つ…強い……トヨタ2025年度上期決算発表で営業益2兆円超…関税▲9000億円直撃でも通期利益3.4兆円へ
トヨタ自動車は2026年3月期・第2四半期(上期、4–9月)決算を発表した。米国関税の逆風下でも営業利益2兆56億円を確保、連結販売台数は478.3万台(前年同期比105%)に伸び、通期見通しは営業収益49兆円、営業利益3.4兆円を叩き出すという。決算会見に登壇した近健太CFOは、上期の関税影響は▲9000億円、通期で▲1.45兆円に達する見込みと説明。一方で関税の(米国での車両本体)価格転嫁の一律実施は否定。つまり単純な値上げはしない、と。「一台・一車種・一地域ごと」に顧客価値と競争を見極めると強調した。以下、会見と発表内容を整理してお届けする。
文:ベストカーWeb編集部、画像:トヨタ自動車、日本自動車工業会(アイキャッチ写真はJMSの記者会見で「センチュリーブランド」を熱くプレゼンする豊田章男会長)
【画像ギャラリー】「盤石」としか言いようがないトヨタの半期決算会見画像(9枚)トヨタ自動車の2026年3月期・上期の連結実績は、営業収益24兆6307億円(前年同期比+1兆3483億円)、営業利益2兆56億円(同▲4585億円)となった。連結販売台数は478.3万台(同105%)(レクサスを入れると526.7万台)。
トヨタにとっての最大の逆風はやはり「15%」に決まった米国関税で、上期の営業利益影響は▲9000億円にのぼった。通期ではこのマイナスが▲1.45兆円に達する見通しだが、それでも(それでも!)営業収益49兆円、営業利益3.4兆円の見通しを据え、配当は中間45円・年間95円を継続する方針を示した。
ひと言でいうと「盤石」。
記者からの質疑応答に応えるトヨタ自動車の近健太氏(執行役員 Chief Financial Officer)
記者会見で近健太CFOは、関税への対応について「15%なら15%を機械的に上乗せ、という一律の価格転嫁は取らない」と明言。トヨタを選び続けてくれた長年の顧客との信頼関係や、各市場の競争状況を踏まえ、「一台・一車種・一地域ごと」に最適解を探るとした。原価改善、仕入先と一体の工程見直し、販売・金融・補給部品・中古車などの“営業面の努力”で吸収していく、というのが骨子だ。
なお北米については「需要は非常に強い」「在庫は薄い」「当社のインセンティブは低位」という現状認識を示し、足場を固めながら供給を追いつかせていくと説明している。
さらに、会見では地域分散の効用にも言及した。10年前に比べ、北米一極から欧州・アジア・その他地域へと“稼ぎの柱”が分散。もし過去の収益構造のまま今回の関税が直撃していればダメージはより大きかったはずだが、今は各地域が自律的に戦える体制にあるという。手堅い。
電動化の足元はハイブリッド(HV)が牽引役だ。会見では「HVの増産要望・顧客要望は非常に強い」との見解が示され、当面はHVが電動化の実需を支える。一方BEVは当初想定より足元の実需が下目であるとしつつも、「適切なタイミングに最適な商品を投入する」という姿勢は変えない。「マルチパスウェイ路線」はそれぞれの「ウェイ」が強化されながら進んでいる。
また、トヨタの稼ぎを下支えするのが、いわゆるバリューチェーン(VC)だ。用品・補給部品、販売金融、中古車・残価、コネクテッドなどの積み上げが、車両販売の前後を横串でつなぎ、収益の層を厚くしている。
トヨタ決算資料より抜粋。「稼ぐ力」の土台を支えるのがバリューチェーンの営業利益。ここ5年で2倍近く増えている
カギは保有台数1.5億台が生むユーザーと販売店との接点の量と質である。クルマの開発初期からサービス部門が関与し、整備しやすい設計や部品供給の磨き込みを行う。保証期間を長くとることでユーザーとの接点を増やしたり、現地法人独自のパーツを開発・販売したり。各地の成功事例を横展開し、多くの地域で「新車を売る【以外の稼ぐ方法】」を身につけている。
自動車という商品のすそ野の広さを武器にしているということだ。
また残価の高さはファイナンスの条件を好転させ、買い替えの心理的ハードルを下げる。結果として、販売→点検・修理→下取り・再販→再購入という循環速度が上がり、LTV(顧客生涯価値)が上昇する構図だ。
ブランド面では、ジャパンモビリティショー2025で発表したとおり、「トヨタ/レクサス/GR/ダイハツ/センチュリー」の5ブランド体制を明確化。点の足し算ではなく、顧客のライフスタイルや価値観に“面で応える”編成へ。
センチュリーを独立的に位置付けることで、日本発のクラフトマンシップとホスピタリティを象徴的に打ち出し、最上位の体験を磨き上げる狙いも透ける。
広く厚い顧客層を抱えるトヨタにとって、ブランドの地図を描き直すことは、価格ではなく価値で選ばれる基盤づくりそのものだ。
ジャパンモビリティショーのトヨタブース記者会見でプレゼンする佐藤恒治社長。クルマ愛が滲むいい会見だった
需要が強い北米では在庫が薄く、依然、商品力の高さから「待ってくれているお客さん」が多いという。「それなら関税分だけでも値上げすれば?」という記者からの質問に、近CEOは「そういうわけにはいかない」と実直に回答。
欧州・アジア・その他でも電動化の速度や価格帯は地域差が大きいが、分散した収益構造がボラティリティを緩和している。サプライチェーンのリスク(特定半導体の調達など)は部位ごとに精査し、代替可否を確認。仕入先とともに工程の精進化も進める。関税やコスト増を“現場起点の改善”で吸収するのは、同社が最も得意とするところだ。