「韓国から再びドローン」、朝鮮人民軍声明の‘ねらい’は(徐台教)

10日、週末の朝に驚きの一報が飛び込んできた。

朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の国営朝鮮中央通信が、朝鮮人民軍・総参謀部の報道官による声明を報じたのだった。

その中身は、昨年9月と今年1月に韓国からのドローンが北朝鮮に飛来したとし、北側ではこれを挑発と受け止めると共に、「韓国は変わらない最も敵対的な敵」であると改めて強調する内容であった。

これをどう受け止めればよいのか。

結論から言うと、「党大会を控えた北朝鮮が、『絶え間ない韓国からの挑発と悪化し続ける南北関係』という環境を際立たせるために行った発表である可能性が高い」というものだ。

一方で、南北関係の危うさを直視させる出来事でもある。詳しく見ていく。

声明を伝える1月10日付けの労働新聞。

●二度のドローン飛来と韓国への「警告」

9日付けで発表された前出の朝鮮人民軍による声明「韓国は無人機による主権侵害挑発をふたたび敢行したことに対し、代価を覚悟しなければならない」では、二度のドローン飛来があったとされる。

・今年1月4日

まず提示したのが、今年1月4日のものだ。

「国境」対空監視勤務を行っていた朝鮮人民軍が、韓国西北端に近い仁川(インチョン)江華島(カンファド)から飛来するドローンを見つけ、北朝鮮領内まで追跡した後で撃墜(強制墜落と表現)させたとした。

さらにこれを分析したところ、▲1月4日12時50分頃に江華郡一帯から離陸し、▲北朝鮮の開城(ケソン)市から黄海北道(ファンヘプクト)平山(ピョンサン)郡、金川(クムチョン)郡一帯を周り、ふたたび開城を経由し韓国の京畿道(キョンギド)坡州(パジュ)市に戻るルートが入力(予定)されていた、▲総距離156キロを高度100〜300メートル、時速50キロメートルで飛行し、3時間10分の間、北朝鮮の「重要対象物」を撮影するようになっていた、とした。

実際に撃墜した機体からは、約7分の間、北朝鮮を撮影した二編の映像が見つかったという。これらをもって、ドローンが「わが地域に対する監視偵察を目的とし共和国領空に侵入したものを示す証拠」と結論付けた。

今年1月に飛来したものとされるドローン。朝鮮中央通信より引用。

・昨年9月27日

声明では今年1月4日の事例を示しながら、昨年9月の「挑発行為」についても言及せざるを得ないと、情報公開を続けた。

これによると、▲昨年9月27日11時50分頃に京畿道坡州市より離陸、開城市、黄海北道平山郡、開城市を経て発信地点に戻る航行ルートが予定されていた、▲総距離167キロを高度300メートル、時速50キロメートルで飛行し、3時間20分の間、北朝鮮の「重要対象物」を撮影するようになっていた、とした。

これを発見した朝鮮人民軍の「電子攻撃」により同日14時25分頃、開城市内で墜落したという。

声明では二度の出来事はいずれも、▲固定翼小型ドローン、▲500メートル以下の高度で最大6時間飛行でき、▲機体下部の「高解像度光学撮影機」により地上の対象物を撮影できるもの、とし、「明らかな監視偵察手段」と結論付けた。

昨年9月のドローンの飛行ルート。詳細に公開されている。朝鮮中央通信より引用。

・韓国への「警告」

こうした事例を挙げた上で、声明ではその背後に韓国政府の存在があると、決めつけている。

発射された地域がいずれも民間人の出入りが厳格に統制される前線地域である点、昼間に発射されているにもかかわらず、韓国軍の探知をすり抜けているという二点が、根拠とされた。

さらに矛先は李在明政権に向かう。

昨今、李在明大統領は事あるごとに南北関係の「完全な断絶」に言及し、「針の先ほどの穴でもこじ開けなければならない」と発言してきた。

声明ではこれを引用しながら、「その一方でドローンを飛ばす挑発行為を繰り返している」とし、その二面性を批判した。

また、「韓国という正体は不変の、最も敵対的なわれわれの敵であり、飛びかかってくる場合には必ず崩壊させる対象だ」と強調した。

国際社会に向けては「朝鮮半島の情勢激化の根源、武力衝突の危険の根源がどこにあるのかをしっかり知るべき」とアピールも欠かさなかった。

その上で、韓国に対しては「絶対に認められない好戦狂による狂態には必ず代価を払うことになるだろう」と警告、「韓国当局は情勢激化の責任を絶対に逃れられない」とあらゆる責任を韓国に求める結論をくだしている。

●韓国政府の反応

この一報を受け、韓国政府はすぐに反応した。

聯合ニュースによると、韓国国防部は「わが軍が北韓(北朝鮮)が主張する日時にドローンを運用した事実はないと確認した」とし、「李在明大統領がこの事案に対する徹底した調査を指示し、細部の事柄については関連機関を通じ追加で確認している」と明かした。

同じ記事で安圭伯(アン・ギュベク)国防部長官も、「(公開された機体は)韓国軍が保有するものではない」と明かし、韓国軍のいずれの部隊でも飛行訓練はなかったと否定した。さらに、南北合同調査を提案したという。

10日午後、会見する韓国国防部のキム・ホンチョル政策室長。政府サイトをキャプチャ。

午後には正式に国防部の報道官が会見した。

「第一次調査の結果、わが軍は該当する無人機(ドローン)を保有しておらず、北韓が発表した日時に該当する時間帯に無人機を運用した事実もない」と改めて表明し、「民間の領域で無人機を運用した可能性に対しては、政府が関連機関と協力し、徹底した調査を進める予定だ」と述べた。そして「韓国は北韓に対し挑発や刺激する意図を持たず、南北間の緊張を緩和し信頼を積み重ねるために実質的な措置と努力を続けていく」と強調した。

なお、韓国メディアが引用している専門家の声を総合すると、朝鮮中央通信が公開したドローンは「軍用のドローンとは言い難い」と結論付けられるようだ。

尹錫悦氏による非常戒厳を控えた24年10月に韓国軍が飛ばしたとされるドローンとも、明確に異なる。なお、この出来事に伴い尹錫悦氏は「一般利敵罪」で起訴されている。

2410月、平壌で発見された無人機(ドローン)。韓国の国防科学研究所は、これが韓国のものであると認めている。24年10月、朝鮮中央通信より。

●専門家「‘悪い南北関係’は北側にとって都合がよい」

それでは今回の北朝鮮の発表をどう読み取ればよいのか。国策シンクタンク・統一研究院の趙漢凡(チョ・ハンボム)碩座研究委員に電話で話を聞いた。南北関係に詳しく、政府の諮問委員も務める人物だ。一問一答形式で整理する。

——韓国政府がドローンを飛ばした可能性はないのか

その可能性はゼロだ。尹錫悦前大統領が過去、北朝鮮に向けドローンを飛ばした疑惑を政府が調査しているさなかに、こんな作戦を行うことは常識的に考えられない。

——それでは民間人によるものか。例えば北朝鮮の人権問題を改善しようとする団体などの可能性は

北側当局の発表ではドローンで地表を撮影したというが、私の知る限り、民間団体はビラを飛ばすことはあるかもしれないが、撮影はしない。軍事的な要衝地でもない場所を撮影してどんな意味があるというのか。

一方で、少ないながらも、ドローン同好会が飛ばした可能性もある。その技術力を試し、誇示するためのものだ。以前、金剛山を撮影した映像を公開した人物もいた。

※ドローン同好会が撮影した北朝鮮の映像。韓国東北端の江原道(カンウォンド)高城(コソン)郡から北朝鮮側に向け飛ばし、名勝・金剛山を経て2時間で帰還した際のもの。22年3月のことだ。韓国の地方紙・嶺南日報が公開した。同紙YouTubeサイトより転載。

——他の可能性は

可能性はとても低いが、南北の軍事的な緊張を高めたい勢力が行った可能性もある。

——北朝鮮側の自作自演の可能性は

その可能性もない。昔から北側は大袈裟に発表することはあっても、自作自演はしてこなかった。さらに北朝鮮当局は以前、恥を忍んで平壌の執務室上空に韓国のドローンが到達したとまで明かしているのに、こんな小さな出来事をわざわざねつ造するのは、割に合わない。

——韓国政府の今後の対応は

沈静化に努めるだろう。

——今回、突如情報を公開した北朝鮮側のねらいは

李在明政権が南北関係の改善を訴える中、北側は今なお「(南北の)敵対的な二国家論」という姿勢を崩していない。

さらに近々開催される第9次党大会を通じ、党規約を南北関係を完全に断絶させる内容に書き換える可能性もある。

大したことのない今回の出来事を北側がことさらに騒ぎ立てる背景には、これらの目的を達成する際に、「悪化が続く南北関係」の方が都合がよいという事情がある。

1月3日、ミサイルを製造する「重要軍需工場」を視察する金正恩氏。朝鮮中央通信より引用。

●おわりに

突如降って湧いた、ドローン事件。第一報を耳にした際の私の感想も「いまこの時期に韓国がやるか!?」というものだった。

「内乱の終息」を最前面に掲げ、「北朝鮮への謝罪」まで公言する李在明政権がやるとは、どうしても思えなかった。

逆に言うと、真相を明らかにできない場合、李在明政権の沽券にかかわることにもなる。類似する事件が起きないよう、管理を強めるきっかけとなることを望む。

一方で、朝鮮人民軍の声明にあった「(韓国は)キエフの狂人たちとそっくりだ」という一文が気になった。

ロシアとの関係をとみに深めようとする金正恩氏の思惑が浮き彫りになったひと言だろう。

それと同時に、‘敵対’する韓国とウクライナの存在が、いかに金正恩氏にとって利用価値が高いのかを改めて認識することとなった。

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