カンボジアで捨てられ 詐欺に手を染めた「闇バイト」の60日
1年前、カンボジアにある日本大使館に1人の男性が駆け込んだ。「パスポートを取り上げられた。日本に帰りたい」
46歳。振り込め詐欺に手を染めた末に放り出された「かけ子」だった。
SNSや求人広告の「高収入」「即日即金」に釣られ、海外で特殊詐欺に関わる者が後を絶たない。
何とか帰国できたが、男性は捕まった。
裁判や捜査関係者への取材からは、安易な気持ちにつけ込まれた「闇バイト」の実態が浮かぶ。【長屋美乃里】
狙われた72歳 2000万円失い
だましたのは、母親と同じ年ごろの女性だった。埼玉県に住む72歳(当時)で、2000万円余りの蓄えを持っていた。2025年の春までは。
3月末、女性の電話が鳴る。「カスタマーセンターの者ですが」。それから18日間、彼女は連日の電話に翻弄(ほんろう)された。
「あなた名義の携帯電話が不正に契約された可能性があります」
「資金洗浄事件の捜査で関与を調べています」
相手は、ある時から「山梨県警」に変わった。うろたえた女性は、言われるがまま郵便局に出向いた。指定された口座に金を送り、貯金のほぼ全額を失った。
2050万円。老後と死後のための蓄えだった。
「闇バイトだと知っていた」
大使館に駆け込んだ男性は、電話主の一人だった。
高校卒業後、飲食店などいくつものアルバイトを転々とし、どれも続かない生活を送ってきた。「それは自分の悪い癖」。行き着いたのが、人をだまして金を得る仕事だ。
後に詐欺罪に問われ、法廷に立った。上ずったような早口。動機を問われ、「金が欲しかった」と口にした。
その理由も犯罪だった。
25年3月、別の事件で裁判所から罰金20万円を命じられた。消費者金融には既に借金があった。金の工面に走った男性が知人に連絡すると「カンボジアで電話をかける仕事がある」と言われた。ニュースで知っていた海外での闇バイトだと思った。
「悪い仕事だとは、分かっていた」。でも金を得る方が優先だった。パスポートを取った。SNSで連絡を取っていた何者かから35万円が振り込まれると、罰金を払った。
こうして男性は犯罪へと突き進む。
3月下旬、東京・多摩地区の家を出た。同居の母親には「石川県に働きに行く」とうそをついた。何者かに指示された通り、罰金を払った残りで大量のたばこを買い、飛び立った。
犯罪でも「安心感持って働いた」
気付いていた通り、仕事は詐欺だった。
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