クマ目覚める春、市街地に出没する「アーバンベア」に警戒…冬眠明けで攻撃的な母グマ
クマが冬眠から目覚める季節を迎え、各地の自治体や猟友会がハンターの確保や育成に励んでいる。今年は昨年のドングリの豊作による出産増加で、冬眠明けの母グマが子グマの餌を求めて行動を活発化させるとの予測がある。市街地に出没して人を襲う「アーバンベア」の被害が増える懸念があり、関係者は警戒を強める。(田中洋一郎、児玉森生)
盛岡市の市街地に出没したクマ(2日)=住民提供捕獲法指南
「クマは茂みから急に飛び出してくるぞ」。岩手県花巻市の山林で3月29日、市猟友会の藤沼弘文会長(78)がそう注意を促すと、会員らはライフルや散弾銃を手に散っていった。若手の技能向上のため、クマやシカの捕獲方法を指南する講習会。3年前に入会した市内の会社員(33)は「花巻にもクマに襲われて大けがをした人がいる。自分も何か力になれれば」と意気込む。
クマ捕獲の講習会に参加する花巻市猟友会のメンバー。経験者が若手に「シカが通る道はクマも出るから注意して」と声をかけていた(3月29日、岩手県花巻市で)=児玉森生撮影最盛期に約600人いた会員は数年前、50人を下回った。勧誘活動で約150人にまで戻す一方、「ボランティア会員制度」を導入し、首都圏など地域外から応援に来るハンター約40人を確保した。藤沼会長は「緊急時に人々を守るには各地域に実力と経験のあるハンターが必要だ」と話す。
捕獲中に逆襲
ハンターの確保・育成のため、新潟県は昨年、新潟市内のライフル射撃場整備を支援。青森県は今年度から猟銃購入費の補助を始める。背景には、クマの捕獲中にハンターが襲われるケースが相次いでいることがある。
現行の鳥獣保護法は、警察官が命じた場合などを除き、市街地での猟銃発砲を原則禁止している。このため、秋田県鹿角市で2019年11月、温泉街にクマが出没した際、人家が近いことから発砲できず、市猟友会員2人が襲われ、けがを負った。
各地の猟友会の要請を受け、市街地での猟銃使用の条件を緩和する同法改正案が、今国会で審議されている。人身被害の危険性が高いヒグマ、ツキノワグマ、イノシシが市街地に現れ、建物内に立てこもるなどした場合、市町村が住民の安全を確保した上で、ハンターの裁量による発砲(緊急銃猟)を可能にするとの内容だ。
ただ、人家に流れ弾が飛ぶ危険があり、ハンターに高い技量と的確な判断力が求められる。鹿角市は今月下旬、市役所の倉庫を使い、クマが立てこもった想定の訓練を実施する予定で、市猟友会の稲垣正人会長(73)は「経験が浅いハンターも多く、法改正されても今のままではアーバンベアの捕獲は難しい。若手の訓練が急務だ」と話す。
人材バンク
改正法案が今国会で成立すれば、クマの出没が増える今秋までに施行される見通しだ。環境省はどのようなケースなら市町村が「緊急銃猟」を認めることができるか判断するためのガイドライン作りに着手している。
また、高齢化による将来的なハンター減少に備え、捕獲スキルを持つ全国のハンターを登録する「クマ人材データバンク」も作成中だ。今夏にも運用を開始し、自治体間で人材情報を共有することで、域外からハンターをリクルートできる態勢を整える。同省鳥獣保護管理室の宇賀神知則室長は、「クマに対応したことがない地域の自治体でも、クマ捕獲の経験者を探せるようにしたい」と話す。
住宅街に早くも出現
クマの出没は早くも、全国で相次いでいる。
今月2日朝には盛岡市内の住宅街にツキノワグマが現れた。約10時間後、寺院敷地内の木に登っているところを麻酔の吹き矢で捕獲され、けが人はいなかった。青森県では今年1~3月の目撃件数が29件と前年同期より倍増。今月4日、ツキノワグマの出没注意報を県内全域に出した。
環境省によると、2024年度のクマによる人身被害人数(速報値)は85人(うち死者3人)。過去最多だった23年度の219人(同6人)を大きく下回った。しかし、NPO法人・日本ツキノワグマ研究所の米田一彦理事長によると、昨年秋にクマの餌となるドングリが豊作になった結果、今年は冬眠中にクマの出産が増えたとみられ、母グマが子グマを守ろうとより攻撃的になると予測されるという。米田理事長は「春のうちから人身被害が起きる可能性が高い」と注意を呼びかけている。