意志決定の質を上げる。ハックしたい脳の仕組み5つとは?

エミリー・フォーク氏は、ペンシルバニア大学でコミュニケーション、心理学、マーケティング分野を担当する教授であり、同大学でコミュニケーション神経科学ラボおよびアネンバーグ公共政策センター気候コミュニケーション部門を指揮しています。

その研究成果は示唆に富んでおり、New York Times、Washington Post、BBC、Forbes、Scientific Americanといった多くのメディアで取り上げられてきました。

私たちはそれをどう生かせるでしょうか。

自分らしさ=選択と費やした時間

まず、「自分らしさ」とは、どんなときにどのような時間の使い方をしたか、その選択と費やした時間、といえます。

そして、私たちはほぼ自動的に選択を行い、毎日、同じようなパターンを続けます。

だからこそ、生活や人生の何かを変えようと決心したときに、いつもの選択パターンを手放して新たな方法を選ぶのは本当に難しいのです。

たとえ「生き方を変えよう」と本気で考えていたとしても、難しいことに変わりません。

一方で、私たちの脳が日々の意志決定を行うときに、どのように価値を計算しているかを理解できれば、新しい目標や、変化する自己イメージに相応しい方法を探るにはどうすればよいのか学べるようになります。

ひとつひとつの選択がもつ力、選択の可能性を広げられれば、内面や社会的側面において、あるいは文化的な面でも成長する能力を高められるでしょう。

以下では、エミリー氏が新著『What We Value: The Neuroscience of Choice and Change(私たちが大切にするもの:選択と変化の神経科学)』で述べている5つの洞察を紹介します。

また、エミリー氏自身の朗読による著書のオーディオ版をNext Big Ideaアプリで聞くことができます

1. 何に価値があると思うかは脳が決める

ある神経科学の研究(サルを対象に研究し、そのあと人間を対象にした研究)によれば、「value system(価値システム)」として知られる、ある脳の領域にあるネットワークが私たちの日々の選択に関する計算を行っており、これをvalue calculation(価値判断)と呼んでいます。

この計算は自分で意識するかどうかとは無関係に行われます。脳が最初にどのような選択肢を考えつくかによって、選択の方向が決まるのです。

脳が行う選択と評価の仕組みって?

たとえば、「走りに行くか、もう少し仕事をしようか」と考えたとします。そのとき、ほかの選択肢(同僚とカラオケに行ったり、祖母と一緒に散歩に出たり)は計算の対象から除外されてしまいます

意志決定の次の段階では、過去の経験や現在の状況、将来の目標に基づいて、それぞれの選択肢に対して価値システムが主観的な価値を割り当てます

基本的に、走りに行くのは辛いことです。

走るのが体に良いのは間違いないのですが、1日の終わりには大抵、疲れ切っていますから。それに、未読のままになっているメールもたくさん残っています。そうなると結局は、メールを片付けるほうを選択することになります。

結果を監視して評価

選択し終わったあとは、価値システムがそのあとの状況を監視し続け、予想していたよりも得られる報酬が大きかった場合は今後も同じ選択を繰り返しやすく、予想していたよりも得られる報酬が小さかった場合は同じ選択を繰り返さないよう私たちを促します。

仕事を選んだことで運動ができずに体はだるいと感じますが、仕事を選んだ結果として自分の部下が興味深いプロジェクトの取り組みを進められることになったので、選択が間違っていなかったと感じるのです。

このように、それぞれの選択肢に対して脳が割り当てる価値は固定されたものではなく、そのときの状況や気分、他人が言っていることや行っていること、あるいは選択肢のどの側面に注意を払うのかによって変化します。

この仕組みを理解すれば、変化できる機会を逃すことなく、より大局的な目標や価値観に沿った選択ができるようになるでしょう。

私の場合であれば、もっと活動的になることや、愛する人たちと一緒に過ごす時間を増やすことが大切なのだと、選択を行う瞬間の自分の脳に理解してもらわなければなりません。

2. 自分が何者であるかは脳が決める。限界を決めるのも脳。

自分が何者であるのかという感覚は、選択のうえで重要な要素となっています。

「私」と「私以外」を区別する感覚を形成する脳の領域が存在し、なんらかの決定を行う際には、この自己との関連性が価値観と深く結びついていることを神経科学者が突き止めています。

この感覚によって、自分がすでにもっている自分自身に対する認識に合致する選択をするように促されるのです。エミリー氏は次のように言っています。

私たちは、すでにもっているアイデンティティを強化するような選択を好み、新しい機会や経験を犠牲にしても、そのような選択をすることがあります。

自分自身が何者であるのか首尾一貫した感覚をもつことは有用ではあるのですが、それが自分の限界となってしまうことも。アイデンティティを強化する選択を好み、新しい機会や経験を犠牲にしても、そのような選択をすることがあるのです。

私が仕事を優先する選択を行っていたころは、いつも締め切りを守り、学生に対する支援を惜しまない仕事熱心な研究者である、という自己イメージが価値判断に大きく影響していました。

自分がアスリートであるとは考えていませんでしたので、その計算のプロセスでは、ランナーやダンサーとして向上しようとか、そのほかの選択肢を選んでみようなどとは思わなかったのです。

自分らしさに固執してしまう場合も

非常に多くの研究データが、これが私に限ったことではないことを示しています。

自分で「自分らしい」と思うアイデアや行動に執着してしまう人が多く、この現象は「endowment effect(保有効果)」と呼ばれています。

自分のコアとなる価値観を確認し、なるべく長期的な目標に適合した選択をするという点では役立つこともあります。

しかし、「bounded notion of self(限定された自己概念)」にとどまる原因にもなってしまいます。つまり、自分自身に対する認識を限定してしまうのです。

自分の過去の行動が最適ではなかったとか、周囲の人がやり方を変えてほしいと思っていることがはっきりしたとしても、この効果によって私たちは防衛的になってしまったり、過去の選択に囚われてしまったりして、変化がより難しいものとなってしまいます

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