中居正広さんの弁護士とフジテレビは「20年の付き合い」、幹部社員の紹介は「二次加害」 第三者委注目した「利益相反」の意味

元タレントの中居正広さんと元フジテレビ社員の女性とのトラブルをめぐって、フジテレビの第三者委員会は調査報告書で、トラブルは「『業務の延長線上』における性暴力であったと認められる」と結論づけた。

「性暴力」が生じるまでの経緯もさることながら、その後の対応において、フジテレビと社員が、アナウンサーだった女性ではなく、中居氏側に立って動いていたことも指摘している。

弁護士で構成される第三者委員会は、中居さんの代理人をつとめた弁護士とフジテレビとの間に取引関係があったことに注目し、「フジ社員らが弁護士を紹介した行為は女性に対する二次加害とも評価し得る」との判断を示した。

第三者委員会の報告書は「利益相反」の問題に注目している。今回のようなトラブルにおいて、弁護士に依頼する際に注意すべきポイントがある。

●20年にわたってフジテレビと関係「24時間対応の携帯弁護士」

第三者委員会が注目したのは、元女性とのトラブルにあたって、中居さんが依頼したK弁護士(報告書の表現に準拠)のフジテレビにおける立ち位置と、その弁護士をB氏(同)らフジテレビ社員らが中居さんに紹介した経緯だ。

フジテレビ幹部社員のB氏は、事案のきっかけとなった食事会につながる「中居さん所有のマンションでのバーベキュー」に女性の参加を調整した人物だ。

報告書によると、中居さんの代理人になったK弁護士は、もともと港浩一社長が番組制作上の法律問題などの相談業務を依頼した弁護士である。

2005年から20年間にわたって継続的にフジテレビのバラエティ部門から法律問題の相談を受けており、2005年4月から月額の「法律相談料」が支払われ、契約書はないもののフジテレビとの間で「継続的業務委託契約」が締結されていたとしている。

港社長はK弁護士を「携帯弁護士」と呼び、「リーガルアドバイザー」として、社員が24時間体制で電話で法律相談できる体制がつくられていたほか、フジテレビの番組にも出演しており、女性と中居さんとも共演歴がある。

●中居さんから請われてフジ社員が「K弁護士」を紹介した

「緊急です。先方弁護士から、こちらの弁護士に訴え書が来ました」(報告書から)

2023年11月10日、中居さんはB氏に上記のメッセージを送り、弁護士の紹介を求めた。

報告書には、女性側から内容証明を送られた中居さんから弁護士を紹介してほしいと頼まれたB氏らが、K弁護士を紹介した経緯が記載されている。その後、K弁護士は中居さんの代理人に就任した。

なお、第三者委員会は、K弁護士にヒアリングを実施したが、フジテレビは守秘義務解除に応じ、中居さんは応じなかった。

報告書は、フジテレビには社員である女性に対して安全配慮義務があると指摘。そのうえで、今回のケースでは、フジテレビは中居さんによる女性への性暴力の疑いを認識していたことから、フジテレビと中居さんとは「利害が対立する可能性があった」としている。

●弁護士が「利益相反」になる依頼を受けることは原則禁じられている

原則として、弁護士は「利益相反」になる依頼を受けることを禁じられており、弁護士職務基本規程28条2号は「継続的な法律事務の提供を約している者を相手方とする」事件の職務をおこなってはならないと定めている。

同条は、基本的には顧問契約を締結している相手方を指すが、嘱託等で継続的に法律事務の提供をする場合も含むとされる。

K弁護士は、フジテレビの顧問ではないようだが、20年間にわたって継続的にフジテレビのバラエティ部門から法律問題の相談を受けており、月額の「法律相談料」が支払われ、契約書はないもののフジテレビとの間で「継続的業務委託契約」が締結されていたということであるから、同条の問題となりうる。

●K弁護士は「利益相反に関して必要な手続をとった」と回答

こうした点について、K弁護士は、第三者委員会のヒアリングで「利益相反に関して必要な手続」をとったという趣旨を述べている。

また、K弁護士は、フジテレビによる関係者ヒアリングでは、自らが中居さんの代理人に就任することはフジテレビとして問題がないかをB氏に確認したところ、B氏から「フジテレビとしてお願いします」と言われたことから、フジテレビから利益相反に関する同意を得たものと認識していると回答した。

一方で、B氏は、編成部長にすぎない自分がフジテレビとして同意することはできないし、「フジテレビとして」と発言していないとも述べていて、このようにB氏とK弁護士のヒアリング内容には事実関係に相違点がある。

第三者委員会は、フジテレビと関係の深いK弁護士が、フジテレビの社員ではなく、トラブルの相手側代理人につく構図が利益相反に該当するかどうかの判断までは示してはいない。

しかし、K弁護士が中居さんの代理人として女性との示談交渉に臨むことは、女性からすれば、フジテレビが女性の対立当事者である中居さんサイドに立ったように見え、「女性よりも、中居さんを守る」との印象を与えている。

その意味で、B氏らがK弁護士を紹介した行為は女性に対する二次加害とも評価し得るとの考えを示した。

K弁護士は、女性側からも自らの代理人就任について同意を得ていたが、女性は「自身へのデメリットはないものの、バラエティ部門、K弁護士及び中居氏が一体として感じられ、不快であった」旨を述べた。

●幹部社員B氏「そもそも利益相反関係がよくわからない」

なお、B氏は第三者委員会のヒアリングで、「そもそも中居氏とフジテレビとの利益相反関係がどのような意味かよくわからない」とも答えている。

被害者の女性にとっては、自分より立場の上の社員が、加害者に弁護士を紹介したことになる。

B氏が「よくわからない」と本心から述べたとしても、幹部社員として理解している必要があっただろうし、K弁護士を中居さんに紹介すべきではなかったと言えそうだ。

さらに、報告書は、B氏らがK弁護士を中居さんに紹介した行為を「二次加害」と評価しただけでなく、「フジテレビに対する背信的行為とも評し得る」とした。

●「利益相反の問題が生じうる場合、私なら受任しない」

弁護士倫理にくわしい弁護士が次のように語る。

「通常、相談を受けたときに、利益相反の可能性が頭に浮かんだのであれば、受任を避けるのが基本だと思います。

利益相反かどうかがグレーだと感じた場合や、その時点では利益相反にあたらないとしても、その後の流れによっては利益相反の問題が生じうる場合にも、私なら受任しません。

たとえば司法過疎地で依頼できる弁護士が少なく、相手方の同意を得て受任せざるを得ないなどの状況があれば話は別ですが、その場合はきちんと書面をとるべきでしょう」

多くの企業や職場には、顧問弁護士あるいは長年にわたって相談に対応してくれるような弁護士がいるだろう。

頼れる存在のはずだが、従業員が巻き込まれたトラブルの場合、会社と関係の深い弁護士がどう関わるのかは難しい問題だ。

たとえばパワハラのケースであれば、会社と従業員は対立する関係となる。この場合には会社側の弁護士が従業員に寄り添うのは難しい。

今回のケースは報告書において、性暴力の認定に加えて、「カスハラ」の一類型とされている。

このようなケースにおいて、会社が加害者側に寄り添ってしまったことで、会社側が「二次加害」に加担したと評価されることがありうることは、一つの教訓とすべきではないだろうか。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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