衝撃と驚きに満ちた2024年、紆余曲折の回顧録-円キャリー復活の兆し

投機的な個人投資家の熱狂、この世のものとは思えないほどの暗号資産(仮想通貨)の値上がり、そして円キャリートレード復活の兆し。2024年は衝撃と驚きに満ちた1年だったが、グローバル市場は投資家に繁栄、あるいは大失敗の機会を等しく提供した。

  年の瀬が迫る中、世界市場のあらゆる地域にいるブルームバーグの記者が語る注目すべき今年の紆余(うよ)曲折を取り上げる。

暗号資産:驚愕の投資ブーム、そしてその先へ

  今年はウォール街、そして次期米政権が暗号資産関連の投資ブーム創出に貢献した。それは伝統的な金融界を驚愕(きょうがく)させたほどだ。

  ビットコインは2023年にすでに目覚ましい復活を遂げていたが、1月に米国でビットコインの上場投資信託(ETF)が承認されたことをきっかけに、世界最大のデジタル資産の上昇に拍車がかかった。

  だが、暗号資産市場を本当に加速させたのは、11月の米大統領選挙でのドナルド・トランプ氏の勝利だ。これを受け、ビットコインは記録的な急上昇を続け、10万ドルの大台を突破。その過程で、トレーダーは1000億ドル(約15兆6600億円)余りをETFにつぎ込み、暗号資産関連の同様の投資手段への道を開いた。

  その対極では、1セント未満の価格で取引されることが多い「ミームコイン」の取引が爆発的に増加した。

最近の暗号資産の急上昇で大きな勝利を収めたマイクロストラテジーの共同創業者でビットコイン強気派のマイケル・セイラー氏

  かつてビットコイン懐疑派だったが今では支持者にくら替えしたトランプ氏は、米国の暗号資産に対するバイデン大統領の下での引き締まりを覆し、米国を同業界の中心にすると確約し、デジタル資産コミュニティーを活気づけた。

  大統領選から数週間後、トランプ氏は人工知能(AI)・暗号資産責任者を新設したほか、ゲンスラー証券取引委員会(SEC)委員長の後任として暗号資産支持者のポール・アトキンス氏を指名した。

  最近の上昇局面で最も人気があり、かつ議論を引き起こした取引の一つは、データ分析ソフトウエア会社、マイクロストラテジーの株価のボラティリティーに対する賭けだ。共同創設者で会長のマイケル・セイラー氏は市場での株式売却と転換社債(CB)の発行を組み合わせて資金を調達し、ビットコインへの投資を続け、現在の保有規模は400億ドル余りとなっている。

  マイクロストラテジーの株価は今年、5倍強に急伸し、投資家を魅了している。同時にヘッジファンドはマイクロストラテジーのCBを買いあさっており、原資産のボラティリティー上昇から利益を得るマーケットニュートラル・アービトラージ戦略に利用している。

  一方、セイラー氏の戦略は少なくとも現時点では正当性が一部裏付けられている。

-Dave Liedtka

ETF:投機の暴走

  米国株と暗号資産の猛烈なリスクテークを引き起こした今年、ETFはデイトレーダーの人気の投資先となった。ウォール街は投機的な賭けに対する個人投資家の要求に応え、ビットコインなどの2倍の値動きになるように設計されたレバレッジ型や米主力銘柄の反対の値動きに連動するインバース型などデリバティブ(金融派生商品)を利用したさまざまな種類の投資商品を立ち上げた。

  今やリスク分布図の反対側にいる投資家のためにマネーマーケットETFが存在する。

  投資家が世界で最も人気のある銘柄への賭けを増やすことを可能にする投資商品の取引は急増し、こうした単一銘柄のレバレッジ型やインバース型といった「シングルストックETF」への資金流入額は65億ドル余りと過去最高に達した。

  このカテゴリーで大きな成功を収めたのは半導体メーカーの米エヌビディアの2倍の値動きを提供するグラナイトシェアーズのETFだ。NVDLというティッカーで取引されるこのETFは、11月下旬に運用資産が67億ドルと過去最高に達し、今年のリターンは350%を超えた。

  マイクロストラテジー、テスラコインベース・グローバルに連動するETFも同様の道筋をたどっている。

  今年は米国ETFへの資金流入額も過去最高を記録した。米大統領選挙でのトランプ氏の勝利を受け、すでに勢いづいていた投資家は一段と強気になった。S&P500種株価指数に連動するETFへの資金流入額が最大となったが、今年最も注目された新規ETFの一つ、ブラックロックのビットコインETFも最大の成功例となった一つで、資金流入額は今年3番目の大きさとなった。

-Emily GraffeoVildana Hajric 

株式:投資タイミングからの教訓

  デイトレーダーは投資業界の投機的な一角で大もうけしたかもしれないが、より主流の大型株への投資は苦戦した。市場のタイミングを逸したからだ。個人投資家は年前半にいわゆるミーム株に投資したが、話題になった銘柄は理由なき急伸後に全体市場に後れを取った。

  年後半には、個人投資家は金融株を一斉に手放したが、金融株は「トランプトレード」の波に乗り、7-11月にかけてS&P500構成銘柄の中で最大の上昇を記録した。

  多くの投資家と同様、8月の短期的な市場急落時にはエヌビディアやテスラなど最も人気の高い銘柄の一部でパニック売りが相次ぎ、個人投資家は全て安値で売り払ったが、これが痛手となった。例えばテスラの株価はそれ以来、ほぼ2倍になっている。

  JPモルガンのクオンティテーティブ・デリバティブストラテジスト、エマ・ウー氏らによると、このような誤ったポジショニングにより、個人投資家グループの今年のリターンはわずか9.8%にとどまったという。これは2015年以降の指数がプラスのリターンを記録した年の中で2番目に低いパフォーマンスだという。

Group posted second-weakest gain when the index posted a positive return since 2015

Source: JPMorgan, Bloomberg

  だが、いわゆる「ダムマネー(愚かなお金、個人投資家をやゆする表現)」だけではない。ストックピッカーにとって適した環境下でも銘柄選びをなりわいとする投資信託のプロも不意を突かれた。

  バンク・オブ・アメリカによると、S&P500が11月に5.7%上昇し、1年の中で最大の値上がりを記録する中、指数をアウトパフォームした大型株の投資信託はわずか23%にとどまり、米金融当局による22年3月の利上げ開始以降で最悪のパフォーマンスとなった。

  S&P500構成銘柄の半分強が指数をアウトパフォームしたことを考慮すると、このパフォーマンスの悪さは特に顕著だ。少なくとも理論上は、市場全体の上昇はアクティブファンドにとって追い風となるはずだった。

-Natalia Kniazhevich

米国債:キャッシュこそ債券のキング

  債券投資家は一切取引しないという戦略により、大きな利益を簡単に得ることができた。すなわち、リスクフリーでキャッシュと同等の財務省短期証券(Tビル)に資金を置くだけで米国債を大きくアウトパフォームした。

  米国債の年初から12月18日までのリターンが平均で0.7%だった一方、Tビルのリターンは5.1%だった。国債がキャッシュをアンダーパフォームするのは4年連続で、ブルームバーグがTビルのリターンに関するデータを集計し始めた1991年以来の記録となる。過去4年間のTビルのリターンは合計で12%だったが、国債はマイナス10%だった。

  Tビルやコマーシャル・ペーパーなどキャッシュのような証券を保有する米国のマネー・マーケット・ファンド(MMF)の運用資産総額は今年、8000億ドル超の増加となり、初めて7兆ドルを突破した。  

  ウォーレン・バフェット氏のバークシャー・ハサウェイもTビルの保有残高が今年、2倍強となり、第3四半期時点で3000億ドルに迫っている。

  このような展開は想定されていなかった。年初には米国の成長が鈍化し、おそらくリセッション(景気後退)に陥って、米金融当局が最大7回の利下げを実施するというのがコンセンサスだった。これが債券にとって好調な年への道を開くと考えられていた。

  ところが、経済は回復力を示し、米金融当局は予想よりも緩和ペースを鈍化。直近の米連邦公開市場委員会(FOMC)会合で示された金利見通しでは2025年の利下げ予想が縮小された。そのため、比較的長期の米国債が変動に耐え忍ぶ中でもキャッシュと同等のリスクフリー資産の利回りは高水準にとどまった。

  ただ、状況は変わり始めており、来年は「Tビルでのんびり派」にとって厳しい年になりそうだ。Tビルの利回りが比較的長期の米国債の利回りを上回っていた2年余りの期間を経て、その利回りの優位性は消え、年初にあった約1.5ポイントのギャップが解消された。

  米金融当局が予想通り利下げを継続すれば、このトレンドは続く可能性が高いが、トランプ氏の関税や減税により成長が促進されれば、米金融当局の道筋に陰りが差す可能性がある。

  さらに重要なのは、史上最高値にある株式などリスク資産のヘッジとして債券が再び浮上していることだ。フィデリティ・インベストメンツの債券マネジャー、フォード・オニール氏は「株式が下落すれば、米国債ポートフォリオは値上がりするだろう。もちろんTビルはそうはならない」と述べた。

-Ye Xie

日本:混乱後の円キャリー復活

  8月の第1月曜日、日本銀行の小幅な政策転換により、円で借り入れた資金をリスクの高い証券に投じるという信頼性も人気も高い取引が突如崩壊し、その結果、世界市場の暴落を招いた。

  金融と経済の見通しが不透明な中、投資家はデレバレッジを懸念し、豪国債、米大型株、ビットコインなどあらゆる資産のポジションを急いで解消した。

  最も大きな損失を被ったのは、新興国市場の円キャリートレードだ。全体の75%に当たるポジションが解消され、この戦略の今年の年間リターンの大半が吹き飛んだ。その後、2024年の大規模な市場クラッシュは始まったとほぼ同時に終わりを迎え、資産全体でリスク選好が猛烈に復活した。これは今やウォール街の伝説となっている。

The strategy has outperformed yuan- and dollar-funded trades

Source: Bloomberg

  10月、通貨市場のセンチメントは再び回復した。石破茂首相は就任初日、日本経済は新たな金融引き締めにはまだ程遠いと述べた。一方、新興国通貨バスケットの円キャリートレードはそのボラティリティーにもかかわらず、年初から12月19日までのリターンが約13%となっており、空売りが解消されるにつれて日本円は1ドル=100円まで上昇する可能性があるとのBNYなどの予想を覆した。

  これは円キャリートレードの復活をいち早く予言したATグローバルやペッパーストーン・グループなどの外国為替証拠金取引(FX)ブローカーの見方をある種裏付けるきっかけになる。

-Matthew Burgess

中国:2匹の竜の復活

  中国に照準を定めた投資家は失望感と共に24年を迎えた。成長を刺激し、根深い不動産危機を緩和しようとする政府の取り組みにもかかわらず、期待されていた経済回復が実現しなかったことに多くの投資家がなおうんざりしていた。

  世界第2位の経済大国の低迷が豪ドルやタイバーツなどの重しとなる中、フィデリティ・インターナショナルは中国国債に賭け、そして大きな利益を得た。

  少なくとも1月以来、同社は中国人民銀行(中央銀行)が金融政策を緩和する必要があるとの見方を背景に中国国債を選好した。また、アバディーンは10月から10年債と30年債のロングポジションを構築し始めた。結果的に中国国債は記録的な上昇となり、当局が介入策を強化。大手銀は市場の落ち着きを取り戻すために国債売りに動いた。

  中国の30年国債に連動するETFの今年のリターンは約21%に達している。

  中国共産党中央政治局が経済を支えるために「適度に緩和した」金融政策を確約したことを受け、国債の上昇が続くとの見方が高まっている。こうした文言は世界金融危機以来だ。

習近平国家主席率いる中国当局は、経済を支えるために公的債務と歳出を増やす意向を示している

  中国株も1月に安値を付けた後、投資家に利益をもたらしている。CSI300指数はドル建てで今年、14%を超える上昇を記録し、年間では4年ぶりの上昇となる勢い。フィデリティ・インターナショナルは中国国債への投資を維持しているものの、経済が大幅な勢いをようやく取り戻し始めれば、今後は中国株の方がリターンが大きくなると予想している。

  フィデリティ・インターナショナルのマルチアセット投資運用部門グローバル責任者マシュー・クワイフ氏はインタビューで、来年は「中国株の方が明らかに費用対効果が高い」と述べた。

-Iris OuyangMatthew Burgess

原題:The 11 Wild Trades of 2024: Booms, Busts and a 2,900% Windfall(抜粋)

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