卵は横向きに落ちた方が割れにくい
卵は楕円形をしており、「垂直方向からの力には強いが、水平方向からの力には弱い」といわれています。しかし、「卵は横向きに落とした方が割れにくい」という実験結果を、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生チームが発表しました。
Challenging common notions on how eggs break and the role of strength versus toughness | Communications Physics
https://www.nature.com/articles/s42005-025-02087-0MIT engineering students crack egg dilemma, finding sideways is stronger | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2025/mit-engineering-students-crack-egg-dilemma-sideways-stronger-0508 朝ご飯に目玉焼きを作ろうとして卵を割る時、縦向きよりも横向きにたたきつける方が割れやすくなっています。従来、卵は横からの力よりも縦からの力に強いといわれており、卵を落とした時も縦向きに落とした方が割れにくいと考えられてきました。MITの土木環境工学科では、1年の講義で「卵の落下」がテーマとして取り上げられるとのこと。これは科学文献を参考に、卵を落下時に割れないようにするにはどうすればいいのかを追及するためのものですが、土木環境工学科のタル・コーエン准教授は「3年ほど前から、垂直方向の落下が本当に強度に強いのかを疑問に思うようになりました」と述べています。 そこで、コーエン准教授の率いる研究チームはコストコで60個入り1カートンの卵を購入し、実験を行いました。研究チームは卵を室温に戻した上で、ヒビのない卵を視覚的検査で選出。卵の平均サイズは長さ56mm、幅44mm、重量59gでした。 実験は2種類行われました。1つは静的圧縮試験で、卵を固定プラテン(圧盤)の上に置き、上部プラテンで圧縮しました。卵は縦あるいは横に固定され、上部プラテンは毎分10mmで下降して卵を圧縮しました。研究チームは卵が割れるまで圧縮を続けながら、力や時間、変位を記録しました。
その結果、縦向きの最大荷重は46.0±6.61N(ニュートン)、横向きの最大荷重は45.2±5.52Nでした。研究チームは「卵の向きに関わらず、最大荷重に統計的有意差はなかった」と論じています。一方で、最大変位量は縦向きが0.161±0.015mm、横向きが0.213±0.022mmでした。これは、横向きの卵は縦向きと比較して、破壊前により大きく変形することを示しています。
2つ目の実験は動的落下試験です。研究チームは、卵を8mm・9mm・10mmという3つの高さから横向き・鋭端を上にした縦向き・鋭端を下にした縦向きの3パターンで落とし、各20回ずつ合計180回の試験を行いました。卵は指定の高さに合わせたソノレイドで挟み込むように保持し、固定プラテンに落下させたとのこと。この時、落下時の力を1kHzのサンプリングレートで記録しました。
その結果、いずれの高さにおいても卵が割れた割合は横向きが最も低かったとのこと。例えば、8mmの高さからの落下試験では、割れた卵の割合は横向きだと5%でしたが、縦向きだと鋭端の上下に関係なく約55%の卵が割れました。10mmの高さでも、横向きは約45%だったのに対して、縦向きはどちらの方向でも約80%の卵が割れたとのこと。 研究チームは、縦向きの場合、鋭端の上下で統計的に有意な差は見られなかったものの、縦向きと横向きで比較すると明確な差があり、横向きの方が統計的に有意に割れにくかったと論じています。 さらに、2つの実験についてコンピューター上で数値シミュレーションを行ったところ、実際の実験結果と一致する結果が得られたとのこと。特に、力と変位の推移や亀裂パターンなども仮想空間で再現できたとのこと。この結果から、研究チームは卵を横向きに落とした方が割れにくいという結論を得ています。 研究チームは、「卵は縦方向に落とすと割れにくい」という通説について、卵の剛性は縦方向で荷重をかけた時の方が高いことが実験と数値シミュレーションの両方で確認されており、これは正しいとしています。しかし、「これは卵が縦方向により大きな力に耐えられることを意味しない」と指摘し、「卵は縦方向でより高い力に耐えられるため、衝撃時に破壊される可能性が低い」という結論は間違っていたと主張しています。
研究チームは、卵の「強さ」という言葉の定義があいまいなまま議論が行われてきたため、誤解が生じていたと論じています。剛性はあくまでも変形に対する抵抗力ですが、落ちた時に割れにくいかどうかを左右するのはエネルギーの吸収能力、すなわち靭性(じんせい)です。つまり、落下時に重要なのはどれだけ硬いかではなく、どれだけエネルギーを吸収できるかというわけです。今回の実験結果では、卵は横向きの方がより多くのエネルギーを吸収できるため、割れにくいという結果に至ったと研究チームは論じています。
コーエン准教授は「私たちの論文は、一般的な概念に挑戦し、直感ではなく実証的証拠に頼ることの価値を思い出させるものです。私たちの研究によって、学生たちが好奇心を持ち続け、最も身近な仮定にさえ疑問を持ち、周りの物理的世界について批判的に考え続けるようになることを願っています。それが私たちのグループで目指していることです。すなわち、思慮深い探究を通じて教わっていることに絶えず挑戦することです」とコメントしました。
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