【毎日書評】心がふっと軽くなる。世界100ヵ国の旅で見つけた自由をつかむ「人生のヒント」
日本で働いていた頃
毎朝同じ電車に揺られ
同じ人とすれ違い
同じ街を歩いて
気がつけば、心がどこか置き去りになっていました。
「ちゃんと生活しているはずなのに
なぜか、心だけまだどこか遠くにいる」
(「はじめに」より)
『世界100ヵ国の旅で出会った人たちが教えてくれた 人生で大切なこと』(旅人KAD 著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は、そんな感覚を抱えたまま毎日を過ごしていたのだといいます。
あるとき旅に出たのは、そんな日常を息が詰まったように感じたから。「自分のなかの小さな声を無視できなくなった」という思いもあったため、そこから世界をめぐるようになったというのです。気がつけば、訪れた国は100を超えていたそう。
アジアの喧騒も、南米の乾いた風も
アフリカの星空も、ヨーロッパの石畳も
どれも「人生そのもの」の匂いがしました。
だけど、わたしの心をいちばん揺らしたのは
世界遺産でも、絶景でもありません。
それは、旅の途中で出会った
名もなき人が、ふとこぼした一言でした。
(「はじめに」より)
そうしたことばに心惹かれたのは、きっとそれらが「本音」だから。肩書きや優劣を超え、その人の人生のかけらが“ひとこと”になって届いたということなのでしょう。つまり本書は著者のことばを借りるなら「世界のどこかでこぼれた本音とその瞬間にわたしの心が動いた記録」。
きょうはそのなかから、第3章「仕事と人生の知恵」に焦点を当ててみましょう。
過去も未来も、
今いる場所からしか見えない。
砂漠で星を見上げるように
今いる場所を覚えろ。
(サハラ砂漠で出会ったベルベル人ガイドのことば 172ページより)
モロッコのサハラ砂漠でのこと。星空を見上げながら夜を明かしていたとき、隣に座っていたベルベル人のガイドが「砂漠を歩くときは、星を見ながら進むんだ」と語り始めたのだそうです。
ロマンチックな表現に感動した著者が思わず「美しいですね」と返したところ、彼は間髪入れずに予想外の返答をしてきたのだといいます。
「いや、美しいとかじゃなくて、地図を見すぎると死ぬんだ」
いや、現実的な話だった! でも彼、さらに続けてこう言ったんです。
「星を見るのは方向を知るため。
でも、先ばかり見てたら迷うんだ。
今いる場所を覚えないと、人生も同じさ」
(174〜175ページより)
多くの人は普段、未来のことばかりを考え、いまの状況を見落としがち。しかし著者は彼のことばを聞いて、「たしかに現在地を知らずに進むなんて無理だな」と感じたのだと振り返っています。
彼らが迷わないのは、“いま”をしっかり見ているから。そう実感し、それからは少しずつ“いまの景色”を見ながら歩くようになったのだといいます。(174ページより)
パタゴニアのバーと人生の問題集
人生で大事なのは、
答えを出すことじゃない。
良い問いを持つことだ。
(パタゴニアのバーで出会ったスイス人数学者のことば 172ページより)
著者はパタゴニアのバーでたまたま、スイスから来たという数学者と知り合ったのだそうです。そのとき、彼がビール片手に言ったのが上記のことば。そして著者が「良い問いって、どうやって見つけるの?」と聞くと、ニヤッと笑った彼の口からは「楽しい答えが返ってくる問いを探せ」とのひとこと。
それが腑に落ちた著者は、「お金をどう稼ぐか?」というような問いではなく、「なにしてるとき、いちばんニヤけてる?」みたいな楽しい答えが返ってきそうな問いを考えるようになったのだといいます。(178ページより)
モンゴルの遊牧民と馬の知恵
自由と孤独を
混同するな。
仲間がいるからこそ
自由なんだ。
(モンゴルの草原で出会った遊牧民の青年のことば 180ページより)
モンゴルの草原で馬に乗ってゆったり進んでいると、一緒にいた遊牧民の青年が馬について「馬は自由に見えるけど、自由すぎると群れを失うんだ。だから馬は、どんなに速く走っても、常に仲間を感じてる」と語り始めたのだそうです。さらに、次のようなことばも。
「人間も同じさ。自由と孤独を混同しないことが大事だ。
仲間がいるからこそ自由なんだ」
(183ページより)
また、彼が最後に言った「風も自由に吹くけど、仲間の風を感じてこそ、強くなれるんだ」ということばも心に響いたといいます。たしかに、そのとおりかもしれません。(182ページより)
著者は旅から、「世界は広いのに人の悩みはどこも同じで、それでもみんなやさしく生きている」ということを学んだといいます。そうした人々の思いの断片が紡がれた本書は、“忘れかけていた大切なこと”を思い出させてくれるかもしれません。
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作家、書評家、音楽評論家。1962年東京都生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立。「ライフハッカー・ジャパン」で書評連載を担当するようになって以降、大量の本をすばやく読む方法を発見。年間700冊以上の読書量を誇る。「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「サライ.jp」などのサイトでも書評を執筆するほか、「文春オンライン」「qobuz」などにもエッセイを寄稿。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社、のちにPHP文庫)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)など多数。最新刊は『現代人のための読書入門 本を読むとはどういうことか』(光文社新書)。@innamix/X
Source: ディスカヴァー・トゥエンティワン