街頭で聞こえぬ同性婚の訴え、当事者は疎外感…取りこぼされた争点
後半戦を迎えている衆院選で、家族のあり方を巡る論戦が低調だ。同性婚や選択的夫婦別姓といったテーマについて、街頭演説で正面から取り上げる候補者はほとんど見られない。公約に触れていない政党もあり、当事者たちは疎外感を味わわされている。
「国民とカウントされていないよう」
「今年は最高裁判決が出る重大な局面なのに……」
三重県伊賀市で暮らす男性カップルの嶋田全宏(まさひろ)さん(49)と加納(かの)克典さん(46)は口をそろえる。2人とも期日前投票は既に済ませた。「物価高対策」が論戦の中心となっている選挙戦を、静かに見守っている。
Advertisement現行の民法や戸籍法では、同性同士の婚姻は認められていない。現行制度は憲法に反するとして、同性カップルらが2019年に一斉提訴した。
これまでに6件の高裁判決が出され、うち5件が「違憲」だった。唯一「合憲」とした25年11月の東京高裁判決も「このままの状況が続けば憲法違反の問題が生じることは避けられない」と指摘している。
最高裁による統一判断が26年度中にも出るとされており、全国の当事者が注目している。
そんな重要な年に行われる衆院選で、同性婚に関する活発な議論がされていない現状に嶋田さんと加納さんは選挙戦の外に置かれているように感じる。
「国での議論が進まず、今回の選挙で話題にすらならない。国民の一人にカウントされていないような感覚です」
感じる周囲の理解
2人は各地の小中学校や高校で130回以上に及ぶ講演を重ね、性的少数者を巡る問題を語ってきた。普段は市内で農業を営みながら、多様な性を象徴するレインボーカラーで組み合わせた伝統工芸品の組みひもなどを販売している。
出会いは13年。インターネットを通じて知り合い、共に人生を歩むことを決めた。「田舎で暮らしたい」と16年に大阪から伊賀市へ移住。伊賀市が同性カップルを公的に認めるパートナーシップ制度を始めていたことも、移住を後押ししたという。市が認めた4組目の同性カップルとなった。
25年4月には、加納さんを「世帯主」、嶋田さんの続き柄を「夫(未届)」と記載する住民票を受け取った。住民票の続き柄に「夫(未届)」「妻(未届)」と表記する対応は男女の事実婚のケースで使われているもので、それに準じたかたちだ。
法律婚ではないが、2人は「関係が公に記されることには意味がある」と受け止めている。
こうした自治体の取り組みが、同性カップルに対する周囲の理解につながっていることも実感している。
数年前、加納さんが病気で入院した際、嶋田さんが「家族だ」と伝えると、病院側から病状の説明を受けることができた。家族のみが許される面会も許されたという。
「同性パートナーも家族だという認識が、少しずつ広がっている」と感じた嶋田さんだが、まだ課題はあると訴えている。
「理解のある病院だったから良かった。でも、そうではない所もある。だからこそ、全国どこでも同じ対応になるように同性婚の法制化が必要だ」
法制化なら12万組が結婚という試算も
性的マイノリティーに関する調査研究や社会教育を行うNPO法人「虹色ダイバーシティ」(大阪市北区)の試算によると、日本で同性婚が法制化された場合、結婚する可能性のあるカップルは12万組に及ぶという。多くの当事者が法制化によって生活上の不利益が解消されることを期待している。
今回の衆院選における各党の公約を見ると、同性婚への向き合い方に差がある。法制化を明記する党が多い一方、反対する党があり、自民党はじめ公約で触れていない党もある。
衆院選は8日に投開票日を迎える。今回の選挙結果がどのような形であれ、一部の自治体が独自に取り組むパートナーシップ制度という「補完的な枠組み」で解消しきれない問題は、次期政権に託されることになる。
選択的夫婦別姓も盛り上がらず
選択的夫婦別姓制度を巡る議論も盛り上がりを欠いたままだ。公約に「制度を導入する」と明記する政党がある一方、旧姓使用の法制化といった代替案にとどめる党もある。各党のスタンスは割れているが、争点として前面に出ることはない。
「姓を巡って、たくさんけんかをしました」。長野県在住の内山由香里さん(58)は、事実婚の夫と歩んできた道を振り返る。
3人の子をもうけ、妊娠が分かるたびに婚姻届を出し、出産後に離婚する「ペーパー離婚」を繰り返してきた。子どもたちの姓を夫の姓にそろえるためだ。選択的夫婦別姓制度があれば、こうした手続きを踏む必要はなかった。
さまざまな世論調査で選択的夫婦別姓制度の導入に賛成する声が多いのに、連立政権を組む自民党と日本維新の会は旧姓使用の拡大を目指している。チームみらいは制度導入を有力な考え方としつつ、「多角的に検討」とする。
内山さんは「旧姓使用の拡大では問題の解決にならない。本当の名前を大事にしたい気持ちをないがしろにしている」と憤る。
夫とは姓をどうするかを巡って思いをぶつけ合い、対等な関係を築くことができた。すでに成人となった子どもも含め、家族の結束を強められたと感じている。だが事実婚のため、病気や入院時に夫婦であることを証明できない不安も抱えてきた。
「姓を選べるようにしてほしい。それだけです」。内山さんは、当事者の声が政治の議論に十分反映されていない現状に、もどかしさを募らせている。【森田采花】