「殺された…」自動運転モードで着替えか 正面衝突で1歳児死亡 運転手「記憶ない」

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 前方から車が対向車線を越えてきて衝突する事故で、衝突された車に乗っていた1歳の男の子が亡くなっています。この事故を起こした男は、運転中に着替えをしていた可能性があることが分かりました。

■家族旅行の帰りに…

 去年9月、高知県の自動車専用道路を走るドライブレコーダーの映像です。数台の車とすれ違ったその時、突然1台の車がセンターラインを越えて対向車線にはみ出してきたのです。対向車が車線をはみ出してから、衝突するまでの時間はわずか0.8秒。

 この事故で、衝突された車のフロント部分は大破。エンジンまでむき出しになった車体が衝撃の大きさを物語っています。

 大阪市に住む神農諭哉さん(33)と妻・彩乃さん(38)。諭哉さんが運転し、彩乃さんは助手席に。運転席の後ろにはジュニアシートに座った6歳の長女。その隣には1歳の煌瑛(こうえい)ちゃんがチャイルドシートに座っていました。事故は家族で高知旅行を楽しんだ帰り道に起きました。

 現場は片側1車線の見通しの良い緩やかなカーブ。センターライン上にはポールが設置されています。

 対向車線を走っていた60歳の男が運転する車が、突如センターラインをはみ出し、神農さん家族4人が乗った車に正面衝突しました。諭哉さんと彩乃さんが重傷、6歳の長女は無事でした。

 しかし、1歳の誕生日を迎えたばかりだった煌瑛ちゃんが、事故の衝撃による外傷性ショックで命を落としました。

彩乃さん 「いつもニコニコしている子でした。ちょうど歩き始めてよちよち歩いてたし、言っていること分かるようになってきたし、本当にかわいい盛りという時期ですね」

「ベビーカーに乗って周りを見ている息子の姿とか目に焼き付いてますし、去年はやっぱり桜を息子と娘を連れて見に行ったけど、今年はとてもじゃないけど見られなかったですね。きれいだねとも思えなかったですし」

諭哉さん 「はみ出したなって思ったら、『当たる』と思ったら当たっていた。娘の泣き声は聞こえてたんです。でも、息子の泣き声だけが聞こえてなかったんですよね。その瞬間になんとかしないとって」

「息子の人工呼吸をして、心臓マッサージもしてもらいながら、何とか戻ってこいというふうに、必死になりながら叫びながらやっていたのは、今でもそれは思い出しますね。毎日」

■小腸を断裂…母も高度治療室での入院生活

 自身も重傷だった諭哉さんは、煌瑛ちゃんと一緒にドクターヘリで高知市内の病院に搬送されました。

諭哉さん 「もうどうしようも無理だから、1歳の子の胸を開いて、直接心臓マッサージをしたと言われました。やれることをやったけど無理だったというのも言われたんですけど、その時、息子の小さな心臓も目の前で見て、無理でしたというのも宣告はされました」

 事故現場から1人だけ別の病院に搬送された彩乃さん。意識が薄れていくなかで、息子の名前を呼んだといいます。

彩乃さん 「息子の顔が青くなってきてるって、助けてくれた方が言った言葉が聞こえていたので。何度も私も呼んだんですけど、そこで一旦意識が飛んでしまって、そこが最後だった」

 事故の翌日、彩乃さんは煌瑛ちゃんたちが運ばれた病院に転院し、そこで夫から煌瑛ちゃんの死を告げられました。

彩乃さん 「主人と娘と会った時に、初めて息子が亡くなったことを知りました。主人にやっと会った時に、主人が私に『守ってやれなくてごめん』と謝ったんです」

 彩乃さんのベッドに煌瑛ちゃんを寝かせてもらい、動かなくなってしまった我が子の姿に泣くことしかできなかったといいます。

 彩乃さんは小腸を断裂し、首や背中など12カ所を骨折。緊急手術を受け、高度治療室での入院生活を余儀なくされました。事故から9日目、入院中の彩乃さんも参加できるようにと、煌瑛ちゃんのお別れ会が地元・大阪ではなく、高知市内で営まれました。

彩乃さん 「2日前に車椅子に乗る練習をしたりとかして、乗れた時に本当に良かったねってみんなが喜んだんですけど、でも、なんかそれもどういう…。何か変なところにすごくベクトルが向いているなと思って。こんな努力って何のためにって思っていましたね。だけど、やっぱり息子を最期に抱っこもしてあげられないようでは」

 当日、医師が付き添い煌瑛ちゃんのお別れ会に参加した彩乃さん。棺には、おばあちゃんからもらった靴を入れました。

 煌瑛ちゃんの仏壇には小さい骨つぼが置かれ、周りには写真やお気に入りのおもちゃなどが供えられています。

 小さな命を奪った事故は、なぜ起きてしまったのでしょうか。

 事故は緩やかなカーブで起きました。警察によりますと、ここ数年大きな事故は起きていなかったということです。

 対向車を運転していた60歳の男は、過失運転致死傷の疑いで逮捕されました。

対向車を運転していた男 「事故のことは記憶にありません。事故直前にトンネルを抜けるあたりから、事故を起こして留置場にいるところまで覚えていない。事故を起こしたことは本当に申し訳ないと思っている」

 諭哉さんは繰り返しドライブレコーダーの映像を見るなかで、ある疑問が浮かんできたといいます。

諭哉さん 「さすがに顔は見えると思うんですよ。普通に運転をしていれば、ハンドルを持っていたら、当たると思ったら、顔は多分見えると思うんですね。でも、それすら何も見えなかったんです」

 「顔が見えなかった」というのは、どういうことなのでしょうか。交通事故鑑定人・中島博史さんにドライブレコーダーの映像を分析してもらうと、衝突の直前には…。

中島さん 「このあたりがダッシュボードと考えると、ここに写っているのは人物の顔ではないかと、明るさからすると考えられます」

 白く浮かび上がった顔のようなもの。しかし、対向車がセンターラインを越えた直後の画像では、顔のようなものが一部しか見えません。

中島さん 「何らかの状態で例えば腕を上げていたとか、あるいは着替えをしていたというような可能性があって」

 運転中に着替えか。この可能性を裏付けるような供述がありました。運転をしていた男は、捜査のなかで「日常的に自動運転モードにして着替えをしていたと」という趣旨の供述をしているということです。

■自動運転でも「何らかの人為的な操作」か

 国土交通省によると、自動運転は大きく5段階に分けられ、機能が搭載されている自家用車のほとんどは「レベル2」まで。「レベル2」まではドライバーが常に走行を監視しなければならず、事故を起こした場合、責任はドライバーが負わなければなりません。

 事故を起こした車はレベル2に相当する機能を搭載していましたが、取り扱い説明書では、あくまでも運転支援システムなのでハンドルから手を離さないよう注意を呼び掛けています。

中島さん 「(男の車が)進入してきた時の角度から推定すると、右に(ハンドルを)90度くらい切っているはずです。何らかの人為的な操作が入らないと、運転支援機能側が勝手にこんな判断をすることはあり得ません」

 中島さんによると、もし車内で着替えをしていたのであれば「ひじなどがぶつかってハンドルが急激に切られた可能性もある」と指摘します。過失運転致死傷の疑いで逮捕された男は、現在は釈放され、在宅で捜査が進められています。

諭哉さん 「僕たちは当たり前の日常を奪われてしまった」
彩乃さん 「誰かとすれ違うと息子はすぐ手を上げてたりとかして、すれ違う人みんな足を止めてかわいいねって声をかけてもらう。それでニコニコするっていうのが日常でした」
諭哉さん 「人を一人、僕たちからしたら殺された。許してはならないと思います」

(「羽鳥慎一 モーニングショー」2025年4月25日放送分より)


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