日本が米中から「真っ先に切り捨てられる」理由 前駐中国大使が、戦略なき日本外交を痛烈批判

高橋浩祐さんが推薦中

──現在の日中関係の悪化に対し、最も有効な反応の仕方はなんでしょうか? 今回のことで、特別に中国側に媚びたり威圧的になったり、「落としどころを探ろう」 「外交チャンネルの構築を」などと右往左往する必要はありません。ワーッと騒いでいる人と同じ土俵に立ってしまうと、こちらまで悪影響を受けます。中国共産党をよく知る僕にとっては、「またはじまった」と感じるだけです。こういう国なのだと、冷静に対応していくしかありません。 ──あなたは、中国共産党だけでなく中華圏で影響力を持つ財界人、市井の人々とも接点をお持ちです。今回の件について、彼らの対日本への本音はどんなものでしょうか? 中国には報道の自由がなく、体制側に都合の悪いニュースはまったく報道されません。愚民政策としか言いようがないですが、情報統制されたニュースに影響を受けている人は相当数いると考えたほうがいいでしょう。 特に、教育水準が低く情報が限られているような地域では「日本はけしからん」と考える人はたくさんいます。一方、リテラシーが高くVPNなどを利用して海外から情報を集めている人は、それとは別の考えを持っている場合もあります。 これは非常に重要なことですが、中国の一般の人と中国共産党は分けて考える必要があります。 14億の人がおり、中国本土・台湾・香港と区切ってもそれぞれが一枚岩ではありません。それでも、日中は歴史的・文化的に多くの共通点を持ち、お互いに影響し合い、助け合ってきたことは事実です。僕自身、個人的に親しくしている中国人はたくさんいます。 ですが、中国共産党というのは、理不尽な理由で人を拘束し、自己都合で他国に対し危険な軍事的威圧を繰り返す「話の通じない」組織です。これに対し、一般の中国人に抱くような「友好」や「相互理解」などという感情論を当てはめてはいけません。中国共産党には、感情ではなく「戦略」が必要です。 実は、これは中国が過去に実施した対日戦略そのものなのです。 1970年代以降、中国共産党の指導者である毛沢東と周恩来は「日本における一部の軍国主義者と、大部分の日本国民とを分けて考えよ」などと発信しました。旧日本軍の行為に伴う贖罪意識に苦しんでいた当時の日本人たちは、その言葉に色めき立ちました。「許された、救われた」 「中国と理解し合える」と。 違います。この言葉は、許したとか理解し合えたとかいうものではなく、中国共産党の根幹である「統一戦線」上の戦略に過ぎません。実際、中国は現在もなお歴史問題で日本を批判し続けています。 近年においても中国共産党が「中日友好の基礎は民間にあり、中日関係の前途は両国民の手中に握られている」などと発信することがありますが、それも嘘です。中国共産党は自己都合で文化や経済の民間交流を強制的に停止させます。 なぜ見誤ってしまうのか。それは、中国共産党による、ターゲットを操作するために恣意的に構成された物語(ナラティブ)と美辞麗句に踊らされているからです。 一般の中国人と中国共産党を一緒くたにして中国全体を敵に回すのは日本の国益にかないません。中国が日本にしたのと同じように、一般の中国人と中国共産党を意識的に区別し、後者に対しては感情論やナラティブに騙されることなく「攻める」アプローチをとるべきです。これが、対中国共産党における最も効果的なアプローチです。 ──多くの日本人は、中国に対し不信感を持つ一方、親近感や尊敬などポジティブな感情も抱えています。「衝突しても、日中政府はどこかで理解し合える」という期待を抱いてはいけないということでしょうか? 一般の中国人に対し、そうした感情を持つことは理解できます。ただし、中国共産党や政府に対し、そうした日本語的意味の「ウェット」な感情を持っても利用されるだけです。中国共産党は習近平国家主席になり大きく変わりました。話が通じる相手ではありません。 中国共産党は、日本とはまったく異なる価値観で成り立っています。たった一人の指導者が、あらゆることを決めてしまえる価値観です。以前の中国は、圧政により蓄積したガスをデモや暴動で抜くことができていました。しかし、現在の習近平国家主席下では権力が強まり、「ガス抜き」すらできなくなっている状態にあります。 11月下旬に発生した香港の火災事件では、当局批判についての表現が消されたり、声を上げた人が逮捕されたりしています。香港にはもはや、民主主義や表現の自由がありません。東京には圧政から逃れてきた人たちがたくさん集まっています。そういう人たちを支援しなくてはならないと思います。

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