NASA 中国人研究者の活動禁止、月めぐる競争激化 「米国が最初だ」
NASA本部前にある同局のロゴ=6月2日、ワシントン/Kevin Carter/Getty Images/File
(CNN) 米航空宇宙局(NASA)は、米国ビザを持つ中国籍の研究者の施設立ち入りやコンピューターなどの利用を禁止していることを明らかにした。宇宙進出をめぐる米中の競争を大幅にエスカレートさせた形だ。中国が有人宇宙船の月面着陸を目指し、月居住の可能性を探る中、トランプ政権は一層警戒感を強めている。
報復を恐れて匿名で取材に応じた2人のNASA職員によると、新しいポリシーは9月5日に導入され、NASA全体で数百人の科学者や研究者などに影響が及んでいるという。多くは気候科学や宇宙分野の研究に取り組む研究者だった。
NASA広報は、対象者は100人に満たないとしている。
NASAのショーン・ダフィー暫定長官は、「月を目指す中国に善意はない。米国が最初に到達し、米国と国際パートナーの平和を守る」とX(旧ツイッター)に書き込んだ。
中国人研究者らは、NASAの施設に立ち入ることも、NASAの同僚とのオンライン会議に参加することも、NASAのスーパーコンピューターを利用することもできなくなった。特に気候変動の研究にはスーパーコンピューターが欠かせない。
こうした制限はNASAの研究に支障をきたしていると関係者は指摘。研究活動のために渡米して、成果を通じてNASAに貢献している若い中国人研究者のキャリアが阻まれかねないと危惧する。
NASAが関係する会合やオンライン会議も制限の対象となる。NASAはただでさえ、大幅な予算カットと人員削減で混乱状態にあり、今回の措置はそうした混乱に一層拍車をかけている。
NASAのベサニー・スティーブンス報道官は11日、米国ビザを持つ中国人に対する制限について、「我々の活動の安全保障対策を徹底させるため、中国人に対し、施設への立ち入りやサイバーセキュリティーアクセスの制限を含む内部措置を講じた」とCNNに語った。
米中の競争は宇宙進出をめぐっても激化している。
中国は2030年までに宇宙飛行士を月面に降り立たせることを目標としている。一方NASAは、27年半ばまでに再び宇宙飛行士を月に送り込むことを目指す。
ダフィー暫定長官は8月、計画を前倒しして、将来的な定住のため原子力発電所を月面に設置するようNASAに指示したと述べて物議をかもした。
ダフィー氏は当時、「我々は月を目指して中国と競争している」と記者団に語り、もし他国に先を越されれば、その国に「立ち入り禁止区域」を設定され、NASAの月面基地計画が妨害されかねないと危機感を示していた。
そうした競争のさなかにあって、NASAは数千人の人員と数十億ドル規模の予算を失う見通しだ。
関係者によると、NASA職員は少なくとも4000人がトランプ政権の早期退職勧告に応じた。2026年度予算案では、NASAの予算が全体で24%削減されている。月面着陸のアルテミス計画予算はほぼ据え置かれているが、科学研究関連予算はほぼ50%削減される。