率いたChris Schaffer氏はこう語ります。
マウスに対する五感VRの活用は、実験において目指すべき方向性のひとつだと考えています。この方法では、マウスが複雑な行動をとるメカニズムの理解を目指します。具体的には、感覚情報を統合し、休息や食事の必要性といった内的な動機付けの状態と機会を比較し、その上でどのように行動するかを決定するプロセスの理解を深めるつもりです。
ということは、鼻と耳と口までフル装備のマウスがトレッドミルの上を駆ける姿を見られるわけですね。
Source: Cornell University
Reference: Chang et al. 2024 / Nature Methods