中国の「反内巻」政策で投資家心理に変化-価格競争是正のシグナル

中国共産党の政策意図を読み解き、株式市場を見極めるためのキーワードとして、JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックス・グループのストラテジスト、そして香港やシンガポールの資産運用担当者の間で突然脚光を浴びた曖昧な表現がある。

  「反内巻」というこの言葉は、1年ほど前から政府文書に登場し始めていたが、今月に入り習近平総書記(国家主席)が主宰した中央財経委員会会議で無秩序な価格競争を規制する方針が示されて以後、注目度が急上昇した。

  太陽光発電や新エネルギー車(NEV)、鉄鋼など、幅広い分野で激しい価格競争と過剰生産によって収益性が損なわれている国内産業の疲弊を是正しようという動きを示すものだ。

  投資家の間では、デフレ要因への対応として、より一貫した政策対応が近く打ち出されるのではとの期待が高まっている。

  具体的な計画は中国政府からまだ発表されていないものの、関連テーマに関するアナリストリポートが相次ぎ出され、太陽光発電や鉄鋼の関連株が上昇。モルガン・スタンレーのストラテジストは11日終了週に香港市場の銘柄よりも本土株を優先する方針に切り替えた。

  UBSのアジア太平洋地域チーフ投資オフィス責任者ミン・ラン・タン氏は、「中国に投資する際、最大の課題の1つが過度な競争だ。政府がトップダウンでこれを問題視し、破壊的な競争をやめるべきだと明言したのは、非常にポジティブな展開だ。強力な政策シグナルだ」と語った。

10年前との違い

  「内巻」という中国語は、直訳すると「内側に巻き込む」という意味だ。実際には、激しい競争が繰り広げられる一方で、大きな進展が得られない状態を指して使われる。

  中国企業は生産能力の増強に巨額の投資を行ってきたことで、世界市場での地位を高めてきた。中国勢は現在、太陽光発電のサプライチェーンのあらゆる工程を支配し、電気自動車(EV)分野でも米テスラの優位を覆す勢いを見せている。

  しかし、破壊的な競争に終止符を打つ必要性は、これまでになく高まっている。生産者物価のデフレは深刻化し、貿易摩擦の影響で、かつてのように過剰生産分を海外市場に振り向けることが難しくなっているためだ。

  RBCウェルス・マネジメント・アジアのシニア投資ストラテジスト、ジャスミン・ドゥアン氏は、「海外市場が中国製品の流通経路を閉ざす中、競争の一部が国内市場に押し戻されている」と指摘した。

  本土市場では政策要因の影響力が強く、産業株の比重も大きいため、今回の動きは投資家心理の改善に寄与しているようだ。

  月初来で上海もしくは深圳に上場する主要銘柄で構成されるCSI300指数は2%上昇。これまで出遅れていたものの、香港に上場する中国本土銘柄で構成されるハンセン中国企業株(H株)指数を上回るパフォーマンスとなっている。

  まだ初期段階だが、改革が進めば中国国内で業界再編が進み、価格や利益率の改善につながる可能性があるとの見方も出ている。

  中国を長年見てきた専門家にとって、当局が現在展開している論調は2015-18年のサプライサイド改革を連想させる。当時は、石炭や鉄鋼といった分野で政府主導の老朽化した設備の削減が進められ、その後の価格上昇につながった。

  ただ今回は、幾つか重要な違いがあり、改革の効果が限定的となる可能性もある。

  10年前は、過剰供給の主因が上流部門や建設関連セクターに集中していたが、現在は太陽光発電やEV、バッテリーといった将来有望な産業から、医療や食品といった川下の消費者向け分野にまで広がっている。

  深圳JMインベストメント・マネジメントのファンドマネジャー、リ・ショウチアン氏によれば、「今回は過剰供給が主に民間企業の支配する産業に集中しており、以前のように国有企業が民間企業を買収して淘汰(とうた)すれば済むという状況ではないため、課題はより困難になる」という。

  需給不均衡に対応するには、消費を喚起することで経済に再び息を吹き込むような政策も必要だが、政府はこれまでこの点で成果を上げられていない。

  それでも、投資家の間では、より大規模なサプライサイドの改革が始まるとの期待が広がっている。モルガン・スタンレーのストラテジストは、政府の発信により市場心理が改善されたとし、人民元建ての本土株をオフショア銘柄よりも重視するとしている。

  バンク・オブ・シンガポールの中国株担当ストラテジスト、ルイサ・フォック氏は、中国指導部が「政策トーンを変える際には、具体的な実行策や追随する動きがあるはずだ」との見方を示し、即効性はないだろうが、政府が問題を認識していること自体、「確実に前向きだ」と語った。

原題:Xi’s Price-War Campaign Creates a Buzz in China’s Stock Market (抜粋)

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