コラム:イラン戦争がもたらす3つの「思わぬ副産物」、再生エネとEU結束を後押しか
[ワシントン 20日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領は太陽光発電と風力発電を嫌い、欧州連合(EU)も毛嫌いしているようだ。そして同氏は、他者を自分の意のままに従わせることを好む。
だからこそイラン攻撃に踏み切った際、再生可能エネルギーの普及を促進したり、EUの結束強化を意図していたはずがない。自らの権力を傷つけることが目的だったはずもない。それでも、米専門家が戦争犯罪に当たる可能性があるとみるこの無計画な攻撃から、こうした3つの「思わぬ副産物」が生まれる公算が大きい。
イスラエルと連携して始めたこの攻撃は、多くの負の影響をもたらしている。中東での死と破壊にとどまらず、国際通貨基金(IMF)が先週指摘したように、世界経済の成長率低下とインフレ率上昇を招いている。同時に原油価格の上昇により、ロシアの原油および石油製品の輸出収入は先月、2月比でほぼ倍増し、190億ドルに達した。これは同国がウクライナに対する違法な戦争を継続するのを助けている。米国の影響力も打撃を受けており、それが中国に今後数年で影響力を振るわせる余地を与えるのであれば、残念なことだ。
トランプ氏は、自分に有利な条件でディールをイランから引き出すか、力ずくで屈服させることで、最終的に勝者として戦争を終える可能性も残る。しかし現時点では、望みをかなえられず、意図しなかった結果の一部が、まさに本人の望みとは正反対になる公算が大きい。
<トランプ・パワー>
最大の影響は、トランプ大統領自身の権力低下だ。戦争は国民に不人気で、特にガソリン価格を押し上げた。また、支持基盤の中核も分断しており、タッカー・カールソン氏やマージョリー・テイラー・グリーン氏といった有名な元「応援団」が、トランプ氏が(イランでの)「素晴らしい滞在」と呼ぶ戦争を批判している。
物議を醸す経済・移民政策への反発で既に低下していた権力は、さらに下落する可能性が高い。イラン戦争に反対したローマ教皇レオ14世を激しく非難し、自身をイエス・キリストになぞらえた人工知能(AI)生成画像を投稿したことで、キリスト教徒の支持を失う恐れもある。
予測市場によれば、有権者は11月の中間選挙で共和党を罰する公算が大きい。そうなれば、議会で法案などを通す力は制限される。さらに、これまでおおむね要求に従ってきた上院・下院の共和党議員も、次第に距離を置く可能性がある。現職期の早い段階で圧力をかけられた法律事務所や大学といった市民社会組織も、敗者に見える相手には従おうとしなくなる。
トランプ氏はより過激な行動で対応するかもしれないが、それはさらなる抵抗を招くだろう。その結果、大統領令による関税発動や、米連邦準備理事会(FRB)議長の解任ができなかったことに続く、一連の失敗が重なる恐れがある。
外交では、議会や裁判所の影響力が比較的弱く、依然として自由裁量があるように見える。しかし、ここでも独裁者ではない。米紙ニューヨーク・タイムズによれば、トランプ氏は政権内の多くの助言に反してイラン戦争に踏み切った。昨年の12日間に及ぶイランとの戦争や、1月のベネズエラ指導者の拘束を受け、連勝気分だった可能性はあるが、今回の戦争が大失敗と見なされれば、新たな対外戦争を始めるのは難しくなる。
トランプ氏が熱望するグリーンランドの併合は、特に困難となる。同地は北大西洋条約機構(NATO)加盟国デンマークの一部だからだ。トランプ氏はNATOを嫌っているが、多くの共和党員は重視している。またウクライナに対する国民の支持も強く、弱体化したトランプ氏が同国にロシアとの悲惨な合意を強いるのは難しいだろう。
<欧州を再び偉大に>
欧州は弱体化し、分断されている。欧州の指導者たちは、米国がウクライナと欧州を見捨てた場合、ロシアに対抗できないのではないかと懸念している。そのため、トランプ氏の脅しや侮辱に耐えてきた。
しかし、イラン戦争は欧州全体で反トランプ感情をあおっている。その結果、支持率を上げる確実な方法の一つは、彼に立ち向かうこととなった。スペインのサンチェス首相は米国に国内基地の使用を認めず、スターマー英首相はホルムズ海峡封鎖への関与を拒否した。トランプ氏と近いと見られてきたことが、ハンガリー総選挙でのオルバン首相大敗の一因だった可能性もある。
他の欧州の極右指導者も距離を置きつつある。かつて親交があった英野党政治家のナイジェル・ファラージ氏は今月、「彼のことは知っているが、それだけだ」と述べた。イタリアのメローニ首相も、ローマ教皇を擁護したことで、トランプ氏との関係が冷え込んだ。
トランプ氏の要求に「ノー」と言うだけで、欧州が再び偉大になるわけではない。しかし、脅しは軍事力強化と結束を加速させる触媒になり得る。EUを離脱した英国ですら、EUとの関係深化を望んでいる。
<再生可能エネルギーを後押し>
トランプ氏は気候変動を「でっち上げ」と呼び、「(石油を)掘れ、掘れ」と繰り返す。皮肉にも、イラン戦争は再生可能エネルギーを後押しする可能性が高い。
自国で石油やガスが生産されない国々は供給不足を警戒している。多くにとって最善の中期的対応は、地球温暖化対策にもなる太陽光・風力発電の導入加速だ。
欧州では、2022年のロシアによるウクライナ侵攻でガス供給が混乱した後、再生可能エネルギーが急増した。国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長は先週、同様に、イラン戦争は多くの国で低炭素電源の導入を加速させると語った。
「政治的柔術」の教義によれば、衝動的に打って出た指導者は、ブーメラン効果で望みと正反対の結果を生むことがある。トランプ氏はイランを巡り、そのセオリーが正しいと示しているようだ。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
ロイターBreakingviewsは、重要な争点となるべき金融に関する知見を提供する世界有数の情報源です。1999年にBreakingviews.comとして設立。2009年にトムソン・ロイターが買収、金融コメンタリ―部門としてロイターブランドの一員となりました。日々の主要金融ニュースについて、ニューヨーク、ワシントン、シカゴ、ロンドン、パリ、マドリード、香港、北京、シンガポールに駐在するコラムニストが、専門的な分析を提供します。英文での最新コラムを掲載した電子メールの定期購読を含め、breakingviews.comの解説や分析(英語)をすべてご覧になりたい方は、[email protected]までご連絡ください
Hugo Dixon is Commentator-at-Large for Reuters. He was the founding chair and editor-in-chief of Breakingviews. Before he set up Breakingviews, he was editor of the Financial Times’ Lex Column. After Thomson Reuters acquired Breakingviews, Hugo founded InFacts, a journalistic enterprise making the fact-based case against Brexit. He was also one of the founders of the People’s Vote which campaigned for a new referendum on whether Britain should leave the EU. He was one of the initiators of the G7’s “partnership for global growth and infrastructure”, a $600 billion plan to help the Global South accelerate its transition to net zero. He is now advocating a $300 billion “reparation loan” for Ukraine, under which Moscow’s assets would be lent to Kyiv and Russia would only get them back if it paid war damages. He is also a philosopher, with a research focus on meaningful lives.