トランプ政権下で、アメリカの科学者たちがヨーロッパへ。「入学取り消し」の学生も
行き場所がある人はいいけど、不採用や入学取り消しはキツすぎる。
フランスのエクス=マルセイユ大学は、2025年3月はじめにSafe Space for Science構想を発表し、アメリカから逃れてくる科学者たちに安全な居場所を提供すると呼びかけました。
安心・安全・安定を求めて科学者が流出
トランプ政権下のアメリカでは、多くの研究者が突然の研究費削減や、言論や研究分野に対する規制の強化に直面しています。その結果、40人にのぼるアメリカの科学者が呼びかけに応じ、新たな環境での研究生活を模索することになったといいます。
エクス=マルセイユ大学の学長であるEric Berton氏によると、その科学者の一部はフランスに居住地を見つけることになります。
Safe Space for Scienceに応募している40人の科学者には、スタンフォード大学、エール大学、NASA(アメリカ航空宇宙局)、アメリカ国立衛生研究所(NIH)、ジョージ・ワシントン大学からの研究者が含まれているとのこと。
彼らが取り組んでいる研究テーマは、健康(LGBT特有の医療問題、疫学、感染症、医療格差、免疫学など)、環境と気候変動、人文科学や社会科学、天体物理学など、多岐にわたっています。どの研究テーマもトランプ政権下のアメリカでは、評価されにくくなっています。
エクス=マルセイユ大学がアメリカ人科学者に呼びかけを行なったのは、2025年3月7日のこと。トランプ政権が大学から資金提供を打ち切るニュースが続き、研究テーマに厳しい制約をかけ始めていた時期でした。研究者たちにとって、まさに逆風が吹き荒れていたわけです。
Eric Berton氏は2025年3月12日に次のように述べています。
「私たちは今、新たな頭脳流出(編注:優秀な人材が他国などに移住すること)を目の当たりにしています。できる限り多くの科学者が研究を継続できるよう、あらゆる支援を行なっていきます。しかし、私たちだけではすべての要請に応えられません」
Berton氏は、フランス政府やヨーロッパの各国政府に協力を求めています。
相次ぐ不採用と入学取り消し
トランプ政権は、アメリカの科学と研究に対して、今後何世代にもわたって影響をおよぼすような壊滅的な打撃を与えています。多くの大学や研究機関は、画期的な成果をあげるために連邦政府からの資金に頼っていますが、その資金が突然消えたんです。
3月初旬には、マサチューセッツ州の公立医科大学であるUMass Chan Medical Schoolが採用の凍結を発表しました。すでに合格を通知していた学生たちには、入学を取り消す旨を伝えるメールが送られたとのこと。ひどい…。
UMass Chanが送ったメールの内容は、かなり厳しいものでした。こんなん泣く。
「生物医学研究に対する連邦資金の不確実性が続いているため、UMass Chanは多くの同業大学と同様に、入学予定の学生に安定した博士論文研究の機会を確保するという重大な課題に直面しています。その結果、残念ながら2025年秋学期の入学許可をすべて取り消さざるを得なくなりました。
これは軽々しく下した決定ではありません。私たちは、この知らせがどれほど失望感を与えるかを理解しています。皆さんの優れた学業成績や将来性を高く評価しているだけに、私たちの手の届かない要因によってこのような結果になったことを心から遺憾に思います」
UMass Chan Medical Schoolは、ルー・ゲーリッグ病として知られるALS(筋萎縮性側索硬化症)治療における主要な研究機関です。この病気の研究に対する最大の資金提供者がNIHで、毎年約5,000万ドルもの助成金が提供されていました。
ところが、トランプ政権がNIHの数百件にもおよぶ研究助成金を打ち切ったため、その資金は一瞬で消え去ってしまいました。
まだ終わりません。ペンシルベニア大学もまた、学生たちに受け入れ断念を伝えています。同大学の教授はThe Daily Pennsylvanianの取材に対し、資金援助の打ち切りは突然で、すでに多くの学生が大学院に合格したあとだったとし、次のように話しています。
「数百件の願書を審査し、数十人の最終候補者と面接を行ないましたが、基本的にそのすべての作業が無駄になりました。リストの半分以上が削減されてしまい、願書を出してくれた人たちの時間も無駄にしてしまいました」
フランスは本気の支援
エクス=マルセイユ大学は、3人のアメリカ人科学者を3年間受け入れるために、すでに1,600万ドル(24億円)の予算を確保していると発表しています。
さらに、地元フランス政府と連携して、「科学者とその家族のマルセイユおよび地域への受け入れを円滑化する」と述べ、これには「雇用、住宅、学校への編入、交通手段、ビザ」が含まれるとしています。
抑圧された環境ではなく、自身の能力を望んでくれる環境で研究にいそしむほうが良い結果につながる可能性もあるのでは、と現状を見ると感じてしまいます。そう易々と離れられないかもしれませんが、今は研究に向き合うためにアメリカを離れ、4年後に戻ってこられるように願うしかないかもしれません…(もしかすると8年後になるかもしれないけれど)。