コラム:パリ協定から10年、米中欧の自国優先主義で険しい道のり

写真は発電用の風車。7月23日、ベルギーのワレンメ近郊で撮影。REUTERS/Yves Herman

[ロンドン 17日 ロイター] - ブラジルで開催中の国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)は2週目に入ったが、気候変動対策を巡る世界的な動きは、国際的な枠組みの「パリ協定」が採択された10年前から激変した。かつて広く浸透していた協力の精神は、経済的な競争と、世界最大級の温室効果ガス排出国間の著しい気候政策の違いによって打ち砕かれてしまった。

2015年12月のパリ協定採択から10年。エネルギー研究所の24年統計によると、世界の再生可能エネルギーの消費は3倍に増え、太陽光発電では7倍余りに急増した。しかし化石燃料の消費は増加し続け、世界のエネルギーミックス(電源構成)に占める風力と太陽光の割合は、この10年で4%から9%に上昇したにすぎず、現実は厳しい。

そして、恐らくこれと同じくらい重要なのは、米国、中国、欧州が近年のエネルギー移行で国際協力よりも各国・地域ごとの経済的・政治的現実を優先した結果、移行がそれぞれ異なる道筋に分かれてしまったことだ。

<我が道を行く中国>

エネルギー消費と二酸化炭素(CO2)排出が世界最大の中国は過去30年間にわたり、国内の産業と都市、中間層の成長を支えるために膨大な量の石油、天然ガス、石炭を輸入してきた。そのため中国のエネルギー政策は、輸入依存を減らしたいという意向がますます大きく反映されるようになっている。この目標自体が、石炭、石油、ガス、再生可能エネルギーを問わず国内のエネルギー源への投資を押し進める一方、長期的には輸入化石燃料の需要を減らすべく電気自動車(EV)製造や他のグリーン技術の拡大を促す推進力になっている。

実際、中国は今では、世界のエネルギー移行を支える技術や素材―例えば太陽光パネルや電池、レアアースなど―の分野で他の国・地域を圧倒している。

中国はクリーン電力の導入量でも群を抜いており、昨年は世界の再生可能エネルギー容量増加分の60%以上を中国が占めた。国際エネルギー機関(IEA)によると、中国の風力と太陽光の発電容量は24年末までに1400ギガワットを超え、政府の掲げる予定より6年も早く目標を達成した。

もちろん、中国は増大する電力需要に応え、変動しやすいという再生可能エネルギーの特性に対処するため、低コストの石炭火力発電所の設備を引き続き拡大している。しかし60年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成を目指しており、排出量はすでにピークに達している可能性がある。

中国がエネルギー移行を主導したいと望む背景には、自国の経済的利益や、世界の主要大国としての地位を固めたいという思惑があるかもしれない。しかし、その急速な再生可能エネルギー導入が気候変動分野における過去10年間で最も明るい話題であるのは間違いない。

Global energy consumption

<採掘続ける米国>

トランプ米大統領が2025年1月の2期目就任時にまず行った政策の1つが、米国のパリ協定離脱だった。

将来の政権下で米国がパリ協定の枠組みに復帰する可能性はあるが、米国は膨大な石油・ガス資源を国内に抱えているという事実が今後数十年にわたりその気候政策に強く影響する公算が大きい。米国は現在、原油生産と液化天然ガス(LNG)輸出が世界最大で、両燃料の世界供給の5分の1を占める。

米国は太陽光や風力発電の潜在力が極めて大きいが、トランプ氏がバイデン前政権のクリーンエネルギー政策の大部分を撤廃したことで、この分野は急激に鈍化する見通しだ。また、政治面と規制面で不確実性が大きいことから、投資家は低炭素技術への投資再開を何年にもわたりためらうだろう。

確かに、米国は14年以降、安価な天然ガス生産が急増したおかげで環境への負荷が大きい石炭火力発電所の置き換えが進み、エネルギー関連の排出量が07年のピークから20%以上も減少した。しかし今後はエネルギー転換が遅れ、政策変更に振り回される可能性が高い。少なくとも、化石燃料を生産する経済的利益が、気候変動のリスクを上回らなくなる時点まで、こうした状況が続きそうだ。

Renewable power supply

<教訓を得た欧州>

欧州は何十年もの間、エネルギー移行の声高な提唱者で、欧州連合(EU)と英国はパリ協定に続き、50年までに排出量実質ゼロを達成するための野心的な法律を策定した。

しかし22年にロシアがウクライナへ侵攻して戦争に突入すると、対ロシア制裁によって物価が高騰して家計や企業を揺るがし、各国政府はエネルギー戦略の劇的な転換を余儀なくされた。

ロシア産の豊富なガス・石油供給が急激に途絶え、工業活動が大幅に減速して経済が打撃を受けた結果、各国政府は看板政策だった気候政策の一部を後退させた。

欧州は今回のエネルギー危機から、単一のエネルギー供給国に過度に依存するリスクについて教訓を得た。ロシアは22年まで、欧州のガス需要の40%、石油需要の約3分の1を担っていた。これらの割合は急速に低下したものの、欧州は依存先がロシアから米国に代わっただけだ。

欧州は中国と同様にエネルギー輸入の削減を目指しているが、再生可能エネルギーへの投資はコストが高く、再生エネルギーのサプライチェーンを中国が支配していることから、固有のリスクにもさらされている。

同時に、経済活動の低迷とエネルギー高が国内政治で争点となり、特に右派政党を中心に、ネットゼロ政策については廃止するにせよ縮小するにせよ、さらなる後退を求める声が高まっている。

パリ協定からの10年、中国、米国、欧州のエネルギー政策の道ははっきりと分かれ始め、一致団結した目標達成よりも戦略的・経済的現実が優先されている。このことはエネルギー移行の停滞を意味しないが、その歩みは10年前に理想主義者たちが想像したよりも不安定かつまとまりを欠き、自己利益を優先した形になりそうだ。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Ron is the Reuters Energy Columnist. He offers commentary on global energy markets and their intersection with geopolitics, the economy and every day life. From oil and gas to solar and wind power, the world's growing demand for energy is shaping governments' efforts to expand their economies while the world also seeks to decarbonize. Prior to that, Ron was Oil and Gas Corporates Correspondent at Reuters since 2014, covering the world’s top oil and gas companies and their transition into low carbon energy. He has broken major stories on companies including Shell, BP, Chevron and Exxon. He also looks at the physical oil markets with a focus on European refining.

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