「『卒業したら結婚しようね』とか言ってくれたり」総額3000万円以上使ってきたトップオタク(53)がハマった、地下アイドル「釣り」テクニックとは

 かつてAKB48の「選抜総選挙」の投票券や握手券を目当てにCDを合計3000万円以上購入し、TO(トップ・オタク)のひとりとして名を馳せたかちょす氏(53)。

 しかし現在通う地下アイドルは「地上よりお金を使うんですよ」という。その金銭感覚はどうなっているのか。そしてそれだけの金額の“対価”とは何なのだろうか。

かちょすさん ©文藝春秋 撮影・細田忠

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――地下アイドルに行くようになったきっかけは何だったんですか?

かちょす 知り合いに「HEROINES」のライブに誘われたのがきっかけです。最初はあまりピンと来てなかったんですけど、たまたま見にいった「パラレルサイダー」というグループのライブで、天白にこちゃん(現「TENRIN」の七瀬にこ)からめっちゃレスがきて、運命的なものを感じてハマりました。

――なぜ地下アイドルの方がメジャーアイドルよりも推し活にお金がかかるのでしょう。

「給料が親の口座に入るようになっていて53歳ですけどお小遣い制なんですよ」

かちょす 単純にステージ数が多すぎるんですよ。いわゆる“地上”のメジャーアイドルは、ツアーは年に数回だしコンサートの日数も限られていますけど、“地下”は毎日のようにライブがあります。しかも僕は「最前・ドセン」で観ないと気が済まないタイプなので、チェキとあわせると1回のライブで最低1万円くらいかかる。それを週3~4回通うと、それだけで1カ月に20~30万円かかりますね。年間だと400~500万円くらいは使っていることになります。だから貯金はゼロ……だと思います。多分。

 

――多分、というのは?

かちょす 実は、僕が持つと全部使っちゃうので給料が親の口座に入るようになってるんですよ。そこからローンやら必要経費を差っ引かれて、残った金額からお小遣いをもらっている形なので、53歳ですけどお小遣い制なんですよ(笑)。ただ引き落としが足りないときは親が穴埋めしてくれているんですが……。

――親は推し活についてどんな反応を?

かちょす 流石に呆れてるんですけど、弟が結婚して子供も3人いるからか、僕のほうは“バカ息子”枠で可愛がってもらってる部分があるのかな、と。親の家の近くに住んでいて、夕食を食べに行ったりもしますし、関係は意外と良好です。


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――推し活にも実家の理解は大事ということですね。お金は何とかなったとして、正社員をしながら週に何度もライブに行くのは時間も大変ですよね。

かちょす いまはディスカウントストアの時間帯責任者をやっていて、自分でシフトを決められるので夜勤にすればライブ時間とかぶらないんですよね。ある程度の給与とか、勤務時間の調整とかは、推し活を続けるには必須。だから若いオタクには「羨ましいなら偉くなれよ」って言ってます(笑)。

――いまの推しは?

かちょす 一番は「TENRIN」の七瀬にこちゃん。でも最近は通いすぎたせいか、倦怠期みたいな……。

TENRINの七瀬にこさん 本人Xより

――倦怠期というと?

かちょす ずっとライブ観ていると、「いまちょっと俺のこと嫌になってるな」とかわかるんですよ。ある時期から急にレスが来なくなったんですよ。理由はわかっていて、自分以外のオタクを増やそうという時期だと思うんですけど、レスをもらえないと自分は寂しい。そういうのも含めてちょっと距離を置いてます。なので今は別の子を追いかけていて、5月に卒業しちゃうんで、それまではと思って全通してます。

――かちょすさん、元気ですね。

かちょす いや、そうでもないんですよ。去年の3月には脳こうそくで倒れましたし。

――脳こうそくは怖いです。

かちょす 都内の病院に入院したんですけど、入院中にどうしても行きたい「TENRIN」のライブがあって、病院をこっそり抜け出してライブに行ったこともありました。運営の方が見つけて座って見られるように椅子を用意してくれたりして。

――病院を抜け出して大丈夫なんですか?

かちょす ライブ中はちょっとくらくらしましたよ(笑)。でも久々のライブはやっぱり楽しくて意気揚々と病院に戻ったら、ものすごい大ごとになっていました……。警察を呼ばれていて、病院の人に相当怒られました。「非常に申し上げにくいのですが、うちではこれ以上受け入れできません」と言われて出禁になりました。親も平謝りしてました。

かちょすさんの「最初の推し」峯岸みなみさんは2022年に東海オンエアのてつやさんと結婚 本人SNSより

「卒業したら結婚しようね」と勘違いさせてくれるアイドル

――峯岸さん、大場さん、七瀬さんと、歴代の推しに共通点はありますか?

かちょす 自分はもう年齢もいってるし、現実も割と見えてるタイプだと思うんだけど、「妄想とのギャップを埋めてくれる」子がやっぱり惹かれますね。今推してる子は、すごい勘違いさせてくれてるんですよ。

――勘違いさせてくれる?

かちょす 「卒業したら結婚しようね」とか言ってくれたり。

――結婚?


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かちょす アイドルがオタクの気を引くために神対応することを「釣り」っていうんですよ。たとえばオタクに「好き」とか「愛してる」とか言って釣る子もいるんです。今の子はそれがうまくて。

――なるほど。

かちょす デートの話とかも一緒に考えてくれて。何をしようとか、どこに行こうかとか。

――この「卒業応援プロジェクト」のクラウドファンディングにある「2時間の個別オフ会」ですね。30万円って書いてありますが。

かちょす その30万円も「私が払いたいぐらい」とか言ってくれて、本当に口が上手いんですよ。

――それはリップサービスではないんですか……?

かちょす もちろんそれは分かってますよ。でもあえてそれに乗る遊びじゃないですか。そういうのに騙されて推し活をやっちゃってる感じはあるんですけど、でもその分ライブでも超レスをくれますし、それなりに向こうの愛情みたいなのも伝わってくるんで、それでハマっちゃってるかな~、みたいなのはあります。釣られちゃいますね。

 

――いままでアイドルと“繋がり”(私的な交流)を持ったことはないんですか?

かちょす ないですね。もちろんチャンスがあれば繋がりたい気持ちがないわけじゃないですけど、実際にはないですよ。だって出禁が怖いじゃないですか。

「婚期は逃しましたね。自分の子孫を残せないのはちょっと寂しい気持ちはあります」

――聞くのも野暮ですが、推し活をしてて後悔はないですか?

かちょす 婚期は逃しましたね。大学時代はスキーサークルでしたし、20代後半でアイドルを推しはじめる前は普通に恋人もいましたけど、推し活をするようになってからはどうしても優先順位がアイドルになってしまったので。自分の子孫を残せないのはちょっと寂しい気持ちはあります。世間一般的には、50を超えて結婚もせずにアイドルを追っかけてるほうが異常なのはわかってますし。

――でも基本的には満足している?

かちょす そうですね。自分が楽しければいいんで、周囲からいろいろ言われても全然恥ずかしくないというか、逆に誇りに思ってます。だって、ほかの人には味わえない人生を歩んでいると思ってますからね。大場(美奈)がAKBを卒業したときに、これでオタク活動を辞めれるかなと思ったんですけど、今は以前よりもディープにハマって、「もうこれは死ぬまでアイドルオタクだな」って思って、「還暦迎えても最前に行くぞ」って気持ちです。

――とても多くのお金や時間をつぎ込みながらも、かちょすさんは確かに陽キャ感があります。

かちょす もしかすると、複数の推しがいるからかもしれませんね。やっぱり推しが1人だけだと、その子が卒業したりスキャンダルがあったときにダメージが大きいじゃないですか。それよりは2番目、3番目がいた方がいい気はします。

――トップオタで複数の推しがいる人は珍しい気がしますが。

 

かちょす もちろん女の子からしたら、他の子と掛け持ちされるのは気に食わないかもしれませんけど、どこに行くかの自由は僕らオタク側にあるんです。それにイチ推しだけを推していても、その子が責任取ってくれるわけじゃないでしょ? だから、オタクはほかの子に行って楽しんでもいいと思います。いろいろな現場を掛け持ちしてるので、本当に他の事をする時間はないんですけど(笑)。でも「今日はどんなレスが来るかなぁ」って考えてる時がいちばん楽しいです。

――もしいつか結婚するなら、やっぱりアイドルがいい?

かちょす ここまで来るとアイドルしかないですよね。誰か結婚してくれないかなぁ(笑)。


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