コラム:史上最高値から反落の金、今後も強気材料が相場下支えか
[ローンセストン(オーストラリア) 6日 ロイター] - 金相場はこのところ史上最高値から反落したことで、ついに上昇が息切れし、今後は過去にも起きたような長期低迷局面に入るのではないかという疑問が浮上している。
過去50年間を振り返ると、金は価格急騰後に長期にわたって軟調な推移が続く傾向が確かに見られる。
しかし注目すべきは、今回の値上がり局面の価格上昇率は過去50年で見て3番目の水準にとどまり、1970年代後半や2000-11年の高騰局面に比べてはるかに小さいという点だ。
今回の上昇局面は22年10月に現物価格が1オンスあたり約1617ドルだった頃に始まった。上昇ペースは当初は緩やかだったが、24年11月の米大統領選でのトランプ氏勝利をきっかけ加速。25年10月20日に過去最高値となる4381.21ドルを付け、22年10月からの上昇率は170%に達した。その後相場は反落し、11月5日には3978.63ドルで取引を終えた。
この3年間の上昇ぶりには目を見張るものがあるとはいえ、上昇率は1976年7月-80年2月の518%、2001年2月-11年9月の643%に比べて見劣りする。
こうした過去の長期上昇局面の後にはいずれも長い下落の期間が訪れたものの、それで上昇分が帳消しになることはなかった。
たとえば、1980年2月の高値(約692ドル)から2001年2月の安値(256ドル)までの下落率は約63%で、11年9月の高値(約1902ドル)から15年11月の安値(1052ドル)までの下落率は44%にとどまっている。
では、今回の相場上昇局面はどう解釈すべきだろうか。
ドル建て価格の上昇幅は非常に大きい。しかし過去を振り返ると上昇率はそれほど極端に大きいわけではない。この点は必ずしも、今回の上昇相場が数年間続くことを意味するわけではないものの、もしそうなったとしても「前例のないこと」ではない。
また、過去の値動きを見ると、上昇相場が終わった後には値下がりし、その後長期にわたり横ばい圏で推移する傾向がある。
最後に指摘すべきは、アナリストは相場がいつ転換点を迎えるかのかを正確に予測するのが常に難しく、それは今も過去と大差ないということだ。
A line chart with the title 'Spot gold price in USD per oz'<予想にばらつき>
今のところ金価格の先行きについては予想が大きく割れている。3000ドル近辺までの下落を見込むアナリストもいれば、今後1-2年で5000ドルを超えるとの強気な見方をある。
焦点となるのは、現在の強気要因が「構造的なもの」か、それとも「一時的」に過ぎないのかを見極めることだ。
上昇は構造的だという主張は、投資家や中央銀行は米資産、特に米国債や米株式に代わる安全資産を求めており、有力な代替投資先が金ということが根拠になる。
実際、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が9月期に発表した報告書によると、中央銀行による金の純購入量は今年第3・四半期に220トンと前期比で28%増加し、こうした流れを裏付けている。中銀の金購入は2022年以降急増し、年間1000トン超の水準を維持。25年も4年連続でその勢いが続く見通しだ。
さらに、金地金・金貨および金ETF(上場投資信託)への投資需要も堅調で、第3・四半期の総量は220トンと前年同期比47%増加した。
一方で強気な見方に冷や水を浴びせる要素もある。金は価格高騰で宝飾品需要が鈍っており、第3・四半期の宝飾需要は前年同期の460トンから371.3トンへと19%落ち込んだ。また、世界的に株式市場が調整に見舞われた場合、投資家が損失補填のために金を売却する可能性も、金価格上昇シナリオにとってリスク要因だ。
それでもなお、米国の財政赤字への懸念や、金融政策を牛耳ろうとするトランプ氏が連邦準備制度(FRB)の独立性を脅かしているという見方は、投資家が金への関心を強く保つ材料であり続ける可能性が高い。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab
筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
Clyde Russell is an Asia Commodities and Energy Columnist at Reuters. He has been a journalist and editor for four decades, covering everything from wars in Africa to the resources boom. Born in Glasgow, he has lived in Johannesburg, Sydney, Singapore and now splits his time between Tasmania and Asia. He writes about trends in commodity and energy markets, with a particular focus on China. Before becoming a financial journalist in 1996, Clyde covered civil wars in Angola, Mozambique and other African hotspots for Agence-France Presse.