屋久島に5カ月滞在でわかった、努力なしで人生を変える「Awe体験」の効果

2年前のコロナ禍が一段落した頃、ちょっと流行していたワーケーションを試しました。

行き先は、鹿児島県南端から約60km沖合の島、屋久島です。

「屋久杉の巨木があって、世界自然遺産である」くらいしか事前知識がないまま飛び込んだ島では、週の6日はデスクワーク、週に1日だけ自由行動という制限を課しました。

5カ月の滞在期間で変化したこと

自由行動の日は、もっぱら森林を探索しました。

観光パンフでは、縄文杉を筆頭とする屋久杉がよく取り上げられています。ですが筆者は、屋久杉見学のために整備された道を外れたところにたたずむ、ガジュマルやアコウの大木に強烈に魅入られました。

5カ月の滞在期間、そうした樹々を眺めているうちに、自分の内面に何か変化が生じているのを感じました。その変化は、最終的には感性や直観力を高める効果を実感したのです。

ただ、どう言語化したらいいのかわからず、ずっとモヤモヤしていました。

それが最近になって、いくつかの資料に出合うことで手がかりがつかめました。キーワードは、「畏敬の念」と「Awe体験」と呼ばれる概念です。

満足度やウェルビーイングを高める「畏敬の念」

「畏敬の念」という言葉は、なんだか仰々しい印象があります。

『ハーバード・ビジネス・レビュー』翻訳版で、「「畏敬の念」が個人と組織のレジリエンスを高める」という論文では、「畏敬の念」の定義を、「簡単には説明できない強力なものに出会った時に感じる不思議な気持ち」としています。

これは、屋久島の古木を見たときの自分の心象を、うまく表していることに気付きました。ちなみに論文では、「強力なもの」とは、「満天の星空」から、人から受けた「とても親切な行為」まで、非常に幅広くとらえています。

なぜなら畏敬の念は、「人生を通じて満足度やウェルビーイング」を向上させ、「寛大さや思いやりなど社会性のある行動」を促すなどのメリットがあるからです。

単に感動的な出来事では、なかなかそこまではいかないでしょう。

単に体験するだけで得られる様々なメリット

屋久島での劇的な体験は、「Awe(オウ)体験」とも言い表すことができます。

「Awe」も「畏敬の念」を意味します。つまり、「Awe体験」とは畏敬の念を覚えるような体験を指し、「Awe Effect(Awe効果)」と言います。

このAwe効果が日本で広く知られるきっかけになったのが、2023年1月に翻訳版が出た書籍『Awe Effect』(K・サンドバリ著、S・ハンマルクランツ著、喜多代恵理子翻訳/サンマーク出版)です。

本書の冒頭では、その効果が列挙されています。以下、引用しましょう。

  • 健康になった
  • ストレスが軽減された
  • 人とのつながりが強くなった
  • 頭の回転が早くなった
  • 想像力が豊かになった

こんなにあるなんて、すごいと思いませんか?

しかも、ほかのスキルやライフハックと違って、一生懸命に努力を繰り返す必要はありません。時々、「Awe体験」をするだけでいいのです。

もうこれは、実践しない手はないと思います。

気軽にいろいろな方法で得られる「Awe体験」

では、具体的にどうすればいいかという話に移りましょう。

まず、屋久島に半年近くも滞在する必要はありません。

なかでもとっつきやすく、実効性も期待できるのは、手近な場所での森林浴です。森林浴という言葉は、1982年に日本政府が作ったものです。

「室内での長時間労働がストレスや健康被害を招いている」との認識から、政府は「森林セラピーロード」の認定制度を設けました。

現在、北海道から沖縄まで60カ所以上の森の道が認定されています。いずれも休憩施設などが整備され、無駄なストレスを感じずに「Awe体験」ができます。

「畏敬の念に打たれる」簡単な方法

多忙すぎる現代人に向けた啓発の書、『「怠惰」なんて存在しない』(D・プライス著、佐々木寛子翻訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン)でも、「畏敬の念に打たれる」簡単な方法が記されています。たとえば、

  • 具体的な目的もなしに、新しい街を訪れて探検する。
  • 通勤に初めての経路を使ったり、近所でも馴染みのない脇道に入って歩いてみたりする。
  • 友人や同僚に、その人の好きな分野について教えてもらう。本気で耳を傾け、何かを学ぼうとすること。

こうしたハードルの低いやり方でも、必ずとは保証できませんが「Awe体験」が期待できるのです。

このほか、美術館に行って芸術作品を鑑賞する、IMAXシアターで映画を観る、好みのポップミュージックやサウンドトラックを聴くことでも「Awe体験」が得られることがあります。

やってみない手はないでしょう。今日からさっそく、できる範囲でトライしてみてください。

Source: Harvard Business Review

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