韓国が「巨大権力」の検察解体 歴代大統領ら追及の実力組織
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【ソウル=小林恵理香】韓国の李在明(イ・ジェミョン)政権が政府組織の再編に乗り出した。政界捜査などで強い力を持つ検察庁を廃止し、経済政策の司令塔である企画財政省を分割する。国会で圧倒的な多数を占める与党の存在を背景に、一極集中が指摘されてきた権力機構の改革を進めようとしている。
李氏は9月の記者会見で検察改革の意図について「国民の信頼を高め、権力機関を民主的に統制するための制度的な改善だ」と説明した。1948年の政府樹立時に発足した検察庁は78年で幕を閉じる。
検察庁は2026年10月に廃止し、起訴権を持つ公訴庁と捜査権を持つ重大犯罪捜査庁に分ける。汚職や経済犯罪などの捜査は重大犯罪捜査庁が担当し、大統領や国会議員、政府高官への捜査は独立捜査機関の高官犯罪捜査庁(高捜庁)が担当する。
分離したあと各機関の具体的な権限の調整や役割分担が課題となる。行政安全省下に重大犯罪捜査庁が設置されれば、行政安全相が人事権を握ることになり、中立性が担保されるのかとの指摘もある。
歴代の法相と検事総長らは9月末、検察庁廃止は「憲法の基本価値を傷つける立法権の乱用だ」とする声明を発表した。憲法裁判所に法案の違憲性を問うと反発している。
検察改革は長年の課題だった。韓国では保守と革新(進歩)が対立する政治構図のもとで、検察が政権交代のたびに前政権を徹底的に捜査し、不正を追及してきた。時の政権との利害関係による捜査の独立性や公平性への疑念の声も高まった。
2009年の盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の自死は、改革の気運が高まる契機となった。当時、革新系の盧政権から政権交代した保守系の李明博(イ・ミョンバク)政権下で、盧氏は不正資金疑惑で検察から捜査を受けていた。
盧氏と弁護士時代からの同志でもあった革新系の文在寅(ムン・ジェイン)政権は検察の捜査権の大幅な縮小に動いた。
文政権の方針に反対したのが、当時検事総長を務めていた尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏だった。尹氏が大統領に就任すると検察の捜査権縮小は見直しとなった。
李在明氏も尹政権下で背任や収賄などの罪で在宅起訴された。韓国大統領は在任中、内乱や外患の罪を除いて刑事訴追を免れる不訴追特権がある。李氏が大統領に就任してから、李氏が抱えていた複数の刑事裁判は延期状態となっている。
現在国会で単独過半数を握る与党「共に民主党」は、日本の最高裁判所にあたる大法院の裁判官増員などを軸とした大胆な「司法改革」も目指している。野党「国民の力」などを中心に「李氏自身の司法リスクを回避しようとしているのではないか」と反発の声も大きい。
国民の間でも賛否は分かれる。世論調査会社・韓国ギャラップの9月第2週の調査によると、今回の検察庁廃止などの改革案に賛成すると答えたのは回答者全体の51%で反対は37%だった。
李政権は一連の省庁再編のなかで韓国の財務省にあたる「企画財政省」の分割も決めた。08年に発足した同省は経済政策から予算、税制、公共機関管理までを一手に担うことから「恐竜官庁」ともやゆされてきた。
経済・金融政策を総括する「財政経済省」と、首相室傘下に新設され国家財政と予算を担当する「企画予算処」に分ける。政府は予算編成と政策立案の機能を分離することで、効率を高める意図があると説明する。
李在明氏は24年12月の「非常戒厳」を繰り返さないために権力構造の改革が必要だと唱えてきた。今回の再編で自身が重要公約に掲げていた科学技術と人工知能(AI)分野を総括する科学技術副首相を新設するなど、公約の実行に向けた体制作りを進める。
李政権は「首都機能の一極集中」の緩和にも前向きだ。任期内にソウルにある大統領府や国会議事堂を中部・世宗(セジョン)市に移転させると掲げる。世宗市にはすでに省庁の3分の2程度がソウルから移転している。
大統領府や国会議事堂を移転させれば事実上の首都移転となる。憲法改正が必要になるため、実現には乗り越えるべき課題は多い。
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