《暴力団VSトクリュウ》稲川会系暴力団が本部事務所前に「闇バイトによる強盗には施設に送致されようとも断固たる処置」とメッセージを掲示した理由(NEWSポストセブン)
* * * 指定暴力団・稲川会の碑文谷一家が、東京・大井町駅近くの本部事務所前にまたもメッセージを掲示した。事務所近くで様子を見ていると、時折、通行人が立ち止まって文面を読み、スマホを使って撮影していた。暴力団組織の掲示だからクレームを用心するのか、SNSをチェックしたがアップされていないようだった。文面は以下の通りである。 「ここ最近 闇バイトによる強盗が再燃しておりますが この地域で行われた場合 施設に送致されようとも 断固たる処置を取らせて頂きます 高齢者が安心して生活出来る 地域づくり」 時期と内容を考えると、栃木で起きた強盗事件に対する警告と考えるのが妥当だろう。5月14日、栃木県上三川町で、農業法人を営む富山英子さん(69)が殺害された。遺体にはバールで殴られ、ナイフで刺された傷が20か所以上もあった。2人の息子もバールで殴られ重傷を追った。敷地内では愛犬も無残に殺されていた。 実行犯は相模原市や川崎市に住む16歳の高校生を含む少年4人だった。リアルタイム通信で犯行を指示していた竹前海斗容疑者(28)は、羽田空港の国際線ターミナルで高飛びしようとしていたところを確保され、妻の美結容疑者(25)も逮捕された。秘匿性の高いアプリ「シグナル」や「テレグラム」を使い、夫婦に「ルパンやる?」と隠語でメッセージを送り、強盗への参加を勧誘していた益田和彦容疑者は、事件から3日後に中国へ出国しており、強盗殺人の容疑で国際指名手配されている。さらなる黒幕がいる可能性もある。
碑文谷一家は2024年夏、闇バイト強盗事件が首都圏で頻発した際に初めて、今回のメッセージと同様、闇バイトによる強盗事件に関する告知文を掲示した。2度目はその半年後で、ストーカー犯罪の撲滅を掲げた。3度目の今回で特徴的なのは、「断固たる処置」に「施設に送致されようとも」という一文が加えられた点だ。 「送致」は逮捕された容疑者が、検察に送られる際(送検)に使われる警察用語である。強盗事件を起こして塀の中に送られ、社会から隔絶されても、「断固たる処置を取る」という警告だろう。 恫喝ではないというエクスキューズのためか、内容をはっきりと書かず、どうとでも解釈できるぼかした表現になってはいるが、暴力団の「断固たる処置」は暴力的制裁としか考えられない。碑文谷一家が最初にメッセージを掲げた際には、日本最大の暴力団である山口組が呼応し、闇バイトへの関与を禁じる通達を出した。暴力団はアウトロー社会のエスタブリッシュメントである。悪人に対しては相応の抑止力になったはずだ。因果関係ははっきりしないが、以降、闇バイト強盗事件は沈静化した。 とはいえ刑務所の警備は厳重だ。その中で意図的に傷害・殺人事件を起こせるのだろうか? 抗争事件の報復が、塀の中で実行された例は本当にある。2001年、東京の四ツ木斎場で起きた住吉会幹部射殺事件の実行犯だった稲川会組員は刑務所内で襲撃され、うち1人が自殺に追い込まれた。ナイフやチャカは手に入らないし、厳重なチェックがあるとはいえ、工場でキリなどを盗むことは出来るらしい。筆記用具だって目をえぐる程度の暴力事件は起こせる。 こうした事故を防ぐため、娑婆で抗争が勃発すると、対立組織組員の居住エリアや工場は分離される。だが暴力団のマフィア化が進行しつつある現在、表面上は組織に属さぬ隠れ組員が増えており、刑務所側がどれだけ抑止策を講じても突破される可能性はあるだろう。 また長期刑を務めて出所した暴力団員から、服役した刑務所で凶悪事件の犯人と接触・会話した経験を聞くことはよくあった。接触の機会さえあれば危害を加えられるはずだ。刑務所の実際を知れば、初回よりも極めて過激な恫喝になっていることが分かる。ただの脅し文句ではないのだ。
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世間にここまで大見得を切った以上、実際に事件が起こった場合にシカトすれば笑いものになる。組員一同、伊達や酔狂ではなく、それなりの覚悟に違いない。彼らは「仁侠道は日本の伝統だ。縄張りを守るのは我々の義務だ」と主張し、行動で証明したいのかもしれない。 が、犯罪者が碑文谷一家の縄張りを避け、他のエリアで強盗事件を起こせばいいというなら身勝手すぎる。それに法治国家において、暴力は国家の占有であり、私的な暴力的制裁を実行するという宣言は社会秩序に対する挑戦だ。極悪非道な犯罪者相手でも、暴力団に実力行使させてはならない。暴力的な自警団は、容易に排外主義と結びついて人種差別を煽動する。 そもそも市民生活のただ中で拳銃を振り回し、組織のために対立相手を殺害しようと発砲事件を頻発させ、治安を悪化させている暴力団が、「安心して生活できる縄張りにする」などと喧伝するのは滑稽である。事実、トクリュウ犯罪の影には常に暴力団の姿があるではないか。 栃木の強盗殺人事件だって、暴力団が関わる可能性が濃厚にあった。ジャーナリストの寺澤有は、とある広域組織の組員にインタビューし、指示役の夫婦から強盗に誘われた経緯の詳細をnoteの有料記事に執筆している。強盗を持ちかけられた暴力団員はなにも仁侠道に反するから断ったのではなかった。単純に取り分が少ないから受けなかったのだ。 当事者の名前や組織名は確認済みである。幸い、碑文谷一家が属する稲川会ではなかった。が、次に事件が起きた際、一門一統から凶悪事件の実行犯が出ないとも限らない。社会の治安を守る前に、まずは頭の上の蠅を追ってもらいたい。 【プロフィール】鈴木智彦(すずき・ともひこ)/1966年、北海道生まれ。日本大学藝術学部写真学科除籍。ヤクザ専門誌『実話時代』編集部に入社。『実話時代BULL』編集長を務めたのち、フリーに。著書に『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う』(小学館)などがある。