酷評の不人気万博が一転、評価変えた「生の声」 拡散した〝攻略法〟SNSが潮目を変えた 万博展望㊤

「並ばない万博」を掲げ、パビリオン入場の事前予約が不可欠とされる大阪・関西万博。しかし、来場前の予約がなくても問題なく楽しめる。

7月の週末に万博会場を訪れた2人の小学生の子供を持つ大阪市の30代女性は、事前予約の抽選は全て外れていたが、会場に着くなりスマートフォンで交流サイト(SNS)のインスタグラムに「万博」「予約なし」「子連れ」と入力。すぐに予約不要でも楽しめるパビリオン一覧や、真っ先に土産を買うなど混雑を避けられるルート、子供が楽しめる遊具の位置などの情報であふれた。

ビールや軽食をテイクアウトできる場所の情報も確認し、悠々と会場を回っていると「キャンセル待ちで入れるパビリオン」の投稿を基に人気パビリオンの予約を確保。帰宅途中に自分が投稿した動画にも、多くの閲覧歴がつけられていた。

SNSの万博情報は臨場感にあふれ、来場意欲をかきたてる。影響力のあるインフルエンサーの投稿も多く、情報発信は過熱状態にある。2005年の愛知万博ではなかった事象で「SNS万博」といえる状況だ。

「#大阪関西万博」6倍に

大阪・関西万博は開幕前の期待値は低かった。会場内でのメタンガス爆発、海外パビリオンの建設遅れなども機運に水を差し、前売り券販売は低迷した。情報不足もありSNSでもこれらの否定的な情報が拡散された。

なぜ一転して評価が高まったのか。

万博関連の投稿の特色として、予約の取り方やパビリオンの効率的な巡り方など「攻略法」が多いことがある。予約システムなどの複雑さがSNSでは逆に攻略しがいのある対象となり、発信欲求を満たすことにつながっている。

来場者に人気のトルクメニスタン館=大阪市此花区

インスタグラムの万博関連のハッシュタグ(検索目印)投稿数を調査したアジア太平洋研究所(APIR)によると、「#大阪万博」は昨年11月30日時点で7・6万件だったが、開幕後の今年6月30日時点では21・2万件まで増大。「#大阪関西万博」は2・8万件から16・3万件、公式キャラクターの「#ミャクミャク」も3・3万件から11・2万件に増えた。

三菱総合研究所の今村治世・万博推進室長は「日々新しいことが発信されており、みながそれぞれの方法で楽しみ方を見つけている」と分析。実際の体験に基づく「生の情報」が拡散され、否定的な意見をはるかに上回り評価が覆った。

SNSにたけた若者からの注目の高まりも見逃せない。三菱総研の5月の調査では、万博に「行った・行きたい」と答えた割合は20~29歳が最も高く41・8%だった。

APIRの野村亮輔副主任研究員は強調する。

「実際に会場に足を運んだ人が気になる内容を投稿したり、気に入った投稿を再投稿したりする行為を積み重ねている。SNSでのこうした行動をきっかけに社会の万博を見る潮目が変わった」

無料で楽しめる有名バレエ団

万博の盛り上がりの背景には、そもそも多くの優れたコンテンツがあることも見逃せない。特に海外パビリオンは、手軽に世界旅行気分が楽しめると話題だ。

チェコパビリオンで披露された同国バレエ団の公演=6月、大阪市此花区

6月上旬、東欧チェコのパビリオン内にある円形劇場では、息をのむような現代バレエの公演が行われていた。チェコでは有名なバレエ団だが、入場は無料。展示だけでなく、各国が多くのイベントを行い、その国の情景や空気感を味わえるための努力を続ける。

中央アジアのトルクメニスタン館は、常に来場者が長蛇の列をつくる。同国は査証(ビザ)取得が難しいとされ、容易に旅行できない国だ。それでも来場者は同館内を巡るだけでその国の一端を知ることができる。

海外館の多くは地元料理を楽しめる飲食店を併設。東欧や中東など普段はなかなか口にできない食事を楽しむことができる。それらの情報は交流サイト(SNS)で拡散され、盛り上がりのきっかけとなっている。

否定的な情報も瞬時に拡散

ただ開幕前と同様にSNSでは否定的な情報も瞬時に拡散する。5月ごろに大量発生したユスリカの問題は、X(旧ツイッター)などでショッキングな映像が広がり、人々の強い懸念を招いた。

事実と異なる情報の拡散も危惧される。静けさの森などで発生したレジオネラ属菌の問題を巡っては、SNSで「子供たちに肺炎の症状が出て学級閉鎖が相次いでいる」との情報が広まった。調査機関は「そのような事実は確認できない」と指摘しており、偽情報だった可能性が大きい。

巨大イベントの万博はSNSによる情報発信の格好の舞台となった。残り3カ月の成否のカギもSNSが握っている。

提言 国際イベントにふさわしい情報発信を

SNSでは、万博を運営する日本国際博覧会協会の公式インスタグラムのフォロワー数も伸びており、アジア太平洋研究所によると、昨年11月末時点の約4万9千から今年6月末には30万を超えた。イベントの動画やスケジュールなどをコンパクトに発信できており、一定の評価を得ている。

一方で協会のホームページは情報が膨大過ぎてわかりにくいと不評だ。対日ビジネス拡大を視野に万博訪問を希望する海外企業の関係者から「何を見ていいのかさっぱりわからない」と苦言を呈されたこともある。英語での発信も限定的だ。

手軽なSNSは観光客を主眼に置くならば有効だが、万博は国際的な交流やビジネス推進の舞台でもある。日本の〝内輪〟イベントで終わらないためにも、協会は多面的な情報発信を心がける必要がある。

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