小児アスリートの3割以上、青年アスリートの5割以上が成長痛を経験 早期の栄養教育と予防戦略が重要

8~17歳の小児・青年期アスリートの約8~9割が筋骨格系の痛みを自覚していて、「成長痛」との診断を受けている割合も、小児期では3割強、青年期では5割に及ぶという調査結果がスペインから報告された。この研究では、成長痛の一因の可能性のある食習慣についても調査しており、痛みのあるアスリートとないアスリートで、食習慣に有意な違いがみられたという。

アスリートの成長痛の実態を探る横断研究

成長痛は小児の反復性四肢痛の一般的な病態の一つであり、その有病率は調査対象により2.6~49.4%と広い範囲に分布している。成長痛の痛みは通常、夜間に増強し、朝には消退する。成長痛の原因はいまだ特定されていないが、成長ホルモンの分泌が夜間に亢進することが疼痛の日内変動に関与しているのではないか、骨の成長がインパルスを引き起こし夜間は外部刺激が少ないために疼痛が顕著になるのではないかといった説が提唱されている。また、ビタミンDの欠乏など栄養因子が関与する可能性も指摘されている。

一方、栄養に関しては、成長痛の有無にかかわらず、小児・青年期にはとくに重要であることは論をまたない。適切な栄養素の摂取につながる食事スタイルとして、海外では地中海式ダイエットが広く浸透している。地中海式ダイエットは、心血管代謝に対して保護的に働くだけでなく、カルシウムやビタミンD、良質なタンパク質の摂取にも適しており、近年、スポーツ栄養の領域でも評価されている。しかし、地中海式ダイエットと成長痛との関連はほとんど研究されていない。

これらを背景として、今回紹介する論文の研究では、小児・青年期アスリートの成長痛の有病率の推定、および、成長痛と地中海式ダイエットとの関連性の有無が検討された。

小児アスリートの78.5%、青年アスリートの93.5%が「疼痛あり」

調査対象は、スペイン国内の5カ所のスポーツクラブ/アカデミーに所属している8~17歳のアスリートであり、とくに除外条件は設けず、916人を対象とした。参加している競技はサッカーが最多であり、ハンドボール、バレーボール、水泳等が続いた。

疼痛に関しては、「ふだん、スポーツ中に怪我や転倒などをしていない場合でも、筋肉、関節、骨、または腱に痛みや不快感があるか?」、「とくに、夜間に原因不明の痛みを感じるか?」、「医師から成長痛と言われたことがあるか?」と三の質問を行い、いずれかに肯定的な回答した場合は「疼痛あり」と定義した。

解析は、小児(8~12歳)と青年(13~17歳)に分けて行われている。

小児アスリートの32.6%、青年アスリートの51.9%が「成長痛の診断歴あり」

小児アスリート(242人)は男児52.9%で、トレーニング時間は3.7±1.1時間/週、サプリメント利用率0%であり、「疼痛あり」の該当者率は78.5%と約8割だった。それにもかかわらず、鎮痛薬を使用している割合は9.5%にすぎなかった。成長痛の診断歴がある割合は32.6%だった。

一方、青年アスリート(674人)は男子51.0%で、トレーニング時間は7.2±1.2時間/週、サプリメント利用率7.7%であり、「疼痛あり」の該当者率は93.47%と9割を超えていた。それにもかかわらず、鎮痛薬を使用している割合は15.1%にすぎなかった。成長痛の診断歴がある割合は51.9%だった。

性別で比較すると、小児アスリートは「疼痛あり」の該当者率が、男児72.7%、女児85.1%で女児のほうが有意に高値だった。一方、青年アスリートは同順に94.2%、92.7%でほぼ同等だった。なお、成長痛の診断歴がある割合は、小児・青年ともに性別による有意差がなかった。

小児・青年アスリートの疼痛発現抑制のため、早期の栄養教育と予防介入が求められる

食事スタイルは、子どもの食習慣の地中海式ダイエットらしさを判定する16項目の質問票(KIDMED test)で評価した。KIDMED testは0~12点の範囲でスコア化され、8点以上は地中海式ダイエットの高い遵守、4~7点は中程度の遵守、3点以下は低い遵守と判定する。

小児アスリートは、高遵守が39.7%、中遵守が44.2%、低遵守が16.1%、青年アスリートは同順に45.1%、28.8%、26.1%であり、両群ともに中間的なスコアだった。より詳細に比較すると、小児は青年よりも果物と野菜を摂取している割合が高く、青年は健康的な脂質・炭水化物を摂取している割合が高かった。

痛みのあるアスリートとないアスリートでの食習慣の比較

次に、疼痛の有無別に地中海式ダイエットの遵守状況を比較した結果をみると、低遵守グループでは、疼痛なし群とあり群の割合に有意差はなかった(27.1 vs 23.0%)。しかし、中遵守グループでは、疼痛なし群は38.5%を占め、疼痛あり群は32.2%であり、疼痛なし群が有意に多く分布していた(p<0.05)。一方、高遵守グループでは、疼痛なし群は34.4%を占め、疼痛あり群は44.8%であり、疼痛あり群が有意に多く分布していた(p<0.0001)。<>

また、健康的な脂質を摂取している割合は、疼痛なし群が66.7%、疼痛あり群が78.8%だった(p<0.0001)。しかし、非健康的とされる食品を摂取している割合は、疼痛なし群が35.4%であるのに対して、疼痛あり群は49.3%と有意に高かった(p<0.0001)。<>

著者らは本研究について、小児に関しては保護者のサポートを受けて回答したケースが多いと考えられ、回答内容にバイアスがかかっている可能性があること、アンケートの結果のみの解析であり食事記録や臨床データは評価していないことなどの限界があるとしている。

そのうえで、「結論として本研究は、若年アスリートにおける筋骨格痛の有病率の高さを明らかにし、栄養面などの改善可能な因子へ対処する必要性を強調している。運動能力の高い若年者において、筋骨格系の健康の増進と回復の促進、および疼痛発生率を低減するために、早期の栄養教育と予防戦略が重要である」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Growing Pains and Dietary Habits in Young Athletes: A Cross-Sectional Survey」。〔Nutrients. 2025 Jul 21;17(14):2384〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部

0.0001)。しかし、非健康的とされる食品を摂取している割合は、疼痛なし群が35.4%であるのに対して、疼痛あり群は49.3%と有意に高かった(p<0.0001)。<>0.05)。一方、高遵守グループでは、疼痛なし群は34.4%を占め、疼痛あり群は44.8%であり、疼痛あり群が有意に多く分布していた(p<0.0001)。<>

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ケトジェニックダイエットを行っているアスリートが、運動直前に糖質を摂取することで、パフォーマンスか向上するという研究結果が報告された。ただし、有意な影響が観察されるのは運動の30分前という直前に摂取した場合であって、2日間にわたって摂取した場合は有意でなく、この結果には筋肉と肝臓のグリコーゲンへの影響の違いなどが関与している可能性があるという。英国からの報告。

ケトジェニックダイエットを長期間続けているアスリートにも糖質は有効?

糖質の摂取量を極めて少量に制限することで、ケトン体の産生量を増やし、それをエネルギー基質として利用できるように代謝を変えることを意図した「ケトジェニックダイエット(ケトン産生食)」が、アスリートの間でも徐々に広がってきている。ケトジェニックダイエット(ketogenic diets;KD)によって炭水化物の酸化が抑制され、骨格筋や肝臓のグリコーゲンの貯蔵が温存され、持久力パフォーマンスに対して有利に働くという理論も提唱されている。ただしそれを実証したエビデンスは限られている。

一方、持久力にとって運動前の糖質摂取が重要であることは古くから認識されており、現在に至るまで、さまざまな糖質摂取戦略が試行錯誤されている。KDを実践しているアスリートにおいても、運動前の糖質摂取がパフォーマンスを向上させる可能性があるが、これまでのところ、ケーススタディーや短期間の糖質制限での研究の報告しかなく、長期にわたってKDを行っているアスリートでの知見はみられない。

これを背景としてこの論文の著者らは、最低1年以上KDを続けているアスリートを対象として、運動前の糖質摂取の有用性を検討した。

運動の直前に糖質を摂取するとパフォーマンスに好影響

この研究の参加者は、週に2回以上の頻度で持久系スポーツを行っているレクリエーションアスリート13人。全員が、過去1年以上ケトジェニックダイエット(KD)を継続していること、年齢が18~60歳の範囲であること、非喫煙者であること、摂食障害の既往がないこと、疾患を有していないことという適格基準を満たしていた。なお、KDは、1日あたりの炭水化物摂取量が50g未満または総摂取エネルギー量の10%未満と定義されている。

研究参加者の主な特徴は、年齢41±11歳、女性が13人中2人、BMI23.6±2.0、体脂肪率12.8±5.4%、VO2max49.8±5.4mL/kg/分であり、主要栄養素摂取量(%エネルギー)は、炭水化物5±2%、脂質67±7%、タンパク質27±6%で、安静時のケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)レベルは0.8±0.4mmol/L。

糖質摂取の有無および摂取方法を変えた4パターンで比較

試験デザインは、単盲検プラセボ対照クロスオーバー法(ラテン方格法)であり、全員に対して以下の4条件を試行した。各試行には5日以上のウォッシュアウト期間を設け、試行は同一時間帯に行った。また研究期間中はトレーニング内容を変えないように指示し、試行48時間前からは激しい運動を禁止した。

  • 条件1(Acute条件):パフォーマンステストの試行30分前に、糖質60gを含む飲料を摂取する条件(テストの前日や前々日に摂取するものとしてはプラセボを支給)。
  • 条件2(Short条件):パフォーマンステストの2日前および1日前に、糖質200gを含む飲料を摂取する条件(テスト30分前に摂取するものとしてはプラセボを支給)。
  • 条件3(COMB条件):パフォーマンステストの2日前および1日前に糖質200gを含む飲料を摂取し、かつ、テスト試行30分前に糖質60gを含む飲料を摂取する条件(すべてのタイミングでプラセボは支給されない)。
  • 条件4(PLA条件):パフォーマンステストの2日前と1日前、および、テスト試行30分前に、糖質が含まれていないプラセボ飲料を摂取する条件(すべてのタイミングにプラセボを支給)。

呼吸交換比(RER)に有意差

パフォーマンステストには自転車エルゴメーターを用い、50%Wmax(平均139±26W)で60分間の負荷をかけた後、15分間の休憩をはさんで16.1kmのタイムトライアルを行った。

60分間の負荷中に測定されたVO2、心拍数、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)に、条件間の有意差は観察されなかった。ただし、呼吸交換比(respiratory exchange ratio;RER)については、Acute条件は負荷20分以降、PLA条件に比べて高値で推移した。またCOMB条件は60分間にわたりPLA条件に比べて高値で推移し、かつ20分まではShort条件との比較でも有意に高値だった。これは、事前に摂取した糖質がエネルギー基質として優先的に利用されたことを意味する。

タイムトライアルにも有意差

タイムトライアルの結果は、PLA条件と比較して、運動の直前に糖質の摂取を含むAcute条件およびCOMB条件という2条件では、所要時間が有意に短縮されていた。COMB条件ではさらに、Short条件との比較においても有意に短縮されていた。一方、前日までに糖質を摂取し直前には摂取しないShort条件では、PLA条件と有意差がみられなかった。

なお、ピークパワーに関しては、4条件間で有意差はなかった。

運動直前の糖質摂取は肝グリコーゲン温存、血糖低下抑止、中枢刺激を介して働く

以上の結果を基に著者らは以下のような考察を述べている。

まず、糖質を運動の直前に摂取した場合にパフォーマンス上のメリットがあり、前日までに摂取した場合にはメリットが認められないという差異については、直前の摂取により運動中の血糖低下が抑制されること、肝臓と骨格筋のグリコーゲンに対する影響が異なり、急性摂取により肝グリコーゲンが温存されることが関与している可能性があるとしている。また、糖質の洗口(マウスウォッシュ)のパフォーマンス向上効果が知られているように、直前の摂取は高次中枢を刺激することを介してメリットをもたらす可能性があるという。

結論としては、「長期にわたりケトジェニックダイエットを行っているアスリートであっても、運動の直前の糖質摂取が、持久力パフォーマンス向上に寄与し得る」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Strategic carbohydrate feeding improves performance in ketogenic trained athletes」。〔Clin Nutr. 2025 Jun 25:51:212-221〕 原文はこちら(Clinical Nutrition)

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一般社団法人日本スポーツ栄養協会(理事長・鈴木志保子)主催の「志保子塾」の2025年度(第8期)後期が10月からスタートします。スポーツ栄養を学び、実践に活かしたいビジネスパーソンが全国から参加する人気セミナー。初めての方もリピートの方も大歓迎!ご参加をお待ちしております。

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第2回 タンパク質、ビタミン、ミネラルの摂取とサプリメントの活用

ライブ配信:2025年11月18日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年11月22日(土)~11月24日(月)

アスリートの脂質、タンパク質、ビタミン・ミネラルの摂り方を取り上げます。特に、タンパク質の適正な摂取量を知り、リカバリーや筋合成のためにどのように摂るとよいかを詳しく解説。摂りきれなかった栄養素を補うサプリメントの利用、競技力向上を目的に栄養素以外の成分をサプリメントで摂取するエルゴジェニックエイドとしての活用についても学びます。

詳細・お申し込み

第3回 アスリートの食事、スポーツ栄養マネジメントを用いた栄養管理システムの活用

ライブ配信:2025年12月16日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2025年12月20日(土)~12月22日(月)

アスリートの運動量に応じた適正量を知り、目標達成のためにどのような食品をどのタイミングで食べるか、食材選び、食事構成、補食・間食のとり方の極意を講義します。理に適った糖質とタンパク質の摂り方、食塩摂取の考え方、生活リズムと朝食の関係など、具体的なノウハウを学びます。

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第4回 試合期・遠征時の栄養管理

ライブ配信:2026年1月20日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2026年1月24日(土)~1月26日(月)

通常の食事と試合期の食事は異なります。緊張や興奮からくる栄養状態への影響と対策を考えた試合前、試合当日の食事の原則・栄養管理のポイント、TPOに応じた糖質やタンパク質、水分摂取について講義します。

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第5回 アスリートにおける栄養面の課題~増量、エネルギー不足、貧血、疲労骨折を中心に~

ライブ配信:2026年2月17日(火) 13:30~17:00 見逃し配信:2026年2月21日(土)~2月23日(月)

アスリートにおける栄養面の課題をテーマに、エネルギー不足による健康問題、治し方、予防策、様々な理由による貧血、疲労骨折の原因と予防、増量・減量の正しい行い方を講義します。"エネルギー不足"の弊害は、実はまだあまり知られていませんが、アスリートに限らず、子どもや高齢者、女性など、あらゆる世代に関わる大きな問題です。

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第6回 対象アスリート別栄養管理~ジュニアアスリート、女性アスリート、パラアスリートを中心に~

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選手の目標・課題達成のためのサポート計画に基づいた「スポーツ栄養マネジメント」の流れ、対象者別コンディション管理、評価のしかたを中心に講義を行います。女性の三主徴、発育発達期のエネルギー摂取の考え方、シニアやパラアスリートのサポートについても詳しく解説。

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カフェインによる持久系パフォーマンス等への影響を、事前にカフェイン摂取を制限せず、ふだんどおりにコーヒーなどを摂取している状況で検討した研究結果が報告された。そのような状況では、プラセボとの有意差が認められなかったという。著者らは、カフェインの有効性を示した研究の多くは事前に一定期間、カフェイン摂取を禁止しており、それによる離脱症状が試験時のカフェイン摂取によって解消されることが、有意性の発現に一部関与しているのではないかと述べている。

カフェインの有用性は多くの研究で支持されているが…

カフェインがスポーツパフォーマンスや知覚反応速度などを向上するとする研究報告は枚挙にいとまがない。ただし本論文の著者らは、それらの結果が、研究前に人為的または偶発的に誘発されたカフェイン離脱症状と何らかの関連があるのではないかという点は、まだあまり検証されていないとしている。そのため、研究実施前にカフェイン摂取を制限しない条件での検討が必要と指摘。また、カフェイン関連の研究の多くが男性を対象としてきていること、摂取量を3~6g/kgとすることが多く少量での影響が検討されていないことも、未解明の課題であると述べている。

これらの課題に対応するため、この研究では、研究実施前のカフェイン摂取を制限せず、研究参加者に占める女性の割合を半数程度とし、かつ6mg/kgのほかに2.5mg/kgという摂取条件も設けたプラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験を実施した。

研究は、カフェイン摂取量を2.5mg/kgとする「研究1」と、同6mg/kgとする「研究2」で構成されている。研究1からみていこう。

カフェインを2.5mg/kg摂取した場合は、プラセボ摂取条件と有意差なし

研究1は41人が参加し、6人が脱落して35人が解析対象となった。うち女性が17人(全員月経周期の異常なし)で、年齢は女性が22.2±2.0歳、男性は24.3±4.9歳で、国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)で評価した高強度運動の頻度が2.7±1.9回/週(平均活動時間59.6±50.4分)、中強度運動の頻度は3.3±1.6回/週(同59.1±93.2分)、自転車エルゴメーターでのピークパワーは女性、男性の同順に268±37W、354±50W、最大心拍数は191±11bpm、199±7bpm。

ふだんのカフェイン摂取量は、カフェイン摂取量質問票の回答に基づき推測され、106±89mg(範囲0~296mg)と推測された。1人はカフェインを習慣的に摂取していなかった。

パフォーマンステストは、自転車エルゴメーターにより実施。実施の60分前に、カフェイン2.5mgまたはプラセボ(白とうもろこし粉)を、被験者、研究者ともに区別がつかないカプセルとして渡し、摂取してもらった。事前に評価されていたピークパワーの65%の強度で疲労困憊に至るまで続け、60回転/秒以上を10秒間維持できなくなった時点で打ち切りとした。

1週間のウォッシュアウト期間を挟み、割り付けを切り替えたうえで同様の試験を行った。概日リズムや生活パターンによる結果への影響を抑制するため、テストの時間帯は初回のテストに揃えた。なお、研究参加者には、研究期間中、カフェインの摂取習慣を変えないこと、食事・運動習慣をふだん通り維持すること、パフォーマンステストの48時間前からは激しい運動を控えることを求めた。また、女性参加者については、月経周期を確認し、解析の際に交絡因子として用いた。

検討の結果、疲労困憊にいたるまでの時間(time to exhaustion ;TTE)は、カフェイン摂取条件が1,154±536秒、プラセボ条件が1,279±853秒で有意差がなく(p=0.153)、心拍数も同順に182±10bpm、180±10bpm(p=0.110)、相対心拍数(事前に評価されていた最大心拍数に対する割合)も93±3%、92±4%(p=0.123)で有意差がなかった。

また、本研究では上記のパフォーマンスへの影響とは別に、疲労感、身体的負担(Borgスケール)、覚醒度、感情、モチベーション、注意力、時間感覚などへの影響も評価されたが、すべて条件間に有意差を認めなかった。性別を交絡因子として調整した解析や、性別で層別化した解析、女性の月経周期を調整した解析のいずれでも、結果は同様だった。

なお、テスト開始前の12時間以内にカフェインを摂取していた参加者(26人)でのサブグループ解析では、疲労困憊にいたるまでの時間(TTE)がカフェイン摂取条件よりもプラセボ摂取条件のほうが、有意水準未満ながら優れている傾向が観察された(1,145±510 vs 1,350±954秒、p=0.055)。

カフェインを6mg/kg摂取した場合も、プラセボ摂取条件と有意差なし

研究2には22人が参加し、1人が脱落して21人が解析対象となった。うち女性が11人(全員月経周期の異常なし)で、年齢は女性が21.5±2.5歳、男性は20.8±2.0歳で、国際標準化身体活動質問票(IPAQ)で評価した高強度運動の頻度が3.5±1.8回/週(平均活動時間85.0±34.6分)、中強度運動の頻度は3.9±1.9回/週(同118.4±197.5分)、自転車エルゴメーターでのピークパワーは女性、男性の順に249±28W、348±37W、最大心拍数は191±9bpm、190±11bpm。

カフェイン摂取量質問票の回答に基づき推測されたふだんのカフェイン摂取量は、87±64mg(範囲0~245mg)であり、1人はカフェインを習慣的に摂取していなかった。

パフォーマンステストの結果、疲労困憊にいたるまでの時間(TTE)は、カフェイン摂取条件が1,915±1,218秒、プラセボ条件が1,754±1,341秒で有意差がなく(p=0.390)、心拍数も同順に173±14bpm、174±12bpm(p=0.993)、相対心拍数は91±5%、91±3%(p=0.982)で有意差がなかった。また、疲労感やBorgスケール、覚醒度、感情、モチベーション、注意力、時間感覚など、評価された指標のすべてに条件間の有意差を認めず、性別を交絡因子として調整した解析や性別で層別化した解析、女性の月経周期を調整した解析のいずれでも結果は同様だった。

以上より著者らは、「慎重な解釈が必要ではあるが、これまでの研究で示されてきた持久力パフォーマンスに対するカフェインのエルゴジェニック効果は、このトピックに関する研究で実施されることの多い、研究前の短期間のカフェイン摂取制限が惹起する離脱症状による悪影響からの回復によって、部分的に説明できる可能性があるのではないか」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「No effects of caffeine on cycling to exhaustion and perceptual responses in non-caffeine-restricted subjects」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2534131〕 原文はこちら(Informa UK)

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公益財団法人 食の安全・安心財団は、加工食品食育推進協議会との共催による意見交換会「健康と栄養〜日本人の食事摂取基準(2025年版)のポイントとバランスの良い食生活について〜」を9月9日(火)14時から開催いたします(登録締め切り:9月5日(金))。

外食・中食・加工食品の活用が進む今こそ、日常の中で続けられるバランスを実践するための食育が重要です。本意見交換会では、最新の『日本人の食事摂取基準(2025年版)』を軸に、そのポイントをわかりやすく解説し、外食・中食・加工食品を含む現実的な場面で使えるプランを、各分野の有識者と議論・共有します。基調講演は、当協会(SNDJ)理事長の鈴木志保子先生が務めます

参加費は無料、どなたでも聴講いただけます。会場での直接視聴に加え、Zoomによるオンライン開催もありますので全国どこからでも参加可能です。参加登録の締め切りは9月5日(金)ですので、ぜひお早めにお申し込みください。

こんな方におすすめ

  • 最新の食事摂取基準(2025年版)の要点を短時間で把握したい方
  • 外食・中食・加工食品を賢く使う現実的な栄養戦略を知りたい方
  • 氾濫する健康情報に振り回されず、エビデンスに基づく選択をしたい方
  • 行政・教育・企業・医療・スポーツ現場などで、“続けられる食育”の視点を取り入れたい方
タイトル
意見交換会「健康と栄養」 〜日本人の食事摂取基準(2025年版)のポイントとバランスの良い食生活について〜
日時
2025年9月9日(火)14:00〜16:00
形式
会場での聴講、Zoom(ハイブリッド)※Zoom参加のご案内は9/5以降に登録メールへ送付します。ご来場可能な方は、できるだけ会場へお越しください。
会場
三菱ビル コンファレンススクエア エムプラス「サクセス」(東京都千代田区丸の内2-5-2 三菱ビル1F) 地図
参加費
無料(事前登録制)(事前登録が必要です。会場が満席となった場合はご連絡いたします。早めのお申込みをお願いいたします)
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締め切り
9月5日(金) 締め切り間近につき、お早めにお申し込みください!
主催
公益財団法人 食の安全・安心財団
共催
加工食品食育推進協議会

「健康と栄養 〜 食事摂取基準改訂のポイントとバランスの良い食生活について(仮題)」 鈴木 志保子 先生(一般社団法人 日本スポーツ栄養協会-SNDJ- 理事長)

パネルディスカッション(予定)

  • 阿南 久 氏(一般社団法人 消費者市民社会をつくる会 代表理事)
  • 畝山 寿之 氏(味の素株式会社 グローバルコミュニケーション部 サイエンスグループ シニアスペシャリスト)
  • 鈴木 志保子 先生(一般社団法人 日本スポーツ栄養協会-SNDJ- 理事長)
  • 仁田 友香 氏(キユーピー株式会社 広報・サステナビリティ本部 サステナビリティ推進部 食と健康チーム)
  • 村山 直和 氏(農林水産省 大臣官房参事官〈消費・安全局〉)
  • 森田 満樹 氏(消費生活コンサルタント)
  • コーディネーター:道野 英司(食の安全・安心財団 副理事長)

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暑熱環境での持久系パフォーマンスや主観的な疲労感などに対するサプリメント摂取の影響を、ネットワークメタ解析で比較した研究結果が報告された。カフェインや硝酸塩を除いた解析の結果、メントールとタウリンに有意な効果を期待できるという。また、個々のサプリを単独で用いるよりも、あわせて摂取することで相乗効果が発揮される可能性があるとのことだ。

暑熱下のパフォーマンス低下抑制効果が高いサプリを統計学的手法で探る

地球温暖化の進展により、アスリートにとって暑熱環境への対策が必須となりつつある。これまでに研究・提案されている暑熱対策として、身体の冷却や栄養戦略などがあり、後者については、クレアチン、分岐鎖アミノ酸、カフェイン、硝酸塩などが検討されている。個々のサプリメントについては、いずれも一定のエビデンスがあるが、どのサプリが優れているのかを比較検討した研究はない。そこで今回紹介する論文の著者らは、異なる介入を行った多数の研究報告を統合して介入効果を比較する、ネットワークメタ解析という統計学的手法を用いた検討を行った。

なお、カフェインおよび硝酸塩については、プラセボ対照研究の報告が数多くあり、ネットワークメタ解析を行うと他のサプリとは独立したネットワークが形成されてしまいサプリ間の比較が困難になること、および、優れたメタ解析の報告が既にあるとの理由により、解析対象から除外されている。

システマティックレビューの方法と抽出された研究報告の特徴

この研究では、ネットワークメタ解析のためのガイドラインであるPRISMA拡張版(PRISMA-NMA)に準拠し、PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane Library、EBSCOhosという5種類の文献データベースを用いて、システマティックレビューを実施した。それぞれの開始から2025年5月1日までに収載された報告を対象として、暑熱環境(27℃以上)においてサプリメントを経口摂取し、パフォーマンスや主観的評価指標(快適性や自覚的運動強度〈RPE〉など)を無作為化比較試験(RCT)または準RCTで検討しており、英語で執筆されている論文を検索。除外基準は、ヒト以外の研究、RCTまたは準RCTでない研究(例えば観察研究)、サプリを非経口投与した研究(例えば静脈内投与)、サプリの慢性摂取の影響を検討した研究、バイアス評価ツールRoB 2に基づき1項目以上で高いバイアスリスクが認められた研究、同一の研究に基づく異なる報告などとされた。

一次検索で3万7,469報がヒットし重複削除後の2万1,507報をタイトルと要約に基づき3人の研究者が独立してスクリーニングを実施。365報を全文精査の対象とした。採否の意見の不一致は4人目の研究者との討議により解決した。

最終的に、25件の研究報告がシステマティックレビューの包括基準を満たすと判断され、22件のデータがネットワークメタ解析に利用された。25件の研究の参加者数は合計552人で、大半は18~35歳の健康な男性アスリートであり、平均年齢は28.3±4.8歳であって、行っている競技は、ランニング、自転車、ボート、サッカー、ラグビーなどさまざまだった。

研究が実施された環境は、室温27~40℃、相対湿度40~80%であり、多くはサプリ摂取の急性効果(単回または短期摂取)を検討していた。用いられていたサプリは、クレアチン、分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acid;BCAA)、チロシン、タウリン、ポリフェノール系抗酸化物質、炭水化物とプロテインのブレンド、電解質・ナトリウムベースのサプリなどであり、それら単独または複数を組み合わせた介入が行われていた。

メントールとタウリンは単独でも有効な可能性

解析は、持久力パフォーマンスと主観的な評価指標とに分けて行われている。順にみていこう。

持久力パフォーマンスへの影響:メントールとタウリンが有意

暑熱環境での持久力パフォーマンスに関しては、18件の研究で14パターンの介入効果が検討されていた。ネットワークメタ解析の結果、有意な影響を示したのは、メントール(標準化平均差〈standardized mean difference;SMD〉=-1.83〈95%CI;-3.15~-0.51〉)と、タウリン(SMD=0.91〈0.08~1.73〉)の2種類だった(メントールはタイムトライアルにおける完走時間が評価されたためSMDの信頼区間の上限がマイナスであることが有効を意味し、タウリンは疲労困憊に至るまでの時間が評価されたためSMDの信頼区間の下限がプラスであることが有効を意味する)。

BCAA(SMD=0.73)、クレアチン(SMD=0.43)、高ナトリウム(SMD=0.47)などのサプリメントも、パフォーマンスにプラスとなる傾向が示されたが、信頼区間が0をまたぎ有意ではなかった。

主観的な評価指標

暑熱環境での主観的な評価指標に関しては、11件の研究で11パターンの介入効果が検討されていた。評価されていた指標は、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)、疲労感、温熱感覚、回復の程度などだった。

ネットワークメタ解析の結果、有意な影響を示したのは、メントールエナジージェルのみだった(SMD=2.14〈1.01~3.26〉)。その他、複数のサプリメントを併用したいくつかのパターンで、主観的評価指標を改善させる非有意レベルの影響が認められた。

著者らは、「暑熱環境での持久力という点ではメントールとタウリンが明らかなパフォーマンス向上効果を示し、他のサプリメントの効果については、質の高い研究によるさらなる検証が必要とされる。主観的な評価という点では、メントールエナジージェルが最も明確な可能性を示し、他のサプリメントの効果は異質性が高かった」と総括。また、「暑熱環境では、個々のサプリを単独で用いるよりも併用したほうが効果が高いように思われる」と付け加えている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Nutritional Supplements on Endurance Performance and Subjective Perception in Athletes Exercising in the Heat: A Systematic Review and Network Meta-Analysis」。〔Nutrients. 2025 Jun 27;17(13):2141〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部


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プロアスリートとアマチュアアスリートを比較すると、体組成が有意に異なり、また、アスリートのための食事ガイドラインの遵守状況を表す指標(ADI)にも有意差が認められるとする研究結果が報告された。プロアスリートは除脂肪量が多くて脂肪量は少なく、ADIは高値だという。イランからの報告。

プロとアマチュアの体組成や食事の比較は、これまであまり行われていなかった

バランスの良い食事と好ましい体組成が、健康およびスポーツパフォーマンスや回復に重要であることを示すエビデンスが蓄積され、そのエビデンスに基づき、ハイレベルのアスリートにはスポーツ栄養士やコーチ、医師などの指導により個別化された食事計画が提供されることが多い。それに対してアマチュアアスリートは食事を自己管理していることが多いことから、両者の間に食事の質や体組成に差が生じている可能性がある。しかし、本論文の著者は、両者の食事の質や体組成を同時に比較した研究はほとんどないとしている。

これを背景としてこの研究では、テヘランのプロおよびアマチュアのさまざまな競技アスリートを対象とする横断比較研究を行い、両者の差の有無を検討した。なお、本研究におけるプロアスリートとは、競技会参加のためコーチの指導の下で週に10時間以上トレーニングを行っているアスリートと定義されており、これを満たしていない場合はアマチュアと判定されている。また、競技会参加を目指していないレクリエーションアスリートや、年齢が18~40歳の範囲外および疾患を有するアスリートは対象から除外されている。

プロアスリートは食事・栄養素の摂取状況が良好で、筋肉が多く体脂肪が少ない

事前の統計学的検討から、このトピックの検証に必要なサンプルサイズは106人と計算され、183人(プロ99人、アマチュア84人)のアスリートを解析対象とした。

プロはアマチュアよりスポーツサプリ利用率が高い

まず、この両群の特徴を比較すると、平均年齢(プロ24.8歳、アマチュア24.9歳)、性別(男性の割合が同順に55.6%、47.9%)、教育歴、就業状況に有意差はなかった。また、国際標準化身体活動質問票(International Physical Activity Questionnaire;IPAQ)により評価した身体活動量にも有意差はなかった。

一方、競技レベルは、国内・国際大会レベルがプロは31.3%、アマチュアは13.1%であり、有意差が認められた(p=0.01)。一般的な栄養補助食品(dietary supplement)の利用率には有意差がなかったが(59.6 vs 50.0%、p=0.192)、スポーツサプリの利用率はプロのほうが有意に高値だった(40.4 vs 25.0%、p=0.028)。

プロはアマチュアより除脂肪量が多く脂肪量が少ない

次に、生体電気インピーダンス法で測定した体組成をみると、プロアスリートはアマチュアに比べて除脂肪量が多く脂肪量が少ないという有意差が認められた。BMIは有意差がなかった。詳細は以下のとおり。

除脂肪体重率はプロが80.8±6.8%、アマチュアは78.0±9.6%(p=0.023)。体脂肪率は同順に16.2±7.1%、18.8±9.9%(p=0.019)。BMIは23.0±13.2、23.3±13.4(p=0.240〈標準偏差が大きいが論文のまま〉)。

プロはアスリートのための食事ガイドを遵守している(ADIが高い)

食事の評価には、シドニー大学のスポーツ栄養の専門家がアスリートの食事の質を評価するために開発した、検証済みの食事評価ツール(Athlete Diet Index;ADI)が用いられた。

このADIは、三つのサブドメインで構成されていて、合計スコアは125点。このうち80点で、果物、野菜、穀物、乳製品、肉など、コアとなる食品・栄養素の摂取頻度と適切さを評価する。このほかに35点は、鉄やカルシウムなどの特定の微量栄養素の摂取を評価し、残りの10点で食事のタイミングや頻度、料理のスキル、水分補給などの食習慣を評価する。125点満点で90点以上はスポーツ栄養の推奨を満たすゴールド、66〜89点は改善の余地があるシルバー、65点以下は潜在的な栄養リスクのある状態を示すブロンズと判定する。

本研究において、プロはアマチュアより合計スコアが有意に高かった(88.6±17.6 vs 73.5±22.5、p<0.001)。また、プロは判定区分のゴールドが最多で、次いでシルバーであり、ブロンズは最も少なかったが、アマチュアはシルバーが最多で次いでブロンズであり、ゴールドは最も少なかった(p<0.001)。<>

ADIのサブドメインを比較すると、コア栄養素(59.7±15.7 vs 54.4±23.9、p=0.015)と、特定の微量栄養素(20.1±4.8 vs 16.8±5.5、p<0.001)において有意差があり、いずれもプロのほうが高値だった。食習慣については有意差がなかった(5.6±2.2>

ADIと体組成との関連を解析した結果、プロとアマチュアとで、有意な交互作用が認められ(交互作用p=0.047)、プロにおいてはADIが高いほど体脂肪率が低かった。除脂肪体重率とADIの関連については、交互作用および主効果ともに有意でなかった。

栄養戦略の重要性を示唆

論文の結論は、「プロアスリートとアマチュアアスリートの比較で、体組成と食事の質の双方に有意な差があることが明らかになった。この知見は、競技レベルにかかわらず、アスリートの健康とパフォーマンスを最適化することを目的とした、コーチや栄養士による的を絞った介入に役立つものと言える」と総括。また、「とくに専門的な食事指導を受けられないことのあるアマチュアアスリートに対する、個別化された栄養戦略の重要性が示された」と付け加えられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Comparison of athlete diet index and body composition between professional and non-professional athletes: a comparative cross-sectional study」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2533497.〕 原文はこちら(Informa UK)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)において有意差があり、いずれもプロのほうが高値だった。食習慣については有意差がなかった(5.6±2.2>0.001)。また、プロは判定区分のゴールドが最多で、次いでシルバーであり、ブロンズは最も少なかったが、アマチュアはシルバーが最多で次いでブロンズであり、ゴールドは最も少なかった(p<0.001)。<>

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スポーツ競技会への参加を目的に海外へ旅立つスポーツツーリストが、現地で直面することの多い栄養に関する課題を、デプスインタビューで調査した結果が報告された。12人のマラソンランナーに対する調査の解析で、四つの課題が特定されたという。ポーランドの研究者の報告。

スポーツツーリストの増加に伴い、食事・栄養関連ではどんな課題が生じているのか?

世界的なスポーツ人口の増加とともに、自国外で開催されるスポーツイベントに参加する、スポーツツーリストも増加している。海外旅行が身近になったことも、この傾向に拍車をかけており、他国での観光と組み合わせて大会参加を計画するアマチュアアスリートも少なくない。マラソンやハーフマラソンなど、伝統的に国外からの参加が多い長距離競技のイベントも例外ではない。

持久系競技では、大会参加前のグリコーゲンローディングが成績を左右する大きな要素と言え、非エリートレベルであっても大会に参加する以上は、事前の食事計画をおろそかにできない。しかし、海外では言葉の壁はもちろん、自国との食習慣・環境の違いがあり、レースのスタート時刻にあわせて、どこでなにをどのように食べるべきかを判断するのは容易ではない。

スポーツツーリズムが急速に拡大しているにもかかわらず、このような栄養面の研究はほとんど行われていない。そこでこの論文の著者らは、デプスインタビューによる定性的な研究を行い、現時点でのこのトピックに関する課題の特定を試みた。なお、デプスインタビューは、特定のテーマを深く掘り下げることで、潜在的な課題の抽出や対応策の検討につなげるインタビュー調査。デリケートな内容にも踏み込むことが可能な、質的研究手法の一つとされている。

ポーランドでのハーフマラソンに参加した12人のスポーツツーリストで調査

インタビューの対象は、ポーランドで定期的に開催されているポズナンハーフマラソンの2025年大会にポーランド国外から参加し、母語がポーランド語でなく、過去2年以上にわたり同様に自国外でのマラソン大会に参加しているスポーツツーリスト12人。性別は女性4人、男性8人で、居住国は英国、ドイツ、ウクライナが各4人。インタビュアーは1人で、12人に対するインタビューにより、新たなトピックが観察されない飽和状態に到達した。

インタビュー内容の解析の結果、スポーツツーリストが直面する栄養課題として、(1)食品の質と入手方法、(2)現地の食習慣への適応とその生理学的影響、(3)適切な水分補給とサプリメント摂取、(4)心理的ストレス、身体的健康状態、栄養素摂取の選択の複合的な課題――という4点が特定された。以下、それぞれについて要旨を紹介する。

(1)食品の質と入手方法

海外での大会参加における栄養面での課題として、最も多く挙げられたのは、高い品質の食事の入手手段が限られていることだった。とくに競技に適した食事を摂ることが困難で、レースコースや宿泊施設付近で入手できる一般的な食事の選択肢では、スポーツのための食事ニーズを十分に満たせないと指摘された。

英国から参加した選手は、「スタート地点の近くで健康的な食事を見つけるのが難しいことがよくある。とくにポーランドでは、料理が脂っこく重いものが多い。また、過去に何度かここのレースに参加したが、開催日はたいてい日曜日で、新鮮な野菜や軽食が手に入らなかった」と話した。この発言は、自国の食の嗜好が他国のアスリートの栄養ニーズといかに食い違っているかを物語っている。

特別な食事制限や食物アレルギーのあるアスリートにとって、食品の品質と入手性に関する課題はさらに複雑になる。ドイツからの参加者は「ビーガンの私は海外のレースで苦労する」と述べ、英国の別の参加者は「私はナッツアレルギーで、ほんのわずかでもアレルギー反応を引き起こす可能性があるため、細心の注意を払わなければならない」とした。

(2)現地の食習慣への適応とその生理学的影響

異なる食習慣や地元の食材は、しばしば不快感をもたらし、場合によっては健康状態やパフォーマンスの低下につながる。多くのランナーにとって、問題は食べ物そのものではなく、その成分や調理方法に関する知識を有していないことだった。ドイツからの参加者は、「国によって食材や調理法が異なるため、自分が何を食べているのか正確に把握できないことがある。全く知らないスパイスが使われていることがあり、そのために体の感覚や反応に影響が生じることも経験する」と述べている。

また、気候や水、食材の組み合わせ、味付けの濃さといった環境の変化が、深刻な生理的な問題を引き起こすことも報告された。ドイツ出身のランナーは、「国際レースでは胃の調子が悪くなることがよくあるが、これは食べ物、水、あるいは環境全体の変化が原因だと思う。危険な食べ物を避けたとしても、体がいつもとは異なる反応を示す」と語り、ウクライナからの参加者は、「レースの数日前から馴染みのない食べ物を避けるようにしているが、この方法では食品の選択肢が限られてしまい、自分のニーズに満たすことが困難になってくる」と説明した。

(3)適切な水分補給とサプリメント摂取

一部の回答者にとっては、適切な水分補給を維持することと、使い慣れたサプリメントを入手することが、国際レース参加中の大きな課題であった。安全な飲料水を常に入手できるわけではないこと、厳しい気象条件下でのレースでは水分補給戦略がより困難になることなども語られた。

なお、ドイツからの参加者は、これらの問題に言及しなかった。これは、遠征前に水やサプリメントを確保しておくなど、他国の出身者が行っていない準備を採用していたか、あるいはドイツ人の習慣や過去の経験により、ポーランドにおけるこれらの問題はそれほど重要ではなかった可能性もある。

(4)心理的ストレス、身体的健康状態、栄養素摂取の選択の複合的な課題

スポーツツーリストは、アスリートとしての課題のほかに、ツーリストとしての課題にも直面する。これらには、ストレス、疲労、快適さの希求などの精神的・身体的状態も含まれる。

ある英国からの参加者は、「海外でレースをする際、移動は間違いなく自国よりも複雑で、とくに飛行機移動の場合や交通手段の選択肢が限られている場合は、オプションの計画を立てておくことが欠かせない」とし、ウクライナからの参加者は宿泊施設での自炊の難しさを、「宿泊施設に適切なキッチン設備がないのは非常に不便だ。そのため、食材は入手できても食事を準備することができない。結局、外食するか調理済みの食事を購入することになる」と指摘している。

さらに、ストレス、緊張、疲労の影響も、適切な栄養摂取の大きな課題として浮上した。あるドイツ人の参加者は、「競技のストレスで食欲がなくなり、レース前に十分な食事を摂るのが難しくなることがよくある。栄養の重要性はわかっていても、体がいうことを聞かない」と語った。英国人ランナーは、「フライト後の疲労で食べる気力がなくなってしまうことがよくあり、残念だが、それがその後のパフォーマンスに影響してしまう」と述べ、ウクライナからの参加者は、「レースのタイトなスケジュールと、滞在中のほかの観光計画のせいで、落ち着いて食事をしたり休んだりする時間がほとんどないことが少なくない」とした。

なお、ウクライナの参加者は、味の好みや現地の料理への適応の難しさについて言及しなかった。これは、ウクライナの食習慣がポーランドのそれと比較的似ているためと考えられる。

スポーツツーリズムの拡大に対応し、栄養士や食品提供者などの連携強化を

著者らは論文の結論で、「本研究は小規模かつ限定的なサンプルサイズであるため、これらの知見をスポーツツーリスト全体に一般化する際には注意が必要。ただし、国際大会への遠征において、効果的な栄養管理には、快適性、健康、運動パフォーマンスを向上させるために、文化的、生理学的、かつ総合的なアプローチを考慮する必要があることが示唆された。個別化された栄養戦略の実施と、コーチ、栄養士、食品提供者、そしてイベント主催者間の連携強化は、スポーツツーリストにおける栄養課題の軽減と参加者の全体的な満足度の向上に役立つ可能性がある」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional Challenges of Active Sports Tourists: A Qualitative Study from the Runners’ Perspective」。〔Nutrients. 2025 Jul 17;17(14):2339〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部


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米国の一般住民の遺伝子検査の認識、利用率、利用後の行動の変化を調査した結果が報告された。検査を受けたことがあると回答したのは28.7%で、そのうち検査結果に基づき行動を変えた人は16.3%に過ぎないものの、その全員が生活習慣を変更し、32.9%はサプリメントの使用方法を変更したという。

自分の遺伝的背景を知り、疾患を予防する時代が間近に

2003年にヒトゲノム計画が完了し「ゲノム時代」が幕開けして以降、遺伝子検査は目覚ましい進歩を遂げてきている。当初は極めて高額なコストを要していたものの、近年では個人での利用も可能になってきた。個人が自身の疾患リスクを認識することで、生活習慣を改善したり、健診や人間ドックなどの受診を増やしたりするなどの対策が可能となる。しかし、これまでのところ、遺伝子検査に関して、その認知度などは調査されてきているが、検査を受けた後に行動変容が起きたか否かはあまり調査されていない。

これを背景に、この論文の著者らは、米国立がん研究所(National Cancer Institute;NCI)の「健康情報動向調査(Health Information National Trends Survey;HINTS)」のデータの二次解析による検討を行った。HINTSはNCIが18歳以上の米国の一般住民を対象に毎年行っている横断調査であり、本研究では2022年のデータが用いられた。

遺伝子検査の認知度は81.6%、受検率は28.7%、受検後の行動変容は16.3%

解析対象は4,631人で、女性59.6%、年齢は50~64歳が最多で29.5%、次いで35~49歳が21.6%、65~74歳が21.0%、既婚者46.6%、就労者率55.6%、学士号取得者29.3%だった。この研究では、(1)遺伝子検査の認知度、(2)遺伝子検査を受けたことのある割合、(3)遺伝子検査を受けた後の行動変容――という3点に焦点を当てた解析が行われた。

(1)遺伝子検査の認知度

以下の遺伝子検査について「聞いたことがあるか?」と質問し、「祖先検査(家族の起源を知る検査)」、「個人特性検査(個人の特性を知る検査)」、「特定の疾患検査(乳がん、大腸がん、糖尿病などの遺伝的リスクの高さを知る検査)」、「出生前遺伝子検査(胎児の遺伝性疾患のリスクを知る検査)」などを示して調査された。

その結果、いずれかを聞いたことがある割合が81.6%であった。認知度を個別にみると、先祖検査は74.8%、特定の疾患検査が58.3%、出生前検査が40.4%、個人特性検査が27.2%だった。

遺伝子検査に関する情報源として最も多かったのはインターネットの62.5%であり、次いで旧来型メディア(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)が60.4%、家族や友人が52.8%、医療従事者やカウンセラーが33.6%だった。

(2)遺伝子検査を受けたことのある割合

遺伝子検査を受けたことがあると回答したのは1,327人(28.7%)であり、50.0%は受けていないと回答。他の約20%は不明等だった。受けたことのある遺伝子検査として最も多いのは祖先検査(57.2%)であり、2位以降は特定の疾患検査(42.0%)、出生前検査(23.6%)、個人特性検査(17.6%)と続いた。

遺伝子検査を受けた理由として最も多かったのは、家族歴の把握が43.9%であり、次いで医師の勧めが34.7%、疾患リスクの把握が28.9%、出生前の理由(出生前に自身の意思によらず実施された)が20.2%、家族の捜索が17.1%、個人特性の把握が14.9%、検査の機会をプレゼントとして受け取ったが9.9%などだった。

(3)遺伝子検査を受けた後の行動変容

遺伝子検査を受けたと回答した1,327人のうち、検査結果に基づいて行動を変えたと回答したのはわずか216人(16.3%)だった。その216人において最も多く報告された変化は生活習慣の変更で、全員(100%)が何らかの生活習慣を変更していた。その他の変化の中では、サプリメントの摂取開始・変更(32.9%)が最多であり、健康診断の頻度の増加(25%)、薬剤の変更(18%)などが続いた。

一方、特定の疾患の遺伝子検査を受けた人では、検査後の行動変容が多く認められ、77.3%が変化を報告していた。このグループでは、やはり生活習慣の変更が最多(100%)であり、次いでサプリメントの摂取開始・方法の変更(35.3%)、健康診断の頻度の増加(26.3%)、薬剤の変更(18.6%)と続いた。

疾患関連遺伝子検査に対する行動変容の予測因子

二項ロジスティック回帰分析により、遺伝子検査を受けた後に行動変容を起こすことの関連因子として、年齢が24歳以上、大学教育を受けていることなどが特定された。

特定の疾患の遺伝子検査を受けたグループにおいては、医師の勧めによる検査、遺伝性疾患の発症リスクの認識、健康管理方法の習得意欲などが、行動変容に関連していた。一方、家族歴の検査や遺伝子検査をプレゼントとして贈られて受けることは、行動変容と負の関連が認められた。

著者らは、「遺伝子検査の認知度と検査を開ける人は増加してきているが、検査結果に基づいて行動変容を起こした人は少ない。これらの調査結果は、遺伝子リテラシーの向上を目的とした介入の重要性を強調するものと言える」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Awareness of genetic testing and its impact on changing behavior among general population of U.S – Health Information National Trends Survey (HINTS 2022)」。〔Lifestyle Genom. 2025 Jul 14:1-17〕 原文はこちら(S. Karger)

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スポーツ栄養Web編集部


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ラーメンの摂取頻度と死亡リスクとの関連を解析した研究結果が報告された。全体として、摂取頻度が週3回以上の場合に死亡リスクが高い傾向が認められ、サブグループ解析では70歳未満、習慣的飲酒者において有意なリスク上昇が認められるという。山形県立米沢栄養大学健康栄養学部の鈴木美穂氏らが、山形県で行われている地域住民対象疫学研究「山形コホート研究」のデータを解析した結果であり、論文が「The Journal of nutrition, health and aging」に掲載された。また山形大学のサイトにプレスリリースが発表されている。

ラーメンの頻繁な摂取で死亡リスクが高まりやすい人の特徴は?

ラーメンの起源は中国だが、現在では世界的にも日本食として認識されるほど、国内で多く食されている。よく知られているように、ラーメンは高塩分であり、食べすぎによる高血圧や脳卒中、胃癌などのリスクの上昇が懸念される。過去にも、人口あたりのラーメン店舗数と脳卒中による死亡率との相関を示したデータが報告されている。

ただし、ラーメン摂取と死亡リスクとの関連に個人差があるのかどうかはわかっていない。仮に、ラーメン摂取によって顕著に死亡リスクが高くなりやすい集団があるなら、その特徴を明らかにすることで、より効果的な公衆衛生対策の立案につなげられる。これらを背景として鈴木氏らは以下の研究を行った。

ラーメン摂取頻度が高い人ほど、スープを残さずに飲んでいる

山形コホート研究の参加者のうちデータ欠落のない6,746人から、追跡開始1年以内に死亡していた人を除外し、6,725人(59.7±6.7歳、男性34.9%)を解析対象とした。

ラーメンの摂取頻度は、月1回未満が18.9%、月1~3回が46.7%、週1~2回が27.0%、週3回以上が7.4%だった。ラーメン摂取頻度が高い群ほど男性が多く、BMIが高く、若年であり、喫煙・飲酒習慣のある割合、高血圧・糖尿病を有する割合が高いという、有意な傾向性が認められた。

また、麺類摂取時にスープを飲む量が半分以上/未満で分けると、ラーメンの摂取頻度が高いほど半分以上飲む人の割合が高かった(傾向性p<0.001)。具体的には、ラーメン摂取頻度が月1回未満の群で半分以上飲む人は33.7%、摂取頻度が月1~3回では42.2%、週1~2回では51.5%、週3回以上では57.7%だった。<>

中央値4.5年の追跡期間中に145人(2.16%)の死亡(癌死100人、心血管死29人を含む)が記録されていた。

粗死亡率が最も低い、ラーメン摂取頻度が週に1~2回の群を基準として他の群の死亡リスクを比較すると、交絡因子未調整の粗モデルでは、摂取頻度が最も高い群(週3回以上)では非有意ながら死亡リスクが7割近く高い傾向が認められた(ハザード比〈HR〉1.69〈95%CI;0.94~3.03〉)。死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙・飲酒習慣、麺類摂取時に飲むスープの量、高血圧・糖尿病・脂質異常症の既往)を調整したモデルでも非有意ながら、摂取頻度が週3回以上の群では死亡リスクが約5割高い傾向が認められた(HR1.52〈0.84~2.75〉)。

サブグループ解析では70歳未満、習慣的飲酒者は有意にハイリスクという結果

次に、年齢(70歳未満/以上)、性別、飲酒習慣の有無、麺類摂取時に飲むスープの量(半分以上/未満)で層別化したサブグループ解析を実行。すると、以下のように、有意なリスク差が存在する集団が特定された。

年齢

年齢が70歳未満の場合、ラーメン摂取頻度が週3回以上の群は、前記の交絡因子を調整後、死亡リスクが2倍以上高いことが示された(HR2.20〈1.03~4.73〉)。ただし、ラーメン摂取頻度が最も低い群(月1回未満)においても、有意なリスク上昇が認められた(HR2.17〈1.08~4.34〉)。

70歳以上の場合は、ラーメン摂取頻度と死亡リスクとの間に有意な関連はみられなかった。

性別

男性では、ラーメン摂取頻度が月1回未満の群で、有意な死亡リスク上昇が認められた(HR2.07〈1.09~3.97〉)。女性については死亡リスクとの有意な関連はみられなかった。

麺類摂取時に飲むスープの量

麺類摂取時にスープを半分以上飲む人では、ラーメン摂取頻度が月1回未満の群で、有意な死亡リスク上昇が認められた(HR2.43〈1.09~4.92〉)。スープを半分以上残す人では、死亡リスクとの有意な関連はみられなかった。

飲酒習慣

習慣的飲酒者では、ラーメン摂取頻度が週3回以上の場合に死亡リスクが3倍近く高いことが示された(HR2.71〈1.33~5.56〉)。飲酒習慣のない人では死亡リスクとの有意な関連はみられなかった。

ラーメン摂取に関する食事指導では、個人の特性を考慮する必要がある

著者らは本研究から得られた知見を以下のようにまとめている。

まず、ラーメンの摂取頻度が高い人の特徴が明らかにされ、摂取頻度の高さがBMIや喫煙・飲酒習慣、スープをあまり残さないことなどと関連していた。次に、ラーメンの摂取頻度が高い場合に死亡リスクが高い傾向があり、とくに70歳未満や習慣的飲酒者では有意な関連が認められた。

一方で、ラーメン摂取頻度が最も低い群においても、死亡リスクが高い集団が特定された。この点について著者らは「機序は不明」としながら、心血管リスク因子を有している人がラーメンの摂取を控えていることによる因果の逆転、または食事全体の摂取量が少ないことに伴うフレイルが死亡リスクに影響を及ぼしていた可能性を考察として述べている。

論文では、研究の限界点として、観察研究であり因果関係の考察が制限されること、ラーメン摂取頻度以外の食習慣や運動習慣、社会経済的地位など、死亡リスクに影響を及ぼし得る因子を調整していないこと、摂取されたラーメンの種類や一杯あたりの量を把握していないことなどを挙げた上で、結論を「ラーメン摂取頻度は、男性、70歳未満、習慣的飲酒者、麺類摂取時にスープを半分以上飲む人において、死亡リスクと関連していた。これらの結果は、個人の特性に基づいて、ラーメン摂取に関する食事指導を行う必要があることを示唆している」と総括している。

なお、山形大学のサイト内に掲載されたプレスリリースには、一般向けの解説として「研究のポイントおよびQ&A」がまとめられており、「ラーメンはどのくらいなら安心して食べられますか?」、「健康的に楽しむにはどうすればいいですか?」などの設問とその回答が示されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Frequent Ramen consumption and increased mortality risk in specific subgroups: A Yamagata cohort study」。〔J Nutr Health Aging. 2025 Aug 1;29(10):100643〕 原文はこちら(Elsevier)

プレスリリース

ラーメンの過剰摂取が一部の人々の死亡リスクを高める可能性——山形コホート研究より(山形大学)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)。具体的には、ラーメン摂取頻度が月1回未満の群で半分以上飲む人は33.7%、摂取頻度が月1~3回では42.2%、週1~2回では51.5%、週3回以上では57.7%だった。<>

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体内の葉酸の貯蔵量の指標ともいえる赤血球中の葉酸値が、筋肉量(ASMI)と正相関することが、米国国民健康栄養調査のデータ解析から示された。512ng/mL以上ではこの相関が有意でなくなることから、著者らは「サルコペニア予防には赤血球葉酸値を512ng/mLを下回らないように維持することが役立つ可能性があるのではないか」と述べている。

体内の葉酸レベルの三つの指標と四肢骨格筋量指数(ASMI)の関連を検討

ビタミンB群に含まれる葉酸は、骨格筋機能にとっても重要な栄養素であるとされており、複数の研究で葉酸摂取量と筋力との関連が報告されている。ただし、体内の葉酸レベルと筋肉量との関連はいまだ明らかにされていない。

体内の葉酸レベルの評価指標として、「血清総葉酸値」や血清中の葉酸の活性型である「5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-Methyl-tetrahydrofolate;5-MTHF)」、および、赤血球中の葉酸レベルである「赤血球葉酸値」などがある。血清総葉酸値や5-MTHFは食事摂取の影響を受けて変動するのに対して(半減期は3時間)、赤血球葉酸値は赤血球寿命が120日であることから、過去約2カ月の葉酸摂取状況を反映する指標として位置付けられている。

この論文の著者らは、米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey;NHANES)のデータを用いて、これら三つの指標と四肢骨格筋量指数(appendicular skeletal muscle mass index;ASMI)の関連を横断的に解析した。

米国国民健康栄養調査のデータを横断的に解析

2011~18年の米国国民健康栄養調査(NHANES)の参加者の中で、癌罹患者、妊婦、およびデータ欠落者を除外した1万3,850人を解析対象とした。なお、論文中には解析対象者の年齢を絞り込んだ(例えば未成年者を除外した)という記載は見当たらず、後述するように、低筋量(low muscle mass;LMM)群の平均年齢が21.437±14.759歳と若く、これは筋量のピークに達していない未成年の参加者が多く含まれていることを意味する。年齢層別のサブグループ解析の結果も示されているが、この点はサルコペニアという加齢変化と葉酸レベルとの関連を検討するうえでの限界点として指摘できるかもしれない。

さて、論文の紹介に戻ると、解析対象者を欧州サルコペニアワーキンググループ2(European Working Group on Sarcopenia in Older People 2;EWGSOP2)のサルコペニア判定基準(ASMIが男性は7未満、女性は5.5未満)に基づき分類すると、3,016人(21.8%)が低筋量(LMM)に分類された。

正常筋量(normal muscle mass;NMM)群と比較して低筋量(LMM)群は、前述のように若年であり(34.898±13.737 vs 21.437±14.759歳、p<0.00001)、男性が多いほか(47.398>

葉酸関連の三つの指標のうち、血清総葉酸値と5-MTHFについては低筋量(LMM)群のほうが有意に高く、葉酸摂取量の長期的な指標である赤血球葉酸値についてはLMM群のほうが有意に低いという結果だった。詳細は以下のとおり。

正常筋量(NMM)群、LMM群の順に、血清総葉酸値は17.882±13.233、22.098±10.690ng/mL、5-MTHFは37.756±28.466、46.584±21.322nmol/L(いずれもp<0.00001)、赤血球葉酸値は496.107±192.645、484.228±182.134ng>

次に、四肢骨格筋量指数(ASMI)と葉酸関連指標との関係性を多重線形回帰分析で検討。その結果、交絡因子未調整の粗モデル、および、年齢、性別、人種を調整したモデルでは、血清総葉酸値と5-MTHFはASMIと負の有意な関連が示され、赤血球葉酸値は正の有意な関連が示された。

ただし、調整因子に、喫煙、運動習慣、総コレステロール、トリグリセライド、LDL-C、HDL-C、HbA1c、インスリン、AST、クレアチニン、尿酸、白血球数、アルブミン、ビタミンDなどを加えると、血清総葉酸値と5-MTHFに関してはASMIとの関連が非有意となった。その一方、赤血球葉酸値に関しては引き続き有意な正の関連が維持されていた(β=0.0003、p=0.002098)。

サブグループ解析では20~39歳、男性でのみ有意な関連

続いて、赤血球葉酸値とASMIとの関連について、年齢・性別で層別化したサブグループ解析が行われた。交絡因子を調整後、年齢については20歳以上40歳未満でのみ有意な関連が認められ(β=0.0007、p=0.000003)、20歳未満や40歳以上は有意な関連がなかった。性別では男性のみ有意な関連が認められ(β=0.0007、p=0.000020)、女性では非有意だった。

赤血球葉酸値とASMIとの関連が非線形の関連であったため変曲点を検討すると、赤血球葉酸値が512ng/mL未満の場合は赤血球葉酸値が高値であるほどASMIが高く、赤血球葉酸値が512ng/mLを超えるとその関連がみられなくなった。なお、年齢20歳以上40歳未満の集団での変曲点は468ng/mL、男性のみでは574ng/mLだった。

葉酸サプリ摂取の有用性は、前向き研究で検証される必要がある

これらの結果を基に論文の結論は以下のようにまとめられている。

本研究では、赤血球中葉酸値と筋肉量の間に正の相関関係が認められ、変曲点は512ng/mLだった。この結果は、葉酸欠乏が筋肉量減少と関連している可能性を示唆している。しかしながら、これはあくまで相関関係を示すものであり、因果関係を示唆するものではない。因果関係の確認には前向き研究が必要とされる。赤血球中葉酸値を512ng/mL以上に維持することが、サルコペニアの予防と治療に潜在的な効果をもたらす可能性があるものの、葉酸サプリメントに関する具体的な推奨は、確固とした前向きなエビデンスが得られるまで待つ必要がある。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between body folate status and muscle mass: a cross-sectional study of the National Health and Nutrition Examination Survey 2011–2018」。〔J Health Popul Nutr. 2025 Jul 12;44(1):250〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部

0.00001)、赤血球葉酸値は496.107±192.645、484.228±182.134ng>0.00001)、男性が多いほか(47.398>

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2022年の欧州陸上競技選手権大会における、栄養成分表示の影響に関する調査結果が報告された。栄養成分表示はアスリートの食品選択の自信を高め、回答者の9割以上が今後の大会でも継続されることを希望していた。

スポーツ大会での栄養成分表示はどのくらい役立っているのか?

規模の大きなスポーツイベントでは、レストランで提供される食品に栄養成分表示が提供されるようになり、オリンピックやコモンウェルスゲームズなどでは義務化されている。ただ、栄養成分表示は会場内で食事を摂る人がその情報を利用することで、はじめて役に立つものであるにもかかわらず、その利用状況はあまり調査されていない。

この研究は、2022年8月にミュンヘン(ドイツ)で開催された欧州陸上競技選手権大会中に、大会施設内のレストランで食事を摂る18歳以上のアスリートおよびサポートスタッフを対象として実施された。レストラン内などにアンケートページへのQRコードを掲示し、アクセスするとインフォームドコンセントを表明後に回答できるようにシステム化されていた。

回答者の内訳とアンケートの内容

回答者数は280人であり、選手が221人、スタッフが59人だった。大会に参加したアスリートは1,540人だったため、アスリートの14.4%が回答したことになる。

回答したアスリートのおもな特徴は、性別は男性が42.2%、参加競技は短距離39.3%、中距離19.6%、長距離17.8%、跳躍10.3%、投擲9.8%、複合競技3.3%。スタッフは男性79.7%で、コーチ63.8%、理学療法士15.5%、医師8.6%など。

アンケートの質問項目は、栄養成分表示の利用頻度、有用性、内容の評価などであり、5段階のリッカートスコアで回答を得たほか、自由記述欄を設けてあった。

レシピ開発と栄養成分表示の内容

大会施設内のレストランで提供される食事のレシピは、選手が宿泊するホテルの一つ(リーディングホテル)が開発し、事前に欧州陸上競技連盟が承認。各メニューの栄養成分のデータの提供を受け、果物を除くすべての食品にも短縮バージョンの栄養成分表示を掲示した。また、より詳しいフルバージョンの表示を、選手が宿泊するホテルのウェルカムデスクに設置した。

短縮バージョンには、原材料のリスト、アレルゲン情報などを表示し、フルバージョンにはそのほかに、エネルギー量、主要栄養素の重量と%エネルギー、および、高脂肪食/低脂肪食、高炭水化物食/低炭水化物食、高タンパク食/低タンパク食に該当する場合はそれをアイコンで表示した。

実際に使用された栄養成分表示は原文をご覧ください。 原文はこちら【Nutrients. 2024 Dec 19;16(24):4375】(MDP)

27.6%の回答者が成分表示を見て食品選択を変更

得られた280人の回答のうち19人の回答は内容が不完全のため除外し解析された。

ふだんの食生活に関する質問から、回答者の大半は(73.9%)は栄養スタッフの個別指導を受けておらず、79.9%は食事制限をされていなかった。食事制限のある回答者(20.1%)では、乳糖不耐症が(3.6%)が最多で、ビーガンまたはベジタリアン(3.2%)、グルテンフリー(2%)などが続いた。

栄養成分表示の利用状況と重要性

栄養成分表示ラベルの利用状況は、5段階のリッカートスコアの中央にあたる「時々(occasionally)」が38.3%と最多で、「常に(always)」は5.7%、「ほぼ毎回(almost every time)」14.6%、「ほぼ使用しない(almost never)」13.8%、「全く使用しない(never)」25.3%であり、選手とスタッフ、性別、選手の参加競技、スタッフの職種での比較で有意差はなかった。ただし、何らかの食事療法を行っている人は使用頻度が高いという有意差があった。

栄養成分表示を利用しない理由として挙げられた回答は、「必要がない」(17人)、「食品を見て選びたい」(8人)、「アレルギーや不耐症がない」(7人)、「興味がない」(7人)などだった。

一方で、28.4%は栄養成分表示を「非常に重要」と考えていて、41.0%は「重要」と考えていた。この回答の傾向に、回答者の属性による有意な違いはみられなかった。なお、栄養成分表示の利用頻度と重要度の捉え方は、弱い有意な正相関が認められた(ρ=0.319、p<0.001)。<>

短縮バージョンの情報量について、69.0%が「十分」と回答した。フルバージョンは回答者の26.5%しか見ておらず、内容については「十分」が65.8%だった。表示内容の中で最も重要とされた項目は、アレルゲンに関する情報だった。傾向として、管理栄養士による食事療法を受けているアスリートは栄養成分表示を「非常に重要」と考える割合が高かったのに対し(38.8%)、そうでないアスリートでは少なく(23.5%)有意差がみられた(p=0.024)。

回答者の多くは、栄養成分表示が「役に立つ」(31.8%)または「やや役に立つ」(30%)と考えていた。とくにサポートスタッフにおいて役立つとする回答が多く、アスリートとの間に有意差が認められた(p=0.036)。

また、回答者の27.6%が、栄養成分表示を見たことで当初の食品選択を変更していた。その理由としては、アレルゲンに関連する内容が多かった。

栄養成分表示の評価

栄養成分表示があることにより、41.9%の回答者が食品の選択に「自信があった」、31.3%が「中程度の自信があった(moderately confident)」を選択した。

この質問に対する回答の選択肢の分布には、アスリートとサポートスタッフで有意差があり、スタッフのほうが自信を持てたとする回答を多く選択していた(p=0.037)。また、サポートスタッフの大半が、アスリートにとって栄養成分表示が「重要」(52.2%)または「非常に重要」(30.4%)と考えていた。

著者らは、「栄養成分表示は、選手とサポートスタッフの双方にとって有益であり、今後の大会でも維持していくべきであることが示された」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Implementation of Nutrition Labels at the 2022 European Athletics Championships: An Observational Study of the Use and Perceptions of Athletes and Athlete Support Personnel」。〔Nutrients. 2024 Dec 19;16(24):4375〕 原文はこちら(MDP)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)。<>

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「暑熱(暑さ)」がアスリートのパフォーマンスを低下し、精神的負荷がその影響を増大させることが知られている。では、「寒冷(寒さ)」はどうだろうか? そのような視点による研究結果が、「European Journal of Applied Physiology」に掲載された。大阪公立大学都市健康・スポーツ研究センターの今井大喜氏、岡﨑和伸氏らの報告であり、寒冷に精神的ストレスが加わると、パフォーマンス低下が増大する可能性があるという。

寒冷ストレス+精神的ストレスで、パフォーマンスはより低下するか?

暑熱環境下ではパフォーマンス低下抑制のため、競技前に全身または身体の一部を冷却するという戦略(プレクーリング)の有効性が報告されている。このプレクーリングの効果は、さまざまな条件によって左右されることも明らかにされていて、例えば、それほど高温ではない環境下では筋肉の温度低下や代謝・神経系の機能低下によって、かえってパフォーマンス発揮が妨げられる可能性もある。また、精神的ストレスの強さが暑熱環境下でのパフォーマンス低下の程度に関与することも示されている。

一方、寒冷環境がスポーツパフォーマンスに及ぼす影響は複雑で、さまざまな状況に依存して異なる。これまでの研究で、運動時の環境温度とパフォーマンスの関係は逆U字型を示すことが報告されており、気温10度前後の寒冷環境では、それより低温または高温の条件に比べて、持久性運動パフォーマンスが高く発揮されるといったデータがあるものの、精神的ストレスが加わることの影響は検討されていない。

このような背景を踏まえて今井氏らは、「全身皮膚表面の冷却中に心理的課題によって誘発した精神的疲労は、冷却のみの場合と比較し、その後の持久性運動パフォーマンスを低下させる」との研究仮説のもと、以下の検討を行った。

9人の健康な若年男性に対するクロスオーバー研究で検討

この研究は、寒冷ストレスのみを加える条件と、それに精神的ストレスを加える条件の2条件を全参加者に行うという、クロスオーバーデザインで実施された。研究参加者は軽~中強度の運動を習慣的に続けている健康な男性9人(21.1±0.6歳、BMI22±3kg/m2、V(・)O2peak42.9±5.3mL/kg/分)。喫煙者や心血管代謝疾患の既往者などは除外されていた。

研究室に到着後に、心拍数、体温、呼気ガス、認知機能などのベースライン評価を実施。続いて、室温28°C、相対湿度33%の人工気候室内で水循環スーツを着用し、まず34°Cで20分間の灌流を行い、すべての指標が定常化したことを確認後、10°Cで10分、次いで15°Cで最大85分灌流した。この冷却方法は深部体温を下げずに体表面温度のみを低下させることを目的として設定された。

冷却開始後、精神的ストレスを加える条件ではストループカラーワードテスト(赤・緑・青・黄の4色のうちいずれかで着色された色文字が表示され、その色文字の意味ではなく、色をできるだけ速く回答するテスト)を行った。一方、寒冷ストレスのみを加える条件では、ドキュメンタリー映像を鑑賞してもらった。

ストループカラーワードテスト2セット(54.2±5.7分)終了後または映像の終了後に再度、認知機能テストを行い、それを20分以内に終了させた後、自転車エルゴメーターにより疲労困憊に至るまでの運動継続時間(time to exhaustion;TE)を評価した。運動負荷中には、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)をボルグスケールにより把握。また介入前後および運動終了直後にはチャルダー疲労スケール(Chalder Fatigue Scale;CFS)により疲労の程度を把握した。

なお、この試験は気候による暑熱の影響を避けるため2月末~4月の間に実施した。両条件の試行には5日以上のウォッシュアウト期間を設け、試行の24時間前からカフェイン・アルコールの摂取および激しい運動を禁止したほか、脱水回避のため研究室到着の2時間前に500mLの水の摂取を指示し、2条件とも同じ内容の軽食を摂取するよう指示した。また両条件は同じ時間帯に試行した。

寒冷ストレス+精神的ストレスで疲労がより高まってパフォーマンスが低下

研究では、体温、血行動態、呼気ガス代謝諸量、糖代謝、内分泌ホルモン、認知機能、疲労度、および運動パフォーマンスなど、さまざまなパラメーターへの影響が評価された。論文では、それらの結果のなかでとくに注目すべきこととして、以下の四つのポイントが強調されている。

(1)寒冷+精神的ストレスで疲労度が高まるが、寒冷ストレス単独ではそうでない

CFSで評価した疲労の程度は、初期値に変動がみられたため、それを考慮した共変量解析や、変化量による解析の結果、寒冷ストレスのみの条件に対して精神的ストレスを加えた条件では、介入直後および運動終了直後において有意に上昇していた。

(2)寒冷+精神的ストレスでは、運動前後でアドレナリンが有意に大きく上昇

運動終了直後の血漿アドレナリン・ノルアドレナリン濃度は、寒冷ストレスのみの条件に対して精神的ストレスを加えた条件では高値を示し、それはとくにアドレナリンで顕著であり、その値には条件間の有意差が認められ、効果量も大きかった(効果量〈d〉=0.719)。一方、血漿コルチゾール濃度は、両条件で有意な変化はみられなかった。これらのことから、寒冷+精神的ストレスは、視床下部-下垂体-副腎皮質系より交感神経-副腎髄質系をより亢進させると考えられた。

(3)寒冷+精神的ストレスで、寒冷ストレス単独よりも疲労困憊が速まる傾向

疲労困憊に至るまでの時間(TE)は、負荷0%から開始し毎分20%ずつ増大させていき、最大80%V(・)O2peakとして、RPEが19~20に到達し、かつ50回転/分を維持できなくなるまでの時間を計測した。その結果、寒冷ストレスのみの条件では573±153秒であるのに対して、寒冷に精神的ストレスを加えた条件では527±189秒であり5.7%低下した。この差は非有意だったが(p=0.133)、中程度の効果量が認められた(d=0.271)。

(4)持久性運動パフォーマンスの低下は疲労度の上昇と相関

条件間のTEの変化量(MS-CON)とCFSの変化量(MS〈運動終了直後-介入前〉-CON〈運動終了直後-介入前〉)との間に、有意な負の相関が認められた(r=-0.919、P=0.002)。つまり、寒冷+精神的ストレスの負荷により高じた疲労が、パフォーマンス低下に関連していた。

これらの結果に基づき論文の結論は、「全身の皮膚表面の冷却中に誘発される精神的疲労は、全体的な解析では持久性運動パフォーマンスに有意な低下をもたらさなかった。ただし個人差があり、一部の参加者では有意な低下が認められた。これらの個人差は、主観的疲労感の増大および交感神経-副腎髄質系の亢進と関連していた」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Mental fatigue accompanied by whole-body surface cooling is associated with the impairment of subsequent endurance exercise performance」。〔Eur J Appl Physiol. 2025 Jul 11〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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牛乳中の脂肪を包んでいる膜構造「乳脂肪球膜」の摂取が、比較的若年の成人において瞬発力を含む体力指標にプラスの影響を及ぼすことを示唆するデータが報告された。筋力トレーニングを併用した4週間の介入試験で、プラセボ摂取と比較し下肢筋力や30秒間の腹筋運動の回数に有意差が認められたという。(株)明治 研究本部の中山恭佑氏らの研究によるもので、国際スポーツ栄養学会(ISSN)の学術誌「Journal of the International Society of Sports Nutrition」に論文が掲載された。

筋トレに乳脂肪球膜(MFGM)摂取を加えると、若年者の筋力もさらに向上する?

筋力トレーニングに特定の栄養成分の摂取を加えると、筋力をより高められることが示唆されている。例えば、クレアチン、ビタミンD、一部のプレバイオティクスなどでそのようなデータが報告されている。

乳脂肪球膜(milk fat globule membrane;MFGM)は、牛乳に含まれているトリグリセライドを包んでいる膜状の構造で、リン脂質やスフィンゴミエリンなどで構成されている。このMFGMに関しても近年、軽強度有酸素運動との並行介入によって、高齢者の敏捷性や中年者の筋力が向上することが報告されてきている。

ただ、MFGMの摂取と筋力トレーニングを並行して行った場合の影響については、まだ検討されていない。中山氏らはこのギャップを埋めるため、プラセボ対照二重盲検比較試験を行った。

50歳未満の健康な成人を対象に4週間介入

事前のパイロット研究により、このトピックの有意差の検証には約100人(各群50人)が必要と考えられ、160人が募集された。非高齢者での効果を検討するという目的から、年齢を50歳未満とし、その他の除外基準(習慣的に高強度トレーニングを行っている、ホエイプロテインまたはスフィンゴミエリンを習慣的に摂取している、BMI30以上、喫煙者、大量飲酒者、重大な疾患の既往、医学的な理由による運動制限など)の該当者を除外し、研究参加者は102人となった。

性別の分布に偏りが生じないように調整のうえ無作為に2群に分け、1群を乳脂肪球膜(MFGM)摂取群、他の1群をプラセボ群とした。介入期間は4週間だった。

介入方法について

MFGMまたはプラセボを1日1回、後述の筋力トレーニング実施日は筋トレ開始の60分前までに、その他の日は任意の時刻に摂取してもらった。MFGMはホエイプロテインから作られたもので、1回分は炭水化物0.2g、タンパク質7.6g、脂質1.7g、スフィンゴミエリン160mgであり、エネルギー量は46kcal、プラセボはホエイプロテインとマルトデキストリンから作られ、炭水化物3.8g、タンパク質7.6g、脂質0.0g、スフィンゴミエリン5mg(検出限界)未満で46kcalだった。

筋トレは週3回、スポーツクラブ内で研究者の監督のもと、レッグプレス、チェストプレス、カウンタームーブメントジャンプ、腹筋運動などが行われた。

乳脂肪球膜(MFGM)群で、筋力関連指標がより大きく上昇

介入期間中に数名が脱落し、解析対象はMFGM群48人、プラセボ群50人となった。ベースラインにおいて、性別の分布(女性がMFGM群23人、プラセボ群26人)、年齢(両群とも平均約34歳)、BMI(同22)に有意差がなく、除脂肪量や乳製品からのスフィンゴミエリンの摂取量(MFGMそのものの定量は困難であるためスフィンゴミエリン摂取量を評価)も有意差がなかった。

介入効果は、等速性膝伸展・屈曲筋力、レッグプレスおよびチェストプレスの1RM(1回だけ施行可能な最大負荷量〈one repetition maximum〉)、反復横跳び、垂直跳び、腹筋運動、体組成などで評価された。ベースラインではいずれも群間差が非有意だったが、介入後には複数の指標で有意な群間差が認められた。詳細は以下のとおり。

等速性膝伸展・屈曲のピークトルクと平均パワー

MFGM群では4週間の介入の前後で、等速性膝伸展動作のピークトルクと平均パワー、および、膝屈曲のピークトルクと平均パワーがいずれも有意に向上していた。一方、プラセボ群では膝屈曲のピークトルクと平均パワーのみが有意に向上し、膝伸展のピークトルクと平均パワーは有意な変化がみられなかった。

介入後の等速性膝伸展のピークトルク(p=0.003)と平均パワー(p=0.019)に有意差が認められ、介入前後の変化量もMFGM群のほうが有意に大きかった。

レッグプレス・チェストプレスの1RM

レッグプレスとチェストプレスの1RMは、MFGM群とプラセボ群の双方で、介入により有意に向上していた。ただし、レッグプレスの1RMについては、介入前後の変化量がMFGM群のほうが有意に大きく、介入後の値に有意差が認められた(p=0.004)。

30秒間の腹筋運動の回数

腹筋運動の施行可能回数は、MFGM群とプラセボ群の双方で、介入により有意に向上していた。ただし、介入前後の変化量はMFGM群のほうが有意に大きく、介入後の値に有意差が認められた(p=0.030)。

その他の指標

その他に評価された、敏捷性の指標である反復横跳びや、垂直跳び、体重、除脂肪体重などに関しては、介入前後での変化量や介入後の値に有意差は認められなかった。

加齢に伴う体力低下をMFGM摂取で部分的に抑制できる可能性

まとめると、若年成人を対象として4週間の筋トレに並行しMFGMを連日摂取することにより、筋力やパワーがより大きく向上することが示された。ただし、敏捷性についてはプラセボと有意差がなかった。

著者らは、研究期間中の食事・栄養素摂取状況や監督下以外の運動量が把握されていないこと、筋トレを行わずにMFGM摂取のみの介入群や非介入群が設定されていないことなどを研究の限界点として挙げ、「認められた効果がMFGM単独によるものなのか筋トレとの相乗効果なのかは明らかでない」としている。そのうえで、「健康寿命の延伸と生活の質の向上は、世界的に重要な課題であり、体力の維持・向上が重要とされる。本研究で示されたMFGM摂取による効果が、成人期以降の加齢に伴う体力低下の抑止に役立てられるのではないか」と結論づけている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of milk fat globule membrane ingestion with exercise on physical strength in healthy young adults: a randomized double-blind, placebo-controlled trial」。〔J Int Soc Sports Nutr. 2025 Dec;22(1):2535372〕 原文はこちら(Informa UK)

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スポーツ栄養Web編集部


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国内の小学5・6年生では、朝食の欠食が多いこと、夜食の摂取頻度が高いこと、就寝時刻が遅いこと、睡眠時間が短いことなどが、スクリーンタイムの長さと独立した関連のあることが明らかになった。筑波大学大学院人間総合科学研究科の馬場朝美氏、麻見直美氏らが行った横断研究の結果であり、「Journal of Nutritional Science and Vitaminology」に論文が掲載された。

生活習慣が確立し始める小学校高学年のスクリーンタイム関連因子を包括的に探る

日本の子どもたちのスクリーンタイムの増加が報告されている。さらに、スクリーンタイムの長さが、身体活動や睡眠にあてる時間の短縮、肥満の増加や学力の低下と関連しているとの報告もある

ただ、子どもたちのスクリーンタイムに関するこれまでの研究は中学・高校生を対象としたものや、関連を検討した因子が限定的な報告が多い。スマートフォンなどの電子デバイスの利用が低年齢化していることから、より低年齢層のスクリーンタイムの関連因子をより包括的に理解する必要が生じている。

食事・睡眠習慣、肥満度、新体力テストの合計得点などの関連を解析

この研究は、つくば市内のある小学校の5・6年生を対象に実施された。Googleフォームを用いたアンケートにより、スクリーンタイムを質問するとともに、年齢、性別、食事・睡眠習慣などを把握。加えて、肥満度、スポーツ庁「新体力テスト」の体力合計得点なども含めた多くの因子とスクリーンタイムの関連を検討した。

454人が回答。回答内容に不備があるものを除外し、400人(男子187人、女子213人)を解析対象とした。なお、男女間の比較で、身体活動時間が女子より男子のほうが長いことを除き、有意差のある項目はみられなかったため、性別ごとの解析は行われていない。

スクリーンタイムの長い子どもは食習慣・睡眠習慣が良くない

1日のスクリーンタイムは、2時間未満が62.7%、2~3時間未満が23.5%、3時間以上が13.8%だった。この3群を比較すると、新体力テストの合計得点と、食事・睡眠習慣に有意差が認められ、肥満度と身体活動時間は有意差がなかった。

食習慣については、スクリーンタイムが長い群ほど、朝食を全く/時々食べない子どもが多く(スクリーンタイム2時間未満では8.4%、同2~3時間未満は11.7%、3時間以上は20.0%)、夜食をよく/ときどき食べる割合が高かった(同順に49.4%、59.6%、72.7%)。

睡眠習慣については、スクリーンタイムが長い群ほど、睡眠時間6時間未満(2.0%、3.2%、12.7%)、就寝時刻が午後10時以降(50.2%、56.4%、74.5%)、午後11時以降(11.6%、10.6%、34.5%)が多く、また、入眠困難が多かった(62.9%、77.7%、74.5%)。

食習慣や睡眠習慣がスクリーンタイムの長さと独立して関連

次に、スクリーンタイムを独立変数、調査で把握したその他の因子を従属変数とする多変量解析を実施。スクリーンタイムが2時間未満の群を基準として、スクリーンタイムが3時間以上の群は、食事・睡眠の不良が多いことがわかった。その関係は、性別、学年、肥満度、新体力テストの体力合計得点を調整後にも、以下のように有意性が保たれていた。

朝食を全く/時々食べないことはオッズ比(OR)2.37(95%CI;1.05~5.38)、夜食をよく/ときどき食べることはOR2.72(1.41~5.23)、睡眠時間6時間未満はOR10.45(2.78~39.30)、就寝時刻が午後10時以降はOR2.81(1.43~5.53)、午後11時以降はOR3.97(1.95~8.07)。身体活動時間と入眠困難は有意な関連がなかった。

なお、スクリーンタイムが2~3時間未満の群は、入眠困難のみが有意な関連因子だった(OR2.05〈1.17~3.58〉)。

スクリーンタイムを減らして身体活動を増やす働きかけも必要

本研究では上記のように、スクリーンタイムが2~3時間未満の子どもは入眠困難が多く、スクリーンタイムがより長い3時間以上の子どもはそうでなかった。この点について著者らは、電子デバイスの使用は基本的には入眠を妨げると考えられるが、3時間以上に及ぶ場合、睡眠時間そのものが短縮することや、疲労が蓄積するために、入眠困難を来しにくくなるのではないかと考察している。

また、身体活動時間はスクリーンタイムと有意な関連がなかったが、過去の複数の研究から、スクリーンタイムの長さは身体活動の少なさや座位行動の多さと関連が示されているため、スクリーンタイムを減らし身体活動を増やすという働きかけが、今後も重要と考えられるとしている。

なお、本研究の限界点としては、研究対象校が1校のみであり、スクリーンタイムに影響を及ぼし得る社会経済的地位(世帯収入や保護者の就業状況など)を把握していないことなどが挙げられている。

子どものスクリーンタイムの上限を設定すべきではないか

以上、一連の調査結果に基づく考察のうえで著者らは、「日本の小学校高学年の児童において1日3時間以上のスクリーンタイムは、多くの食事・睡眠習慣の悪化と関連していた。海外では子どものスクリーンタイムを『1日2時間まで』としている国が多いが、日本ではそのような推奨がなされていない。諸外国の事例を参考にしつつ、我が国では学習目的での電子デバイスの利用も多いこと、子どもの睡眠時間が諸外国の子どもより短いことなどを考慮したうえで、独自の基準を設けるべきではないか」と提案している。

文献情報

原題のタイトルは、「Association between Screen Time and Lifestyle Habits among Upper Elementary School Children」。〔J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2025;71(3):248-255〕 原文はこちら(J-STAGE)

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スポーツ栄養Web編集部


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アスリートにおいて最も頻繁に生じるとされる虐待である心理的虐待が、摂食障害や自傷行為のリスク、アスリートとしての満足度の低下と関連しているとする論文が、カナダの国家代表選手約800人を対象とする調査の結果として報告された。

「スランプの際に人格を否定された」などの心理的虐待は摂食障害等のリスクになるか?

アスリートが経験することのある虐待のなかで最も多いタイプの虐待は、心理的虐待であるとされている。例えば、他の選手や観客がいる前で辱められるような発言を受ける、体格について否定的なコメントをされるといったことであり、コーチやトレーナー、または同僚によってこれらが行われることが多い。

アスリートでない一般人口においては、心理的虐待を受けることによって、精神的健康度や幸福感が低下し、摂食障害や自傷行為のリスクが高まることが明らかにされており、とくに教育の現場ではそのような指導を慎むように変化してきた。しかし、アスリートではそのような関連性の有無が十分検討されておらず、選手の指導のためという名目のもと、伝統的にこのような心理的虐待が長く行われてきている。

三つの研究仮説

この状況を背景として、この論文の著者らは、以下の三つの仮説を立て、エリートアスリートを対象とする調査を行った。

三つの仮説とは、(1)心理的虐待はアスリートの満足度と負の相関があり、摂食障害や自傷行為の指標とは正の相関がある、(2)アスリートの満足度は、これらの関係を緩衝するように働き、心理的虐待を経験しながらも競技に高い満足度をもつアスリートは、摂食障害や自傷行為のリスクが低い、(3)審美系スポーツや体重別階級のあるスポーツの選手、および団体競技の選手は、それら以外の選手よりも、変数間の関係がより強固である――というもの。

調査対象と調査項目

この研究の対象は、カナダの国家代表レベルのエリートアスリートが登録されている「AthletesCAN」のメンバーのうち、16歳以上の6,239人に対して研究参加協力のメールを送信し、回答を得られた794人。パラアスリートや引退後10年以内のアスリートも含まれている。

心理的虐待の経験については、先行研究に基づき9項目の質問(見下されたり屈辱を与えられたりした、蔑称で呼ばれた、パフォーマンス低下時に人格を否定された、など)により、範囲0~9点でスコア化した。選手としての満足度は、10項目の質問からなる「アスリート満足度質問票(Athlete Satisfaction Questionnaire;ASQ)で評価した。

摂食障害については、以下の3項目の質問で評価した。(1)選手生活で乱れた食行動(摂取量の制限、過食、嘔吐など)を考えたことがあるか、(2)乱れた食行動をとったことがあるか、(3)乱れた食行動または摂食障害の治療を受けたことがあるか。自傷行為については、以下の3項目の質問で評価した。(1)選手生活で自傷行為や自殺を考えたことがあるか、(2)自傷行為や自殺行動をとったことがあるか、(3)自傷行為または自殺企図に関して治療を受けたことがあるか。

仮説1は支持され、2と3は部分的に支持されるという結果

回答者794人の内訳は、現役選手が75%、引退後の選手が25%(引退からの経過年数は4.31±2.79年)、平均年齢27.85±9.08歳、女性63%で、12%が障害を有していた。参加競技は64種類にわたっており、体操、バレーボール、陸上、自転車、水泳、ボートなどの割合が高かった。

審美系競技または体重別階級競技の選手は115人(14%)、団体競技の選手は226人(28%)だった。

6割が心理的虐待の経験あり:

心理的虐待を経験したことを報告したアスリートは478人(60%)だった。摂食障害は191人(24%)、自傷行為は140人(18%)が、なんらかのリスクの存在を示す回答をした。

仮説1の検証

心理的虐待の経験があることは、アスリートとしての満足度と負の相関があり(r=-0.316)、摂食障害のスコア(r=0.311)、自傷行為のスコア(r=0.252)とは正の相関があって、いずれも有意だった。つまり、仮説1は支持された。

仮説2の検証

アスリートとしての満足度のスコアを用いて全体を3群に分け、自傷行為のスコアとの関連を比較したところ、すべての群において、心理的虐待のスコアが高いほど自傷行為および摂食障害のスコアが高いという関連が認められた。

ただし、満足度スコアが最も高い群では、心理的虐待スコアの高さが自傷行為スコアに及ぼす影響が最も弱かった。反対に満足度スコアが最も低い群では、心理的虐待スコアの高さが自傷行為のスコアに及ぼす影響が最も強かった。一方で、摂食障害との関連は逆転していて、満足度スコアが最も高い群では心理的虐待スコアの高さが摂食障害スコアに及ぼす影響が最も強く、満足度スコアが最も低い群では心理的虐待スコアの高さが摂食障害スコアに及ぼす影響が最も弱かった。

つまり、仮説2は自傷行為との関連については支持され、摂食障害との関連については否定された。

仮説3の検証

心理的虐待スコアと摂食障害スコアおよびアスリート満足度スコアとの関連の交互作用は、審美系競技および体重別階級競技の選手では有意な傾向がみられたが(Β=0.81、p=0.08)、その他の競技の選手では交互作用が認められなかった。一方、団体競技と個人競技の選手で比較した場合、いずれも交互作用は非有意だった。

つまり、仮説3は部分的に支持された。

摂食障害等を報告したアスリートには虐待経験の有無のスクリーニングも必要

これらの結果をもとに論文の末尾には、以下のような推奨と結論が記されている。

スポーツにおける心理的に有害な慣行を除外し対処する必要があることが示唆される。とくにコーチやその他のサポートスタッフへの教育を強化し、また自己犠牲を奨励し過度の要求を受け入れる文化を強調するスポーツ倫理の遵守を求めることの危険性の認識を高め、アスリートのメンタルヘルスへの潜在的な悪影響を考慮する必要がある。

メンタルヘルスの問題を発見するための、より強力なスクリーニングが必要である。例えば、摂食障害や自傷行為を報告したアスリートに対しては虐待経験の有無を確認し、適切な心理的サポート(例えば心理士や精神科医への紹介)を提供したり、スタッフに対する適切なコーチングスタイルを教育することも必要となる。

心理的虐待がアスリートに悪影響を及ぼすことは明らかと言え、蔓延しているこの問題への対処は極めて重要。スポーツにおける心理的虐待防止に向けた、さらなる改善が求められる。

文献情報

原題のタイトルは、「The relationship between psychological abuse, athlete satisfaction, eating disorder and self-harm indicators in elite athletes」。〔Front Sports Act Living. 2025 Jan 10:6:1406775〕 原文はこちら(Frontiers Media)

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スポーツ栄養Web編集部


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神経性やせ症では「味を感じる」脳の領域の機能低下や、味覚に対する嫌悪感の学習が成立しやすくなっていることが示唆されるとする研究結果が報告された。千葉大学や国立精神・神経医療研究センターなどの研究チームによる成果であり、「Scientific Reports」に論文が掲載されるとともにプレスリリースが発表された。神経性やせ症状の中核症状である「痩せていても食事制限を続けてしまう」という行動には、肥満恐怖やボディイメージ障害とともに、脳の機能異常に伴う味覚処理異常が寄与している可能性があるという。

研究の概要:神経性やせ症の病態に関与する大脳島皮質の脳機能異常を詳細に検討

この研究は、千葉大学子どものこころの発達教育研究センター、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究、東北大学、京都大学、産業医科大学、九州大学との共同研究によるもので、身体感覚や味覚処理を司る領域であり、神経性やせ症の病態への深い関与が疑われている大脳の島皮質の各領域で生じている脳機能異常を詳細に検討した。その結果、神経性やせ症では「味を感じる」脳の領域である一次味覚野の機能低下や、味覚に対する嫌悪感の学習が成立しやすくなっていることを示唆する、脳の機能異常が生じていることが判明した。これらの味覚処理異常は、肥満恐怖やボディイメージ障害とともに、神経性やせ症状の中核症状である「痩せていても食事制限を続けてしまう」という行動に寄与している可能性があると考えられる。

研究の背景:多施設共同研究で十分なサンプルを確保して網羅的に解析

神経性やせ症は代表的な摂食障害であり、太ることへの恐怖やゆがんだボディイメージなどから、極端な食事制限を続けて深刻な体重減少に至る精神疾患。米国の調査では生涯有病率は女性0.9%、男性0.3%であり、女性の有病率は、代表的な精神疾患である統合失調症を上回るほど一般的。また、標準化死亡率は5.86と、精神疾患の中で最も高い重篤な疾患と言える。

神経性やせ症では、食事制限による栄養不足が脳の機能変化を引き起こし、それがさらに太ることへの恐怖や身体への不満を増大させ、さらなる食事制限を招くという「悪循環」が生じていると考えられている。この悪循環の中核をなしていると考えられているのが、脳の「島皮質」と呼ばれる部位の機能異常だ。島皮質は、身体感覚や内臓感覚、嫌悪感や恐怖といった感情、そして味覚や食べ物に対する判断に深く関与している。

同研究チームはこれまでにも、脳の活動状態を調べることができるfMRI※1を用いて、島皮質の安静時の機能的結合性※2を調査する研究を数多く行い、神経性やせ症では島皮質の異常活動がみられることを繰り返し報告してきた。

しかし、先行研究はサンプルサイズが小さく、さらに解析の際に島皮質を一つのまとまった領域として扱っていたため、詳細な機能変化の解明には限界があった。近年の研究では島皮質は細かく機能分化しており、身体感覚処理、情動処理、味覚処理など領域ごとに異なる役割をもつことが明らかになっている。

本研究では、多施設共同研究により十分なサンプルサイズを確保したうえで、島皮質を機能別に六つの領域に分け、それぞれの領域と全脳の安静時機能的結合性を解析することで、神経性やせ症において生じている島皮質の機能異常を網羅的に解明することを目指した。

研究の成果:神経性やせ症における味覚処理異常を示唆する変化が明らかに

本研究では、国立精神・神経医療研究センターの監修のもと、千葉大学、東北大学、京都大学、産業医科大学、九州大学で2014~21年の間に収集された、神経性やせ症患者女性114名(制限型61名、過食排出型53名)※3と、対照となる健常女性135名の大規模fMRIデータを解析対象とした。島皮質を機能に応じて分割した左右6領域を関心領域※4とし、6領域と他の脳のすべての領域との間で安静時の機能的結合性を算出し、神経性やせ症群と健常群で比較検討した。

その結果、神経性やせ症群では健常群に比べ、食物の認知的処理に関わる島皮質前部背側と、情動中枢として知られる扁桃体間の機能的結合性が上昇していた(図1の赤色強調部)。一方、舌からの味覚信号を脳の中で最初に受け取る一次味覚野である、島皮質中部後背側と頭頂弁蓋部間の機能的結合性は低下していた(図1の水色強調部)。また、これらの結果より統計的な信頼性は低かったものの、島皮質前部背側と小脳片葉間の機能的結合性の低下、島皮質中部後背側と中心弁蓋部間の機能的結合性の低下も認められた。

図1 神経性やせ症で生じた機能的結合性の変化

赤線:機能亢進。青線:機能低下。実線:統計的信頼性が高い。

(出典:国立精神・神経医療研究センター)

さらに、神経性やせ症の制限型(図2上)と過食排出型(図2下)をそれぞれ分けて健常群と比較すると、島皮質中部後背側と頭頂弁蓋部間の機能的結合性の低下は過食排出型でより顕著であるなど(図2下の緑色強調部)、神経性やせ症の中でもタイプによって生じている脳機能に差があることが示唆された。

図2 神経性やせ症の制限型/過食排出型と健常群の個別比較結果

赤線:機能上昇。青線:機能低下。黄色:統計的な信頼性が高い。

(出典:国立精神・神経医療研究センター)

一方、神経症やせ症患者で生じている島皮質前部背側と扁桃体間の機能的結合性の上昇は味覚嫌悪学習、すなわちある食べ物を食べた後に不快な症状(腹痛など)を経験すると、その食べ物の味に対して嫌悪感を覚えるようになるプロセスが過剰に働いていることを示唆している。また、一次味覚野である島皮質中部後背側と頭頂弁蓋部間の機能的結合性の低下は、神経性やせ症では一次味覚処理の異常が生じており、同じ食物でも以前と味が違って感じられてしまっている可能性があることを示している。さらに、島皮質中部後背側と頭頂弁蓋部間の機能的結合性の低下が、一般的に制限型よりも病歴が長い過食排出型でより顕著だったという結果は、病状の長期化に伴い、異常を引き起こす神経学的な変化も徐々に進行してしまう可能性を示唆している。

今後の展望:味覚処理異常を考慮した臨床評価へ

本研究成果は神経性やせ症患者における悪循環を維持してしまう、「痩せているにも関わらず食事制限をやめられない」という行動のメカニズムにおける、味覚処理異常の重要性を強調するもの。今後は臨床現場においても、味覚処理異常が神経性やせ症の病態理解や臨床評価の一助となることが期待される。

プレスリリース

神経性やせ症患者の「島皮質」における脳機能異常を解明 ―食事制限をやめられない背景に味覚処理異常の可能性―(国立精神・神経医療研究センター)

文献情報

原題のタイトルは、「A multicenter cross-sectional study to elucidate altered resting-state functional connectivity of the insular cortex in anorexia nervosa, segmented by functional localization」。〔Sci Rep. 2025 May 31;15(1):19118〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


Page 18

炭水化物水溶液の洗口(マウスリンス)が、ソフトボールのバッティング精度を高める可能性を示した研究論文を紹介する。二重盲検試験の結果、プラセボに比べて打ち出し角度の安定性が向上したという。中国からの報告。

中国国内4位以内の女子大学ソフトボールチーム選手を対象に検討

運動前の炭水化物摂取が筋グリコーゲンの維持に働き、持久系スポーツのパフォーマンスを向上させることには多くのエビデンスがある。しかし炭水化物の食品や飲料を摂取することによって、消化器症状が発現することがあり、そのためにパフォーマンスを発揮できないということも起こり得る。これに対して、炭水化物の水溶液を口内にふくみ洗口して、飲まずに吐き出すというマウスリンスが提案され、有効性が報告されてきている。

体内にほとんど吸収されずエネルギー基質とはならない炭水化物の洗口が有効であることの根拠として、中枢神経系を刺激することで疲労を軽減するといったメカニズムが想定されている。これまでに、スポーツパフォーマンスへの炭水化物洗口の影響は一貫性という点で十分ではないものの、疲労時の認知機能に対する影響はより確かであり、この点はメンタルスポーツでより有利に働く可能性があって、ソフトボールでのバットコントロールやバッティング精度もこれに該当する。

以上を背景として今回紹介する論文の著者らは、二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験により、炭水化物洗口のバッティングスキルへの影響を検討した。

研究デザインについて

研究参加者は女子大学生ソフトボール選手16人。1人が脱落し解析対象は15人となったが統計学的検討から、15人というサンプルサイズは有意差の検証に不足ないと推定された。なお、研究参加の適格条件として、6年以上の競技歴があり、中国国内上位4チームに所属していることなどが設定されていて、疾患や傷害罹患者は除外された。15人の平均年齢は20.6±0.9歳、トレーニング歴6.8±0.8年だった。

全体を2群に分け、1群は無味無臭の炭水化物水溶液(6.4%のマルトデキストリン)25mLで洗口、他の1群は同量のプラセボ(ミネラルウォーター)で洗口し、後述のテストを実施。7日間のウォッシュアウト期間をおいて割り付けを切り替え、再度同様のテストを行った。研究期間はオフシーズンで、5日間のトレーニングに続く2日間を休息日として、その翌日にテストを行った。

最初のテストの3日前から、すべての食事の内容と摂取時間を記録するとともに写真を撮影し、2回目のテストでそれを再現するように求めた。テスト当日は正午に昼食を摂取、15時30分からテストを開始した。

テストの項目は、認知機能検査(ポズナー・キューイング課題)、握力、カウンタームーブメントジャンプ(countermovement jump;CMJ)、およびバッティングテスト。バッティングテストはタナーティーを用いて5球を5セットとし、セット間に3分間の休憩をはさんで試行。打球速度と打ち出し角度を評価した。

各テスト項目の試行前に、炭水化物またはプラセボ水溶液25mLで20秒間洗口。バッティングテストではセットごとに洗口し、2条件での合計洗口回数は32回だった。洗口後に被験者へ炭水化物かプラセボのどちらだったかを質問した結果、正答率が46%であったことから、盲検化が成功していたことが確認された。

炭水化物洗口でバッティングの打ち出し角度が安定

では結果だが、認知機能検査、握力、カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)については、両条件間に有意差は認められなかった。それに対してバッティングテストでは、打ち出し角度の安定性に有意差が認められ、炭水化物洗口条件のほうが安定性が高かった。詳細は以下のとおり。

平均打球速度は炭水化物条件が97.4±3.99mph、プラセボ条件が97.5±4.01mph(p=0.754)、最大打球速度は同順に100.0±4.0mph、99.9±4.8mph(p=0.822)であり、いずれも有意差がなかった。また平均打ち出し角度は、7.0±2.6°、6.6±2.5°で有意差がなかった(p=0.420)。それに対して、打ち出し角度の一貫性は、5.0±0.9°、5.8±1.5°であり、炭水化物条件のほうが有意に安定していた(p=0.025、効果量〈d〉=0.69)。

バッティング精度以外に有意差がないのは、疲労が蓄積してなかったためか

打ち出し角度の安定性以外は有意差がなかった理由について著者らは、1セット5球であり、十分な休憩をとることができたため、疲労の兆候がなかったことの影響を考察として挙げている。ソフトボールはバッティング以外に守備と走塁を必要とするため、試合の後半の疲労が蓄積してくるシーンでは差が生じる可能性もあることから、「疲労下での打球速度などへの影響の有無を確認する研究が求められる」としている。

論文の結論は、「本研究の結果は炭水化物の洗口が、ソフトボールのバッティングにおける打ち出し角度の一貫性を高める効果的な方法であることを示唆している。ただし、選手が疲労を感じていない場合、打球速度の向上にはあまり効果的でないようだ。今後の研究では、疲労時の調査や、ピッチングまたはピッチングマシンを用いた検討などによって、より実践に近い条件での炭水化物洗口の効果の検証が期待される」と総括されている。

文献情報

原題のタイトルは、「Carbohydrate Mouth Rinsing Improves Softball Launch Angle Consistency: A Double-Blind Crossover Study」。〔Nutrients. 2025 Jan 2;17(1):167〕 原文はこちら(MDP)

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スポーツ栄養Web編集部


Page 19

カフェインを摂取し、自分の好きな曲を聞きながらウォーミングアップをすると、無酸素運動のパフォーマンスに相乗効果が現れるとする研究結果を紹介する。日常的に高強度トレーニングを行っている男性を対象として中国で行われた、二重盲検クロスオーバー試験の報告。

カフェインと音楽に相乗効果はあるか?

カフェインがスポーツパフォーマンスに有利に働くことは既に多くのエビデンスにより明らかにされている。また、音楽とスポーツパフォーマンスとの関連についても多くの研究が行われており、それらの研究を対象とするメタ解析からも有効性が報告されている。では、カフェインを摂取して音楽を聞いたとしたら、パフォーマンスはさらに向上するのだろうか?

今回取り上げる論文に研究背景として記されているところによると、このような視点で行われた過去の研究は、テコンドーで評価した2件存在し、いずれもそれぞれ単独よりも優れた効果を認めたと報告されているという。しかし、テコンドー以外では検討されておらず、解釈の一般化が制限されている。

以上を基に本論文の著者らは、無酸素性運動パフォーマンスの評価に広く用いられているウィンゲートテストによって、両者併用の相乗効果を検討した。

体育大学の男子学生を対象とする二重盲検無作為化クロスオーバー試験

研究参加者は北京体育大学の学生から募集された。適格条件は、3年以上の高強度トレーニング歴がある男性(カフェインのエルゴジェニック効果に性差が存在する可能性があることから女性は除外)で、日常のカフェイン摂取量が50mg未満であり(耐性の影響を除外するため)、筋骨格系の障害がなく、カフェインアレルギー、喫煙・飲酒習慣がないことなど。24人が参加し23人(21±1.62歳、BMI23.08±1.47)が、すべての試験を完了した。

試行された3条件

研究デザインは、二重盲検無作為化クロスオーバー試験であり、参加者全員が、(1)音楽のみ(プラセボ摂取+音楽を聞く)条件「Mus+PLA」、(2)音楽+カフェイン条件「Mus+CAF」、(3)対照条件(音楽を聞かず、かつカフェインまたはプラセボのいずれも摂取しない)という3条件を、順序を無作為化して行った。

音楽は自分で好みの曲を3~6曲選択。カフェインは3mg/kg、プラセボはマルトデキストリン200mgを外観から区別できないカプセルとして支給し100mLの水とともに、ウィンゲートテストの開始60分前に摂取した。なお、60分という間隔は、カフェインの血中濃度がピークになるのに要する時間。

ウィンゲートテストではエルゴメーターの負荷を体重の7.5%とし、最大努力速度で30秒間ペダルをこぐよう求めた。これら3条件の試行には、1週間のウォッシュアウト期間を設けた。

評価項目は、ウィンゲートテストでのピークパワー、平均パワー、総仕事量、心拍数、疲労指数、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)、および、テスト前後での感情スケールのスコアなどだった。

研究期間中はカフェインやタウリン、クレアチンなどのエルゴジェニックサプリメントの摂取を禁止し、各テスト試行の48時間前からは激しい運動を控えるよう指示した。

音楽+カフェインでパワーや仕事量が増大し、有害事象には有意差なし

ウィンゲートテスト

では結果について、まずウィンゲートテスト関連指標をみると、Mus+PLAおよびMus+CAFは対照条件に比べて、ピークパワー、平均パワー、および総仕事量が有意に向上(p<0.05)。さらに、ピークパワーはmus+caf条件の方がmus+pla条件よりも高かった(p=0.01)。詳細は以下のとおり。<>

ピークパワー(W)は、対照条件が888.08±133.20、Mus+PLAは943.95+139.25、Mus+CAFは1,017.39+155.23。平均パワーは同順に、621.11+75.55、657.65+64.55、665.41+66.54。総仕事量(J)は、1万7,822.43+2232.28、1万8,871.13+1828.08、1万9,160.08+1960.68。

心拍数、疲労指数、自覚的運動強度(RPE)に関しては3条件で有意差がなかった。

感情スケール、有害事象

0~9点のリッカート尺度で評価した感情のスコアは、テスト前の時点では対照条件(0.96±1.02)に比し、Mus+PLA(2.21±1.28)およびMus+CAF(2.74±1.25)は有意に高値だった。しかし、テスト終了時点では3条件で有意差がなかった。

腹部の不快感、筋肉痛、尿量の増加、頭痛、不安・緊張、不眠という有害事象の報告は、3条件間に有意差がなかった。

これらの結果に基づき著者らは、「無酸素性運動を行うアスリートは、ウォームアップ中にアスリート自身が選んだ音楽と適度なカフェイン(例えば3mg/kg)を併用することで、パフォーマンスを向上させることができる。ただし本研究は実験室環境で実施したものであり、より広範な適用の可能性、とくに他のスポーツ競技(例えば持久系運動)や女性アスリートへの適用の可能性の検証が必要とされる」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Caffeine Intake Combined with Self-Selected Music During Warm-Up on Anaerobic Performance: A Randomized, Double-Blind, Crossover Study」。〔Nutrients. 2025 Jan 19;17(2):351〕 原文はこちら(MDP)

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スポーツ栄養Web編集部

0.05)。さらに、ピークパワーはmus+caf条件の方がmus+pla条件よりも高かった(p=0.01)。詳細は以下のとおり。<>

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エネルギー利用能低下(LEA)に関するアスリートへの栄養教育の方法や効果について、システマティックレビューで検討した報告を紹介する。米国の研究者らによるもので、さまざまな介入が行われている実態を明らかにし、またそれらの介入効果は、「アスリートの栄養知識と行動の変化という点で概ね有益のようだ」と総括されている。

これまでのLEA教育の実態をシステマティックレビューで総括

トレーニング等による消費エネルギー量を摂取エネルギー量が下回り、身体機能の維持に悪影響が生じ得る「エネルギー利用能低下(LEA)」は、アスリートの4人に1人が経験するという報告もあり、とくに女性アスリートでその割合が高い。LEAが短期間であれば可逆的な影響にとどまるが、長期に及ぶと不可逆的な問題が引き起こされる。そのため、アスリートのLEAに対する認識を高めるような啓発が行われている。

それらの啓発の中心となるのは、栄養教育による知識の伝達だ。しかし、知識の豊富さとLEAリスクとの関連は十分に理解されていない。例えば、LEAを来した後の受療行動によって初めて栄養の知識を得るというケースもあるため、単に知識の豊富さとLEAの既往の有無を調べた場合、両者の関連を正しく評価できないことがある。

このような背景の下、今回紹介する論文の著者らは、これまでに報告されたアスリートへの栄養教育がLEAリスクに与える影響の研究結果を対象とするシステマティックレビューを実施し、現時点の知見を総括した。

文献検索の方法について

システマティックレビューとメタ解析のための優先レポート項目(PRISMA)に準拠して、2023年7月11日に、MEDLINE、PubMed、Web of Scienceという文献データベースを用いた検索を実施し、同月26日に追加された文献の有無を確認した。包括条件は、18歳以上のアスリートを対象に栄養教育を行い、LEAまたはRED-S(relative energy deficiency in sport. スポーツにおける相対的エネルギー不足)への影響を報告している英語論文とした。

重複削除後の1,338報を論文のタイトルと要約に基づくスクリーニングにより44報に絞り込み全文精査を実施。最終的に12件の研究報告を適格と判断した。

現在までのLEA教育は有用と考えられるが、外挿可能な手法の確立が必要

抽出された研究の特徴

対象となった12件の研究の研究参加者数は合計719人で、サンプルサイズの平均は60人(範囲7~107)であり、栄養教育を完了した割合は平均90.2%(同63.6~100)だった。

介入の多く(76.9%)は対面で行われ、10分間の単回セッションから90~120分間のセッションを20回行ったものまで、多岐にわたっていた。

栄養教育の方法

栄養教育の介入方法は全研究において多様であり、各研究はそれぞれ独自の教育アプローチを採用していて、研究間で方法論の重複はみられなかった。

教育内容については、対象となった研究の大半で、栄養補給・エネルギー摂取について盛り込まれており(83.3%)、微量栄養素に関する教育も83.3%で行われていた。そして、9割以上(91.7%)で、アスリート特有の栄養ニーズにあわせた教育が行われていた。RED-S、LEA、女性アスリートのトライアド(三主徴)について、明示的な教育を行っていたのは、ちょうど半数(50%)だった。

教育内容の評価のために設定した6項目(栄養士・管理栄養士による指導か、エネルギー補給・カロリー摂取の項目を含んでいるか、主要・微量栄養素の項目を含んでいるか、エネルギー不足の影響の項目を含んでいるか、アスリート特有の栄養の項目を含んでいるか、双方向性があるか)を、すべて満たしていた介入は2件のみだった。なお、双方向性のある教育で取り上げられていたテーマのうち、2件の研究に共通するテーマは、食事記録の手法、および、スポーツパフォーマンスをサポートするための栄養に関する個人的な考察だった。

このほか、いくつかの研究では、認知行動教育などの手法が用いられていた。

アウトカム指標と介入効果

5件の研究では知識レベルを調査し、その大半で介入後に知識が増加して、かつ対照群より優れていたと報告していた。9件の研究では、摂食障害またはボディーイメージに関する質問票のスコアで介入効果を検討し、多くの研究で有意な改善を報告していた。ただし、時間経過に伴い非有意となるという結果も報告されていた。

3件の研究では、7日間の食事記録を行うという介入の副次的アウトカムとして、エネルギー摂取量と炭水化物摂取量の変化を検討。いずれも有意な増加が認められたという。

著者らは、「アスリートへの栄養教育の介入法はさまざまであったが、ほとんどのプログラムで栄養知識と栄養素摂取行動に関して良好な結果が得られていた。栄養介入はLEA対策として有益であるように思われる。ただし、現在のアプローチは多様であり、今後の研究では、栄養知識の向上とLEA対策を目的とした、アスリートに幅広く適用可能な栄養教育計画の開発を目指すべきである」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutrition educational interventions for athletes related to low energy availability: A systematic review」。〔PLoS One. 2025 Feb 14;20(2):e0314506〕 原文はこちら(PLOS)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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スポーツ栄養Web編集部


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国内の女子大学生アスリートの鉄欠乏の実態を調査した結果、鉄およびフェリチンが基準値内のアスリートは3割に満たないこと、鉄摂取に配慮した食事を摂っている割合は2割強にとどまること、配慮していると回答したアスリートでも栄養素摂取量が不足していることなどが明らかになった。新潟医療福祉大学医療福祉学研究科健康栄養学の稲葉洋美氏らの研究によるもので、論文が「Sports」に掲載された。

女性アスリートのパフォーマンスに重要な「鉄」

鉄はヘモグロビンの成分として酸素の運搬を行うほか、アデノシン三リン酸(ATP)産生やDNA合成、電子伝達などの化学反応に関与している。アスリートは、トレーニングに伴う鉄需要の増大、および、発汗による喪失や下肢の接地による溶血などのために貧血リスクが高く、とくに閉経前の女性アスリートはさらにハイリスクであることが知られている。

アスリートの鉄欠乏性貧血は、VO2maxの低下などのパフォーマンスの制限につながる。また、貧血ではないものの鉄貯蔵が少ない状態(フェリチン低値)もパフォーマンス低下と関連していることを示唆する報告がある。このような鉄の不足に対しては、鉄サプリメント等の摂取に加えて、ふだんの食習慣を工夫することが重要である。具体的には、鉄や鉄の吸収を促進するビタミンCを含む食品の摂取を心がけ、鉄の吸収を阻害するタンニン等の摂取を控えることが有用とされる。

ただ、鉄欠乏リスクのある女性アスリートがどの程度、これらの食事上の配慮を行っているのかは、これまでほとんど調査されていない。以上を背景として稲葉氏らは、女子大学生アスリートを対象とする横断的研究を実施し、実態の把握を試みた。

研究の手法について

2022年12月~2023年2月に、同大学の運動部に所属する71人(20.2±1.0歳)が研究に参加した。バスケットボール部が最多で(21人)、次いでバレーボール部(16人)、水泳部(13人)、サッカー部(12人)、陸上部(9人)であり、これらの運動部はすべて国内大会出場レベル(Tier3)だった。

食習慣は、簡易型自記式食事歴質問票(brief-type self-administered diet history questionnaire;BDHQ)、および、12項目からなる食行動の質問票で把握した。また、「鉄欠乏性貧血や鉄欠乏の予防・改善のために食事上の配慮をしているか」と質問したほか、サプリメントの摂取状況も調査した。

貧血の有無や状態はスイススポーツ医学会の報告に基づき以下のように分類した。

  • ヘモグロビン12g/dL以上かつフェリチン30μg/L以上→正常
  • ヘモグロビン12g/dL以上かつフェリチン30μg/L未満→非貧血性鉄欠乏
  • ヘモグロビン12g/dL未満かつフェリチン30μg/L未満→鉄欠乏性貧血
  • ヘモグロビン12g/dL未満かつフェリチン30μg/L以上→非鉄欠乏性貧血 (このほかに小球性低色素性貧血の判定も行ったが該当者なし)

鉄の状態が正常は3割未満、1割は鉄欠乏性貧血、鉄に配慮した食事の実践は2割強

結果について、まず貧血の有無と状態をみると、正常は21人(29.5%)と3割足らずであり、ほかの約7割には鉄の不足等が認められた。その内訳は、非貧血性鉄欠乏が42人(59.1%)、鉄欠乏性貧血が7人(9.9%)、非鉄欠乏性貧血が1人だった。

次に、「鉄に配慮した食事を摂っている」か否かの回答をみると、「はい」と回答したアスリートは16人(22.5%)にすぎなかった。さらに、鉄欠乏や鉄欠乏性貧血に該当するアスリートの過半数にあたる52.1%が、鉄に配慮した食事を摂っていなかった。

鉄に配慮した食事を摂っている割合を運動部別にみると、サッカー部が最も高く(43.8%)、水泳部は最も低かった(6.3%)。

鉄に配慮して食べているアスリートのほうがHbやHtが有意に低い

鉄に配慮した食事を摂っていると回答したアスリートとそうでないアスリートを比べると、BMIや体脂肪率に有意差はなく、また貧血(上記の各状態)を有する割合も有意差がなかった。一方、血液検査データに関しては、ヘモグロビン(13.1±0.92 vs 12.6±0.89g/dL、p=0.034)とヘマトクリット(39.7±2.6 vs 38.1±2.32%、p=0.028)に有意差が認められ、いずれも鉄に配慮した食事を摂っている群が低値だった。

鉄に配慮している群のほうがヘモグロビン(Hb)やヘマトクリット(Ht)が低いという、一見矛盾するようなこの結果について著者らは、「鉄欠乏の指摘を受けたことのあるアスリートが鉄に配慮して食事を摂取していることを現していると考えられる」と述べている。血清鉄、フェリチンなど、その他の検査値は有意差がなかった。

鉄に配慮して食べているアスリートは、甘いものを控え淡色野菜を頻繁に摂っている

食行動質問票の12項目の中で、鉄に配慮した食事を摂っているか否かで有意差が認められたのは2項目であり、「甘いものや加糖飲料を避ける」(週7日のうち2.73±2.18 vs 4.13±2.34日、p=0.049)や「淡色野菜(きゅうり、キャベツ、レタスなど)を食べる」(同4.67±1.54 vs 5.38±1.05、p=0.048)が、鉄に配慮して食べている群で多かった。

朝食の摂取頻度、および、鉄を多く含んでいる肉や魚、緑黄色野菜、大豆製品などの摂取頻度には有意差がなかった。

摂取栄養素量は有意差がなく、全体的に摂取量が不足している

体重あたりの栄養素摂取量を比較すると、主要・微量栄養素のすべてに有意差がなく、エネルギー摂取量も有意差がなかった。鉄摂取量は全体平均が6.1±2.5mg/日、ビタミンCは77.3±50.5mg/日だった。鉄の摂取のためにサプリメントを使用しているのは、全体で2人のみだった。

女性アスリートに対する鉄に配慮した栄養指導の必要性が浮き彫りに

まとめると、女子大学生アスリートの約1割(9.9%)に鉄欠乏性貧血が認められ、鉄に配慮した食事を摂っているのはわずか22.5%であり、鉄状態が正常と言えないアスリートの過半数(52.1%)が配慮していなかった。さらに、鉄に配慮した食事を摂っていると回答したアスリートの食事スタイルは必ずしも適切とは言えず、鉄やビタミンCの摂取量が不十分であった。

著者らは本研究が単一大学の学生を対象とした調査の結果であること、鉄吸収を阻害する栄養素の摂取量を調査していないことなどを限界点として挙げたうえで、「国内の女性アスリートの多くが鉄欠乏のリスクが高い状態にあり、それにもかかわらず鉄に配慮した食事を摂取していない。管理栄養士による栄養指導と定期的なスクリーニングの実施が必要ではないか」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Iron Deficiency Prevention and Dietary Habits Among Elite Female University Athletes in Japan」。〔Sports (Basel). 2025 Jul 7;13(7):220〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部


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日常の身体活動量がガイドラインの推奨を満たしている場合、死亡リスクが低値となる。そして、その関係を摂取エネルギーの多寡で二分して検討すると、より多くのエネルギーを摂取している群で、死亡リスクがより大きく低下しているとする論文が発表された。米国国民健康栄養調査のデータを解析した観察研究の報告。

「低カロリー食+適切な運動で死亡率が最も大きく低下する」という研究仮説の下で検討

エネルギー密度の高い食品を容易に入手できる環境では人々の体重が増えやすく、周知のように世界中で肥満人口の増大が問題となっている。また、肥満に関連する疾患の多くが、体重を適正に管理することで改善することも、数々のエビデンスで示されてきている。さらに、摂取エネルギー量をより低い範囲に抑える、いわゆる「カロリー制限」に、健康増進や長寿という点で潜在的なメリットが存在することを示唆する報告も増加している。

他方、身体活動もまた健康増進のための重要な因子であり、豊富なエビデンスの裏付けがある。ただし、摂取エネルギー量の適切さと身体活動の相乗効果についてのエビデンスは十分とは言えない。加えて、とくにカロリー制限に関しては健康アウトカムに及ぼす影響が年齢によって異なる可能性があり、若年者では心血管代謝疾患の減少、高齢者では筋骨格系疾患の増加と関連していることも示唆されている。

以上を背景として、今回取り上げる論文の研究では、米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey;NHANES)のデータを用いて、身体活動とカロリー制限の死亡リスクに対する相乗効果の有無を検討した。研究仮説は、「低カロリー食と適切な運動の組み合わせが、死亡率を最も大きく低下させる」とされていた。

NHANES参加者を摂取カロリーと身体活動量の多寡で4群に分けて比較

解析対象は、2007~18年のNHANESの参加者から、20歳未満および解析に必要なデータが十分でない参加者を除外した2万1,618人。平均年齢は47.71±0.28歳、男性が49%だった。

摂取エネルギー量は「米国人のための食事ガイドライン2020-2025」の推奨、身体活動量は600MET-分/週をカットオフ値として、全体を以下の4群に分類した。(1)摂取カロリーを多く摂取し身体活動が不十分な「HCEI群」4,186人(19%)、(2)摂取カロリーが少なく身体活動が不十分な「LCEI群」4,201人(15%)、(3)摂取カロリーが多く身体活動が十分な「HCEA群」7,329人(28%)、(4)摂取カロリーが少なく身体活動が十分な「LCEA群」5,902人(28%)。

摂取カロリーが多く身体活動が十分な「HCEA群」が最も低リスク

中央値6.75年の追跡で全死亡が1,957人記録されており、心血管死は568人、癌死は508人だった。

交絡因子(年齢、性別、人種、BMI、ウエスト周囲長、喫煙・飲酒状況、教育歴、貧困〈poverty-income ratio〉、高血圧・糖尿病・脂質異常症・腎臓病・心血管疾患の既往)を調整後、摂取カロリーが多く身体活動が不十分な「HCEI群」を基準として他の群の死亡リスクを検討したところ、以下のような結果が得られた。

身体活動が十分な2群では、摂取カロリーが多い群でより低リスク

全死亡

全死亡に関しては、身体活動が十分であれば摂取量の多寡にかかわらずリスクが低かった。ハザード比(HR)と信頼区間は次のとおり。摂取カロリーが多く身体活動が十分なHCEA群はHR0.59(0.48~0.71)、摂取カロリーが少なく身体活動が十分なLCEA群はHR0.69(0.56~0.84)。一方、摂取カロリーが少なく身体活動が不十分なLCEI群は、HCEI群と有意差がなかった。

心血管死

心血管死に関しては、摂取カロリーが多く身体活動が十分なHCEA群においてのみ、有意なリスク低下が認められた(HR0.64〈0.43~0.94〉)。身体活動が十分でも摂取カロリーが少ないLCEA群は、身体活動が不十分な2群とともに、HCEI群と有意差がなかった。

癌死

癌死のリスクに関しては、すべての群がHCEI群と有意差がなかった。

性別などはこの関連に影響を与えないが、BMIと喫煙状況は交互作用が有意

次に、年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙状況、高血圧・糖尿病・心血管疾患の既往の有無で層別化したサブグループ解析が行われた。その結果、年齢や性別、飲酒状況、疾患既往の有無は、いずれも交互作用が有意でなかった。

それに対して、BMIと喫煙習慣に関しては、以下のように有意な交互作用が観察された。

全死亡

BMI25未満、25以上30未満、30以上の三つに層別化した解析で、25未満、および25以上30未満において、身体活動が十分な2群は摂取カロリーの多寡にかかわらず、有意なリスク低下が観察され、摂取カロリーが少なく身体活動が不十分なLCEI群のみ、摂取カロリーを多く摂取し身体活動が不十分なHCEI群とのリスク差が非有意だった。それに対してBMI30以上では、すべての群がHCEI群と有意差がなかった。

心血管死

BMI25以上30未満では、すべての群において、HCEI群より有意にリスクが低かった。それに対してBMI25未満では、摂取カロリーが多く身体活動が十分なHCEA群においてのみ、有意なリスク低下が観察された。さらにBMI30以上では、すべての群がHCEI群と有意差がなかった。

喫煙状況に関しては、喫煙歴なし、元喫煙、現喫煙の三つに層別化し解析された。その結果、HCEI群との比較で有意なリスク低下が観察されたのは、現喫煙者における摂取カロリーが少なく身体活動が十分なLCEA群のみだった。

単純なカロリー制限は「普遍的に有益な戦略」ではない可能性

これらの結果を基に著者らは、「単純なカロリー制限は必ずしも普遍的に有益な戦略ではない可能性があることが示唆された。食事と運動をあわせて考えると、適切な運動を行っている限り、高カロリーおよび低カロリーの摂取の両方が全死亡リスクの低下と関連しており、前者グループでより大きな影響が観察された。また、高カロリー食と適切な運動を並行している場合のみが、心血管死リスクの低下と関連していた」と総括している。

また、交互作用は非有意ながら、高血圧既往者や50歳以上の集団で、より心血管死のリスク低下が顕著な傾向がみられたことから、それらに該当する集団では、摂取カロリーが多いと身体活動を十分に行っていることの相乗的な効果が発揮されるのではないかとも記している。

ただし、フレイルや複数の併存疾患を有している対象に限れば、別の関連性が認められる可能性もあることから、さらなる研究の必要性を指摘している。

文献情報

原題のタイトルは、「Higher calorie intake with adequate exercise is associated with reduced mortality compared with low-calorie diet with equivalent exercise: An observational study from NHANES based on the 2020–2025 Dietary Guidelines for Americans」。〔Exp Gerontol. 2025 Jun 14:208:112805.〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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3人に1人のアスリートが歯ぎしりの習慣があるとする、システマティックレビューとメタ解析の結果が報告された。一般人口では22.22%と報告されており、アスリートではそれより高いことになる。著者らは競技の緊張やストレス、日常でのプレッシャーが関与しているのではないかと述べている。

歯ぎしりが口腔疾患を増やし、口腔疾患はパフォーマンスを低下させる

歯ぎしりや食いしばりなどの非摂食時の反復的な咀嚼筋の活動(bruxism)は、それ自体が疾患として扱われることは少ない。しかし、歯の摩耗や咀嚼筋の疲労、顎関節症、頭痛、睡眠の質の低下などを来し、口腔疾患やその他の健康障害の一因となり得る。

歯ぎしりの要因として、不安やストレスなどの心理的な関与が想定されており、そのような負荷にさらされることの多い人や神経症傾向の強い人では、歯ぎしりが多いとする報告がある。そしてアスリートは、そのようなストレスフルな場面に遭遇することが多い。歯ぎしりによって口腔疾患が増え、そのことがパフォーマンスの発揮妨げとなることも考えられる。しかし、歯ぎしりをするアスリートの割合(有病率)に関する知見は限られている。

メタ解析でアスリートの歯ぎしりの有病率を検討

この研究は、システマティックレビューとメタ解析のガイドライン(PRISMA)に準拠し行われた。2022年7月1日に、Web of Science、Embase、PubMed、SPORTDiscus、CINAHLなど10種類の文献データベースを用いた検索を実施。また、Google Scholarなどにより灰色文献(学術的なジャーナルに正式に発表されていない文献)も検索した。

包括条件は、アスリートの歯ぎしりの有病率を検討した研究であり、報告された時期や言語、競技は制限しなかった。また、パラアスリート対象研究も含み、競技カテゴリー、競技レベルなどの制限も設けなかった。除外基準は、歯ぎしりの評価法を明記していない論文、レビュー論文、学会発表など。

2024年12月11日に新たな報告の有無を確認し、ヒットした1,214報を2人の研究者がタイトルと要約に基づくスクリーニングを独立して行い、38報を全文精査の対象として、14報を適格と判断した。このほか、ハンドサーチでヒットした文献から9報を適格と判断した。なお、採否の意見の不一致は、3人目の研究者が判断した。

解析対象とされた報告の特徴

最終的に抽出された23件の研究は、2002~24年に報告されており、ブラジルからの報告が9件と多くを占めていた。

研究参加者数は20~370人、合計2,805人であり、多くは男性を対象としていたが、1件は女性のみを対象としていた。また3件はパラアスリートを対象としていた。

歯ぎしりの有無の評価方法は自己申告に基づくものが多かった。なお歯ぎしりは、学術的には発生のタイミングで覚醒中と睡眠中に分けられることが多いが、これらを個別に評価した研究は2件、双方をまとめて評価した研究が5件であり、その他はどちらを評価したかの情報がなかった。

アスリートの歯ぎしりの有病率は36%で一般人口より高い

歯ぎしりの有病率は、報告により4.5~100%の間に分布していた(100%との報告は1件のみ)。

メタ解析の結果、アスリートの歯ぎしりの有病率は、34%(95%CI;26~42)と計算された。ただし、研究間で高い異質性が認められた(I2=93.1%)。

感度分析として、バイアスリスクが最も高いと判定された1件の研究のデータを除外した解析を行ったが、結果は有病率36%(25~48)であり(I2=96%)、主解析との結果から有意な変化はなかった。

なお、論文の考察において、一般人口における歯ぎしりの有病率に関する先行研究のデータが紹介されている。それによると一般人口での有病率は22.22%(19.55~25.11)とされていて、アスリートのほうが高い。著者らはその理由として、「競技の緊張、ストレス、身体的負荷が咀嚼筋の過負荷につながり、歯ぎしりを起こしやすくするのではないか」と述べている。

パラアスリートは歯ぎしり有病率がやや低い

このほか、パラアスリートと健常者アスリートとで層別化した解析も行われている。その結果、パラアスリートの歯ぎしりの有病率は27%(19~38)であり、健常者アスリートでは36%(27~47)であって、前者のほうが低かった。

ただし、パラアスリート対象研究はサンプルサイズが小さいことが、この結果に影響を及ぼしている可能性もあるという。なお、研究間の異質性を表すI2統計量は、パラアスリート対象研究が82.8%、健常者アスリート対象研究は93.9%だった。

性別や年齢層、競技カテゴリー、競技レベルでの比較可能なデータに期待

このほかに、興味深いこととして、同じボート競技でも、カヤック選手で歯ぎしりがある場合、症状が左右対称である割合が82.6%であるのに対して、カヌーでは85.7%が右側に症状が集中していることがわかった。これは、カヤックでは両側の上肢の筋肉を使うのに対し、カヌーはおもに利き手の筋肉が使われるためではないかと考察されている。

論文の結論は、「本研究により、アスリートおよびパラアスリートの歯ぎしり(bruxism)の有病率を推定できた。ただ、解析対象研究におけるデータ不足のため、性別や年齢、競技カテゴリー、競技レベル別の有病率を評価することはできなかった」とまとめられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Prevalence of Bruxism in Athletes: A Systematic Review and Meta-Analysis」。〔J Oral Rehabil. 2025 Jun 2〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)

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スポーツ栄養Web編集部


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国内の大学生の抑うつに、高炭水化物食品の摂取頻度やダイエット(減量)願望などが、有意に関連していることが報告された。法政大学大学院公共政策研究科および広島大学大学院人間社会科学研究科の原田裕輔氏らの研究によるもので、「Cureus」に論文が掲載された。

若者の自殺のリスク因子として「食習慣の乱れ」を考慮する必要性

国内の10~39歳の死因のトップは自殺であり、15~29歳では全死亡の50%以上を自殺が占めている。自殺の原因として、メンタルヘルス関連疾患、とくにうつ病が大きいと考えられており、栄養状態がメンタルヘルスに影響を及ぼし得ることも知られている。例えば世界保健機関(WHO)は、メンタルヘルス疾患のリスク抑制のための栄養改善を推奨している。

一方、国内の大学生は、朝食欠食や炭水化物中心の食事摂取、加糖飲料の多飲などの乱れた食生活を送っていることが多いと指摘されている。一般成人では、これらの乱れた食生活がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことを示唆する研究結果も既に報告されている。ただし、大学生の食習慣とうつレベルとの関連は十分に調査されていない。

原田氏らは以上を背景として、国内の大学生を対象とする横断研究により、両者の関連性を検討した。

学生は全体的に軽度のうつ傾向があり、半数がダイエット志向

この研究は、法政大学で保健衛生学を履修している学部生を対象として、2022年11~12月にGoogleフォームを用いたオンラインアンケートとして実施された。事前の統計学的検討から、このトピックに関する有意性の検証に必要なサンプルサイズは354と計算され、それを超える455人が回答した。

うつレベルについては、臨床や研究で頻用されている質問票(Quick Inventory of Depressive Symptomatology-Japanese version;QIDS-J)を用いて評価した。QIDS-Jではうつレベルを0~27点にスコア化し、5点以下は抑うつなし、6~10点は軽度の抑うつ、11~15点は中等度の抑うつ、16~20点は重度の抑うつ、21点以上は最重度の抑うつと判定する。本研究では、このスコアを連続変数として食習慣との関連を解析しβ値を算出したほか、6点以上を「うつ傾向あり」と定義したうえでオッズ比(OR)の算出も行った。

食習慣については、31項目のオリジナルの質問により評価した。具体的な質問項目として、加糖飲料の摂取量、朝食摂取頻度、コンビニエンスストアの利用頻度、高炭水化物食品の摂取頻度、主観的な判断による栄養バランスのよい食事の摂取頻度、主観的な食習慣の乱れの程度、ダイエット(減量)願望の強さ、サプリメントの利用頻度などが含まれていた。

寮生(おもに運動部所属学生)は、加糖飲料摂取量が非寮生より有意に多い

解析に必要なデータが不足している回答を除外し、451人を解析対象とした。おもな特徴は、平均年齢21.1±4.5歳、女子40.6%、BMI21.4±4.5であり、加糖飲料の摂取量は2.7±3.4本/週(500mLを1本に換算)で、ほぼ半数(49.7%)がダイエット(減量)願望を有していた(「ダイエット願望あり」に33.3%が強く同意、16.4%がやや同意)。

寮生(51人)と非寮生(400人)に二分して比較した場合、加糖飲料の摂取量に有意差が認められ、寮生のほうが多く摂取していた(4.7±3.8 vs 2.4±3.3本/週、p<0.001)。なお、寮生の大半は運動部に所属している学生だった。朝食摂取頻度、コンビニエンスストアの利用頻度、高炭水化物食品の摂取頻度、バランスのよい食事の摂取頻度、食習慣の乱れの自覚、ダイエット願望の強さ、サプリメントの利用頻度に関しては、寮生と非寮生とで有意差はなかった。<>

うつレベルを表すQIDS-Jは平均が5.8±3.9であり、本研究に参加した学生は全体的に軽度のうつ傾向にあると考えられた。寮生と非寮生で比較すると前者は4.5±2.6、後者は6.0±4.0であり、主として運動部員である寮生のほうが低値だったが有意差はなかった。

加糖飲料、高炭水化物食、ダイエット願望などがうつレベルの高さと関連

食習慣の調査の回答とQIDS-Jのスコアの関連を解析すると、全体解析では、加糖飲料の摂取量の多さ(β=-0.22、OR0.920)、朝食の摂取頻度の高さ(β=-0.230、OR0.84)、バランスのよい食事の摂取頻度の高さ(β=-0.90、OR0.08)がうつレベルの低さと有意に関連し、高炭水化物食品の摂取頻度の高さ(β=1.23、OR1.58)、食習慣の乱れの自覚の強さ(β=0.59、OR1.32)、ダイエット願望の強さ(β=0.73、OR1.11)はうつレベルの高さと有意に関連していた。

ただし、前述のように加糖飲料の摂取量については、おもに運動部員で構成されている寮生と非寮生との間で有意差が認められ、かつ非有意ながら寮生はQIDS-Jスコアが低い傾向にあったことから、寮生を除外した解析も行った。すると、非寮生では、加糖飲料の摂取量の多さはうつレベルの高さと有意に関連するという、反対の結果が得られた(β=0.32、OR1.03)。つまり、運動を行っていない多くの一般学生では、加糖飲料の摂取頻度が高いことがうつのリスク因子の一つである可能性が考えられた。

なお、非寮生のみにおいても加糖飲料の摂取量以外に、高炭水化物食品の摂取頻度の高さ(β=0.39、OR1.43)と、ダイエット願望の強さ(β=0.25、OR1.15)は、いずれもうつレベルの高さと有意に関連していた。

QIDS-Jスコアが21点以上だった2名の学生の特徴

本研究では、QIDS-Jスコアが21点以上で最重度の抑うつに該当する学生が2名存在していた。

1人は22歳の女子学生で、QIDS-Jは21点であり、BMIが16.9であるにもかかわらず「ダイエット願望あり」に強い同意を表していた。記述回答から、この学生は栄養不良がモチベーションや集中力の低下につながることを自覚しており、それによる無気力が食事摂取の負担感を増大させて、悪循環に陥っていることが示唆された。

別の1人は24歳の男子学生で、QIDS-Jは24点と解析対象者の中で最高値だった。BMIは22.8と基準範囲内だったが、高炭水化物食品を毎日摂取しバランスのよくない食生活を送っていた。この学生は、精神的ストレスを感じると食事が乱れ、それが自己嫌悪を招来することを認識していた。これは、本研究で検討しようとした、乱れた食生活がうつにつながる可能性というより、メンタル状態の悪化が食生活の乱れにつながっている可能性を示唆していて、いわゆる「因果の逆転」と考えられた。

スポーツを行っている学生では、加糖飲料はうつレベルに悪影響を及ぼさない可能性

著者らは、本研究の限界点として、横断研究であるため因果関係の考察は制限されること、調査に用いた食行動の質問項目がオリジナルであり精度検証がなされていないこと、うつレベルに影響を及ぼし得る食習慣以外の因子を評価していないことなどを挙げている。

そのうえで、「国内の大学生の特定の食習慣が、うつレベルに影響を及ぼし得ることが明らかになった。加糖飲料の摂取、朝食の欠食、高炭水化物食、栄養バランスの悪い食事、不規則な食生活、ダイエット(減量)の希求は、うつレベルを高める可能性がある」と総括している。

また、「これらの中で、高炭水化物食の摂取がうつレベルの上昇と最も強い関連があった。一方で加糖飲料の摂取は寮生と非寮生で関連が異なり、寮生は加糖飲料の摂取量が多いほどうつレベルが低かった。これは、寮生には運動部に所属する男子学生が多かったためであると考えられる。因果関係は断定できないが、激しいスポーツを行う学生にとって、加糖飲料は抑うつ症状に悪影響を与えないのではないか」と付け加えられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Association Between Dietary Habits and Depressive Symptoms in University Students: A Cross-Sectional Study Using the Japanese Version of the Quick Inventory of Depressive Symptomatology (QIDS-J)」。〔Cureus. 2025 Jul 1;17(7):e87140〕 原文はこちら(Cureus)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)。なお、寮生の大半は運動部に所属している学生だった。朝食摂取頻度、コンビニエンスストアの利用頻度、高炭水化物食品の摂取頻度、バランスのよい食事の摂取頻度、食習慣の乱れの自覚、ダイエット願望の強さ、サプリメントの利用頻度に関しては、寮生と非寮生とで有意差はなかった。<>

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古くから健康的な食事スタイルとして位置付けられているベジタリアン食は、近年ではアスリートの間でも関心が高まっている。しかし、アスリートは通常、筋肉量や筋力が高いほうが有利であり、ベジタリアン食はその点で不利なのではないかという懸念が付きまとう。この懸念に対する答を、過去の研究のデータを統合して検討する、システマティックレビューとメタ解析によって探った研究結果が報告された。

ベジタリアンアスリートは有利なのか不利なのか?

ベジタリアンアスリートは非ベジタリアン(雑食)のアスリートよりも炭水化物の摂取量が多い傾向のあることが報告されている。炭水化物は高強度運動時の主要なエネルギー源であり、その点ではパフォーマンス上有利に働く可能性がある。また、植物性食品には抗酸化作用・抗炎症作用を有する物質が多く含まれており、スポーツに伴う酸化ストレスや炎症の軽減に資する可能性もある。

反対に、植物性食品は鉄が少ないこと、そしてタンパク質が少ないことが、アスリートにとって問題となる可能性がある。鉄の摂取量が少ないことは貧血傾向を介して持久力パフォーマンスに負の影響を及ぼし、タンパク質の摂取量が少ないことは筋量や筋力の維持・向上に不利と言える。また植物性食品のタンパク質はアミノ酸スコアが低く、筋肉の合成刺激となる必須アミノ酸のロイシンも少ないという点も、より負の影響を強める可能性がある。

植物性食品中心の食事(PBD)が筋力に及ぼす影響を検討したRCTを抽出してメタ解析

これまで、植物性食品中心の食事スタイル(plant-based diets;PBD)と筋力の関連については複数の研究が行われてきており、それらの研究を対象としたメタ解析も行われている。ただし、筋力トレーニングとPBDを並行した場合に、PBDがトレーニング効果を減弱させてしまうのかという疑問に対する答はまだ得られていない。そのような視点で行われたメタ解析の報告も既に存在するが、解析対象に観察研究や複数の介入条件が設定された多群比較研究のデータが含まれていて、PBDの影響のみの解釈が妨げられている。

これを背景に今回紹介する論文の著者らは、PBDの筋力に及ぼす影響を無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)で検討した研究のみを抽出したうえで、メタ解析を行った。

8件のRCTを特定し解析

システマティックレビューとメタ解析に関するガイドライン(PRISMA)に準拠して、MEDLINE、コクランライブラリ、Web of Science、Scopusという4種類の文献データベースに、それぞれの開始から2024年9月2日までに収載された論文を対象として、上半身の筋力、下半身の筋力、または全身の筋力に対するPBDの影響を検討した研究報告を検索。ヒットした8,079報から重複削除後の6,669報を2名の研究者が独立して、タイトルと要約に基づきスクリーニングを実施し19報に絞り込み、全文精査により8件の研究の報告を適格と判断した。なお、抽出された論文の参考文献をハンドサーチで検索したが、その中に包括条件を満たすものはなかった。

抽出された8件の研究は2003~23年の間に、米国から4件、英国、カナダ、ポーランド、韓国から各1件が報告され、試験デザインは1件のクロスオーバー試験を除き並行群間比較試験だった。研究参加者数は11~42人の範囲で合計188人(女性46%)であり、平均年齢は20~65歳だった。8件中3件はアスリート対象研究、1件はクロスフィットによる筋力トレーニングを行っている人を対象とし、他の4件は習慣的な運動を行っていない人を対象としていた。

介入に用いた食事スタイルは、5件がベジタリアン食、3件はビーガン食であり、摂取エネルギー量に関しては、5件は標準的な量を設定、1件は高ボリュームとなるように設定し、2件は自由摂食としていた。

運動介入は6件が筋力トレーニングで、1件が高強度機能トレーニング、他の1件は複合トレーニングだった。

介入期間は10日から12週間であり、8件すべてが下半身の筋力と全身の筋力への影響を検討し、上半身の筋力への影響を検討した研究は7件だった。

植物性食品中心の食事(PBD)は筋トレ効果に影響を及ぼさない

メタ解析の結果、上半身の筋力については標準化平均差(standardized mean difference;SMD)が-0.12(95%CI;-0.50~0.27)、上半身の筋力についてはSMD0.18(-0.31~0.67)、全身の筋力についてはSMD0.21(-0.16~0.58)であり、いずれも、植物性食品中心の食事(PBD)にしたことによる筋力への有意な影響は観察されなかった。

感度分析として、8件の研究のデータを1件ずつ除外した解析を行ったが、いずれも主解析の結果と統計的に有意な変化は生じなかった。また、メタ回帰分析から、研究参加者の平均年齢、介入期間、タンパク質摂取量、および介入に用いた運動の種類は、いずれも主解析の結果に有意な影響を与えていないことが示された。

論文の結論は、「動物性食品の摂取制限がスポーツパフォーマンスを低下させるかどうかについて議論が続いているものの、本メタ解析の結果は、ビーガン食を含むPBDが筋力に悪影響を与えないことを示す説得力のあるエビデンスを示している」と総括されている。ただ、このトピックに関する今後の研究の方向性として、エネルギー需要が高いエリートアスリートでの研究や性差の考察などの必要性も指摘している。

文献情報

原題のタイトルは、「Are Plant-Based Diets Detrimental to Muscular Strength? A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials」。〔Sports Med Open. 2025 Jun 2;11(1):62〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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RED-Sによる妊娠転帰への影響を調査した結果が報告された。RED-S既往のある女性は切迫早産や早産のオッズ比が有意に高いことが示されている。

RED-Sの既往は、妊娠中の健康状態や妊娠転帰とどのような関連があるか?

スポーツにおける相対的エネルギー不足(relative energy deficiency in sport;RED-S)は、さまざまな健康障害を来し得る。RED-Sの主要な原因は利用可能エネルギー不足(low energy availability;LEA)であり、RED-Sの予防や治療には摂取エネルギー量を増やし、トレーニング等による消費エネルギー量を抑制する必要がある。そのような治療によってエネルギー出納が正の状態を維持することで、RED-Sの症状の改善が期待されるが、女性アスリートの場合、RED-Sによる二次性無月経が治療またはスポーツからの引退後にも回復せず、妊孕性(にんようせい)が永続的に失われることもある。

ただ、妊娠が成立した後の転帰に、RED-Sの既往がどのような影響を及ぼすのかという点は、まだ十分明らかになっていない。これを背景として、今回紹介する論文の著者らは、RED-Sや二次性無月経の既往と妊娠転帰、新生児転帰との関連を、ソーシャルメディア等を用いたアンケート調査により検討した。

千人超の女性を対象にネットアンケート調査

この研究は、英国とカナダの研究者によって行われた。Instagramなどのソーシャルメディアや口コミ、研究者の個人的なネットワークを通じ、オンラインアンケートに1,075人が回答した。回答のための適格条件は、18歳以上で1回以上の出産歴があることとされた。

アンケートの内容は、英国・カナダのスポーツ医学専門家、運動生理学者などによって、妊娠前の健康状態や妊娠転帰および新生児転帰を網羅的に問う設問が設定された。標準的な回答時間は15~20分だった。なお、RED-Sおよび続発性無月経の有無については、それぞれ、過去にその診断を受けたことがあるかとの質問で判断した。

RED-Sの既往ありでは早産が有意に多く新生児の体重が有意に軽い

回答内容に不備があるものを除外し、1,025人(95.3%)を解析対象とした。33カ国から回答が寄せられ、英国(44.1%)、カナダ(20.1%)、米国(17.9%)が多くを占めていた。出産年齢は33.10±3.43歳であり、流産歴のある女性は30.2%だった。

全体の6.1%(63人)がRED-Sの既往があり、20.5%(210人)が続発性無月経の既往を有していた。それらの既往のない女性は73.4%(752人)だった。なお、1.6%が双胎妊娠、0.8%が前置胎盤だった。

妊娠中の健康状態

妊娠中にみられたトラブルとして最も回答が多かったのは腰痛・骨盤帯痛であり、36.8%が経験していた。そのほかには腹直筋離開が19.9%、不安が14.8%、鉄欠乏14.5%、腹圧性尿失禁10.5%などであり、代謝関連では、妊娠糖尿病が4.8%、妊娠高血圧腎症(preeclampsia)3.0%、妊娠高血圧(gestational hypertension)2.6%などが報告された。

これらの頻度に、RED-Sおよび続発性無月経の既往の有無で、有意差はみられなかった。

切迫早産・早産の割合

切迫早産は4.0%が経験していた。RED-Sの既往のある女性では7.9%が経験し、その一方、続発性無月経の既往のある女性でのその割合は2.3%であって、続発性無月経の既往のない女性と同じ割合だった。

早産(37週未満での出産)は6.2%が経験していた。RED-Sの既往のある女性では9.5%が経験し、その一方、続発性無月経の既往のある女性でのその割合は3.9%であって、続発性無月経の既往のない女性と同じ割合だった。

なお、分娩様式については、経腟分娩が73.2%、帝王切開が26.8%(選択的帝王切開12.1%、緊急帝王切開12.2%)であり、いずれもRED-Sや続発性無月経の既往の有無で有意差はなかった。

新生児の状態

新生児の出生体重は3,440.67±561.65gで、低出生体重児が4.1%、巨大児が13.8%、NICU入室が7.7%であった。

出生体重に関しては、RED-Sの既往あり群では3,237.082±599.69gであり、他の2群の新生児よりも軽いという有意差が認められた(p=0.002)。

RED-Sは早産、続発性無月経は妊娠時の貧血と有意な関連

ロジスティック回帰分析の結果、RED-Sの既往があることは、切迫早産(OR3.52〈1.26~9.81〉)、早産(OR2.62〈1.05~6.58〉)が多いことと有意に関連していた。また、妊娠中の不正出血(全体で4.2%、RED-S既往ありで9.5%)は、RED-S既往あり群で有意に多かった(OR3.06〈1.21~7.77〉)。

一方、続発性無月経の既往があることは、妊娠中の貧血が多いことと有意に関連していた(OR2.40〈1.37~4.18〉)。

そのほかの妊娠転帰および新生児転帰は、RED-Sや続発性無月経の既往の有無と有意な関連がなかった。なお、妊娠糖尿病や妊娠高血圧腎症、妊娠高血圧に関してはイベント数が少なく、有意差の検定には検出力が不足していた。

臨床医と妊婦は、RED-Sの既往により早産リスクが上昇する可能性の認識を

著者らは、RED-Sの認知度が近年になるまで臨床医の間でも高いとは言えない状況にあったため、見逃されていた元アスリートが回答者の中に存在している可能性のあること、および想起バイアスの影響といった、本研究の限界点を挙げている。そのうえで、「得られた結果は、RED-Sの既往が早産および妊娠中の不正出血のリスクを高めることを示唆している。臨床医および妊婦は、RED-Sの既往がある場合、切迫早産や早産のリスクが高まる可能性があることを認識し、それに応じたモニタリングと判断を行う必要がある」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「The lasting impacts of relative energy deficiency in sport imposed on pregnancy health outcomes: A survey-based investigation」。〔J Sport Health Sci. 2025 Jun 27:101072〕 原文はこちら(Elsevier)

SNDJ特集「相対的エネルギー不足 REDs」

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スポーツ栄養Web編集部

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