米保険ユナイテッドヘルスの急落-警鐘鳴らしていた1人のアナリスト

投資調査会社CFRAのペイジ・マイヤー氏は2月、米医療保険大手ユナイテッドヘルス・グループに「売り」の投資判断を下した。同社に対して悲観的な見方を示したのは、ブルームバーグが継続調査するアナリスト30人の中で当時、マイヤー氏ただ1人だった。

  マイヤー氏の目標株価は、ユナイテッドヘルス株がその時点の水準から22%下落するとの見方を含意していた。強気な見方が圧倒的多数を占める中、規制を巡る不透明感や高騰する医療費に関する同氏の警告は、過剰な懸念のように受け止められていた。

  ユナイテッドヘルスは昨年起きた幹部殺害の影響からなお回復途上にあり、コスト上昇にも直面している。しかし、ウォール街では同社を保険業界の指標となる企業で、安全で堅い投資先だとみる向きが多かった。

  マイヤー氏の予測は当たった。ユナイテッドヘルス株は同氏が投資判断を引き下げてから5月20日の取引終了時までに、およそ36%下落。株価は同氏の予想以上に下げたことになる。

  この間に喪失した時価総額は1700億ドル(約24兆4000億円)余り。S&P500種株価指数を構成する企業の中で、同期間の下落率が最も大きい銘柄となった。

  ユナイテッドヘルスは通期の業績見通しを撤回したほか、最高経営責任者(CEO)を突然交代させた。メディケア(高齢者・障害者向け医療保険制度)に関連する不正行為の疑いで刑事捜査を受けているとの報道もある。

  「その判断を下す勇気が自分にあったことを幸運だと感じている」。マイヤー氏はインタビューでそう述べ、「多数派に反する立場を取るのは決して容易ではない」と付け加えた。

  後に続く金融機関も現れた。HSBCはユナイテッドヘルス株への投資判断を「売り相当」に引き下げた。ブルームバーグが調査対象とするアナリストの中で悲観的な見方を示したのは2社目だ。

  だが、なお多くのアナリストがユナイテッドヘルスに強気の見通しを示している。これには、同社のファンダメンタルズとほとんど無関係の要因もあると、複数の市場関係者は指摘する。

  ウォール街で40年近く過ごしてきたウェイブ・キャピタル・マネジメントのチーフストラテジスト、リース・ウィリアムズ氏は、アナリストの間には、企業との関係を損ねて経営陣との面会の機会が減ることを懸念し、過度に批判的な見解を控える傾向があると指摘する。

  カタリスト・ファンズの共同創業者で最高投資責任者(CIO)のデービッド・ミラー氏は、調査部門との間には通常ファイアウォールがあるとはいえ、多くのアナリストは投資銀行部門を持つ金融機関で働いており、現在もしくは将来の潜在的顧客である企業に対して否定的な評価を下すことに慎重になりがちだと述べた。

  こうした要因がユナイテッドヘルスに対するアナリスト評価にどの程度影響を与えたかを判断するのは難しい。同社を肯定的にみるアナリストからは、業界内でのその圧倒的地位や、これまでの際立った業績への言及が多く聞かれる。

  ユナイテッドヘルスの四半期業績は市場予想を上回るのが普通だったし、株価は2008年時に付けた安値から昨年末までに1800%余り上昇していた。

  しかし今年1-3月(第1四半期)決算は、利益が市場予想を下回った。同社は医療費の伸びが想定を上回っていると説明した。

  ユナイテッドヘルスの広報担当者は「さまざまな視点や評価を持つアナリストや投資家など、幅広い関係者に対して情報提供の機会を確保するよう努めている」と述べた。

原題:UnitedHealth’s Plunge Blindsided Analysts Across Wall Street (2)(抜粋)

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