米海軍のトランプ級戦艦は原子力戦艦、アーレイ・バーク級の後継艦ではない
米海軍は今後30年間をカバーする造船計画を11日に発表し、トランプ級戦艦については「原子力戦艦だ」「原子力戦艦はアーレイ・バーク級駆逐艦の後継艦ではない」と言及。さらに造船計画から次期駆逐艦=DDG-Xも姿を消し「アーレイ・バーク級建造を当面の間継続する」と述べた。
参考:U.S. NAVY SHIP BUILDING PLAN MAY 2026
ハイエンドの戦闘艦艇を構成する最大戦力=駆逐艦の将来は不確実性が増している
米海軍は今後30年間をカバーする造船計画(U.S. NAVY SHIPBUILDING PLAN MAY 2026)を11日に発表し、この中で「法律で定められた海軍が保有すべき戦闘艦艇の数は355隻で、現在の戦闘艦艇は291隻しかない。過去20年間で艦艇建造予算は倍増したが、2003年から保有する艦艇の数は増えていない。これは産業界だけの問題ではなく、海軍の艦艇調達にまつわる構造的な問題に根ざした問題だ。海軍の艦艇調達は管理面で進歩したものの運用面で大きく劣化した。これらの問題は政府説明責任局や議会調査局などの内部調査で特定されている」と指摘。
出典:U.S. NAVY
今後については造船計画の中で「上手くいっていることは継続し、上手くいっていないことは修正する。これは初期調達から維持管理に至るまでのライフサイクル全体を視野に入れ、将来に先送りしてきたコストと即応性に関するリスク=調達慣行の改革を行うことを意味する」と述べており、大統領令第14269号、海洋行動計画、防衛調達慣行の改革によって待望の再工業化が始まり、旧手法から脱却、責任ある管理、説明責任、規律ある実行へと移行が進んだと強調している。
具体的には政府の資金援助で造船所で働く労働者の賃上げが行われ雇用目標を達成し、企業も自社株買いではなく熟練労働者の雇用維持や設備投資に資金を投資して再工業化の基盤を形成しつつある。さらに将来の海軍戦力はハイエンドとローエンドのプラットフォームを組み合わせたものになり「大量生産が可能で戦場環境への適応性が高い無人プラットフォーム建造への新規参入が造船産業に新たな競争をもたらす」と指摘し、造船作業の分散化(モジュール設計を優先して造船作業の分散化率を10%から50%に引き上げる)も推し進めるらしい。
出典:goldenfleet.navy
米海軍の将来戦力は「生存性、指揮統制能力、集中火力能力を提供するハイエンドの戦闘艦艇」「プレゼンス、拡張性、分散型作戦能力を提供する低コストの戦闘艦艇」「量という質、センサー能力、欺瞞能力、消耗可能な戦闘能力、変更可能な能力を提供する無人システム」「紛争環境下での持続的な作戦を可能にする兵站・支援艦艇」で構成され、FY2031までに保有艦艇を395隻から450隻(戦闘艦艇299隻、無人艦艇83隻、補助艦艇68隻)に拡張する予定だ。
トランプ級戦艦(BBG-X)については「原子力戦艦だ」「今後30年間で原子力戦艦を15隻購入する」「原子力戦艦はアーレイ・バーク級駆逐艦の後継艦ではない」と述べ、アーレイ・バーク級駆逐艦の後継艦として5年以上もの投資と開発作業が進められてきた次期駆逐艦=DDG-Xは姿を消し、アーレイ・バーク級駆逐艦については「戦力規模を維持し、安定した造船作業量を確保するためにも当面の間は建造を継続する」「今後16年間で26隻のアーレイ・バーク級駆逐艦がアップグレードされてSPY-6を受け取る」と説明。
出典:U.S. Navy
アーレイ・バーク級駆逐艦の最新バージョン=Flight IIIはAN/SPY-6(V)1を統合するため発電量と冷却能力を2倍以上に強化しなければならず、この改良でアーレイ・バーク級の設計は拡張マージンを使い果たしてしまい「新たに開発された兵器や電子機器を追加するのは不可能=将来のアップグレードが困難だ」と指摘されることが多い。Defense Newsも4月28日のレーザー兵器に関する記事の中で「アーレイ・バーク級駆逐艦に搭載されている60キロワット級のHELIOSや低出力のODINは既存の電力需要、特にFlight IIIに搭載されたSPY-6によって余剰電力が逼迫している」と指摘している。
AeroVironmentは陸軍向けに開発した20キロワット級のP-HELを海軍に売り込んでおり、P-HELの電力供給は艦艇の電気系統に統合するHELIOSやODINと異なり「内蔵バッテリーからの電力供給による運用」と「艦艇からの電力供給による運用」を選択でき、内蔵バッテリーだけでも「連続射撃100秒以上」もしくは「ISR/追尾モードでの警戒なら24時間程度」の運用が可能なので「Flight IIIでの電力確保や継続的な戦闘能力の障害にはならない」と主張している。
出典:Photo by Lt. Sydney Sisler
米海軍も造船計画の中で「アーレイ・バーク級駆逐艦は現在の世界で最も能力の高い戦闘艦だが、その能力はすでに限界に達している」と述べて「BBG-Xの必要性」を強調しているが、BBG-Xはアーレイ・バーク級駆逐艦の後継艦ではなく、BBG-Xは今後30年間で15隻の調達しか予定されておらず、DDG-Xの研究・開発費用もFY2027国防予算案から姿を消しているため、米海軍は拡張マージンを使い果たしたFlight IIIを今後も建造し続けなければならない。
Flight III取得当初は問題が少なくても段階的な能力向上を受け入れる余地が極めて少ない上、設計上の拡張マージンを使い果たしたFlight IIIへの投資効率は良いと言えず、新しいプラットフォームの開発も停止したため「ハイエンドの戦闘艦艇」を構成する最大戦力=駆逐艦の将来は不確実性が増した格好だ。
出典:U.S. Navy photo courtesy of Huntington Ingalls Industries by Matt Hildreth/Released
ちなみに、造船計画の中ではフォード級空母の設計見直しについても「殺傷力のさらなる向上、生存性の向上、生産性の改善を図りながら設計の簡素化とコスト削減の可能性も視野に入れている」「この見直しが完了後に最適な調達および建造方法を決定するための詳細分析を実施する」と言及している。
追記:SNS上で米造船産業の問題、米海軍艦艇の建造遅延、メンテナンス遅延について「最近の米国はどうしたんだ」という意見を目にしたが、この問題は2020年以前から言及されてきた部分で、安全保障のリスクが高まって防衛関連のニュース需要が増えたため、こういったマニアックな話題が一般人の方にも届き始めているのだろう。
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※アイキャッチ画像の出典:goldenfleet.navy